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227、エルフの古城

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 リナとマールそして、ここに避難している他の子どもたちがミレリアの周りに集まっている。

「聖女様、気を付けてね」

「マールたち、いい子で待ってるから」

 彼らをギュッと抱きしめるミレリア。

「ええ、必ず帰ってきます。だから心配をしないでここで待っていて」

 聖女と呼ぶのに相応しいその姿。
 きっと自分を育ててくれた大聖女アデルを真似て頑張ってきたのだろう。
 その言葉に安堵して、子供たちの表情が穏やかになるのが分かる。
 アンジェリカは軽く咳払いをした。
 そしてミレリアに言う。

「わ、悪かったわミレリア。最初は疑ったりして」

 アンジェリカは、魔族のハーフであるミレリアを疑ってたからな。
 そういって手を差し出すアンジェリカ。
 ミレリアは、微笑みむとその手を握る。
 どうやら作戦に出向く前に、仲間同士のわだかまりは無くなったようだ。
 ナビ子が感慨深い様子で言う。

「アンジェリカさんも大人になりましたね。アルーティアで初めて出会った頃とは大違いです」

「あ、当たり前でしょ。私だってもう大人よ」

 そういって胸を張るアンジェリカ。
 ナビ子はその胸を眺めながら答えた。

「そこは子供のままですけどね」

「……殺すわよ」

 おい、やっぱりお前ら少しも大人になってないぞ。
 二人のやり取りはスルーして、俺はリーニャに言う。

「リーニャ、シュレンたちとここを頼むぞ。何かあったら直ぐに俺に連絡をくれ」

「はい、任せてください。勇者様こそどうかお気をつけて!」

「ああ!」

 俺たちは彼らにこの場所を託して、隠れ家を出た。
 町へ出るとリルルは淡い光を消してミレリアの傍を飛んでいる。

「へえ、妖精の光は消せるんだな」

「ええ、私ぐらいになればこんなこと朝飯前だわ」

 自慢げにナビ子の周りを飛び回るリルル。

「なら完全に無駄な機能じゃないですか。初めから光らなければいいんです」

 おい、ナビ子。
 完全に目がすわってるぞ。
 僻み根性丸出しである。
 俺たちはミレリアとリルルの案内で夜の街を魔法学院へと向かう。
 察知能力が高い、パトリシアは斥候を務めてくれている

「勇者殿、今のところ周りに敵の気配は感じない」

「そうか、パトリシア」

 美しい獣人族の王女の大きな狼耳が、ピンと立って警戒を怠らない。
 ロファーシルは後方の安全を確認しつつ、チームのしんがりを務めてくれている。
 前と後ろを任せるには最適な二人だ。

 そんな中、魔法学院が近くに見えてくる。
 まるで城のような立派な建物だ。

「へえ、あれが魔法学院か。まるで城みたいだな」

 俺の言葉にアンジェリカが答える。

「ええ、元々魔法学院はアルカディレーナの古城を改築して作られたそうよ。エルフェンシアの初代国王の古い居城だったんだけど、建国する際に今の王宮が作られて、古い城は魔法学院として使われるようになったって聞くわ」

「なるほどな、元々初代国王の城だったって訳か」

 エルフの古城とかファンタジー好きの沙織さんが聞いたら歓喜だろうな。
 アンジェリカは続ける。

「ルティナ先生はよく当時の魔導の研究をしていたわ。今では使われなくなった古代魔法言語には、禁呪と呼ばれるとてつもない魔法もあったって聞くし」

「禁呪か……」

 まさに中二病歓喜の響きである。
 その時──
 パトリシアの耳がぴくんと動く。

「勇者殿、前方に数名の気配を感じる。恐らく魔族の兵士だろう」

「ちっ、見張りがいるってわけか」

 さっきの兵士のように倒す手もある。
 だが、大した情報は持ってないだろう。
 ここに向かう前に、あの隠れ家に連れて行った魔族を締め上げてある程度の情報は手に入れた。
 だが、王宮の中のことまでは殆ど知らなかったからな。
 エルザベーラの周りの精鋭たちでも捕まえれば別だが、外を固める魔族兵が知っていることはさほど変わりはないだろう。

「さて、どうするか。出来れば面倒は避けて通りたいが」

 目的はあくまでもルティナとの接触だ。
 こんな時にゲームの例えはどうかと思うが、俺が昔やっていた潜入系のゲームを思い出す。
 俺たちの任務を考えれば、戦闘は最後の手段だからな。
 アンジェリカが俺の服の裾を引っ張る。

「言ったでしょうカズヤ。正面から入らなくても内緒で学園に忍び込む抜け道があるってね」

「ああ、そういえばそんなこと言ってたな」

 不良学生だったアンジェリカが使っていた抜け道である。
 アンジェリカは俺たちに言う。

「みんな、ついてきて。ここからは私が案内するわ」

 俺たちは顔を見合わせて頷くと、周囲を警戒しつつアンジェリカに続く。
 リルルがアンジェリカの行く方向を見て俺に言う。

「そういえば、ルティナもあの時この道をこっちに入っていったわ」

「なるほどな。どうやら間違いなさそうだ」

 アンジェリカと同じ抜け道を使ったのだろう。
 脇道を通り、古城である魔法学院の外壁の傍まで迫る俺たち。
 エルが言う。

「私が聖竜になればこんな壁、ひとっ飛びよ」

 アンジェリカが首を横に振る。

「そんな目立つ真似をしなくても入れるわ」

 そういって壁に右手を当てるアンジェリカ。
 すると、壁に魔法陣が描かれていく。

「これは……」

 先ほどまではなかった扉が壁に姿を現す。
 そして、その扉がゆっくりと開いた。
 アンジェリカが俺たちに言う。

「私と一緒についてきて。離れたら扉は通れないわよ」

「あ、ああ。にしても何でこんなところに扉が」

 アンジェリカは肩をすくめると俺に答える。

「さあ、元々お城だからいざという時の為に仕掛けは色々あるみたいよ。学院の教師たちは他にも色々隠してたけど、隠そうとすればするほど噂になるものよ」

「まあ、そりゃ一理あるかもな」

 人間秘密にされるほど暴きたくなるものだ。
 それを暴こうとする王女様も大概だが、アンジェリカならやりそうだ。

「パトリシア、壁の向こうから敵の気配はしない?」

 アンジェリカの言葉にパトリシアは大きく頷く。

「うむ! 大丈夫だ、アンジェリカ」

「了解、じゃあ行くわよ。いいわね、カズヤ」

「ああ、それじゃあ早速、魔法学院の中に潜入だな」

 俺たちは顔を見合わせると、アンジェリカと一緒に扉をくぐる。
 その先は壁の内側のはずだ。

 だが……

 扉を抜けた俺たちは思わず周りを見渡した。
 俺たちが今立っているのはあの壁の傍ではない。

「これは……どうなってるんだアンジェリカ。あの壁を抜けるだけじゃなかったのか?」

「わ、分からないわ。どうしてこんなところに!」

 どうやら、アンジェリカも予想外だったようだ。
 そこは、広く立派な作りの部屋で何者かの執務室のようだ。
 窓から見える光景を見る限り、俺たちは今、さっき壁の外から眺めていたあの古城の上層にいると思われる。
 部屋の壁には何かの紋章が描かれた、立派なタペストリーがかかっている。
 アンジェリカが呟く。

「あの壁の紋章は初代国王の使っていたものよ。もしかして、ここは……だとしたら私の初めて入るわ」

「どういうことだ、アンジェリカ」

 エルフの王女は警戒しながら辺りを見渡す。

「ええ、魔法学院には生徒たちは勿論、教師でさえ入ることを禁じられていた部屋があるの」

「入ることを禁じられていた部屋?」

 俺の問いにアンジェリカが答える前に、俺たちは感じた。
 先ほどまでは確かに存在しなかった何者かが、執務室の椅子に座っている。
 一体いつ現れたのか。
 パトリシアとロファーシルが剣を抜くと構える。

「勇者殿! 誰かいるぞ!」

「何者だ!!」

 まさか……罠か?
 俺も腰から剣を抜いて構えた。
 するとその人物は、椅子から立ち上がると笑みを浮かべる。
 そして言った。

「魔法学院にようこそ。ここはエルフの初代国王アーレスの執務室。貴方がたをここに招いたのはこの私です」


 ─────

 いつもお読み頂きましてありがとうございます!
 雪華慧太です。
 この度、この作品の第三巻が発売されることになりました。
 これもいつも応援して下さる皆さんのお蔭です!

 書籍版は三巻で完結という形になります。
 WEB版とは大きく違う内容になっていますが、自信をもってお届けできる内容に出来たと思います!
 カズヤたちの冒険、書籍版ならではのストーリーをぜひご覧くださいませ。

 書籍の出荷日は8月23日の予定です。
 早い所では出荷日の翌日には書店に並ぶと思いますが、地域によっては数日お時間がかかることもあるそうですのでご容赦ください。
 書籍の発売に伴いまして『124、用意されたもの』~『164、カードに描かれた絵』までが非公開になり、書籍版の三巻が代わりにレンタルとして掲載されるようになりますのでご注意ください。

 もちろんWEB版はこのまま連載を続けていく予定ですので、カズヤたちをこれからもどうぞよろしくお願いします! 
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