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3巻
3-3
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「うぉおおおおおお‼」
クリティーナたちの声が背後から聞こえる。
ロファーシルは俺に向かって剣を構えた。
「駄目ぇえええ‼」
「勇者殿‼」
「いやぁああ! カズヤ‼」
その時、強烈な力が働き、俺の右手に剣を構えさせた。
「ほほほ、愚かじゃこと。そなたは死ぬことなど出来ぬ。闇に落ち、わらわの永遠のしもべとなるのじゃ」
エルザベーラが、今までよりも深く俺を支配していく。
あの女の笑い声が聞こえる。恐らく、あいつは口づけをしたあの時から、本当はいつでも俺を完全に支配出来たのだと悟る。
それを知りながら、俺たちが殺し合うのを楽しむつもりだったに違いない。
俺の剣は、このままロファーシルの心臓を貫くだろう。
「やめろぉおおおおお‼」
絶望を感じながら俺は叫んだ。
漆黒の翼が羽ばたき、俺の動きが加速する。
右手に握る剣がロファーシルに届こうとしたその時――
「駄目ぇえええええ‼」
空から声が聞こえた。
何かが一直線に、俺に向かって落下してくる。
白い光を放つそれは六枚の翼を持っている。
それは、まるで白い落雷のように俺を直撃した。
「――!」
柔らかい唇が俺の唇に触れている。
俺に口づけをしている相手には、見覚えがある。
エルフ族の女神ラセファーリスだ。
俺の体を白い光が包んでいく。
六枚の翼を持つ女神は俺を抱き締める。
「勇者様‼」
それは女神の声か、それともティオの声だったのか。
ラセファーリスの光が俺を包むと、それが触媒になり、クリスティーナやアンジェリカ、そしてパトリシアやナビ子の想いが俺の中に流れ込んでくる。
俺のために祈る気持ちがラセファーリスに力を与えるのか、彼女の背中の六枚の翼が大きく開いていく。
「おぉおおおおおおお‼」
俺は獣のように咆哮した。
自分の中の闇が浄化されていくのを感じる。
体の自由が戻っていく。
(今だ、カズヤ‼)
アッシュの声が再び俺の中で響いた。
「ああ、アッシュ‼」
俺は体を翻すと、身を低くして一直線にエルザベーラに向かって走った。
先程まで笑みを浮かべていた魔族の女の顔が凍り付いている。
「何をした⁉ 馬鹿な! わらわの呪縛から逃れるなど、出来るはずがない‼」
驚愕に瞳を染めながらも、エルザベーラは強烈な魔力を立ち上らせる。
その魔力が防御壁となって俺の前進を阻んだ。
「あり得ぬ! わらわの口づけを受けて逆らえる男などおらぬ……この世で最も美しいこのわらわに逆らえる男など!」
「生憎だったな、俺にはお前がただの薄汚い化け物に見えるぜ!」
こんな女よりずっと魅力的な連中が、俺の周りにはいるからな。
「勇者殿!」
「カズヤ‼」
「勇者様‼」
「カズヤさん! 負けないでください‼」
「ああ、分かってる!」
俺は闘気を振り絞って自らの剣に纏わせる。
そして叫んだ。
「おぉおおおおおおおおお! 瞬踏烈牙、竜気滅砕撃‼」
真・人竜一体サムライモードの最大の技だ。
動作が大きく隙が生まれてしまうため、デュラン相手には使えなかったが、この分厚い魔力の壁を撃ち抜くには最適だろう。
鋭い竜の牙となった俺の剣は壁を突き破り、そのままエルザベーラの心臓を貫いた。
「ぐはっ‼」
怒りに燃える奴の瞳。
貫かれたはずの心臓が激しく鼓動し、その場で再生していくのが剣先から伝わってくる。
さすがはヴァンパイアの女王だけはある。ナイツ・オブ・クイーンよりも遥かに強い生命力だ。
だが、みすみす復活させるつもりはない。
「おのれ! 尊きわらわの体を‼」
俺の体を白い炎が包み、さらに剣を伝わってエルザベーラの体を燃やしていく。
「エルザベーラ! 言ったはずだぞ、お前はここで必ず倒すと‼」
「許さぬぞ、わらわをこのような目に! おのれぇええええ‼」
強力な魔力の渦が俺たちの周りに湧き上がる。
俺は全身全霊で、聖剣オルフェレントに闘気を注ぎ込んだ。
「おぉおおおおおおお! くたばりやがれ‼」
「ぐぅ! うぁあああああああ! わらわが! こんなことはあり得ぬ‼」
まるで赤い薔薇が燃えるようにその体は燃え尽きていく。
「燃える、わらわの、わらわの美しい体が! うぎゃぁあああああああ‼」
身の毛もよだつ断末魔の声。
その叫びの中でエルザベーラは消え去っていく。
灰と化したその体は、もはや再生することはないだろう。
「……やったのか」
多くの人々を苦しめてきた魔族に相応しい最期だ。俺は思わずその場に膝をつく。
「勇者殿‼」
「カズヤぁああ‼」
「ああ、勇者様‼」
俺に駆け寄ってくるパトリシアたち。
女神ラセファーリスもその翼を羽ばたかせてやって来たが、途中でティオの姿に変わって空から落下する。
「ティオ‼」
俺は立ち上がると、ティオを受け止めた。
腕の中でぐったりとするティオ。
「えへへ、勇者様、僕、勇者様が心配で来ちゃった」
そう言って気を失った。
神殿から遠く離れたこんな場所で、無理に神降ろしをしたからに違いない。
全ての力を俺の浄化のために使ったのだろう。
「ティオ……」
俺はティオの青い髪を撫でた。
ティオが来てくれなかったら俺は今頃、皆を斬ってあの女の下僕に成り下がっていただろう。
同時に空から飛竜の一団と、翼の生えたエルフが舞い降りる。
ティオの守護天使のミカエラだ。
「ティオ様! 何という無茶を!」
「大丈夫だミカエラ。気を失ってるだけだ」
「おっちゃん‼」
舞い降りた飛竜の一団の中にはリンダの姿も見える。
だが、まだ気を抜けるような状況じゃない。あと一人残っている。
最後の一人――銀仮面はこちらを眺めていた。
「驚きましたね。まさか、あのデュランやエルザベーラ様を倒すとは。やはり貴方は面白い」
俺は銀仮面を睨んだ。
「どうした? もう残っているのはお前だけだぞ」
疲労を感じてよろめきながらも剣を構え、銀仮面に向かって歩を進める。
その眼前で、銀仮面が静かに地面に落ちた。
「なに⁉」
俺は思わず呻く。
以前のように、ジョーカーはまるでその仮面の中に吸い込まれるように、忽然と姿を消す。
そして、声だけが辺りに響いた。
「言ったはずですよ、光の勇者。私は荒事専門ではありませんのでね。ふふ、いずれまたお会いしましょう」
「待て! どこへ行く‼」
俺の問いかけに答えることもなく、奴の気配は消えた。
くそ……あの野郎。
どういうことだ?
主であるエルザベーラが倒されたっていうのに、戦いもせずに逃げやがるとは。あいつはナイツ・オブ・クイーンの一人じゃないのか?
俺の無事に安心したのか、泣きながら身を寄せるクリスティーナやアンジェリカ。
そして、涙を浮かべて俺を見つめるパトリシア。
ナビ子が俺の肩にしがみつく。
「カズヤさんの馬鹿! 魔族になっちゃったかと思いました‼」
「心配かけたな、もう大丈夫だ」
ロファーシルは涙を腕で拭って、笑みを浮かべた。そして、俺と拳を軽くぶつける。
あの銀仮面には逃げられたが、少なくとも俺たちは皆生きている。
それに、今はまだやることがあるからな。
俺は空を見上げた。
エルザベーラが死んだのが分かるのだろう。明らかに統率が乱れている黒竜騎兵。
連中を叩くのは今が絶好の機会だ。
それに主を失った今、無秩序な帝国軍を放っておけば、オルフェレントの街に被害が出るのは予想がつく。
俺は連合軍の総司令だ。酷い疲労を感じるが、今はぶっ倒れている場合じゃない。
「エディセウス王、辺境伯! このまま帝国軍を叩くぞ‼」
「ああ、勇者殿! そなただけを戦わせはせぬ。我も先陣に立つ‼」
「陛下! ワシも続きますぞ‼」
二人の言葉に周囲から歓声が上がる。
オルフェレントの防衛のために、もう空に舞い上がっている天馬騎士たちもいる。
アンジェリカは涙を拭きながら俺に言った。
「私も行くわ! カズヤ‼」
「私たちも行きます‼」
クリスティーナやリーニャもアンジェリカに続く。
俺は頷いた。
「ああ、行くぞ!」
パトリシアは口笛を吹いて既に飛竜のクレアを呼び寄せていた。
華麗に白い飛竜に乗り込む獣人族の王女。
「皆の者! 勇者殿が作ってくれた絶好の機会を逃すな! 非道な帝国の黒竜騎兵どもを討つ‼」
「「「おおおおおお‼」」」
アルーティアの兵士たちから大歓声が湧き起こる。
シルヴィアも天馬を呼び、弓を片手にその背に乗り込んだ。
「我ら森エルフも続くわよ! 帝国を倒すの。私たち連合軍なら出来る! 見たでしょう、魔将軍を討ち果たした光の勇者の姿を‼」
「シルヴィア様の仰る通りだ!」
「勇者殿に続け、今こそ我らの手で帝国を叩くのだ!」
俺はティオをミカエラに託す。
真・人竜一体は解け、既に俺の横にいるアッシュを見上げる。
俺は相棒の背に飛び乗った。そしてその首を撫でる。
「行こう、アッシュ!」
アッシュは振り返って俺を見つめる。そして一声咆哮すると、赤い弾丸のように空に舞い上がった。
多くの人々の命を奪ってきた黒竜騎兵たち。その連中に俺たちは総力戦を挑む。
俺とロファーシル、そしてパトリシアの乗った飛竜が先頭に立ち、連中を斬り倒していく。
そして、その後方から援護するエディセウスやクリスティーナ、そしてアンジェリカが率いる天馬部隊が続く。
アンジェリカのトールハンマーが、迫り来る黒竜騎兵を焼き払う。
天馬に乗って一斉に矢を放つ、シルヴィアや辺境伯が率いる森エルフ。
数こそこちらの方が少ないが、リンダが連れて来たアルーティアの飛竜部隊も加わり、徐々に連中を巨大な転移魔法陣――ファディアスの門へ追い詰めていく。
「行くぞ! 逃すな‼」
「おおおおお‼」
追撃を続けていると、不思議な感覚に包まれた。
「気を付けろ、吸い込まれるぞ‼」
帝国軍の連中がファディアスの門をくぐったからだろうか。
巨大な魔法陣は輝きを増し、俺たちも一緒に吸い込んでいく。
そして、気が付くと俺たちは、先程とは違う光景を目の当たりにしていた。
「こいつは……まさか」
ゲイルに乗り、俺の隣を並走するロファーシルが叫ぶ。
「我らが聖なる都、アルカディレーナ!」
魔法陣の光と月光に照らし出される美しいその街並み、そして白く大きな王宮。
パトリシアが槍を構える。
「勇者殿、下を見てくれ! 間違いない! これはエルフの都だ‼」
エルザベーラが言っていたように、都を中心に、大地には巨大な魔法陣が描かれている。
そして、それと鏡合わせになるように、天空に魔法陣が浮かび、今は俺たちの真下に存在した。
「どうやら、俺たち自身が門をくぐっちまったようだな」
オルフェレント側のゲートをくぐり、あの魔法陣から俺たちはこちら側にやって来たのだろう。
そこから俺たちを追うように次々と現れる、エディセウスやクリスティーナ、そしてアンジェリカたち。
「お父様! アルカディレーナよ‼」
感極まったように叫ぶ、アンジェリカ。
エディセウスとクリスティーナは絶句している。
「クリスティーナ……」
「ええ、お父様。帰って来たんですわ、私たちの都アルカディレーナに!」
涙を流す父と娘の姿。エルフ族の兵士からも歓声が上がる。
口々に叫ぶ兵士たち。
「今こそ、我らの都を取り戻すのだ!」
主を失い統率を失った帝国軍。それに対し、都を眼前にして士気が上がる連合軍。
勝敗は既に明らかだ。
ナビ子が俺の肩の上でこちらを見上げている。
「カズヤさん」
「ああ、ここで勝負を決めるぞ」
クレアの上でこちらを眺めながら頷くパトリシア。
「勇者殿、今こそ決戦の時だ!」
俺は全軍に命じ、剣を天に向かって掲げる。
「行くぞ! アルカディレーナを取り戻す‼」
「「「おおおおお‼」」」
夜が明ける頃には、俺たちは帝国軍の残党を討ち果たし、アルカディレーナを制圧していた。
俺やエディセウスたちを囲み、エルフの兵士たちから大歓声が上がる。
「やったぞ! ついに我らの都を取り戻したんだ!」
「ああ、ああ……夢じゃないよな」
「国王陛下万歳! 俺たちの総司令、勇敢なる光の勇者殿万歳‼」
エルザベーラはオルフェレントに急襲をかけるために、多くの兵力を割いていた。
地上に残っていた兵力は少なく、アルカディレーナの制圧はことのほか上手くいった。
都の外では、撤退した帝国軍の残党との戦闘がまだ散発的に続いているが、もう奴らに再びアルカディレーナに攻め込む力はないだろう。
大陸全土のことを考えれば、まだ帝国軍の勢力範囲は圧倒的だが、それでも俺たちにとっては大きな勝利だ。
ロファーシルとパトリシアもこちらに飛竜でやって来るのが見える。
残った帝国の残党どもも完全に都から撤退したのだろう。
クリスティーナとアンジェリカは俺に体を寄せている。
「勇者様! 勝ったのですね? 私たち、あの帝国軍に‼」
「ああ、クリスティーナ」
アンジェリカは地平線を指さした。
「見て、カズヤ! 日が昇るわ」
まるで俺たちの勝利を祝うかのように朝日が昇る。
「ああ、アンジェリカ。だがよ、今回ばかりは少々疲れた……ぜ」
それを見ながら、俺は精根尽き果ててその場に崩れ落ちた。
クリスティーナやアンジェリカの悲鳴が聞こえた気がするが、俺はそのまま深い眠りへと落ちていった。
◇ ◇ ◇
どれぐらい眠っていたのだろうか。
目が覚めると俺は、美しい部屋にある大きなベッドの上に寝かされていた。
部屋の中の絵画や家具などの調度品は、どれも目を見張る程立派なものである。
窓から差し込むのは夕日だ。
どうやら俺は、あれから夕方まで眠っていたらしい。
「目が覚めたのだな、勇者殿」
俺はその声の主を見る。
背中に白い翼が生えたエルフの騎士。
神子ティオの守護天使であるミカエラだ。
「うう……ん。勇者様」
ふと気が付くと、俺と寄り添うようにしてティオが眠っている。
それを眺めながら、ミカエラは自らの唇に人差し指を当てると俺に言う。
「勇者殿、ティオ様をもう少しそのまま寝かせてあげてくれ。昨夜はあのような無茶をなさったからな。一度目を覚まされたのだが、勇者殿が倒れたと聞いて見舞いに駆けつけ、傍についているうちに眠ってしまわれてな」
俺はそのまま上半身だけ起こすと、ミカエラに頷く。
そして、ティオを起こさないように小声で答える。
「そうか、心配かけたな。それにしても助かったぜ。ティオがいなければ今頃俺はあの女の下僕だ」
思い出しただけでもゾッとする。
自分が自分でなくなっていくあの感覚。あれは二度とごめんだ。
「むにゃ、カズヤさん……そんな女に負けないでください」
寝言を言いながら、俺の枕の傍で寝返りを打ったのはナビ子だ。
俺が頭をつつくと、その指にしがみついて腹を出したまま眠っている。
妖精としても美少女としてもどうかと思う格好だ。
まあ、こいつも俺のことを心配してくれてたからな。
スヤスヤ眠りながらナビ子が呟く。
「むにゃ、カズヤさんがそんな女の下僕になったら私はどうなるんですか? どうせなら、パトリシアさんかクリスティーナさんと結婚して私に楽をさせてください、むにゃ」
……こいつ。
あの時、そんな理由で泣いてたんじゃないだろうな?
俺は肩をすくめると、思わず笑った。
まったくマイペースな奴だ。
俺はミカエラに尋ねる。
「ミカエラ、戦況に変わりはないか?」
「ああ、勇者殿。帝国軍の残党も完全に都から撤退した。散り散りに帝国の領土に逃げ帰るのがやっとだろう」
それを聞いて俺は大きく息を吐いた。
「そうか、俺たちは勝ったんだな」
勝利の実感が湧いてくる。
エルフとの同盟を目指すところから始まって、森エルフとも手を結び、とうとう彼らの都のアルカディレーナを奪還した。
帝国の脅威が消えたわけではないが、これは何にも代えがたい戦果だろう。
俺はミカエラに尋ねた。
「パトリシアやクリスティーナたちはどうしてる?」
「総司令である勇者殿が倒れた後、クリスティーナ殿下とパトリシア殿下が補佐官として代わりに連合軍の指揮をとっておられる。勇者殿のお蔭で手にした勝利を、決して無駄にしてはならぬと仰られてな。陛下や剣聖殿、そしてリーニャ様やアンジェリカ様、辺境伯やシルヴィア様率いる森エルフたちも見事な働きぶりだ」
「そうか、世話かけちまったようだな」
リンダもパトリシアの補佐をしているらしい。
口は悪いが猫耳娘は優秀だからな。
「何を言う。勇者殿がいなければこの勝利はなかった」
ミカエラはそっと立ち上がると俺に言う。
「私は勇者殿が目を覚ましたと皆に知らせてくる。皆心配をしていたからな。勇者殿はもう少し体を休めていてくれ」
「ああ、悪いなミカエラ」
俺の言葉に頷くと、部屋を出ていく神子の守護天使。
一方でティオは、俺の膝の上に頭を乗せて眠ったままだ。
その寝顔は子供らしくて可愛いものである。この無邪気そうなティオがあの女神の姿になるとは、未だに信じられないぐらいだ。
「女神ラセファーリスか。まさに救いの女神ってやつだな」
俺をこの世界に吹っ飛ばしたあのクソ女神とは大違いだ。
そんなことを思っていると、ティオの目がゆっくりと開く。
「ティオ、悪いな。起こしちまったか?」
目を覚ましたティオは俺を見つめて微笑む。だが、ふと我に返ったように固まった。
「勇者様……え? ど、どうして⁉」
「どうしたティオ?」
何故か真っ赤になっていくティオの顔。
「だ、だって、どうして勇者様が僕を膝枕してるの?」
「ん? 膝枕? まあ言われてみればそうか。ミカエラが言うには、俺を見舞いに来た後、お前が眠っちまったらしいぞ」
「そ、そうなんだ……」
そう言ってこちらを見つめるティオ。
俺はティオに礼を言った。
「ありがとな、ティオ。お前のお蔭で助かった。今回の勝利の立役者はお前だ」
その言葉を聞いて嬉しそうに微笑むティオ。
ベッドの上に体を起こすと俺の隣に座る。
そして、何かを思い出したように、少し頬を染めて俺を上目遣いに見つめた。
クリティーナたちの声が背後から聞こえる。
ロファーシルは俺に向かって剣を構えた。
「駄目ぇえええ‼」
「勇者殿‼」
「いやぁああ! カズヤ‼」
その時、強烈な力が働き、俺の右手に剣を構えさせた。
「ほほほ、愚かじゃこと。そなたは死ぬことなど出来ぬ。闇に落ち、わらわの永遠のしもべとなるのじゃ」
エルザベーラが、今までよりも深く俺を支配していく。
あの女の笑い声が聞こえる。恐らく、あいつは口づけをしたあの時から、本当はいつでも俺を完全に支配出来たのだと悟る。
それを知りながら、俺たちが殺し合うのを楽しむつもりだったに違いない。
俺の剣は、このままロファーシルの心臓を貫くだろう。
「やめろぉおおおおお‼」
絶望を感じながら俺は叫んだ。
漆黒の翼が羽ばたき、俺の動きが加速する。
右手に握る剣がロファーシルに届こうとしたその時――
「駄目ぇえええええ‼」
空から声が聞こえた。
何かが一直線に、俺に向かって落下してくる。
白い光を放つそれは六枚の翼を持っている。
それは、まるで白い落雷のように俺を直撃した。
「――!」
柔らかい唇が俺の唇に触れている。
俺に口づけをしている相手には、見覚えがある。
エルフ族の女神ラセファーリスだ。
俺の体を白い光が包んでいく。
六枚の翼を持つ女神は俺を抱き締める。
「勇者様‼」
それは女神の声か、それともティオの声だったのか。
ラセファーリスの光が俺を包むと、それが触媒になり、クリスティーナやアンジェリカ、そしてパトリシアやナビ子の想いが俺の中に流れ込んでくる。
俺のために祈る気持ちがラセファーリスに力を与えるのか、彼女の背中の六枚の翼が大きく開いていく。
「おぉおおおおおおお‼」
俺は獣のように咆哮した。
自分の中の闇が浄化されていくのを感じる。
体の自由が戻っていく。
(今だ、カズヤ‼)
アッシュの声が再び俺の中で響いた。
「ああ、アッシュ‼」
俺は体を翻すと、身を低くして一直線にエルザベーラに向かって走った。
先程まで笑みを浮かべていた魔族の女の顔が凍り付いている。
「何をした⁉ 馬鹿な! わらわの呪縛から逃れるなど、出来るはずがない‼」
驚愕に瞳を染めながらも、エルザベーラは強烈な魔力を立ち上らせる。
その魔力が防御壁となって俺の前進を阻んだ。
「あり得ぬ! わらわの口づけを受けて逆らえる男などおらぬ……この世で最も美しいこのわらわに逆らえる男など!」
「生憎だったな、俺にはお前がただの薄汚い化け物に見えるぜ!」
こんな女よりずっと魅力的な連中が、俺の周りにはいるからな。
「勇者殿!」
「カズヤ‼」
「勇者様‼」
「カズヤさん! 負けないでください‼」
「ああ、分かってる!」
俺は闘気を振り絞って自らの剣に纏わせる。
そして叫んだ。
「おぉおおおおおおおおお! 瞬踏烈牙、竜気滅砕撃‼」
真・人竜一体サムライモードの最大の技だ。
動作が大きく隙が生まれてしまうため、デュラン相手には使えなかったが、この分厚い魔力の壁を撃ち抜くには最適だろう。
鋭い竜の牙となった俺の剣は壁を突き破り、そのままエルザベーラの心臓を貫いた。
「ぐはっ‼」
怒りに燃える奴の瞳。
貫かれたはずの心臓が激しく鼓動し、その場で再生していくのが剣先から伝わってくる。
さすがはヴァンパイアの女王だけはある。ナイツ・オブ・クイーンよりも遥かに強い生命力だ。
だが、みすみす復活させるつもりはない。
「おのれ! 尊きわらわの体を‼」
俺の体を白い炎が包み、さらに剣を伝わってエルザベーラの体を燃やしていく。
「エルザベーラ! 言ったはずだぞ、お前はここで必ず倒すと‼」
「許さぬぞ、わらわをこのような目に! おのれぇええええ‼」
強力な魔力の渦が俺たちの周りに湧き上がる。
俺は全身全霊で、聖剣オルフェレントに闘気を注ぎ込んだ。
「おぉおおおおおおお! くたばりやがれ‼」
「ぐぅ! うぁあああああああ! わらわが! こんなことはあり得ぬ‼」
まるで赤い薔薇が燃えるようにその体は燃え尽きていく。
「燃える、わらわの、わらわの美しい体が! うぎゃぁあああああああ‼」
身の毛もよだつ断末魔の声。
その叫びの中でエルザベーラは消え去っていく。
灰と化したその体は、もはや再生することはないだろう。
「……やったのか」
多くの人々を苦しめてきた魔族に相応しい最期だ。俺は思わずその場に膝をつく。
「勇者殿‼」
「カズヤぁああ‼」
「ああ、勇者様‼」
俺に駆け寄ってくるパトリシアたち。
女神ラセファーリスもその翼を羽ばたかせてやって来たが、途中でティオの姿に変わって空から落下する。
「ティオ‼」
俺は立ち上がると、ティオを受け止めた。
腕の中でぐったりとするティオ。
「えへへ、勇者様、僕、勇者様が心配で来ちゃった」
そう言って気を失った。
神殿から遠く離れたこんな場所で、無理に神降ろしをしたからに違いない。
全ての力を俺の浄化のために使ったのだろう。
「ティオ……」
俺はティオの青い髪を撫でた。
ティオが来てくれなかったら俺は今頃、皆を斬ってあの女の下僕に成り下がっていただろう。
同時に空から飛竜の一団と、翼の生えたエルフが舞い降りる。
ティオの守護天使のミカエラだ。
「ティオ様! 何という無茶を!」
「大丈夫だミカエラ。気を失ってるだけだ」
「おっちゃん‼」
舞い降りた飛竜の一団の中にはリンダの姿も見える。
だが、まだ気を抜けるような状況じゃない。あと一人残っている。
最後の一人――銀仮面はこちらを眺めていた。
「驚きましたね。まさか、あのデュランやエルザベーラ様を倒すとは。やはり貴方は面白い」
俺は銀仮面を睨んだ。
「どうした? もう残っているのはお前だけだぞ」
疲労を感じてよろめきながらも剣を構え、銀仮面に向かって歩を進める。
その眼前で、銀仮面が静かに地面に落ちた。
「なに⁉」
俺は思わず呻く。
以前のように、ジョーカーはまるでその仮面の中に吸い込まれるように、忽然と姿を消す。
そして、声だけが辺りに響いた。
「言ったはずですよ、光の勇者。私は荒事専門ではありませんのでね。ふふ、いずれまたお会いしましょう」
「待て! どこへ行く‼」
俺の問いかけに答えることもなく、奴の気配は消えた。
くそ……あの野郎。
どういうことだ?
主であるエルザベーラが倒されたっていうのに、戦いもせずに逃げやがるとは。あいつはナイツ・オブ・クイーンの一人じゃないのか?
俺の無事に安心したのか、泣きながら身を寄せるクリスティーナやアンジェリカ。
そして、涙を浮かべて俺を見つめるパトリシア。
ナビ子が俺の肩にしがみつく。
「カズヤさんの馬鹿! 魔族になっちゃったかと思いました‼」
「心配かけたな、もう大丈夫だ」
ロファーシルは涙を腕で拭って、笑みを浮かべた。そして、俺と拳を軽くぶつける。
あの銀仮面には逃げられたが、少なくとも俺たちは皆生きている。
それに、今はまだやることがあるからな。
俺は空を見上げた。
エルザベーラが死んだのが分かるのだろう。明らかに統率が乱れている黒竜騎兵。
連中を叩くのは今が絶好の機会だ。
それに主を失った今、無秩序な帝国軍を放っておけば、オルフェレントの街に被害が出るのは予想がつく。
俺は連合軍の総司令だ。酷い疲労を感じるが、今はぶっ倒れている場合じゃない。
「エディセウス王、辺境伯! このまま帝国軍を叩くぞ‼」
「ああ、勇者殿! そなただけを戦わせはせぬ。我も先陣に立つ‼」
「陛下! ワシも続きますぞ‼」
二人の言葉に周囲から歓声が上がる。
オルフェレントの防衛のために、もう空に舞い上がっている天馬騎士たちもいる。
アンジェリカは涙を拭きながら俺に言った。
「私も行くわ! カズヤ‼」
「私たちも行きます‼」
クリスティーナやリーニャもアンジェリカに続く。
俺は頷いた。
「ああ、行くぞ!」
パトリシアは口笛を吹いて既に飛竜のクレアを呼び寄せていた。
華麗に白い飛竜に乗り込む獣人族の王女。
「皆の者! 勇者殿が作ってくれた絶好の機会を逃すな! 非道な帝国の黒竜騎兵どもを討つ‼」
「「「おおおおおお‼」」」
アルーティアの兵士たちから大歓声が湧き起こる。
シルヴィアも天馬を呼び、弓を片手にその背に乗り込んだ。
「我ら森エルフも続くわよ! 帝国を倒すの。私たち連合軍なら出来る! 見たでしょう、魔将軍を討ち果たした光の勇者の姿を‼」
「シルヴィア様の仰る通りだ!」
「勇者殿に続け、今こそ我らの手で帝国を叩くのだ!」
俺はティオをミカエラに託す。
真・人竜一体は解け、既に俺の横にいるアッシュを見上げる。
俺は相棒の背に飛び乗った。そしてその首を撫でる。
「行こう、アッシュ!」
アッシュは振り返って俺を見つめる。そして一声咆哮すると、赤い弾丸のように空に舞い上がった。
多くの人々の命を奪ってきた黒竜騎兵たち。その連中に俺たちは総力戦を挑む。
俺とロファーシル、そしてパトリシアの乗った飛竜が先頭に立ち、連中を斬り倒していく。
そして、その後方から援護するエディセウスやクリスティーナ、そしてアンジェリカが率いる天馬部隊が続く。
アンジェリカのトールハンマーが、迫り来る黒竜騎兵を焼き払う。
天馬に乗って一斉に矢を放つ、シルヴィアや辺境伯が率いる森エルフ。
数こそこちらの方が少ないが、リンダが連れて来たアルーティアの飛竜部隊も加わり、徐々に連中を巨大な転移魔法陣――ファディアスの門へ追い詰めていく。
「行くぞ! 逃すな‼」
「おおおおお‼」
追撃を続けていると、不思議な感覚に包まれた。
「気を付けろ、吸い込まれるぞ‼」
帝国軍の連中がファディアスの門をくぐったからだろうか。
巨大な魔法陣は輝きを増し、俺たちも一緒に吸い込んでいく。
そして、気が付くと俺たちは、先程とは違う光景を目の当たりにしていた。
「こいつは……まさか」
ゲイルに乗り、俺の隣を並走するロファーシルが叫ぶ。
「我らが聖なる都、アルカディレーナ!」
魔法陣の光と月光に照らし出される美しいその街並み、そして白く大きな王宮。
パトリシアが槍を構える。
「勇者殿、下を見てくれ! 間違いない! これはエルフの都だ‼」
エルザベーラが言っていたように、都を中心に、大地には巨大な魔法陣が描かれている。
そして、それと鏡合わせになるように、天空に魔法陣が浮かび、今は俺たちの真下に存在した。
「どうやら、俺たち自身が門をくぐっちまったようだな」
オルフェレント側のゲートをくぐり、あの魔法陣から俺たちはこちら側にやって来たのだろう。
そこから俺たちを追うように次々と現れる、エディセウスやクリスティーナ、そしてアンジェリカたち。
「お父様! アルカディレーナよ‼」
感極まったように叫ぶ、アンジェリカ。
エディセウスとクリスティーナは絶句している。
「クリスティーナ……」
「ええ、お父様。帰って来たんですわ、私たちの都アルカディレーナに!」
涙を流す父と娘の姿。エルフ族の兵士からも歓声が上がる。
口々に叫ぶ兵士たち。
「今こそ、我らの都を取り戻すのだ!」
主を失い統率を失った帝国軍。それに対し、都を眼前にして士気が上がる連合軍。
勝敗は既に明らかだ。
ナビ子が俺の肩の上でこちらを見上げている。
「カズヤさん」
「ああ、ここで勝負を決めるぞ」
クレアの上でこちらを眺めながら頷くパトリシア。
「勇者殿、今こそ決戦の時だ!」
俺は全軍に命じ、剣を天に向かって掲げる。
「行くぞ! アルカディレーナを取り戻す‼」
「「「おおおおお‼」」」
夜が明ける頃には、俺たちは帝国軍の残党を討ち果たし、アルカディレーナを制圧していた。
俺やエディセウスたちを囲み、エルフの兵士たちから大歓声が上がる。
「やったぞ! ついに我らの都を取り戻したんだ!」
「ああ、ああ……夢じゃないよな」
「国王陛下万歳! 俺たちの総司令、勇敢なる光の勇者殿万歳‼」
エルザベーラはオルフェレントに急襲をかけるために、多くの兵力を割いていた。
地上に残っていた兵力は少なく、アルカディレーナの制圧はことのほか上手くいった。
都の外では、撤退した帝国軍の残党との戦闘がまだ散発的に続いているが、もう奴らに再びアルカディレーナに攻め込む力はないだろう。
大陸全土のことを考えれば、まだ帝国軍の勢力範囲は圧倒的だが、それでも俺たちにとっては大きな勝利だ。
ロファーシルとパトリシアもこちらに飛竜でやって来るのが見える。
残った帝国の残党どもも完全に都から撤退したのだろう。
クリスティーナとアンジェリカは俺に体を寄せている。
「勇者様! 勝ったのですね? 私たち、あの帝国軍に‼」
「ああ、クリスティーナ」
アンジェリカは地平線を指さした。
「見て、カズヤ! 日が昇るわ」
まるで俺たちの勝利を祝うかのように朝日が昇る。
「ああ、アンジェリカ。だがよ、今回ばかりは少々疲れた……ぜ」
それを見ながら、俺は精根尽き果ててその場に崩れ落ちた。
クリスティーナやアンジェリカの悲鳴が聞こえた気がするが、俺はそのまま深い眠りへと落ちていった。
◇ ◇ ◇
どれぐらい眠っていたのだろうか。
目が覚めると俺は、美しい部屋にある大きなベッドの上に寝かされていた。
部屋の中の絵画や家具などの調度品は、どれも目を見張る程立派なものである。
窓から差し込むのは夕日だ。
どうやら俺は、あれから夕方まで眠っていたらしい。
「目が覚めたのだな、勇者殿」
俺はその声の主を見る。
背中に白い翼が生えたエルフの騎士。
神子ティオの守護天使であるミカエラだ。
「うう……ん。勇者様」
ふと気が付くと、俺と寄り添うようにしてティオが眠っている。
それを眺めながら、ミカエラは自らの唇に人差し指を当てると俺に言う。
「勇者殿、ティオ様をもう少しそのまま寝かせてあげてくれ。昨夜はあのような無茶をなさったからな。一度目を覚まされたのだが、勇者殿が倒れたと聞いて見舞いに駆けつけ、傍についているうちに眠ってしまわれてな」
俺はそのまま上半身だけ起こすと、ミカエラに頷く。
そして、ティオを起こさないように小声で答える。
「そうか、心配かけたな。それにしても助かったぜ。ティオがいなければ今頃俺はあの女の下僕だ」
思い出しただけでもゾッとする。
自分が自分でなくなっていくあの感覚。あれは二度とごめんだ。
「むにゃ、カズヤさん……そんな女に負けないでください」
寝言を言いながら、俺の枕の傍で寝返りを打ったのはナビ子だ。
俺が頭をつつくと、その指にしがみついて腹を出したまま眠っている。
妖精としても美少女としてもどうかと思う格好だ。
まあ、こいつも俺のことを心配してくれてたからな。
スヤスヤ眠りながらナビ子が呟く。
「むにゃ、カズヤさんがそんな女の下僕になったら私はどうなるんですか? どうせなら、パトリシアさんかクリスティーナさんと結婚して私に楽をさせてください、むにゃ」
……こいつ。
あの時、そんな理由で泣いてたんじゃないだろうな?
俺は肩をすくめると、思わず笑った。
まったくマイペースな奴だ。
俺はミカエラに尋ねる。
「ミカエラ、戦況に変わりはないか?」
「ああ、勇者殿。帝国軍の残党も完全に都から撤退した。散り散りに帝国の領土に逃げ帰るのがやっとだろう」
それを聞いて俺は大きく息を吐いた。
「そうか、俺たちは勝ったんだな」
勝利の実感が湧いてくる。
エルフとの同盟を目指すところから始まって、森エルフとも手を結び、とうとう彼らの都のアルカディレーナを奪還した。
帝国の脅威が消えたわけではないが、これは何にも代えがたい戦果だろう。
俺はミカエラに尋ねた。
「パトリシアやクリスティーナたちはどうしてる?」
「総司令である勇者殿が倒れた後、クリスティーナ殿下とパトリシア殿下が補佐官として代わりに連合軍の指揮をとっておられる。勇者殿のお蔭で手にした勝利を、決して無駄にしてはならぬと仰られてな。陛下や剣聖殿、そしてリーニャ様やアンジェリカ様、辺境伯やシルヴィア様率いる森エルフたちも見事な働きぶりだ」
「そうか、世話かけちまったようだな」
リンダもパトリシアの補佐をしているらしい。
口は悪いが猫耳娘は優秀だからな。
「何を言う。勇者殿がいなければこの勝利はなかった」
ミカエラはそっと立ち上がると俺に言う。
「私は勇者殿が目を覚ましたと皆に知らせてくる。皆心配をしていたからな。勇者殿はもう少し体を休めていてくれ」
「ああ、悪いなミカエラ」
俺の言葉に頷くと、部屋を出ていく神子の守護天使。
一方でティオは、俺の膝の上に頭を乗せて眠ったままだ。
その寝顔は子供らしくて可愛いものである。この無邪気そうなティオがあの女神の姿になるとは、未だに信じられないぐらいだ。
「女神ラセファーリスか。まさに救いの女神ってやつだな」
俺をこの世界に吹っ飛ばしたあのクソ女神とは大違いだ。
そんなことを思っていると、ティオの目がゆっくりと開く。
「ティオ、悪いな。起こしちまったか?」
目を覚ましたティオは俺を見つめて微笑む。だが、ふと我に返ったように固まった。
「勇者様……え? ど、どうして⁉」
「どうしたティオ?」
何故か真っ赤になっていくティオの顔。
「だ、だって、どうして勇者様が僕を膝枕してるの?」
「ん? 膝枕? まあ言われてみればそうか。ミカエラが言うには、俺を見舞いに来た後、お前が眠っちまったらしいぞ」
「そ、そうなんだ……」
そう言ってこちらを見つめるティオ。
俺はティオに礼を言った。
「ありがとな、ティオ。お前のお蔭で助かった。今回の勝利の立役者はお前だ」
その言葉を聞いて嬉しそうに微笑むティオ。
ベッドの上に体を起こすと俺の隣に座る。
そして、何かを思い出したように、少し頬を染めて俺を上目遣いに見つめた。
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