上 下
106 / 114
連載

221、妖精が住む聖堂

しおりを挟む
「ここは、妖精が住む隠された聖堂。私が幼い頃から暮らしてきた場所です」

「妖精が住む聖堂か……」

 俺は思わず周りを見渡した。
 とても美しい聖堂だが、かなり昔に作られた建造物だと分かる。
 パトリシアとエルも驚いた様子で口を開く。

「うむ、こんな場所が地下にあるとは驚いた」

「ほんとね。地上にいる時は気が付かなかったわ」

 確かにここなら隠れ家にピッタリだ。
 妖精たちは宙を舞いながらこちらを見つめている。
 外見だけ見れば、まるでナビ子の仲間たちみたいだな。
 淡い光を纏った妖精たちの姿は幻想的だ。

「よかったなナビ子、妖精仲間が沢山出来そうじゃないか」

 獣人やエルフ、炎の精霊やドワーフにはあったことがあるが、この世界で妖精に出会うのは初めてだ。
 この聖堂の神秘的な雰囲気にもピッタリである。

「ぐす……仲間なんかじゃありません! 私だけ光れない気持ちがカズヤさんに分かりますか? もっとしっかり課金しておかないからです!」

「いや、そういう問題じゃねえから」

 課金額に対して輝きが増すとか、そんなシステムこの支援型激レア妖精についてないからな。

「仕方ないな、今度沙織さんに頼んでペンライトでも買ってもらうか? それ持って飛べば似たようなものだろ」

「馬鹿なんですかカズヤさんは! どこが同じなんですか!!」

 どうやらお気に召さないらしい。
 だがナビ子の悩みは後回しだ。
 周囲の妖精たちはもちろんだが、ここに身を寄せているエルフたちも一斉にこちらを見つめている。
 その表情は少し怯えている様子だ。
 当然か、いきなり俺たちが現れたんだからな。

「リナ! マール! 無事だったのね!!」

「良かった……で、でも聖女様、その人たちは一体!?」

 匿われている人々は女性や子供が多い。
 混乱の中、親や家族にはぐれ逃げ遅れたのだろう。
 ミレリアは皆の前に進み出ると口を開く。

「みんな、安心してください。このお方は光の勇者様、私たちを助けに来て下さったそうです!」

「ほ、本当に!?」

「私たちを助けに……で、でも光の勇者なんて聞いたことがないわ」

「そ、それに聖女様! その魔族の兵士は!!」

 疑心暗鬼が広がっていくのが見える。
 俺が肩に担いでいる魔族兵の姿がそれに拍車をかけていく。
 リナとマールが皆のもとに駆け寄ると言った。

「本当なんだから! 勇者様はとっても強いの、絵本に出てくる勇者みたいに格好いいんだから! ね、マール!」

「うん!! マールたちを守ってくれたの!」

 大事そうにクマのぬいぐるみをギュッと抱き締めながら、リナと一生懸命皆に説明するマール。
 その声に人々は俺たちを見つめる。

「リナやマールを?」

「本当なのか?」

「あの方が二人を!」

 さっきの妖精がまたこちらに飛んでくると俺の顔を傍を飛び回る。

「ふ~ん、勇者ねぇ。妖精をお供に連れてる勇者なんて私は聞いたことないけど。大体、貴方名前は何て言うの?」

 妖精はナビ子に尋ねる。

「な、ナビ子ですけど? 貴方は何て言うんですか? 人に名前を聞くなら自分から名乗るのが常識ですよ!」

「きゃはは、何それ面白い名前! 私はリルルよ」

 名前の一件でまた睨み合う二人の妖精。
 意外と似た者同士な気がするのは俺の気のせいなのだろうか?
 その様子を眺めながらアンジェリカがフードを脱ぐと、皆の前に進み出た。

「本当よ、カズヤと私たちは都を取り戻すために潜入調査に来たの。私はアンジェリカ、エルフェンシアの第三王女よ」

「王女……」

「ま、まさか! アンジェリカ姫!!」

「王女様が自ら都に!」

「ああ、それでは本当なのですね!!」

 リナやマールのようにアンジェリカの顔を知っている者達も多いようだ。
 ミレリアの話が本当だと分かったのだろう、一斉に皆の顔が明るくなった。
 さすがは王女だな。
 すると、リルルが俺たちの前で腰に手を当てると言った。

「どうだか、王様は貴方たちを見捨てて逃げたんでしょう? ここにいるほうが安全よ」

「なんですって!」

 父親のことをそんな風に言われて気色ばむアンジェリカ。
 ナビ子もそれに便乗する。

「アンジェリカさん! この小生意気な妖精をやっちゃってください、私も手を貸しますよ!!」

「何よ、やる気? 私はミレリアのことを心配して言ってるんだから!」

 憤るアンジェリカとナビ子を俺は止めた。

「待てって、二人とも」

 エディセウスは出来る限りのことをしたのだろうが、残された者にしてみればそれを言ってみても始まらない。
 言い争えば返って信頼を失って逆効果になりそうだ。
 俺はミレリアに尋ねる。

「なあ、ミレリア。ここは一体どんな場所なんだ? それが分からないと安全かどうかも判断がつかないからな」

 アンジェリカも俺の言葉に冷静さを取り戻したのか頷く。

「そうよ、こんな場所私も知らなかったわ。一体何なのここは?」

「うむ、確かにクリスティーナ殿下の地図にはこんな場所は記されてはいない」

 パトリシアの言う通りだ。
 つまり、クリスティーナも知らない場所だと言うことだろう。
 もしそうならよっぽどだ。

「とにかくまずは話を聞かせてくれ。この場所のことはもちろんだが、今、都がどうなっているのか知りたいことは山ほどあるからな」

 魔将軍エルザベーラやナイツ・オブ・クイーンの連中。
 そして王宮がどうなっているのかも、ミレリアが知っているのなら聞いておきたい。
 アンジェリカたちの魔法の師匠であるルティナのこともある。
 クリスティーナの勧め通りに接触するにしても、今どこにいるのかも分からないからな。

「話してもらえるか? ミレリア」

「分かりました勇者様。私が知っていることは全てお話しますわ」

 そう言うとミレリアは、この隠れ家の事、そして都が帝国の手に落ちてから今日までの出来事を話し始めた。
しおりを挟む
感想 597

あなたにおすすめの小説

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

幼馴染みの2人は魔王と勇者〜2人に挟まれて寝た俺は2人の守護者となる〜

海月 結城
ファンタジー
ストーカーが幼馴染みをナイフで殺そうとした所を庇って死んだ俺は、気が付くと異世界に転生していた。だが、目の前に見えるのは生い茂った木々、そして、赤ん坊の鳴き声が3つ。 そんな俺たちが捨てられていたのが孤児院だった。子供は俺たち3人だけ。そんな俺たちが5歳になった時、2人の片目の中に変な紋章が浮かび上がった。1人は悪の化身魔王。もう1人はそれを打ち倒す勇者だった。だけど、2人はそんなことに興味ない。 しかし、世界は2人のことを放って置かない。勇者と魔王が復活した。まだ生まれたばかりと言う事でそれぞれの組織の思惑で2人を手駒にしようと2人に襲いかかる。 けれども俺は知っている。2人の力は強力だ。一度2人が喧嘩した事があったのだが、約半径3kmのクレーターが幾つも出来た事を。俺は、2人が戦わない様に2人を守護するのだ。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。