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211、エルフの王宮

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「アルカディレーナは私たちの都よ、絶対に取り戻してみせるわ! その為にはこの作戦絶対に成功させないと、そうよね? カズヤ」

「ああ、そうだな。さあ、行くぞエルフの都へ!」

 目の前に広がる地下通路は静まり返っている。
 俺たちしかいないのだから当然と言えば当然だが、先程の森の静けさも含めて不気味さを感じる。

(考え過ぎか……)

 俺は首を横に振ると、皆でエルフの都に通じる地下道を進み始めた。
 前に進みながらパトリシアが言う。

「この光、月光石だな。こんなに大量に使っているとは、見事なものだ」

 俺たちがいる地下道は、淡い光を放つ飾り石で壁面を覆われている。
 月光石というのはどうやらそれの事のようだ。

「月光石か、へえ確かに綺麗だな」

 俺は壁に近寄って指先で石の表面をなぞる。
 つるつるして手触りもいい。
 すると、アンジェリカが胸を張って答えた。

「当然よ! 月光石はエルフェンシアの特産物の一つだもの。この地下道だけじゃないわ、その淡い光が王宮を美しく照らしだしているんだから」

 アンジェリカの話では、月光石というのはこの国の西の山脈で掘り出される鉱物だそうだ。
 淡い光を放つ魔石らしい。
 ナビ子が両手を腕の前で合わせて目を閉じる。

「ねえ、カズヤさん。何だかロマンチックじゃないですか? 月光石の力で夜の闇に浮かび上がる美しい王宮、絶好のデートスポットですよ」

「……デートスポットってお前な」

 たく、こいつときたら相変わらずのマイペースだ。
 また俺に内緒でそんな恋愛映画でも見てたのだろうが、うっとりとして目をつぶっている。
 それを聞いてパトリシアが言う。

「うむ! 確かに、美しいだろうな。アルカディレーナを取り戻すことが出来たら、勇者殿と一緒に眺めたい」

 まったく、パトリシアまで。
 まあいいか、緊張感が無いわけじゃないからな。
 リラックスしているように見えて周囲への警戒をおこたっていない。
 ピンと立った美しい狼耳がそれを証明している。
 俺は肩をすくめるとパトリシアに答えた。

「だな、パトシア。無事にアルカディレーナが取り戻せたら、一緒に夜の街を散歩するか?」

「本当か! その時は、私もドレスを着てお洒落をしていく!」

 大きく左右に尻尾を振るパトリシア。
 あのダンス以来、パトリシアもドレス姿に抵抗がなくなったようだからな。
 クリスティーナやアンジェリカに教わりながら、色々なドレスに袖を通しているのを見たことがある。
 ナビ子が俺の耳元で囁く。

「パトリシアさんてば、女子力が上がったところをカズヤさんに見せたいんですよ。可愛いじゃありませんか」

「女子力ってお前な」

 相手は一国の王女だぞ。
 こちらを見てニッコリと笑うパトリシア。
 そもそも、くっころ姫騎士なことを除けばパトリシアは優秀だからな。
 別に女子力にこだわる必要もないとは思うんだが。
 アンジェリカが俺を見上げると言う。

「わ、私も一緒に行ってあげてもいいわ! 王宮の中もとても素敵なんだから」

「へえ、確かにエルフの王宮の中がどうなってるのかってのは興味があるな」

 アルーティアの王宮も立派だったが、エルフェンシアの王宮はまだ見たことがない。
 王宮か、そういえば……。
 俺は端末を取り出すとクリスティーナが用意してくれた資料に目を通す。
 アンジェリカが少し頬を膨らませて俺を見ている。

「何よ、せっかく私が一緒に行ってあげるって言ってるのに。何か不満なの?」

「ん? ああ、アンジェリカ。そうじゃなくてな」

 今回の作戦でも、場合によっては王宮への潜入も想定はしている。
 ある意味一番情報が欲しい場所だからな。

 クリスティーナが用意してくれた資料の中には、地下道の地図とそれに対応した地上の地図が添付されている。
 そこには、リーニャやアンジェリカの力を使って俺たちが潜入するポイントも網羅されていた。
 どこも人目につくことなく潜入が可能な人気のない場所である。

 その中には、アルカディレーナの中央に位置する王宮も含まれている。
 普段誰も来ることがないような、古い地下室などがそうだ。
 リーニャの話では、地上に出る時については周囲に人目があるとあの魔法陣は発動しないらしい。
 秘密を守るための仕掛けの一つのようだ。

 大きな地図の潜入ポイントをタップすると、俺はその場所の細かい資料が開く。
 ナビ子が感心したように言った。

「流石クリスティーナさんですね。こんな資料までしっかりと用意してるなんて」

「ああ、大したもんだ。猫耳娘もな」

 クリスティーナとリンダが中心になって作り上げた資料は非常に綿密な物だ。
 あの二人は俺が元いた世界に行っても普通にやっていけそうである。

「寧ろカズヤさんよりよっぽど立派な社会人になりそうですね。良かったですね、もし元の世界に戻ったとしてもクリスティーナさんやリンダさんに食べさせてもらえますよ」

「ほっとけ!」

 相変らず人を甲斐性無しみたいに言いやがって。
 俺はナビ子に反論することは諦めて、端末に表示された資料を再び眺める。
 そこには、王宮の中にある潜入ポイントについての詳細が記されていた。

(問題はこれを使う時が来るかどうかだな)

 王宮に潜入するかどうかは、まだ不透明だ。
 シュレンが、俺の端末を覗き込みながら声をかける。。

「王宮への潜入計画についての資料ですか? 勇者様」

「ああ、シュレン」

 シュレンは言う。

「私は危険だと思います。王宮には魔将軍であるエルザベーラがいるでしょうから。そしてナイツ・オブ・クイーンと呼ばれる者達も」

「だろうな。潜入するとしたら、この資料に描かれている条件がそろった時だな」

 俺は再び端末の画面を眺めた。
 そこにはある人物のデータが書き込まれている。
 もしも、王宮に潜入するのならばその前に会う必要があるだろう。

「それに王宮に入るかどうかは別として、より多くの情報を手に入れるのならば接触した方がいいだろうな」

「接触って何のことカズヤ?」

「アンジェリカ、お前も知ってるだろ。オルフェレントを出る前に、作戦会議は散々やったからな。クリスティーナは信用できる相手だとは言っていたが……」

 アンジェリカが俺の端末を覗き込む。
 そして顔をしかめる。

「どうしたアンジェリカ、そんな顔して?」

「クリスティーナお姉様はどう思っているのか知らないけど、私は正直言って反対だわ」

 リーニャがそんなアンジェリカをいさめる。

「アンジェリカ、おやめなさい。貴方も知らない相手じゃないでしょ?」

「だから反対してるのよ、リーニャお姉様。あんな女、信用できないわ。わざわざ都に残ったのだって、裏切って帝国側に着いたからに決まってるんだから!」

 どうやら、アンジェリカは気に入らないようだな。
 俺はもう一度端末に目を落とし、クリスティーナが描いた相手の似顔絵を眺めていた。
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