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206、出発の前日

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「ああ、そっちも一応準備は出来てるわ。面倒だからみんな私の背中に乗せて連れて行ってあげる!」

 エルはそう言うと、再び聖竜へと姿を変える。
 俺たちはその背中の上に乗った。

「それじゃあ、行くわよ!」

 ゆっくりと空に舞い上がるエル。
 その背中は快適そのものだ。
 ナビ子が俺に言う。

「天空の島の強制イベントをクリアしましたからね。どうやら、新しい乗り物にエルさんが追加されているみたいですよ」

「へえ、どれどれ。ああ、本当だな乗り物の項目に聖竜が追加されてるな」

 俺も『S・H・Cオンライン』のサイトでそれを確認する。
 なるほど鞍もつけてないのに快適なわけだ。

「向こうの世界でもエルがこのままの姿だったら、移動も楽だろうにな」

「ですね。全員で楽々移動できますよ」

 まあ贅沢はいっていられないか。
 エルは俺に言う。

「ねえ、カズヤ。私もエルフの都には一緒に行くわよ。帝国の連中がそこにいるんでしょ? 魔竜の一件のお礼がまだ済んでないもの」

「さてどうするかな、今回は戦いに行くんじゃないからな。エル、お前の姿は目立ちすぎるだろ?」

 パトリシアが俺の言葉に頷く。

「うむ、エルは背中に翼があるものな」

「そうね、人目につきすぎるわ」

 アンジェリカもパトリシアに同意する。

「どうするんですか? カズヤさん」

「まあ地上には出ずに地下通路に大人しく待機するなら、連れて行ってもいいけどな」

 確かにエルを連れて行くメリットもある。
 ディバインナイトからの真・人竜一体はいざという時に使えるかもしれない。

「仕方ないわね、今回はそれで我慢してあげるわ!」

 そう言いながら更に大空に舞い上がっていくエル。
 リーニャが目を輝かせる。

「うわぁあ! 凄いわ凄いわ!!」

 子供のようにはしゃぐのも無理はないだろう。
 眼下に見えるのは天空に浮かぶ島だ。
 美しい川が島の端から流れ落ち、その飛沫が虹を作っている。
 リーニャは少し頬を膨らませるとアンジェリカに文句を言った。

「ずるいわアンジェリカ。こんなに楽しいことを黙っているなんて」

「あら前にも誘ったわよ、でもお姉様が断ったんじゃない」

「そ、それは気持ち悪い魔物が一杯いるなんて言うからじゃない」

 まあ最初はアンジェリカも触手モンスターに掴まって、ちょっとしたトラウマになってたからな。
 そうこうしている内に、エルは彼女の神殿の近くにふわりと舞い降りる。
 神官と、その長であるセラフィナが俺達を出迎える。

「エル様、お帰りなさいませ! 旦那様もよくお戻りになられました」

 ……おいちょっと待て。
 今、俺のこと変な呼び方しなかったか?
 俺はセラフィナに尋ねる。

「なあ、セラフィナ。今、俺の事旦那様って呼ばなかったか?」

「ええ、もちろん! カズヤ様は、エル様の大切な旦那様ですので」

 エルは聖竜から子供モードの姿に変ると、満足そうに俺に言う。

「ねえ、カズヤ。早く私たちの愛の巣に行きましょう。寝具も用意させたのよ」

「寝具ってお前な……」

 そう言えば確かあの魔竜イベントが終わった後、結界石で新しい拠点を開放した時変なアナウンスが流れてたな。

『天空神殿の女神の好感度がMAXの為、拠点「天空の女神エルとの愛の巣」を解放しました。通常の拠点と違い新たに家を作る必要はありませんが、家具などのカスタマイズは可能です』

 とかなんとか。
 各地にある神殿の主との間には、好感度がMAXになると特殊イベントが起きる。
 これもその一つだろう。
 エルはどうやら、俺たちの愛の巣ってやつを着々と作っているらしい。
 エルは大人モードに変わる。

「カズヤがこっちの方がムードが出るなら、こっちの姿でいるわ。ねえ、一生懸命家具も選んだの。カズヤが喜んでくれると思って」

「お、おいエル。近いって!」

 エルの髪からいい香りが漂ってくる。
 天空の女神との愛の巣か……。
 ナビ子がジト目で俺を見ている。

「何考えてるんですかカズヤさん、いやらしい。今はそれどころじゃありませんよ、時と場合を考えて下さい」

「まったくだわ!」

「うむ!」

 アンジェリカとパトリシアもジト目で俺を睨んでいる。
 俺は咳ばらいをしながらエルに答えた。

「なあエル。一先ずそれは後回しだ、潜入作戦まで時間が無いからな」

 エルは少し拗ねたような顏をしながらも、俺に言う。

「しょうがないわね、頼まれたことも用意しているわ! セラフィナ、直ぐに行けるんでしょ?」

「はい、エル様。準備は出来ていますわ」

 俺たちが向かったのは、天空の島の奥にある洞窟である。
 そこには前の拠点の周りにいたモンスターよりもさらに手強い相手がいて、いい特訓になった。
 それに古い遺跡の中に出来た洞窟は、地下道も彷彿とさせたからな。
 俺たちは出発の前日の夕方まで、そこでみっちりと特訓を積み重ねたのである。
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