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196、訪ねて来た王女たち

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「カズヤ、起きなさい。朝の光が気持ちいいわよ!」

 エイリスがメイを抱いて布団の中に隠れたのとほぼ同時に、アンジェリカが俺の部屋の扉をあけ放つ。
 間一髪等というタイミングで、彼女たちは俺の部屋に入って来た。

「い、いやあ、いい朝だね君たち!」

 俺はベッドから部屋の入口の方へ歩きながらそう挨拶をする。
 思わず少し声が裏返る。
 状況が状況だからな。
 それを見て、アンジェリカが首を傾げた。

「珍しいわね。いつもは、私たちが起こしに来るまで枕を抱いて眠ってるのに」

「うむ! だが、勇者殿のそんな姿が可愛いのだ!」

「うふふ、パトリシアさん分かってますわね」

 ……実は今さっき、枕を抱き締めたお蔭で目が覚めたんだけどな。
 正確に言えばエイリスだったんだが。
 チラリとベッドの上を横目で見ると、エイリスの真紅の髪が少しだけ布団の脇からはみ出ている。

「お! おい、ちょっと出てるぞ」

 その声が聞こえたのか、サッと布団の中に髪が入っていく。
 俺はホッと胸を撫でおろした。
 訝し気な顔で一斉に俺を見るパトリシアたち。

「どうしたのだ勇者殿? 何が出ているのだ?」

「そうよ、何だか少し変じゃない? 妙に早起きだし、そわそわしてる気がするし」

「そう言えばそうですわね?」

「どうしたの? カズヤ」

 俺は咳ばらいをすると彼女たちに言った。

「な、何でもないって。ファーロイ族長の腹が、服から出てるって言ったんだよ。ほら、風邪ひいたらいけないなと思ってさ」
 
 俺は、床に大の字になっているファーロイを眺めながらそう言った。
 クリスティーナが不思議そうに俺に尋ねる。

「そういえば、どうしてファーロイ族長がここで寝ているんですの?」

「昨日あの後、ドワーフたちとちょっとした宴会をしてな。そ、それよりも、少し場所を変えようか。こんなところで立ち話もなんだろう?」

 皆を部屋の外へと誘導しようとする俺の顔を、アンジェリカが不審気に眺める。

「どうしてよ? 話ならここですればいいじゃない。何か変ね、カズヤ、私たちに何か隠してない?」

 ぐっ……
 鋭い奴め。
 その時、パトリシアが声を上げた。

「何だ? 今ベッドの上の布団が動いたぞ!?」

「ちょ! 誰かそこに居るの!?」

 身構えるアンジェリカ。

「きゃ! 何ですの?」

 クリスティーナも驚いたようにベッドの上を眺めている。
 ……おい。
 一体今度は何なんだ?

 ベッドの上の布団がもぞもぞと動き始める。
 そこからは、聞きなれた声が聞こえて来た。

「暗いですぅ! カズヤさん、何処なんですか!? 帝国が攻めてきたんですかぁ~」

 ……ナビ子の野郎。
 こんな時に、少しは空気を読んでくれ。
 困惑しきったエイリスの囁き声が、俺の耳に聞こえて来た。

「ナビ子さん! 困ります、静かにして下さい」

「だ、誰ですか? カズヤさん助けて下さい!」

 暗やみの中で鍛冶場の馬鹿力を出したナビ子が、布団の中から飛び出してくる。
 その勢いで、エイリスの姿が皆の前に露になった。
 寝ぼけ眼のナビ子。

「ふぁ? 皆さんおはようございます」

 俺とエイリス、そしてアンジェリカたちを交互に見比べる。
 そして、胸を撫でおろしたように言った。

「なんだ、さっきのはエイリスさんだったんですね、びっくりしました。でもどうして、カズヤさんのベッドの中にエイリスさんがいるんですか?」

 ネグリジェ姿のエイリスの姿。
 少し乱れた赤い髪が色っぽい。
 メイはまだ布団の中に隠れている。
 俺は壊れかけたロボットのようにギギギっと音がしそうな感じで、クリスティーナたちの方を振り返った。

「あ、あのな……落ち着いて聞いてくれ。これにはわけがあるんだ、分かるだろ?」

 クリスティーナは聖女のような笑顔で俺を見つめている。
 だがその全身からは、ビシビシと音を立てながら雷が湧き出ていた。

「うふふ、勇者様。一体どんなわけがあるんでしょうか? 聞かせて下さいませんか。そうでないと、わたくし魔力が暴走してしまいそうですの」

「は、ははは。落ち着けってクリスティーナ」

 隣でアンジェリカが右手をこちらに向けて構えている。
 今にもトールハンマーをぶっ放しそうだ。

「なに笑ってるのよ、このスケベ! 変態!!」

「勇者殿! これはどういうことなのだ!?」

 エルが頬を膨らませて言い放つ。

「何よ、カズヤったら子供が欲しいの? だったら私に言いなさいよ、カズヤの子供なら何人でも生んであげるわ!」

 ……おいやめろ。
 これ以上、火に油を注ぐんじゃない。

「こ、こ、子供! 何て破廉恥な!!!」

 クリスティーナの今までにないボリュームの破廉恥発言が飛び出したと思うと、フラフラとその場に倒れ込む。
 パトリシアとアンジェリカがクリスティーナの体を支えた。

「クリスティーナ殿下!」

「お、お姉様! しっかりして!」

 ……完全にカオスである。
 アンジェリカがキッとこちらを睨む。

「このぉ、馬鹿カズヤぁ!」

「違うって! 落ち着け、話せば分かる!!」

「問答無用よ! この女たらし!!」

 雷撃のアンジェリカという異名に相応しい雷の化身のようなその姿。
 結局この後、俺が皆の誤解を解くまでに何度か黒焦げになりそうになったのは言うまでもない。
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