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192、訪れた客人
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「おうそうだ! カズヤ、帰るならこれを持っていけ。前メールで頼まれていたものだ」
マスターがそう言ってカウンターに置いたのは、一本の酒瓶だ。
「へえ、手に入ったんだ!」
「おうよ! ドワーフといえば酒飲みなんだろう? いい加減な物は渡せないからな」
マスターが用意してくれたのは日本の酒だ。
それも最高の大吟醸の逸品。
俺はその酒瓶を手にすると、マスターに礼を言う。
「これなら間違いなしだ、マスター。丁度良かった、今日新しい武器が完成したんだ。そのお礼の為に、ファーロイ族長に渡すつもりでマスターに頼んだんだからさ」
「そいつは良かった。実はなそれは弥生さんが手に入れてくれたんだ。そこの蔵元に知り合いがいるらしくてな」
弥生さんというのは、再就職が決まって俺が最後に寄った小料理屋の女将さんだ。
沙織さんは首を傾げると俺に尋ねる。
「あら、かずくん。いい日本酒が欲しいんだったら、最初から弥生さんに頼めば良かったじゃない? どうしてうちの人に頼んだの?」
「はは、まあ色々あってさ」
実は前にこの店に尋ねた後、一度弥生さんに会いに行ったんだ。
沙織さんもこの間来た時に弥生さんにだけは事情を話しておきたいって言ってたし、俺もそう思ったからな。
何しろあの店の前で倒れたんだ、お詫びも兼ねて会いに行っただけど……。
「弥生さんと何かあったの?」
訝し気に俺を見る沙織さん。
「え? べ、別にそういう訳じゃないけどさ」
その時──
店の入り口がノックされる。
マスターは首を傾げた。
「誰だ? もう店じまいの看板は出してるんだがな」
「噂をすれば影だわ。多分弥生さんよ、かずくんが今日うちに来るってメールしておいたから」
「ああ、そういえば。向こうもそろそろ閉店時間か、カズヤに会いにでも来たのか?」
マスターはそう言うと、店の入り口に言って鍵を開けると扉を開く。
すると、和服姿の清楚な雰囲気の美人が中に入って来た。
そして俺を睨むとツンとした顔で言う。
「かずくん、来ているなら来てるって言いなさいよ。沙織ちゃんにだけ連絡するなんて!」
「え? ああ、ごめんごめん」
弥生さんは三十代の和風美人だ。
まさに大和撫子といった雰囲気で、常連客には弥生さん目当ての客も多い。
料理の腕は俺の食べ歩きリストのかなり上位に入る。
家庭料理系の和食ならピカ一だろう。
初めて店に行ったのは、沙織さんに紹介されてなんだよな。
美味しいお店だって言われてさ。
お互いタイプは違うが、沙織さんとは大の仲良しである。
弥生さんは俺を睨みつけた後、店内にいる皆を見て目を丸くする。
「ちょ……ちょっと。今日は翼が生えた子までいるのね」
前に弥生さんのところに出かけた時につれていったのは、パトリシアやクリスティーナたちだ。
当然エルはいなかったからな。
俺は頭を掻きながら弥生さんに礼を言う。
「あ、あのさ。マスターから聞いたよ、この日本酒ありがとう。助かったよ」
それを聞いて弥生さんは、楚々とした雰囲気ながらちょっと怒ったように俺を見る。
「最初から私に頼めばいいじゃない。水臭いわね」
「はは、そりゃそうなんだけどさ」
先回弥生さんの店にみんなで行った時に、大号泣されたんだよな。
弥生さんからしてみたら、自分の店の前で死んだと思ってた俺が生きてたんだ本当に驚いたんだろうけどさ。
前に沙織さんが言っていたみたいに、俺が死んだことの責任を感じているらしくて料理どころじゃなかったからな。
弥生さんもその時のことを思い出したのだろう、少しバツが悪そうに俺を見つめる。
「だって……かずくんのことは弟みたいに思ってたし、それなのに私の店の前で……私がもっと気を付けていてあげてれば」
話している内に、またうるっとする弥生さん。
「だ、だからさ、それは違うって。俺が死んだのは、弥生さんのせいじゃないから」
ナビ子が肩をすくめるという。
「安心してください。確かに一度死にましたけど、今はしっかり生きてますし」
……お前は黙ってろ。
話がややこしくなる。
学生時代から店には顔を出してたし、就職した時は一緒に祝ってくれたからな。
だから再就職が決まりそうになった時も、真っ先に報告に言ったんだけどな。
だがあのくそ女神のせいで、弥生さんの店を出て次にマスターの店に報告にいく途中でぶっ倒れた訳だ。
「はは、なんていうか弥生さんに泣かれるのって苦手なんだよな」
兄弟がいない俺にとっては、沙織さんも弥生さんも姉さんみたいな感じだからさ。
沙織さんと違って、死にましたけど生きてましたなんていうのが直ぐに受け入れられるようなタイプじゃない。
落ち着くまでは連絡はしないようにしてたんだけど。
弥生さんはコホンと咳ばらいをする。
そしてニッコリと微笑んだ。
「もう大丈夫よ、沙織ちゃんから色々聞いて安心したの。かずくんが今、異世界っていうの? そこで楽しく生活してるって」
「はは、まあね」
帝国の一件があるからな、何も考えずに楽しくって訳にはいかないが何とかやってる。
弥生さんは俺の手をギュッと握って言った。
「またうちの店にみんなで来て頂戴。今度は美味しいお料理を作って待っているわ」
マスターがそう言ってカウンターに置いたのは、一本の酒瓶だ。
「へえ、手に入ったんだ!」
「おうよ! ドワーフといえば酒飲みなんだろう? いい加減な物は渡せないからな」
マスターが用意してくれたのは日本の酒だ。
それも最高の大吟醸の逸品。
俺はその酒瓶を手にすると、マスターに礼を言う。
「これなら間違いなしだ、マスター。丁度良かった、今日新しい武器が完成したんだ。そのお礼の為に、ファーロイ族長に渡すつもりでマスターに頼んだんだからさ」
「そいつは良かった。実はなそれは弥生さんが手に入れてくれたんだ。そこの蔵元に知り合いがいるらしくてな」
弥生さんというのは、再就職が決まって俺が最後に寄った小料理屋の女将さんだ。
沙織さんは首を傾げると俺に尋ねる。
「あら、かずくん。いい日本酒が欲しいんだったら、最初から弥生さんに頼めば良かったじゃない? どうしてうちの人に頼んだの?」
「はは、まあ色々あってさ」
実は前にこの店に尋ねた後、一度弥生さんに会いに行ったんだ。
沙織さんもこの間来た時に弥生さんにだけは事情を話しておきたいって言ってたし、俺もそう思ったからな。
何しろあの店の前で倒れたんだ、お詫びも兼ねて会いに行っただけど……。
「弥生さんと何かあったの?」
訝し気に俺を見る沙織さん。
「え? べ、別にそういう訳じゃないけどさ」
その時──
店の入り口がノックされる。
マスターは首を傾げた。
「誰だ? もう店じまいの看板は出してるんだがな」
「噂をすれば影だわ。多分弥生さんよ、かずくんが今日うちに来るってメールしておいたから」
「ああ、そういえば。向こうもそろそろ閉店時間か、カズヤに会いにでも来たのか?」
マスターはそう言うと、店の入り口に言って鍵を開けると扉を開く。
すると、和服姿の清楚な雰囲気の美人が中に入って来た。
そして俺を睨むとツンとした顔で言う。
「かずくん、来ているなら来てるって言いなさいよ。沙織ちゃんにだけ連絡するなんて!」
「え? ああ、ごめんごめん」
弥生さんは三十代の和風美人だ。
まさに大和撫子といった雰囲気で、常連客には弥生さん目当ての客も多い。
料理の腕は俺の食べ歩きリストのかなり上位に入る。
家庭料理系の和食ならピカ一だろう。
初めて店に行ったのは、沙織さんに紹介されてなんだよな。
美味しいお店だって言われてさ。
お互いタイプは違うが、沙織さんとは大の仲良しである。
弥生さんは俺を睨みつけた後、店内にいる皆を見て目を丸くする。
「ちょ……ちょっと。今日は翼が生えた子までいるのね」
前に弥生さんのところに出かけた時につれていったのは、パトリシアやクリスティーナたちだ。
当然エルはいなかったからな。
俺は頭を掻きながら弥生さんに礼を言う。
「あ、あのさ。マスターから聞いたよ、この日本酒ありがとう。助かったよ」
それを聞いて弥生さんは、楚々とした雰囲気ながらちょっと怒ったように俺を見る。
「最初から私に頼めばいいじゃない。水臭いわね」
「はは、そりゃそうなんだけどさ」
先回弥生さんの店にみんなで行った時に、大号泣されたんだよな。
弥生さんからしてみたら、自分の店の前で死んだと思ってた俺が生きてたんだ本当に驚いたんだろうけどさ。
前に沙織さんが言っていたみたいに、俺が死んだことの責任を感じているらしくて料理どころじゃなかったからな。
弥生さんもその時のことを思い出したのだろう、少しバツが悪そうに俺を見つめる。
「だって……かずくんのことは弟みたいに思ってたし、それなのに私の店の前で……私がもっと気を付けていてあげてれば」
話している内に、またうるっとする弥生さん。
「だ、だからさ、それは違うって。俺が死んだのは、弥生さんのせいじゃないから」
ナビ子が肩をすくめるという。
「安心してください。確かに一度死にましたけど、今はしっかり生きてますし」
……お前は黙ってろ。
話がややこしくなる。
学生時代から店には顔を出してたし、就職した時は一緒に祝ってくれたからな。
だから再就職が決まりそうになった時も、真っ先に報告に言ったんだけどな。
だがあのくそ女神のせいで、弥生さんの店を出て次にマスターの店に報告にいく途中でぶっ倒れた訳だ。
「はは、なんていうか弥生さんに泣かれるのって苦手なんだよな」
兄弟がいない俺にとっては、沙織さんも弥生さんも姉さんみたいな感じだからさ。
沙織さんと違って、死にましたけど生きてましたなんていうのが直ぐに受け入れられるようなタイプじゃない。
落ち着くまでは連絡はしないようにしてたんだけど。
弥生さんはコホンと咳ばらいをする。
そしてニッコリと微笑んだ。
「もう大丈夫よ、沙織ちゃんから色々聞いて安心したの。かずくんが今、異世界っていうの? そこで楽しく生活してるって」
「はは、まあね」
帝国の一件があるからな、何も考えずに楽しくって訳にはいかないが何とかやってる。
弥生さんは俺の手をギュッと握って言った。
「またうちの店にみんなで来て頂戴。今度は美味しいお料理を作って待っているわ」
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