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190、魔法姫と月光の女王

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「あのぉ、勇者様。それで、私はなにをすればよろしいんですか?」

「そうだな、沙織さんに聞いてみるか」

 俺が沙織さんに尋ねようとした、丁度その時。
 着替え用にかけられた幕の後ろから、パトリシアが現れる。
 パトリシアは、少しだけ恥ずかしそうに俺を見つめた。

「す、少しスカートが短い気もするが、これで大丈夫なのだろうか。 勇者殿、おかしくはないか?」

 パトリシアが今扮しているのは、子供たちに大人気のアニメ『月光の魔法姫ルファルーナ』の主人公である。
 月光のような銀色の髪と、凛々しい感じがパトリシアによく雰囲気が似ている。
 ストーリーやバトルシーンも本格的で熱狂的なファンの中には、沙織さんが言うところの大人のお友達も多い。
 ここ数年は、コスプレイヤーも一番多いアニメだろう。

「……ていうか、この完成度はヤバいな」

 コスプレの衣装の完成度もそうだが、パトリシアが着るとまさにファンタジーって感じだからな。
 帽子で狼耳は隠れて、ポスターの月光の魔法姫ルファルーナの実写版といった雰囲気である。

「尊い……尊いわ! パトリシアちゃん」

 ……尊いってあんた。
 コスプレを超えた存在になっているパトリシアに、沙織さんが変なモードに入っている。

「ゆ、勇者殿! 沙織殿が少し変だぞ……」

「あ、ああ」

 すると、今度はアンジェリカが口を尖らせながら着替えを済ませて出てきた。

「ほんとよね、スカートの丈が少し短い気がするわ」

 バトルシーンも多いアニメだからロングドレスとはいかないからな。
 アンジェリカは上目遣いに俺を見つめる。

「ど、どう? カズヤ」

「ん? ああ、よく似合ってるぞ」

「ほんとに?」

 ていうか、こっちの完成度もヤバいな。
 主人公のルファルーナのライバルキャラのアリスというキャラだが、その衣装がアンジェリカにはよく似合っている。
 勝気な美貌にピッタリの衣装だ。

「アンジェリカちゃん、グレイトよ!」

 ……グレイトって。
 沙織さんあんたテンションおかしくなってるぞ。
 メイが二人に駆け寄って、目を輝かせている。

「うわぁ! 二人ともとっても可愛いです!」

「そ、そうだろうか?」

「そう? メイ」

 沙織さんは、スマホを片手に連写している。
 アングルを変える為だろう、まるで残像が出来そうな勢いで二人の周囲を動き回りながらカメラを構えていた。

「ちょ! カズヤ、沙織が変よ!」

 ……ああ。
 それは分かってるが、そっとしておいてやろう。

「ふふ、うふふ。二人ともなんて尊いのかしら!」

「はう! さっきのお姉ちゃんじゃないです……」

 二人の写真を撮りまくる沙織さんに、メイも若干引いている。
 俺たちのそんな様子に気が付いたのか、沙織さんはコホンと咳ばらいをすると少しだけ冷静になる。
 そして、セレスリーナ用の衣装を取り出した。

「あ、あのねかずくん。これ女王様にお願いしたいの……劇場版月光の魔法姫ルファルーナの最新作『魔法姫と月光の女王』に出てくる月光の女王様の衣装なのよね。ルファルーナの生き別れの母親とのバトルシーン! 最高だったわ」

 沙織さんの説明によると、悪の組織に操られた生き別れの母親とルファルーナが戦う劇場版の衣装らしい。
 まあ確かにルファルーナの母親だけに、ポスターに描かれたキャラはセレスリーナによく似てるけどな。

「え、えっとだな沙織さん。これ意外と大胆な衣装じゃないか?」

「ええ、だって劇場版のラスボスだもの。清楚で優雅にして妖艶、まさに女王様にピッタリだわ」

 頭が痛くなってきた。
 月光に映えるような白く美しいドレスなのだが、背中の部分が大きく開いている。
 とりあえず頼んでみるか。

「セレスリーナ、少し大胆な衣装だけど構わないか?」

「うふふ、構いませんわ! パトリシアもアンジェリカ殿下もとても似合っていますもの」

 セレスリーナはそう言うと着替える為に、幕の後ろに入る。
 パトリシアは俺にもっと衣装を見せたいのか、傍に来てクルリと回転する。
 ヒラヒラのレースのスカートが舞うように動く。

「勇者殿、この格好は結構気に入った。可愛くて動きやすい!」

「はは、確かにな」

 そんな中、幕の後ろからセレスリーナの声が聞こえてくる。

「あの、勇者様。着替えは終わったんですけど、ちょっと手を貸してくださいませんか?」

「セレスリーナ。手を貸すって俺がか?」

 セレスリーナの願いに俺は首を傾げて、声の方へと歩み寄った。
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