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184、沙織さんからのメール

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「さあ、そろそろ上がるか。沙織さんに早速連絡しておきたいからな」

「はいです! パパ」

 みんなで温泉に入れたのが楽しかったのだろう、すっかり笑顔のメイ。
 女性陣が着替える前に、俺が脱衣所に入って着替えをすます。
 着替えの前に、沙織さんにメールを送っておいた。

 店が閉まった後、みんなでそちらにいってもいいかどうかの確認だ。
 それぞれがどんなシャンプーが欲しいのかも聞いているからな。
 それも併せてメールで送る。

「沙織さんには、また世話になっちまうな」

 俺が着替えを済ませて廊下に出ると、端末に返事がきていた。

<了解したわ! シャンプーぐらいお安い御用よ。用意して待ってるわね>

 沙織さんらしい返事に、俺は胸を撫でおろす。
 連絡がつかなかったらアンジェリカがシャンプーシャンプーうるさいだろうからな。
 そうこうしていると女性陣が着替えて、脱衣所からこちらにやってくる。
 パトリシアとリンダが俺に腕に抱きつくと、端末を覗き込む。

「勇者殿! 沙織殿とは連絡がついたのか?」

「おっちゃん? 行ってもええって」

「おいおい、そんなに抱きつくなって」

 マスターの店のこととなると、この二人は夢中になるからな。
 可愛いものなのだが、いつもと違ってシャンプーの匂いがする。
 サラサラとした髪が俺の腕に触れた。
 リンダが俺を見てニッと笑うと。

「なんや、うちらがええ香りがするから照れとるんか?」

「たく。誰が照れてるんだ、誰が」

 パトリシアが、クルリと回って見せる。
 美しい銀色の髪が、遠心力で綺麗に広がっていく様子は美しい。

「こうすると、いい香りが辺りに広がる」

 そう言って大きな狼耳をピコピコさせて、尻尾を左右に振るパトリシア。

「はは、相変わらずパトリシアは可愛いよな」

「ゆ、勇者殿! 可愛いなどと……皆が見ている」

 ……だからそういう意味じゃないぞ。
 まあ、ご機嫌な様子だからないいとしよう。
 アンジェリカは一人ぶすっとした顔で髪を撫でている。

「もう! パトリシアったら、満足そうな顔しちゃって。私のお蔭なんだからね!」

 そのままでも十分すぎるほど綺麗なブロンドなのだが、シャンプーが出来なかったのが余程不満なのだろう。
 俺はアンジェリカの鼻の頭をつつくと端末を見せた。
 すると、その顔がぱあっと明るくなる。

「このメッセージ沙織のマークよね? ね、カズヤどうだった?」

「ああ、沙織さんが買っておいてくれるってよ」

「やったぁ!!」

 そう言ってはしゃぐ姿は、少し王女らしからぬが可愛らしい。
 ナビ子がうんうんと頷くと。

「最初の頃の憎たらしさから比べると、アンジェリカさんもずいぶん可愛げが出てきましたよね」

「まったくだな」

「……何よ。最初は可愛げがなかったとでもいうの?」

 平和の為にノーコメントにしておこう。
 少し頬を膨らますアンジェリカだが、新しいシャンプーやリンスが手に入ると聞いてご機嫌な様子だ。

「ねえ! 直ぐにでも行きましょうよ」

「はは、待てよアンジェリカ。そうしたいところだが、今はちょっとまずいな」

 結局、マスターの店が閉店を迎えるまで、俺は総司令としての仕事をした。
 エルフの都を監視する新しい体制の説明をクリスティーナやシルヴィアから聞いたり、それに合わせてアルーティア側の編成も少し変えたりと忙しかったが、パトリシアやリンダが上手く調整をしていく。
 中でも、リンダは物資の在庫まできっちり管理をしているため重宝だ。
 端末を使って、的確に各部隊へとパトリシアの命令を伝えていく。

 エルはエルで、城内を勝手に飛び回っている。
 辺境伯にもエルのことは報告したので別に構わないのだが、流石に侍女たちはそんなエルの姿を見て目を丸くしていた。
 まったく、自由奔放である。
 セレスリーナは、俺を見つめて少しうずうずしたような眼差しで言う。

「うふふ、そういえば、いよいよ私もとんかつ定食を食べられるんですね。楽しみですわ、勇者様!」

「ああ、そうか。セレスリーナは初めてだったよな。そういえば、前に一緒に食べに行くって約束してたっけ」

 俺の言葉にセレスリーナは少し拗ねたふりをする。

「ええ、勇者様ったら忘れていらっしゃるのかと思いましたわ」

「はは、そんなことないって」

 シルヴィアは、オルフェレントの兵士たちにメールを打ちながら肩をすくめた。

「申し上げておきますが、セレスリーナ陛下。とんかつだなんて、カレーを食べないとあの店の良さは分からないですわよ」

 それに対してアンジェリカが異を唱える。

「馬鹿ね、最高なのはクリームコロッケに決まってるでしょ?」

「あら、お言葉ですけど断じてカレーですわね!」

 好物をめぐって譲らない二人。

「おいおい、喧嘩するなって」

 俺が呆れながら二人を眺めていると、沙織さんから俺にメールが届いた。

<かずくん、さっき最後のお客さんが店を出たから、もう来てもいいわよ>

 どうやら準備が出来たようだ。
 アンジェリカがそれを覗き込む。

「沙織のマークだわ!」

 それを聞いて、メイやエイリスも目を輝かせる。
 アンジェリカが散々料理の話をするから、すっかりお腹が減っているようだ。
 俺は皆に言った。

「さてと、それじゃあみんな。行くとするか!」

「ふふ、そうですわね」

 クリスティーナがそう言って微笑む。
 するべき仕事はこなし、念のためにいつでも俺の端末に連絡が入るようにしてみんなで食べ歩きを使った。
 部屋の扉を抜けるとそこは、もうあの店である。

 俺と手を繋いで店に入ったメイは目を丸くする。

「はう! お城の中じゃないです」

「そうね、変わったお店だわ」

 エイリスも驚いたように辺りを見渡した。
 マスターと沙織さんがこちらを見て、呆れたように言った。

「おいおい、カズヤ。今度は天使までつれて来たのか?」

「ほんとだわね。翼が生えてるわ」

 エルを見て目を丸くする二人。
 当然だよな。
 暫し皆を紹介した後、沙織さんはメイの話を聞いて俺に囁いた。

「かずくん、結婚もしてないのに子供ができちゃったわね」

「はは、何ていったらいいのかな」

「ふふ、でもきちんと子供用のシャンプーも買ってきたわよ。はい、メイちゃん」

 言葉は通じないが、沙織さんが自分に話しかけているのは分かったのだろう。
 メイは恥ずかしいのか、一度俺の後ろに隠れたがそのボトルを見て目を輝かせた。

「うわぁあ! 可愛いです!!」

 可愛らしいキャラクターが描かれたボトルを見てはしゃぐメイ。
 そして、沙織さんにお辞儀をする。

「ありがとです! とっても嬉しいです!」

「メイがとっても嬉しいってさ、沙織さん」

「まあ、何て可愛いの! ふふ、偉いのねお礼が言えて」

 言葉は分からないが気持ちは伝わるものだ。
 沙織さんはメイを見つめて微笑む。

「えへへ」

 照れくさそうに笑うメイ。
 アンジェリカは早速自分のシャンプーに手を伸ばして、その横に置かれたものを見て首を傾げた。

「あら。ねえ、カズヤこれは何かしら?」

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