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181、森の異変
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「はい、勇者殿。実は斥候に出ているオルフェレントの兵士達より、少し気になる報告がございまして」
「気になる報告?」
俺はロファーシルに問い返す。
「ええ、エルフェンシアの都であるアルカディレーナ、密かにその近くまで斥候を忍ばせているのは勇者殿もご存じでしょう?」
俺達の当面の目的は、帝国に占領されているエルフの都の奪還だからな。
その為に、オルフェレントに兵を集め来るであろう帝国との一戦に備えている。
情報取集もその一環だ。
「ああ、それはパトリシアとクリスティーナから聞いている」
クリスティーナが思わずロファーシルに尋ねた。
「ロファーシル、帝国に何か動きがあったのですか!?」
その反応は、先程までエルを見て頬を膨らませていたクリスティーナとは別人である。
真剣な表情はエルフ族の王女に相応しい。
「お姉様!」
アンジェリカの表情も引き締まる。
当然か。
二人にとってはエルフの都であるアルカディレーナは、特別な場所だからな。
シルヴィアはもちろんだが、パトリシアやセレスリーナもロファーシルの言葉を待つように見つめている。
ロファーシルはクリスティーナに一礼すると口を開いた。
「いえ、帝国に動きがあったわけではないのですが、斥候に出ていた者が変った光景を見たというのです。丁度いい、総司令である勇者殿や補佐官であられる両殿下にもお伝えせよ」
「は、剣聖様!」
ロファーシルの傍にいるのは、オルフェレントの兵士だ。
黒装束に身を包み、まるで忍者のような恰好をしている。
「この者はシュレン。辺境伯直属の斥候部隊の隊長です、優秀な男ですよ」
ロファーシルは黒装束の男を俺にそう紹介した。
確かにその仕草からも、只の兵士ではないことがみてとれる。
都の近くにまで潜り込むには、地理を熟知した優秀な兵士であることが重要だろう。
シュレンと呼ばれた男は、俺たちに話しを始める。
「私の部下を今、アルカディレーナ周辺に潜入をさせているのですが、未だ帝国軍に特に目立った様子はありません。ですが……」
「ですが?」
シュレンの話では、その斥候部隊は数日前から都にほど近い森をアジトにしてアルカディレーナを監視しているようである。
都を取り戻すためにはまず情報収集が大事だ。
オルフェレントに勢力が終結した今、当然といえば当然である。
「ええ、昨夜の事なのですが彼らが潜む森の中から、動物たちが一斉に姿を消したようなのです」
パトリシアがそれを聞いて首傾げた。
「森の動物たちが一斉に? それは一体どういうことなのだ、剣聖殿」
「理由は分かりませぬ、パトリシア殿下。ですが、動物たちはアルカディレーナから逃れるように去っていったとのこと。そうだな? シュレン」
ロファーシルの問いにシュレンは頷く。
「間違いございませぬ。夜が明け静まり返った森に異変を感じ、先程まで我が配下の者が森を広範囲に捜索したそうです。すると無数の動物たちの足跡を見つけたとのこと。恐らく夜の間に群れを為して移動したのではないかと」
潜入部隊からの報告がシュレンに入ったのが昼頃、それから辺境伯に報告した後ロファーシルに連絡がいったようだ。
シュレンは俺たちに言う。
「勇者殿の端末のお蔭で、最新の情報が現地から届くのですが。ご覧になられますか?」
「ああ、見せてもらえるか?」
俺はシュレンの端末から動画データを送ってもらって、タブレット端末で確認する。
そこには様々な動物たちの足跡が映っている。
どれも真新しいものだ。
かなり大型の動物の足跡も確認が出来る。
確かに相当の数の動物たちが移動したのが見て取れる。
俺はシュレンに尋ねた。
「それで、都にいる帝国軍に何か動きはあったのか?」
「いいえ、連中に動きはありません。ですので勇者殿にご報告していい話なのか判断がつきかねまして、辺境伯様とロファーシル様に」
「……なるほどな」
彼らの本来の仕事は帝国軍の監視だからな。
森から動物が消えました、なんていう報告を俺にしていいのかどうか迷ったのだろう。
「確かに少し気になる話だな」
「帝国軍に関係する話なのかどうかまだ分かりかねますが、もし何か動きがあれば直ぐにまた報告いたします」
シュレンの言葉に俺は頷いた。
「そうしてくれ。直接俺の端末への連絡で構わない」
「は! 畏まりました勇者殿」
メイが少し不安そうに俺を見上げた。
「パパ……」
「メイ、心配するな」
現時点では、何とも言えない情報だからな。
下手に振り回されて右往左往しても仕方ない。
俺は三人の補佐官たちに声をかける。
「クリスティーナ、パトリシア、シルヴィア、各砦の監視体制を強化。シュレンの斥候部隊との連携を密にするようにな。何かあったらすぐに俺に報告してくれ!」
「はい! 勇者様……素敵ですわ」
「うむ! 勇者殿がいつにも増しての頼もしく見える!」
「確かにそうね、いつもは私たちにばかり仕事をさせているもの」
……おい。
悪かったな、お前たちばかりに働かせて。
白いドラゴンが俺に首を寄せる。
そして言った。
「ふふ、カズヤはいつだって素敵よ!」
同時に人の姿に戻る、エル。
竜から人に戻るその姿を見て目を丸くするロファーシルたち。
「え? 竜が人間に!」
「勇者殿! こ、この方は一体!?」
俺は方をすくめながら笑った。
「まあこっちも色々あってな、ロファーシル。説明すると長くなりそうだ」
俺は少しの間アルカディレーナの方角を眺めた後、踵を返すと皆を連れて城の中へと向かうことにした。
「気になる報告?」
俺はロファーシルに問い返す。
「ええ、エルフェンシアの都であるアルカディレーナ、密かにその近くまで斥候を忍ばせているのは勇者殿もご存じでしょう?」
俺達の当面の目的は、帝国に占領されているエルフの都の奪還だからな。
その為に、オルフェレントに兵を集め来るであろう帝国との一戦に備えている。
情報取集もその一環だ。
「ああ、それはパトリシアとクリスティーナから聞いている」
クリスティーナが思わずロファーシルに尋ねた。
「ロファーシル、帝国に何か動きがあったのですか!?」
その反応は、先程までエルを見て頬を膨らませていたクリスティーナとは別人である。
真剣な表情はエルフ族の王女に相応しい。
「お姉様!」
アンジェリカの表情も引き締まる。
当然か。
二人にとってはエルフの都であるアルカディレーナは、特別な場所だからな。
シルヴィアはもちろんだが、パトリシアやセレスリーナもロファーシルの言葉を待つように見つめている。
ロファーシルはクリスティーナに一礼すると口を開いた。
「いえ、帝国に動きがあったわけではないのですが、斥候に出ていた者が変った光景を見たというのです。丁度いい、総司令である勇者殿や補佐官であられる両殿下にもお伝えせよ」
「は、剣聖様!」
ロファーシルの傍にいるのは、オルフェレントの兵士だ。
黒装束に身を包み、まるで忍者のような恰好をしている。
「この者はシュレン。辺境伯直属の斥候部隊の隊長です、優秀な男ですよ」
ロファーシルは黒装束の男を俺にそう紹介した。
確かにその仕草からも、只の兵士ではないことがみてとれる。
都の近くにまで潜り込むには、地理を熟知した優秀な兵士であることが重要だろう。
シュレンと呼ばれた男は、俺たちに話しを始める。
「私の部下を今、アルカディレーナ周辺に潜入をさせているのですが、未だ帝国軍に特に目立った様子はありません。ですが……」
「ですが?」
シュレンの話では、その斥候部隊は数日前から都にほど近い森をアジトにしてアルカディレーナを監視しているようである。
都を取り戻すためにはまず情報収集が大事だ。
オルフェレントに勢力が終結した今、当然といえば当然である。
「ええ、昨夜の事なのですが彼らが潜む森の中から、動物たちが一斉に姿を消したようなのです」
パトリシアがそれを聞いて首傾げた。
「森の動物たちが一斉に? それは一体どういうことなのだ、剣聖殿」
「理由は分かりませぬ、パトリシア殿下。ですが、動物たちはアルカディレーナから逃れるように去っていったとのこと。そうだな? シュレン」
ロファーシルの問いにシュレンは頷く。
「間違いございませぬ。夜が明け静まり返った森に異変を感じ、先程まで我が配下の者が森を広範囲に捜索したそうです。すると無数の動物たちの足跡を見つけたとのこと。恐らく夜の間に群れを為して移動したのではないかと」
潜入部隊からの報告がシュレンに入ったのが昼頃、それから辺境伯に報告した後ロファーシルに連絡がいったようだ。
シュレンは俺たちに言う。
「勇者殿の端末のお蔭で、最新の情報が現地から届くのですが。ご覧になられますか?」
「ああ、見せてもらえるか?」
俺はシュレンの端末から動画データを送ってもらって、タブレット端末で確認する。
そこには様々な動物たちの足跡が映っている。
どれも真新しいものだ。
かなり大型の動物の足跡も確認が出来る。
確かに相当の数の動物たちが移動したのが見て取れる。
俺はシュレンに尋ねた。
「それで、都にいる帝国軍に何か動きはあったのか?」
「いいえ、連中に動きはありません。ですので勇者殿にご報告していい話なのか判断がつきかねまして、辺境伯様とロファーシル様に」
「……なるほどな」
彼らの本来の仕事は帝国軍の監視だからな。
森から動物が消えました、なんていう報告を俺にしていいのかどうか迷ったのだろう。
「確かに少し気になる話だな」
「帝国軍に関係する話なのかどうかまだ分かりかねますが、もし何か動きがあれば直ぐにまた報告いたします」
シュレンの言葉に俺は頷いた。
「そうしてくれ。直接俺の端末への連絡で構わない」
「は! 畏まりました勇者殿」
メイが少し不安そうに俺を見上げた。
「パパ……」
「メイ、心配するな」
現時点では、何とも言えない情報だからな。
下手に振り回されて右往左往しても仕方ない。
俺は三人の補佐官たちに声をかける。
「クリスティーナ、パトリシア、シルヴィア、各砦の監視体制を強化。シュレンの斥候部隊との連携を密にするようにな。何かあったらすぐに俺に報告してくれ!」
「はい! 勇者様……素敵ですわ」
「うむ! 勇者殿がいつにも増しての頼もしく見える!」
「確かにそうね、いつもは私たちにばかり仕事をさせているもの」
……おい。
悪かったな、お前たちばかりに働かせて。
白いドラゴンが俺に首を寄せる。
そして言った。
「ふふ、カズヤはいつだって素敵よ!」
同時に人の姿に戻る、エル。
竜から人に戻るその姿を見て目を丸くするロファーシルたち。
「え? 竜が人間に!」
「勇者殿! こ、この方は一体!?」
俺は方をすくめながら笑った。
「まあこっちも色々あってな、ロファーシル。説明すると長くなりそうだ」
俺は少しの間アルカディレーナの方角を眺めた後、踵を返すと皆を連れて城の中へと向かうことにした。
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