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171、天空の女王

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「ああ、パトリシア。どうやら、これが契約の儀式っていうやつらしいな」

 俺たちの上空で羽ばたく聖竜の姿。
 そして、庭園に描かれていく魔法陣。

「はわわっ! パパ!!」

「メイ!」

 メイがびっくりして、尻もちをつきそうになる。
 俺は、メイを抱きかかえると空を見上げた。
 その時──
 パトリシアが叫んだ。

「勇者殿! その左手は!?」

 クリスティーナとアンジェリカも声を上げる。

「輝いていますわ!」

「カズヤ、何なのその光は!?」

 俺は自分の左手を見た。
 慌てて左手のグローブを外す。
 シルヴィアは言う。

「さっきの子の額の紋章と同じだわ!」

 その光は、確かにあの紋章を象っている。

「これは……」

 ナビ子がそれを覗き込んでいる。

「どうやら、エルさんの聖竜の紋章と同じ印のようですね。やりましたねカズヤさん、きっとこれが契約の証ですよ!」

「ああ、どうやら無事にディバインナイトとやらに転職できそうだ」

 神官長であるセラフィナは、驚いたように俺を見つめる。
 そして言った。

「ま、まさか、ドラゴンの血を引く我らでさえ、なることが出来なかった神聖なる騎士に地上人が! 信じられないわ……」

 アンジェリカが、そんなセラフィナの前で小さな胸を張る。

「どう? カズヤは凄いんだから!」

「あらあら、自分の事みたいに。ふふ、ほんとに勇者様のことになるとむきになるんだから。よっぽど勇者様のことが好きなのね」

 クリスティーナの言葉に、アンジェリカは真っ赤な顔になる。
 そして、姉に反論した。

「お姉様ったら、馬鹿なこと言わないで! 天空の人間達が、あんまり偉そうだったからよ!」

 そして、俺を睨むとツンと顔をそらした。

「か、勘違いしないでよね、カズヤ!」

「分かってるって」

 第一、クリスティーナが言ったのはそういう好きではないんだろう。
 仲間としてってことだ。
 ナビ子が俺に囁いた。

「そもそも、アンジェリカさんはまだお子様ですからね」

「まったくだ」

 俺は肩をすくめながら左手の紋章を眺めた。
 そんな中、エルの声が上空から聞こえてくる。

「まだ、私の騎士に相応しいかどうか分からないわ。カズヤ、貴方には少し付き合ってもらうわよ」

「お、おい。一体何をするつもりだ?」

 俺は戸惑いながらも、メイをパトリシアたちに預ける。
 その瞬間──
 俺の左手の紋章が強く輝く。

「うお!?」

 思わず声が出た。
 パトリシアたちが叫ぶ。

「勇者殿!!」

「勇者様!!」

「カズヤ!!」

「ちょ! どうなってるの!?」

「パパぁああ!!」

 メイの声も聞こえる。
 だが、問題はその声が遥か下の方から聞こえてくることだ。
 気が付くと俺は、庭園から遥か上空の巨大な竜の背中の上にいた。
 地上には仲間たちが見える。

「こ、これは……どうなってるんだ?」

「安心なさい。私が魔法でここによんだのよ」

 白く長い首がこちらを振り返る。
 額に聖竜の紋章がある竜。
 つまりエルだ。

 どうやら、俺はエルの魔法で地上からここに移動させられたらしい。
 あれはその為の魔法陣でもあったのだろう。
 彼女が俺に語り掛けた。

「言っておくけど、まだ貴方を私の騎士だと認めた訳ではないわ」

 こちらを見つめるエルに俺は尋ねた。

「どういうことだ、条件はこの左手の紋章じゃないのか?」

「それは契約者の候補としての証に過ぎないわ。私は数千年の長きに渡って天空を支配してきた女王、その騎士に相応しい力が貴方にあるのか試させてもらう。本当に契約を交わすのはそれからよ」

 純白の美しい羽根が生えた巨大な翼が、大きく羽ばたいた。
 俺は思わず翼の根元に生えた羽根につかまる。

「お、おい! 何をするつもりだ!?」

「しっかりつかまっていることね。少し荒っぽく行くわよ、地上の民が耐えられるかしら?」

 次の瞬間──
 俺乗せたエルは、世界樹のような巨大な大樹に向かって羽ばたいた。

「うお!!」

 凄まじい速さだ。
 そして激突するかと思った瞬間、90度向きを変えて上昇へと転じた。
 そのサイズに似合わぬ機動性だ。
 自ら天空の女王と名乗るのも頷ける。

 大樹の周囲を、らせん状に回転しながら上空へ羽ばたいていくエル。
 振り落とされずに、背中にとどまっている俺を振り返ると言った。

「へえ、中々やるじゃない。まだそこにいるとは思わなかったわ」

「生憎だったな、こっちも竜に乗るのは慣れてるんでな」

 そんな中、すれ違っていく大樹の枝の間に幾つもの黄金に輝く何かが見える。

「これは一体……」

 どうやら、この大樹になっている実のようだ。
 見事な黄金の果実である。
 それを見てエルは俺に言った。

「さあ、あの実を一つ取りなさい」

「おいおい、取りなさいって手を離したら地面に落ちるだろうが! 大体何なんだあれは!?」

 エルはすました顔で俺に答えた。

「手に取ってみれば分かるわ。それぐらいできないようなら、私の騎士なんて務まらないわよ」

 ちっ、無茶言いやがる。
 俺は肩をすくめながら、巨大な竜を睨んだ。

「いいだろう、やってやるぜ!」

 俺はそう宣言すると、エルの背中を蹴って大樹の枝に向かって身を躍らせた。
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