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69、一本の剣
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「なに!!?」
ジュリアの目が大きく見開かれる。
その時にはもう、俺はナナを庇うようにジュリアの懐に飛び込んでいた。
声を上げると同時に、ジュリアは俺に向かって炎竜剣グラファトスを振り下ろしていた。
「裕樹!!!」
一瞬にして鋭く剣を交わした俺たちの姿に、ナナが叫ぶような声を上げた。
「ユウキ!!」
銀狼の姿になって俺の後を追ってきた、レイラも大きく吠える。
二人の叫びが響いた後、辺りは静寂に包まれた。
一本の剣が、天高く舞いあがっている。
俺とジュリアの剣が激しくぶつかり合った結果、空高く弾き飛ばされたその剣はこの勝負の勝敗を露わにしていた。
空を見上げる職人たち。
呆然と上を見上げていた彼らは声を上げる。
「あれは、炎竜剣グラファトス!」
「まさか、あの状況からどうやって?」
「だ、だが、間違いない。勝ったのはユウキ殿だ!!」
美しい真紅の大剣は鮮やかに宙を舞った後、ジュリアの足元近くに突き刺さった。
呆然とした様子でそれを眺めるジュリア。
だが、直ぐに我にかえったように叫んだ。
「あり得ない! 竜気を身に纏ったこの私が負けるだなんて! こんなことがあるはずがない!!」
それを聞いて、カレンさんがゆっくりとこちらに歩いてくる。
そして、ジュリアに言った。
「ジュリア。もう忘れたのかえ? あの技を。白閃一刀、あれはシロウの技じゃ」
カレンさんの言葉にジュリアは、俺が手にした白狼丸を見つめる。
俺は彼女に言った。
「信じてもらえないかもしれないけど、俺は戦いのさなかで、シロウさんに会いました。力が欲しいと言った俺にシロウさんは言った。力は己の中から絞り出すものだと。魂に、己の心に火をつけろと」
振り返ったあの人は、お社で見た屏風に描かれた男性だった。
200年前、命を懸けてこの世界を救った勇者。
ひのもとの侍だ。
俺はカレンさんとジュリアを見つめた。
そして、伝言を伝える。
「シロウさんが二人に伝えてくれと言っていました。カレンを頼む。そしてジュリアに伝えて欲しいと。俺の心は今でもお前たちのすぐ傍にあると」
そして、それが宿っているのは──
俺は右手に持っている白狼丸をジュリアに差し出した。
もう、竜人族の戦士の目からは敵意は消えていた。
ジュリアの目からあふれ出す涙が、頬を伝い零れ落ちた。
「シロウ……ごめんよ。寂しかったんだ……シロウがいなくなって、あたしの心に大きな穴が開いちまって」
膝をついて、ボロボロと涙を零すジュリアの肩をカレンさんは優しく抱いた。
「馬鹿じゃの、そなたは。寂しいのはわらわも同じじゃ」
二人はしっかりと抱きしめ合って、涙を流している。
支え合うその姿は、きっと若い頃の二人の関係そのものなんだろう。
その傍で、白狼丸は美しく輝いていた。
きっとシロウさんも迷ったに違いない。
日本に家族がいたのか、帰らなければならない使命があったのか俺には分からない。
でも、許されるならもっと二人と、仲間たちと一緒にいたかったのだろう。
この世界に心の一部を残してしまうほどに。
俺は空を見上げた。
もし、俺が元の世界に戻る時が来たら、俺は一体どんな決断をするのだろう。
気が付くと俺の傍でナナが、二人を見つめて涙を流している。
二人の気持が分かるのだろう。彼女は俺の肩に頭を寄せる。
俺はそんなナナの髪をそっと撫でた。
ジュリアの目が大きく見開かれる。
その時にはもう、俺はナナを庇うようにジュリアの懐に飛び込んでいた。
声を上げると同時に、ジュリアは俺に向かって炎竜剣グラファトスを振り下ろしていた。
「裕樹!!!」
一瞬にして鋭く剣を交わした俺たちの姿に、ナナが叫ぶような声を上げた。
「ユウキ!!」
銀狼の姿になって俺の後を追ってきた、レイラも大きく吠える。
二人の叫びが響いた後、辺りは静寂に包まれた。
一本の剣が、天高く舞いあがっている。
俺とジュリアの剣が激しくぶつかり合った結果、空高く弾き飛ばされたその剣はこの勝負の勝敗を露わにしていた。
空を見上げる職人たち。
呆然と上を見上げていた彼らは声を上げる。
「あれは、炎竜剣グラファトス!」
「まさか、あの状況からどうやって?」
「だ、だが、間違いない。勝ったのはユウキ殿だ!!」
美しい真紅の大剣は鮮やかに宙を舞った後、ジュリアの足元近くに突き刺さった。
呆然とした様子でそれを眺めるジュリア。
だが、直ぐに我にかえったように叫んだ。
「あり得ない! 竜気を身に纏ったこの私が負けるだなんて! こんなことがあるはずがない!!」
それを聞いて、カレンさんがゆっくりとこちらに歩いてくる。
そして、ジュリアに言った。
「ジュリア。もう忘れたのかえ? あの技を。白閃一刀、あれはシロウの技じゃ」
カレンさんの言葉にジュリアは、俺が手にした白狼丸を見つめる。
俺は彼女に言った。
「信じてもらえないかもしれないけど、俺は戦いのさなかで、シロウさんに会いました。力が欲しいと言った俺にシロウさんは言った。力は己の中から絞り出すものだと。魂に、己の心に火をつけろと」
振り返ったあの人は、お社で見た屏風に描かれた男性だった。
200年前、命を懸けてこの世界を救った勇者。
ひのもとの侍だ。
俺はカレンさんとジュリアを見つめた。
そして、伝言を伝える。
「シロウさんが二人に伝えてくれと言っていました。カレンを頼む。そしてジュリアに伝えて欲しいと。俺の心は今でもお前たちのすぐ傍にあると」
そして、それが宿っているのは──
俺は右手に持っている白狼丸をジュリアに差し出した。
もう、竜人族の戦士の目からは敵意は消えていた。
ジュリアの目からあふれ出す涙が、頬を伝い零れ落ちた。
「シロウ……ごめんよ。寂しかったんだ……シロウがいなくなって、あたしの心に大きな穴が開いちまって」
膝をついて、ボロボロと涙を零すジュリアの肩をカレンさんは優しく抱いた。
「馬鹿じゃの、そなたは。寂しいのはわらわも同じじゃ」
二人はしっかりと抱きしめ合って、涙を流している。
支え合うその姿は、きっと若い頃の二人の関係そのものなんだろう。
その傍で、白狼丸は美しく輝いていた。
きっとシロウさんも迷ったに違いない。
日本に家族がいたのか、帰らなければならない使命があったのか俺には分からない。
でも、許されるならもっと二人と、仲間たちと一緒にいたかったのだろう。
この世界に心の一部を残してしまうほどに。
俺は空を見上げた。
もし、俺が元の世界に戻る時が来たら、俺は一体どんな決断をするのだろう。
気が付くと俺の傍でナナが、二人を見つめて涙を流している。
二人の気持が分かるのだろう。彼女は俺の肩に頭を寄せる。
俺はそんなナナの髪をそっと撫でた。
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