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60、酒徳利
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俺が斬り捨てたものは、大きな酒徳利だ。
首の部分には紐が付いていて、持ち歩きやすいようになっている。
斬り捨てた断面から地面にまき散らされたのは酒だろう。
匂いで分かる。
投げた相手の膂力の凄まじさが、こちらへ飛んできた時の速さで証明されていた。
俺は剣を構えたまま、この徳利を投げた相手を睨む。
そして叫んだ。
「何をするんだ! 危ないじゃないか!!」
飲み干したからなのか、入っていた酒の量はわずかだったが、それでもこんな大きな徳利がナナに当たっていたらと思うとゾッとする。
それを投げた人物は、俺たちがいる場所から離れたところにある階段を一階へと降りてきている最中だった。
あの酒徳利も大きく振りかぶるでもなく、ただ手首を使って投げただけといった様子だ。
普通の人間に出来ることじゃない。
「へえ、やるもんだ。あれを叩き斬るとはね。勘違いするんじゃないよ。あれは警告だ。このあたしが殺すつもりで投げてたら、今頃あんたの大事なお嬢ちゃんは死んでいるよ」
確かに、あの徳利は僅かにナナの傍を掠めるように投げられていた。
でも一つ間違えれば危険な結果になっていたはずだ。
俺はナナを守るようにその前に立つと、二階から降りてきた相手を睨む。
「裕樹……」
勝気なナナが青ざめて思わず俺の背に手を当てる。
レイラが身構える。
「なにするのよ! ナナは、ちょっと触ろうとしただけでしょ! こっちこそ許さないわよ!!」
「やめろ、レイラ」
「だって、ユウキ!!」
今にも飛び掛かろうとしているレイラを俺は左手で制した。
いくらレイラでも危険すぎる。
動揺しているナナはまだ鑑定眼を使ってはいないが、気配だけで分かる。
これは並みの相手じゃない。
今まで出会った誰よりも遥かに強い。
狩人の上級職であるシーカーになっていることもあるのだろう、俺は本能的にそう感じた。
階段をおりてこちらを眺めているのは女性だ。
日に焼けた褐色の肌、そして引き締まった体と精悍な顔。
それに見上げるような大きさだ。
その身長は2m近くはあるだろう。
そして、特徴的なのは額に生えた二本の角だ。
そこから強烈な力を感じる。
只の人間じゃない、それに白狼族でもないことは確かだ。
「一週間寝て、すっかり酔いが覚めたよ。酒を補充しようと降りてきたらこの騒ぎさ。誰だか知らないが、このあたしの工房で好き勝手なことするんじゃないよ!」
そういえば、カレンさんは白狼丸を作った人は鍛冶場の二階で飲んだくれているって言っていた。
まさかとは思うけど、あの刀を作った鍛冶職人っていうのはこの人か?
女は眠そうにあくびをした後、俺の顔を見て一瞬目を見開く。
「シロウ……」
そう言って絶句した後、まるで酔いを醒ますかのように大きく首を横に振る。
そして俺を睨んだ。
「どうかしてるよ。こんなガキをシロウに見間違えるなんてね。どうやら、酒が足りないようだね」
あまりのことにナナ同様、呆然としていたカレンさんが怒りの声を上げた。
「いい加減にせぬか! ユウキたちは我らの大切な客人じゃ。そなたが寝てばかりいる内にククルを助けてくれた里の恩人じゃ! 無礼は許さぬぞ!」
首の部分には紐が付いていて、持ち歩きやすいようになっている。
斬り捨てた断面から地面にまき散らされたのは酒だろう。
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俺は剣を構えたまま、この徳利を投げた相手を睨む。
そして叫んだ。
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「裕樹……」
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レイラが身構える。
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「やめろ、レイラ」
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