上 下
41 / 82

41、聖堂の中で

しおりを挟む
 荘厳な大聖堂の中を歩き、奥に作られた祭壇への階段を上がっていく光一たち。
 近づくにつれて、その祭壇に突き立てれている剣に秘められた力を感じて笑みを浮かべる。
 玲児はそれを見て言った。

「凄え力だ! こりゃ只の剣じゃねえぜ、光一。面白れえ! こいつはまるでゲーム出てくるような伝説級のアイテムだぜ」

「確かにな、玲児。この俺の相応しい剣だ」

 玲児は軽く舌打ちをすると肩をすくめて言う。

「ちっ! 仕方ねえな、俺はどっちかっていうと拳で戦うのが好みだ。こいつはお前に譲るぜ。結衣もそれでいいな?」

「ええ、私は剣なんて使って戦うのは御免だもの。でも、光一が使うなら格好いいと思うわ! なんていってもこの私の選んだ男だもの」

 そう言った後、結衣は美しくも残忍な笑みを浮かべて言った。

「でも、光一。あいつをこの剣で切り殺す時は私の目の前でやってね? ……この目で見たいのよ! 美しい私のことを傷つけたあのゴミが惨めに死ぬ姿をね!!」

 結衣の言葉に光一は頷く。

「ああ、そのつもりだ。お前たちの前であいつを始末してやる」

 国王は三人の会話を聞きながら促す。

「この剣を使われる方は、決まったようですな。それではコウイチ殿、どうぞこの剣を。これは勇者ではなくては、決して抜けない剣ですからな」

「いいだろう、国王。この剣は俺が貰うぞ」

 光一はそう言うと、祭壇に突き立てられた剣の束に手をかけた。
 国王は目を細めると、光一を急き立てるように言う。

「さあ、勇者殿!」

「ああ、分かっている」

 光一は頷くと、一気にその剣を引き抜いた。
 玲児と結衣が興奮したように叫ぶ。

「やったぜ光一! こりゃ、いきなりチートアイテムを手にいれたようなもんだ。これで俺たちに勝てる奴はいねえ! もちろん佐倉木の野郎もな!!」

「当然よ! 私たちがあんな奴に負けるはずがないんだから!」

 そんな中、光一が抜いた剣を中心にして祭壇の下から何かが湧きだすと、それは彼らの足元に広がっていく。
 まるで、その剣によって封じられていたかのようだ。
 思いがけない状況に、光一たちは声を上げた。

「くっ! な、なんだこれは!?」

「お、おい! こいつ、生きてるのか!? 体を上って来るぞ!!」

 赤黒いその液体は、まるで何者かの血のようだ。
 それが、生き物のように光一たちの足元から膝へと昇ってくる。
 結衣は悲鳴を上げた。

「きゃぁあああ! 何なのよこれ! こないでよ!!」

 だが、その液体は悲鳴を上げた結衣の口や鼻の穴にまで入り込み、直ぐに体全体を覆った。

「うぐぅ! がは!! こうい……ち……」

 自分に向かって手を伸ばす結衣を見て、光一も叫ぶ。

「結衣!!」

 玲児も自分を覆いつくそうとする赤黒い液体を引きはがそうとするが、直ぐに体を覆いつくされた。

「がはっ!! く、くそ……なんだこれ……げほぉおお!!」

「玲児!!」

 そう叫んだ光一自身も、直ぐにその液体に包み込まれていく。

「国王! 貴様、俺たちを騙したな!!?」

 光一の言葉に、国王は笑みを浮かべると首を横に振る。

「騙したなどと人聞きが悪い。貴方方は力を求めておられた。それを与えて差し上げると言っているのです」

「なんだと!? がはぁああ!!」

 光一も赤黒い液体に包まれて、三人ともその場に倒れた。
 体を包む液体は、次第に三人の体の中へと沁み込んでいった。

「はぁあ! はううう!!」

 結衣の体が痙攣して、うめき声を上げる。
 スタイルのよい体が妖しくくねった。
 その姿は艶めかしくさえある。

 体には先ほどの液体が完全に沁み込み、もうその赤黒い液体は肌には付着してはいない。
 結衣は頭を振りながら、ゆっくりと立ち上がる。

「い……一体、何だったの今のは?」

 国王はそんな結衣に声をかけた。

「ふふ、ユイ殿。貴方は力を得たのですよ、まるで生まれ変わったようにね」

「力ですって?」

 結衣は自分の中に強大な力を感じた。

(何なのこの力……ふふ、凄いわ。まるで自分ではないみたい!)

 祭壇に飾られた大きな鏡には、今の結衣の姿が映っている。
 その額には黒い紋章のようなものが記され、背中には白く輝く翼が生えていた。
 まるで美しい天使のような姿になった自分に、結衣は仲間たちのことを忘れて見惚れた。

「これが私……ふふ、なんて美しいの! 私に相応しい姿だわ!!」

 そんな中、玲児もゆっくりと立ち上がった。
 結衣同様、先程の赤黒い液体は体に沁み込み表面からは消えている。
 そして、鏡に映った自分の姿を見て声を上げた。

「なんだこりゃ……これが本当に俺の姿か? いいぜ! 凄え力を感じる!!」

 その姿はまるで獣人のようだ。
 だが、普通の獣人の姿ではない。

 雷を纏いバチバチを音を立てて黄金に輝く毛並みを持ったその姿。
 手には鋭い爪、そして口には鋭い牙が生えていた。
 その目はまるで虎のような迫力を帯びている。

 そして、最後に立ち上がった光一の額の紋章は黒く、まるで人の目のような形をしていた。
 全てを見通すようなその目が、辺りを睥睨している。
 そこには光一とは別の何者かの意志が宿っているようにも見える。

「ふふ、ふふふ。これが俺の、勇者の力か? もう誰にも負ける気がしない。あの佐倉木にもな!」

 国王はそんな三人の姿を見て笑みを浮かべる。

「言った通りでございましょう? 勇者殿」

「ああ、国王。疑って悪かった」

「いいえ、しかしその姿は膨大な力を使います。それに目立ちすぎる。いざという時にお使いになりますように」

 国王の言葉に光一たちは頷くと元の姿に戻る。
 それと同時に額の黒い紋章は消えていった。

 それを眺めながら国王は言う。

「どうですかな? この世界にはあと二つ神具と呼ばれる武器がございます。それもレイジ殿とユイ殿に相応しい物が。残念ながらそれはわが国にはございません。二つともいささか厄介な場所にありましてな。ですが、手に入れたいとは思われませんかな?」

 それを聞いて玲児と結衣は顔を見合わせる。
 そして不敵な笑みを浮かべた。

「面白そうじゃねえか。佐倉木と魔王退治の前に伝説のアイテムの残りも手に入れるってわけだ」

「ええ、面白そうね! それがあれば怖いものなしだわ。光一に任せるまでもないわ、あのゴミは私が燃やしてあげる」

 光一も大きく頷いた。

「いいだろう。まずはその二つの神具とやらを手に入れる。国王、それがどこにあるのか俺たちに聞かせてもらおうか」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

外れスキル『レベル分配』が覚醒したら無限にレベルが上がるようになったんだが。〜俺を追放してからレベルが上がらなくなったって?知らん〜

純真
ファンタジー
「普通にレベル上げした方が早いじゃない。なんの意味があるのよ」 E級冒険者ヒスイのスキルは、パーティ間でレベルを移動させる『レベル分配』だ。 毎日必死に最弱モンスター【スライム】を倒し続け、自分のレベルをパーティメンバーに分け与えていた。 そんなある日、ヒスイはパーティメンバーに「役立たず」「足でまとい」と罵られ、パーティを追放されてしまう。 しかし、その晩にスキルが覚醒。新たに手に入れたそのスキルは、『元パーティメンバーのレベルが一生上がらなくなる』かわりに『ヒスイは息をするだけでレベルが上がり続ける』というものだった。 そのレベルを新しいパーティメンバーに分け与え、最強のパーティを作ることにしたヒスイ。 『剣聖』や『白夜』と呼ばれるS級冒険者と共に、ヒスイの名は世界中に轟いていく――。 「戯言を。貴様らがいくら成長したところで、私に! ましてや! 魔王様に届くはずがない! 生まれながらの劣等種! それが貴様ら人間だ!」 「――本当にそうか、確かめてやるよ。この俺出来たてホヤホヤの成長をもってな」 これは、『弱き者』が『強き者』になる――ついでに、可愛い女の子と旅をする物語。 ※この作品は『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも掲載しております。

平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。  応援していただけたら執筆の励みになります。 《俺、貸します!》 これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ) ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非! 「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」 この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。 しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。 レベル35と見せかけているが、本当は350。 水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。 あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。 それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。 リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。 その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。 あえなく、追放されてしまう。 しかし、それにより制限の消えたヨシュア。 一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。 その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。 まさに、ヨシュアにとっての天職であった。 自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。 生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。 目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。 元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。 そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。 一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。 ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。 そのときには、もう遅いのであった。

ダブル魔眼の最強術師 ~前世は散々でしたが、せっかく転生したので今度は最高の人生を目指します!~

雪華慧太
ファンタジー
理不尽なイジメが原因で引きこもっていた俺は、よりにもよって自分の誕生日にあっけなく人生を終えた。魂になった俺は、そこで助けた少女の力で不思議な瞳と前世の記憶を持って異世界に転生する。聖女で超絶美人の母親とエルフの魔法教師! アニメ顔負けの世界の中で今度こそ気楽な学園ライフを送れるかと思いきや、傲慢貴族の息子と戦うことになって……。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜

ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。 その一員であるケイド。 スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。 戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。 それでも彼はこのパーティでやって来ていた。 彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。 ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。 途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。 だが、彼自身が気付いていない能力があった。 ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。 その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。 自分は戦闘もできる。 もう荷物持ちだけではないのだと。 見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。 むしろもう自分を卑下する必要もない。 我慢しなくていいのだ。 ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。 ※小説家になろう様でも連載中

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。 途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。 さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。 魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。

処理中です...