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40、勇者の剣

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 裕樹がアルフェンの女王に会うことを決意した丁度その頃。

 光一たちは、ラルファスト王国の王宮から少し離れた場所にある神殿にやってきていた。
 神殿は荘厳で、その作りは歴史を感じさせる。
 少なくとも数百年前からそこにあるように見えた。

「随分、立派な神殿だな。だが、どうして俺たちをこんなところに連れてきたんだ?」

 光一のその言葉に、玲児は苛立ったように同意する。

「まったくだぜ……俺たちはのん気に異世界観光をするつもりはねえ! あの佐倉木の野郎をぶっ飛ばす!! その為の力が手にはいるっていうから、わざわざこんなところまで来たんだぜ! 王様よ?」

 玲児はそう言って自分の首筋に手を当てる。
 そして、血走った目で舌打ちをした。

(あの野郎、許さねえ。下等国民の分際で、選ばれたこの俺にあんな真似を! 絶対にぶっ殺してやる!!)

 怒りに震えながら、神殿の壁をその拳で殴りつける。

「くそったれが!!」

 衝撃音と共に、固い石造りの壁にひびが入った。
 結衣もヒステリックな声で叫ぶ。

「そうよ! あいつは誰よりも美しいこの私の顔に傷をつけたのよ! 普段なら、私に話しかけることも出来ないはずのただの一般人の分際で、この私に! 光一あいつを殺してよ、絶対に……」

 美しいだけに、肥大した自尊心に歪んだその顔は見る者をぞっとさせる。
 わがまま放題に育ったこの少女の残忍さが強く表に現れている。

 先に裕樹の命を奪おうと提案したのは結衣だ。
 どう考えても完全な逆恨みだが、自分たちが特別だと思って育ってきた少女には言っても無駄だろう。
 光一は頷く。

「ああ、俺もあいつを許さない。美堂崎家の跡取りであるこの俺に恥をかかせた以上、その報いを受けるのは当然だ。例えここが異世界であろうとな。国王、魔王を倒す前に俺たちはあいつを始末する。その為の力がここにあるんだな?」

 それを聞いて、国王はもったいぶったように頷いた。

「もちろんですとも勇者殿。元々選ばれし三人の勇者は貴方達なのですから。あのようなどこの馬の骨とも分からぬような者が、貴方方に勝てるはずもない。本来の力を手に入れましたらな」

「本来の力か……国王、それがここにあるんだな?」

「さようでございます、勇者殿」

 光一の問いに国王が頷くのを見て玲児は叫んだ。

「だったらよ、王様! 早く俺たちをそこに連れて行ってくれ! 俺は力が欲しい、あの野郎をぶっ殺す力がな!!」

「ええ、そうよ! 早く連れて行きなさいよ!! 魔王ならあいつに思い知らせた後、幾らでも倒してあげるわ!」

 結衣のその言葉に国王は満足げに笑った。

「レイジ殿もユイ殿も、頼もしいことですな。期待しておりますぞ」

 国王はそう言うと、配下の者と一緒に光一たちを連れ立って神殿の奥深くへと進んでいく。
 荘厳な神殿の通路の突き当りには大きな扉があり、国王の命によってそれは大きく開かれた。

 その奥にある光景に光一たちは思わず目を見開く。

「これは……」

 眼前にあるのは神々しいほどに立派な聖堂だった。
 巨大なその空間には美しい壁画が描かれ、白い柱が立ち並んでいる。
 そして、真っすぐに伸びた絨毯の先には大きな祭壇のようなものが築かれている。

 その祭壇には一本の剣が突き刺さっていた。

 玲児は呻くように言う。

「なんだこの力は。すげえ力があの剣に宿ってやがるのが分かるぜ」

「ええ……そのようね」

 結衣もこの光景に思わず目を奪われながらそう呟いた。
 聖堂と、祭壇に突き立てられた剣に目を奪われている三人の傍に国王は立つと誘惑するように声をかけた。

「勇者殿、貴方にはあの剣を抜いて頂きたい。そうすれば、貴方がたは大いなる力を手にすることが出来るのですからな」

 顔を見合わせる光一たち。
 扉の奥の光景に気おされていた玲児が光一に尋ねた。

「どうする? 光一」

 結衣はそんな玲児を笑う。

「決まってるわよ! あの剣、凄い力を感じるわ」

 恋人の言葉に光一は大きく頷く。

「ああ、行くぞ。結衣、玲児。あの剣は俺に相応しい。この俺が抜いてやろう」

 そう言うと、三人は祭壇へと歩き始めた。
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