上 下
35 / 82

35、最高の味

しおりを挟む
 レイラが飢え死にしそうな顔で、木桶を覗き込むと俺に言う。

「でも、ユウキ本当にこれ食べられるの? 長くてにょろにょろしててまるで蛇みたいだけど……」

「ああ、レイラ。これは鰻さ、凄く美味いんだぜ」

 俺の言葉にカレンさんも大きく頷く。

「我らの聖域であるこの白狼の滝でとれるものは特に美味でな。白狼滝の黄金鰻と呼ばれておるのじゃ」

 確かに、良く脂がのっていてその体に日の光が当たると黄金に煌めいている。
 食の求道者になったからよく分かるが、これほどの鰻は元の世界ではお目にかかれないだろう。
 俺は、木桶から鰻を取り出すとまな板の上で目打ちをして一気に捌く。
 白狼族の料理人たちから声が上がった。

「お見事!」

「見事な包丁捌きですな! 鰻を扱い慣れた我らもこれほど見事には捌けませんぞ」

 食の求道者とシーカーがカンストしているお蔭で、料理スキルとナイフ技が共にSSランクだからな。
 自分でも驚くほどの程の腕の冴えだ。

 無駄なく、食材をまったく痛めることなく次々と捌いていく。
 そして、捌いた鰻の身を串打ちすると。

「熟成!!」

 特殊魔法の熟成をかけた。
 これをかけると、ドリルホーンの肉もとんでもない美味さになったからな。
 ただでさえ最高の鰻の身が熟成によって、旨味を増していく。
 鰻用にカスタマイズされた簡易厨房の焼き場に炭を用意して、準備が出来たところで串打ちした鰻を炭火で焼いていく。

 ジュウ!!

 と音がして次第に香ばしい匂いが辺りに漂っていく。

「美味しそう!」

 レイラが目を輝かせる。
 さてと、白狼族の皆は白焼きで食べるみたいだけど、俺が作るのはそうじゃないからな。

 俺は日本で食べた鰻の味を思い出す。
 ちょっとした祝いの時に、家族みんなで鰻の名店に行ったんだよな。
 日本にいた時の俺なら、食べた味を再現することなんて出来るはずもないが、今の俺なら出来る。

 ドリルホーンのステーキソースを作った時のように俺は意識を集中した。

 醤油にみりん、そして酒に隠し味のはちみつ……それから
 俺の頭の中で、完全にあの時の味が再現され更にそれを俺なりにアレンジする。
 
 良く熟成された最高の黄金鰻によく合うように。

 料理人の時よりも自分の食への探求心が強くなっているのが分かる。
 完全に調和した味が頭の中に思い浮かんだ瞬間、俺は叫んだ。

「金の匙!!」

 俺は金の匙を使う。
 現れた黄金の匙を見て、ナナとククルが目を丸くした。

「裕樹、何それ!」

「おっきいのです! 金色のお鍋です」

 それを聞いて俺は笑った。

「ちょっと自信がなかったけど上手くいったな! 釜めしの時もでっかい匙を作ったけど、それならもっと大きな金の匙だって作れると思ってさ」

 出来なければタレは刷毛で塗るつもりだったけど、これなら串打ちした鰻の身をさっと浸すことが出来る。
 金の匙というよりは、金の大鍋みたいにデカい匙を俺は調理台に置く。

 そして、その中に現れた俺の秘伝のタレに鰻の身を浸してまた焼いていく。
 聖域の滝の黄金鰻の身の脂とタレが混ざり合って、それが炭火にあぶられてとんでもなくいい香りが辺りに漂っていく。

「はぁああわわ……何なのこの匂い」

 腹ペコ狼の可愛い口元から涎が垂れている。
 おいレイラ、ケモナー歓喜の美少女が台無しだぞ。

 ナナやククル、そしてカレンさんたちもほぅっと溜め息をついた。

 俺は何度かタレにつけ直しながら、丹念に鰻を焼き上げていく。
 パリッとした皮の焼け目と、ふんわりとした鰻の身とそこから零れだす脂。

「さあ、仕上げだ!!」

 俺は厨房から運ばれてきた、炊き上げられた神秘米を漆塗りのお重に入れる。
 お重は簡易厨房で一緒に俺が作り出した物だ。

 鰻と言えばやっぱり、入れ物はこれが好きなんだよな。
 そして、焼きあがった鰻をそこに載せる。

「うな~!!!」

 まるで猫のような叫び声をあげたレイラは、もう我慢が限界のようだ。

「はいよ! レイラ、こいつがうな重ってやつだ。熟成させた聖域の黄金鰻と俺の故郷の秘伝の味を召し上がれ」

 レイラは俺からうな重を受け取ると、ごくんと唾を飲み込んで箸を握ると大きな口を開けて鰻と艶々とした神秘米を一緒に口に入れる。
 どんな味がするのか、そこにいるみんなは一斉にレイラを見つめた。

 レイラはゆっくりとそれを味わうと、こくんと飲み込んだ。
 そして、尻尾を振るわせてぴんと立たせた後、全身を震わせた。

「はわ……はわわ。なんなのこれ……美味しい! 美味しすぎる!!」

 魂が抜けたような顔をするレイラ。
 少し行儀は悪いけどレイラのうな重から俺も箸で一口味見した。
 そして俺も思わず声を上げる。

「うま!! これ、美味すぎるんだけど……」

 日本でも食べたことがないような美味さだ。
 聖域の鰻の美味さと熟成の力だろうか。
 いやあのタレの調合具合も相当なものだ。
 料理人の時は出せなかった僅かな、味の違いを感じる。

 食の求道者、恐るべしだな。

 パリッとした皮と、蕩けるような柔らかい身がタレと一体になってもの凄い破壊力である。
 こんなものが店で売っていたら、とんでもない程の行列になるレベルだ。
 ナナとククル、それにカレンさんが俺にせがむ。

「裕樹ずるいわ二人だけ!」

「ククルも食べたいのです!」

「いけずなことをするおのこじゃ! わらわにもはやく食べさせてくりゃれ」

「はは、ごめんごめん」

 俺は次々に鰻を焼き上げると、特製うな重を作って皆の前に用意する。
 ナナとククルはいただきますと手を合わせてそれを口にした。

「美味しい!」

「ふぁああ! ククル幸せなのです!!」

 カレンさんも頬を染めてほぅっと吐息を吐いた。

「とろけるような味わいじゃ」

 そういってスタイル抜群な体を俺にピタッと寄せる。

「悪いおのこじゃ。わらわをこんなに夢中にさせるおのこは久しぶりじゃ。わらわの為に、毎日そなたの料理をつくってたもれ」

 そう言って妖艶な顔で悪戯っぽく笑う。
 それを見て、ナナとレイラがまた左右から俺の腕をギュッと抱きしめた。

「駄目!」

「そうよ、ユウキは私たちと一緒に暮らすの! それにうな重おかわり!」

「は……はは」

 おいレイラ、もう食べたのかよ。
 俺は苦笑しながらレイラにおかわりを作る。

「はぁああ! もうユウキ大好き!」

 まあこんなに、喜んで食べてくれるレイラは可愛いよな。
 もちろんナナやククルも。

 白狼族の皆にも作ると喜んでくれた。
 カレンさんは愉快そうに笑い、ゆっくりとうな重を味わった後、俺に言った。

「見事じゃ、ユウキ! 白狼族の長として、これほどの料理を振舞ってくれた料理人にはそれに相応しい礼をせねばならぬ。なんなりと言ってみるが良い。わらわに出来ることならば、全て叶えると約束しよう」

 巫女姿のカレンさんは、美しい鈴の音のような声で俺にそう宣言した。
しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

ダブル魔眼の最強術師 ~前世は散々でしたが、せっかく転生したので今度は最高の人生を目指します!~

雪華慧太
ファンタジー
理不尽なイジメが原因で引きこもっていた俺は、よりにもよって自分の誕生日にあっけなく人生を終えた。魂になった俺は、そこで助けた少女の力で不思議な瞳と前世の記憶を持って異世界に転生する。聖女で超絶美人の母親とエルフの魔法教師! アニメ顔負けの世界の中で今度こそ気楽な学園ライフを送れるかと思いきや、傲慢貴族の息子と戦うことになって……。

平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。  応援していただけたら執筆の励みになります。 《俺、貸します!》 これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ) ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非! 「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」 この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。 しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。 レベル35と見せかけているが、本当は350。 水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。 あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。 それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。 リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。 その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。 あえなく、追放されてしまう。 しかし、それにより制限の消えたヨシュア。 一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。 その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。 まさに、ヨシュアにとっての天職であった。 自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。 生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。 目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。 元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。 そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。 一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。 ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。 そのときには、もう遅いのであった。

異世界召喚されたと思ったら何故か神界にいて神になりました

璃音
ファンタジー
 主人公の音無 優はごく普通の高校生だった。ある日を境に優の人生が大きく変わることになる。なんと、優たちのクラスが異世界召喚されたのだ。だが、何故か優だけか違う場所にいた。その場所はなんと神界だった。優は神界で少しの間修行をすることに決めその後にクラスのみんなと合流することにした。 果たして優は地球ではない世界でどのように生きていくのか!?  これは、主人公の優が人間を辞め召喚された世界で出会う人達と問題を解決しつつ自由気ままに生活して行くお話。  

勇者パーティーを追放された俺は辺境の地で魔王に拾われて後継者として育てられる~魔王から教わった美学でメロメロにしてスローライフを満喫する~

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
主人公は、勇者パーティーを追放されて辺境の地へと追放される。 そこで出会った魔族の少女と仲良くなり、彼女と共にスローライフを送ることになる。 しかし、ある日突然現れた魔王によって、俺は後継者として育てられることになる。 そして、俺の元には次々と美少女達が集まってくるのだった……。

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。 途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。 さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。 魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

転生賢者の異世界無双〜勇者じゃないと追放されましたが、世界最強の賢者でした〜

平山和人
ファンタジー
平凡な高校生の新城直人は異世界へと召喚される。勇者としてこの国を救ってほしいと頼まれるが、直人の職業は賢者であったため、一方的に追放されてしまう。 だが、王は知らなかった。賢者は勇者をも超える世界最強の職業であることを、自分の力に気づいた直人はその力を使って自由気ままに生きるのであった。 一方、王は直人が最強だと知って、戻ってくるように土下座して懇願するが、全ては手遅れであった。

処理中です...