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33、新しい力

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 それを見てレイラが跳ね起きると、木桶を抱えた白狼族に駆け寄った。

「ご飯!!」

 どんだけ腹が減ってるんだよ。
 あの釜めしが、レイラにとってはかえって食欲の呼び水になったみたいだ。
 嬉しそうに笑顔になって、尻尾を大きく左右に振って狼耳をぴんと立てている。
 そして、木の桶の中を覗きこんだ。

「ちょ! な、なんなのこれ……」

 あれほど食材がやってくるのを心待ちにしていた割には、意外な反応だな。
 俺もレイラの傍に行って桶の中を覗き込む。

「こいつは……」

 桶に入っていたのは意外なものだった。
 俺は、それを眺めながら声を上げる。

「へえ、こっちの世界にもいるんだな」

 カレンさんも優雅にこちらにやってくると桶を覗き込んだ。

「ふむ……これは。我らの聖域であるあの滝の滝壺や川にはよくおるのじゃが、他の場所には少ないと聞く。それにこの見た目故、忌み嫌う者もおるというからの。ここらでは我ら白狼族の者しか食べぬようじゃが、裕樹は食べたことがあるのかの?」

「ええ、俺の故郷でも時々食べてました」

「ほほ、ほんに興味深いおのこじゃこと。そなたの故郷の話、聞きたいものじゃ」

「は……はは」

 日本って言っても通じないよな。
 レイラはじっとこちらを見て指をくわえている。

「ねえ、ユウキ。これって美味しいの?」

 尻尾を左右に振ってるレイラは可愛い。
 まるでお預けをくらったわんこのように、こちらを眺めている。
 やっぱりリアルで見る獣人美少女っていうのは、破壊力が凄いよな。
 ケモナーなら歓喜の声を上げるだろう。

「ああ、美味いぞレイラ」

「ほんとに!? じゃあ、私、食べるわ!」

 はは……現金だな。
 ナナとククルもこちらにやってくる。

「私も!」

「ククルもです!」

 木の桶を抱えている白狼族の男性が言う。

「確かに見た目とは違って、焼いて塩で味をつけると上品な味わいですからな。聖域の滝でとれたものは特に脂がのって美味いですから」

 そうか、白狼族はそうやって食べるんだな。
 それも悪くないと思うけど……

「もしよかったら、俺に調理をさせてもらえませんか? カレンさんや白狼族の皆にはこんなに歓迎してもらったし、俺の故郷の料理をごちそうします」

 それを聞いて、カレンさんが手を叩く。

「ふむ、それはよいの! 先ほどの釜めしはとても美味じゃった。皆ももっとユウキの料理が食べたかろう?」

 その声に周りの白狼族たちが一斉に声を上げる。

「確かに!」

「楽しみですな」

「ユウキ殿ぜひ!」

 カレンさんがあらためて俺に言う。

「頼めるかえ? ユウキ」

「はい、もちろん!」

 そんな話をしていると、ナナが俺に提案した

「ねえ、裕樹。どうせなら先に食の求道者になりなさいよ。料理人の上級職なんだし、狩人と料理人の覚醒スキルで転職出来るようになったんだから山の幸や川の幸を扱うエキスパートよ」

「ああ、そっか! ありがとな。やってみるよ、ナナ」

 俺はステータスパネルを開くと早速転職した。

「食の求道者に転職、マスタージョブはシーカーにしてみようかな」

 ナイフ技がSSランクだし、料理人と狩人の組み合わせが相性が良かったように包丁さばきにも影響が出そうだからな。
 それから、レベルダウンを二回使って再びステータスを確認する。

 名前:佐倉木裕樹
 種族:人間
 レベル:レベル9999
 職業:食の求道者
 マスタージョブ:シーカー
 力:12511
 体力:13578
 魔力:11325
 速さ:11576
 器用さ:9257
 集中力:12231
 幸運:8765

 魔法:なし
 物理スキル:剣技Sランク、ナイフ技SSランク、弓技SSランク
 特殊魔法:熟成
 特殊スキル:探知、毒消し
 生産スキル:料理SSランク
 ユニークスキル:【自分のレベルを一つ下げる(使用制限82回)】
 マスタースキル:【鑑定眼】【伐採の極み】【一刀両断】【木材加工】【聖なる結界】【罠作成】【金の匙】【収納】【簡易厨房】
 覚醒スキル:【一刀獣断】【滋養強壮】
 称号:召喚されし勇者

 これが食の求道者のステータスか。
 やっぱり上級職だけあって料理スキルもSSランクになっている。
 料理人の特殊魔法の熟成はそのまま使えるみたいだな。

「新しい能力は、特殊スキルの毒消しとマスタースキルの簡易厨房か。なあ、ナナ、これってどんな能力なんだ?」

 俺の問いにナナは胸を張ると答えた。

「毒消しは対象物から毒を消す効果ね。これを使うことで、毒があるものを食べられるものに変えることが出来るわ。食を探求する者らしいスキルね」

「確かにな」

 美味しくても毒があれば食べられない。
 でもこのスキルがあれば、毒を消してから調理をすることが出来るってことか。
 ナナが言うように食の求道者らしいスキルだ。

「それで、この簡易厨房っていうのは何なんだ?」

「ええ、これはどこでも簡単な調理場を作る事が出来るスキルよ。ほら、珍しい食材を求めて自然の奥地に入ったら調理場なんてないでしょ? これがあれば、外でも簡易厨房を作って取れたての食材をそこで調理出来るわ」

「なるほどな! こりゃ便利だな」

 これも食の求道者にはぴったりの能力だな。
 それに、どこでも調理場を自分で作って料理が出来るのは、俺みたいに旅をしてる人間にはぴったりだ。
 ドリルホーンのステーキを作る時にもあったら便利だっただろう。
 ナナは肩をすくめると言う。

「でも、ここでは使う必要はないわね。このお社にはあんなに立派な厨房があるんだし、そこで作ればいいもの」

「確かになぁ」

 俺はそう言いながら、滝が一望できるこの宴の間を見渡す。
 レイラは恨めしそうに言った。

「もう! 二人でさっきから何話してるのよ。ユウキ、早くぅ~」

「はは、分かってるってレイラ」

 レイラも待ってるし、せっかくだから使ってみるか。
 宴の間は滝が見える方向に大きく突き出していて、その部分は広くて屋根がない見晴らしのいい場所になっている。
 あそこならこのスキルが使えるかもしれない。

「なあ、ナナあそこならどうだ? 広いし屋根もないし」

「そうね、あそこなら大丈夫そうね」

「よし! ならやってみよう。せっかくだからスキルも試してみたいもんな」

 俺はカレンさんに尋ねる。
 
「カレンさん。調理をしたいんですけど、あそこを借りてもいいですか?」

「ふむ、ユウキの好きにするが良い」

 カレンさんはそういうと優雅に三本の尾を左右に振った。
 こちらもケモナー歓喜の姿である。
 ククルも嬉しそうに俺を見上げた。

「ククル、お兄ちゃんのお料理楽しみなのです!」

 俺はククルの頭を撫でながら、腕まくりした。

「さあ、そうと決まれば始めるとするか!」


 ─────

 ご覧頂きましてありがとうございます!

 相変わらず腹ペコのレイラなのでした。

 新連載の方も今日更新して20話まで公開してますので、よろしければご覧くださいね。
 今後ともよろしくお願いします!
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