上 下
29 / 82

29、白狼族のお社

しおりを挟む
「うわぁ! 凄いわ、裕樹!!」

 階段を登りながらナナが辺りを見渡して声を上げる。

「ああ! ほんとだなナナ!」

 俺も思わず同意した。
 切り立った岸壁に作られた階段を上っていくと、そこから先程の滝を一望することが出来た。
 その光景が余りにも神秘的で俺たちは声を上げたんだ。
 まさに絶景だ。
 レイラもその光景に見とれながら俺を促す。

「確かに絶景ね! はぁああ、こんなに眺めのいいところでどんなご飯を食べられるのかしら!」

 ナナがため息をつく。

「もう! レイラったら、せっかくの雰囲気が台無しじゃない。ご飯のことばっかりなんだから」

 ナナにそう言われてレイラは少し頬を染めるとツンとする。

「し、仕方ないじゃない。だってお腹空いたんだもん!」

「はは、じゃあ俺も頑張って腕を振るわないとな!」

 それを聞いてレイラは目を輝かせる。

「はぁああ! 期待してるわよユウキ!」

 ククルも俺の手を握って耳をピンと立てると尻尾を左右に振った。

「ククルも楽しみなのです!」

 右手で俺の手を握って、左手には大事そうに俺が作った木のカバンを持っている。
 ずっと離そうとしないんだよな。
 ククルにとっては宝物みたいで、そんなに大事にしてくれていると思うと嬉しいものだ。
 ナナがジト目で俺を見る。

「そうね、美味しいものを作ってもらわないと! さっき、わ、私たちのことのぞいたんだし」

「そうよねナナ!」

 レイラも少し頬を染めて俺を見つめた。

「ちょ! のぞいたわけじゃないだろ!? わ、分かってるって、頑張るからさ」

 二人に睨まれて俺は思わずしどろもどろになる。
 水辺に立っているまるで妖精のように美しい二人の姿をつい思い出して赤面した。
 ナナが赤くなっている俺の頬を軽くつねる。

「何赤くなってるの? へ、変なこと思い出してるんじゃないでしょうね」

「な、ナナがいけないんだろ。思い出させるようなこと言うから」

 俺がそう言うとナナがかぁっと顔を真っ赤にしてソッポを向いた。

「思い出すの禁止! 分かった? 裕樹!」

「分かったってば」

 ククルが俺たちを見て楽しそうに笑う。

「禁止なのです!」

「はは……」

 そうこうしているうちに俺たちは階段を登りきる。
 切り立った崖の上には広い場所が開けていて、そこから見える光景は先ほどよりもさらに素晴らしい。
 そして、そこに立っている建物を見て俺たちは声を上げた。

「凄いなこれは!」

「ええ!」

「はぁ、豪華なお食事が出てきそう」

 ……約一名、建物よりも食べ物のことに興味があるようだけどな。
 ククルがちょこちょこと走っていく。

「お社なのです!」

「凄いなククル!」

 俺がそう言うと、ククルは嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねた。

「はいなのです!」

 巫女姿のククルが可愛くて皆ほっこりとなる。

「それにしても、大きくて立派だな」

 下から見えたのが建物のほんの一部だったことが分かる。
 まるで大きな神社のようだ。
 周囲にいくつかの大きな鳥居のようなものが立っているのも見える。
 そして、お社の入り口ではカレンさんたちが待っていた。
 滝の傍で見た時も綺麗だなって思ったけど、お社の前で見ると巫女姿のカレンさんは一段と美しい。
 この神秘的な光景とピッタリの雰囲気だもんな。

「よう来たな。今、宴の用意をさせておる。ユウキ、そなたがどのような料理を作るかは知らぬが、背赤鱒はもちろん山の幸も豊富に取りそろえたゆえ、存分の使ってくりゃれ」

「はい、ありがとうございますカレンさん!」

 レイラが俺の傍でじゅるりと唾を飲み込んだ。

「山の幸……豊富」

 ……落ち着けレイラ。
 せっかくの美少女が台無しだぞ。
 しかもカタコトになっている。
 もしレイラも一緒に暮らすことになったら、こりゃ毎日食事が大変だな。
 カレンさんは俺たちに言う。

「さあ、ついてまいるがよい。社の中に案内するゆえな」

「「「はい!」」」

 俺たちは元気よく返事をすると、カレンさんに案内されながらお社の中に入る。
 中に入るとナナが思わず声を上げた。

「うわぁ! 素敵ね」

「ああ」

 見事な作りの建物だ。
 シンプルに見えて、無駄のない装飾が荘厳さを湛えている。
 日本でも神社や仏閣を建築したり補修したりする宮大工っていう仕事があることは知ってるけど、とても凄い技術を持ってるって聞くもんな。
 きっとそういう見事な職人たちの仕事なんだろう。
 ん?
 俺は入り口を入った場所の正面の壁に飾られている物に、惹きつけられるように視線を奪われた。
 それは、神秘的な白い木の額の中に飾られているひと振りの剣だ。
 いや、それは剣というよりは日本の刀によく似ている。
 その美しい輝きに思わず感嘆の声が出てしまう。

「うわぁ……綺麗な剣ですね」

 俺の言葉にカレンさんが嬉しそうに微笑む。

「分かるかえ? 最高の職人が鍛え上げ、わらわの霊力を込めた刀じゃ」

「カレンさんの霊力を込めた刀……」

 ククルが嬉しそうに言う。

「おばば様の宝物なのです! 大事な人の為に祈りを込めた刀なのです! ククルに話してくれました」

 それを聞いてカレンさんは少し頬を染めた。

「そ、そんな話をしたことがあったかの?」

 大切な人の為に祈りを込めた刀か。
 もしかして、さっき話してくれた俺に少し似てるっていう黒髪の人のことかな?
 俺はカレンさんに尋ねる。

「そういえば俺、自分が使う装備を作るつもりなんです。へえ、こんな刀が作れたらいいなぁ」

 ナナとも話したもんな。
 もし、魔王と戦うとしたらその為の装備が必要だし、自分で作れたらいいなって。
 だったら武器は普通の剣よりも刀の方がいい気がする。
 日本人だからってこともあるけど、やっぱりこんな立派な刀を見ると憧れるよな。
 カレンさんは驚いたように俺を見つめる。

「ほんに興味深いおのこよな。自分で武具を作ろうとはの。ほほ、面白い。良ければわらわが職人たちを紹介するぞえ。材料になる鋼の在りかも知りたかろう?」

「本当ですか!」

 カレンさんの思いがけない提案に心が躍る。
 確かに鍛冶職人になったとしても素材がどこにあるのかが分からなければ、どうしようもないもんな。
 そんな俺の服の袖をレイラが恨めしそうな顔で引っ張る。

「ユウキぃ……ご飯」

「は、ははは。そ、そうだったよな! そんな顔するなってレイラ」

 俺はカレンさんに頭を下げる。

「ありがとうございます。でも、その前に宴の準備を手伝わせてください」

「ほほ、その方が良さそうじゃの」

 ナナがジト目でレイラを眺める。

「もう! レイラったら恥ずかしいんだから」

「恥ずかしくてもいいの! 私はユウキの作ったご飯が食べたいんだから」

 開き直るレイラにククルがぴょんぴょんと飛び跳ねる。

「ククルもなのです!」

「でしょ? ククル」

「はいなのです!」

 俺は頭を掻きながら頷く。

「はは、分かったって。カレンさん、厨房に案内してもらえますか?」

「あい分かった。ついてくるがよい」

 早くしないとレイラの我慢の限界を越えそうだもんな。
 俺たちはカレンさんの後に続いてお社の厨房へと向かう。
 そこには見事な食材がずらっと並んでいた。
 もちろん背赤鱒も。

「はわ! ご馳走よ、ユウキ!」

「落ち着けってレイラ」

 山菜や、キノコも何種類も揃っている。
 それに野菜も新鮮なものが豊富だ。
 俺は職業を狩人と料理人に変えた。
 山の幸が多いからこの組み合わせが最適だよな。
 ん?
 食材の中に意外なものまであって俺は思わず目を見開いた。

「そうか、こんなものまであるんだな……それなら」

 料理人としての俺の頭の中に閃きが浮かぶ。
 そんな俺を見つめてレイラが目を輝かせる。

「何? 何なの!? ユウキ、何を食べさせてくれるの!?」

 もふもふした尻尾を大きく左右に振るレイラの可愛い姿を眺めながら、俺は答えた。

「直ぐに分かるさ。みんなは宴の場所で待っててくれよ。料理が出来たら持っていくからさ」

 そう言って俺は食材の前で腕まくりをした。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

憧れの先輩にお持ち帰りされて両想いになるまで快楽責めされる話

BL / 完結 24h.ポイント:731pt お気に入り:1,076

異世界で封印されていました。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:503

ざまぁから始まるモブの成り上がり!〜現実とゲームは違うのだよ!〜

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:401

母を訪ねて十万里

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:63pt お気に入り:27

女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:830pt お気に入り:7,486

何者でもない僕は異世界で冒険者をはじめる

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:952

異世界転移で生産と魔法チートで誰にも縛られず自由に暮らします!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:205pt お気に入り:2,451

仕方なく開拓者になったけど、膨大な魔力のおかげで最高の村ができそう

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:2,046

処理中です...