25 / 82
25、壊れた馬車
しおりを挟む
家から少し森の中を歩くと、レイラが昨日言っていた森の中の秘密の道に行きあたる。
少し行ったところに黒い馬車が横倒しになっていた。
ククルが少し怯えたように俺にしがみつく。
「はうう! 悪い奴の馬車なのです」
ナナはそれを眺めながら眉をひそめた。
「これに乗せてククルを運んでたのね! 子どもをさらって誰かに売るだなんて酷いわ、許せない!!」
「ああ、ほんとにな!」
俺は怯えているククルの頭を撫でながらナナに同意した。
こんな小さな子供をさらって売り払うなんてどうかしてる。
レイラも頷きながら答えた。
「ええ、逃げようとした奴もいたけど全員捕らえられて良かったわ。でも、そのせいでククルには怖い思いをさせちゃったけどね」
そう言ってレイラはククルの鼻の頭をつつく。
逃げる悪党を全員捕らえて縛り上げている間に、ククルがこの場を離れてしまったことを言っているのだろう。
まあ、そのお蔭で俺たちはククルやレイラに会えたんだけどな。
ククルはくすぐったそうにしながら言った。
「はう、レイラお姉ちゃんに食べられちゃうかと思ったです! おっきな狼の大きなお口で悪者をガブリってしようとしてたです!」
「もう、だから食べたりなんかしないわよ。あれは少し脅してただけだわ」
俺は笑いながら言った。
「レイラは沢山食べるもんな! 俺も狼の姿のレイラが、そんなにでっかい口を開けてたらそう思うさ」
「ちょっとユウキ! それじゃあ私が人一倍大食いみたいじゃない?」
レイラのその言葉にナナが呆れたように突っ込む。
「その通りじゃない、自覚なかったの?」
それを聞いて、レイラは尻尾を左右にふると少し頬を染めて言う。
「失礼ね。少し人より沢山食べるだけよ! ユウキだって作った料理を沢山食べてくれる子が好きでしょ?」
「は、はは。そうだな」
苦笑しながら俺が頷くとレイラはギュッと腕に抱きつく。
「ほら! やっぱり」
「だから、近いって!」
親愛の情なんだろうけど、腕に当たる胸の感触と目の前にあるレイラの顔に今度はこっちが思わず顔が赤くなる。
ナナが眉を吊り上げてレイラを引き離した。
「離れなさいって言ってるでしょ? ほんと馴れ馴れしいんだから」
「いいじゃないこれぐらい! ユウキじゃなかったらこんなことしないんだから」
ツンと顔を背ける二人。
こりゃ前途多難だな、俺はため息をついた。
そして辺りを見渡しながら尋ねる。
「そう言えば、この馬車を引いてきた馬は?」
俺の問いにレイラが答えた。
「狼姿の私を見て逃げちゃったんだけど、朝ここに戻ってきてたからキースに一緒に連れて行くように頼んでおいたわ。馬車は壊れてるから使い物にならないけどね」
「そっか。キースたちが連れていったんだな」
「ええ、何か気になるのユウキ?」
レイラの言葉に俺は少し考えこむと答えた。
「いや、せっかく馬車があるんだからもし使えたらと思ってさ。ククルやナナだってその方が快適だろ?」
どうやらこの道は悪党たちが使う秘密の山道にも繋がってるようだし、馬車があれば楽だもんな。
ナナに妖精姿になってもらう手はあるけど、二人とも驚くだろうしさ。
レイラは肩をすくめる。
「それはそうだけど馬車も壊れてるもの。大丈夫よ、これだけ朝早く出発すれば、日が暮れる前には山は越えられるから」
「ああ……」
そう答えつつ俺は馬車を眺めていた。
悪党たちが山を越える為に用意した馬車だけあって、結構作りがしっかりしている。
車輪も頑丈そうだ。
「これ、使えるんじゃないか?」
思わず俺はそう呟いた。
馬車としてはもちろんだけど、もしこの先俺が色んな素材を集めたりする必要が出てきたら。
それを運べるものがあると助かる。
俺が何かを望んだからだろう、ナナも俺の考えていることを覗いたみたいで目を輝かす。
「そっか! それはいいかもね、裕樹!」
「だろ? ナナ」
そんな俺たちを見てレイラが首を傾げた。
「どうしたのよ二人とも?」
「少しいいことを思いついたんだ、レイラ。せっかくだから、この馬車が使えないかと思ってさ」
俺の言葉にレイラはもう一度首を傾げた。
「使えないかって……だからユウキ、この馬車は壊れてるじゃない?」
そう言った後、レイラは何かを思い出したように目を見開いた。
「そうか! 確かに、ユウキなら出来るかもしれないわね!」
「だろ? 結構しっかりとした作りだから、このまま置いていくのももったいないしさ」
ククルは俺を見上げる。
「はう、どうするですか?」
俺はククルの頭を撫でながら一度地面に下ろす。
そしてナナとレイラに言った。
「直ぐ終わらせるから、ククルと少し離れててくれないか?」
二人は顔を見合わせると頷く。
「分かったわ、裕樹!」
「ええ、ククルいらっしゃい」
「はうう!」
レイラに抱っこされるククル。
俺が何をするのかに興味があるのか大きな目でこちらを見つめている。
「さてと、始めるか!」
俺はそう言うと剣を構える。
そして、みんなが安全な場所まで下がったのを見て剣を振るった。
「一刀両断!!」
俺は手ごろな木を切り倒すと、職業を大工と剣士に変えてあるものの設計図をナナと一緒に描くと、それに合わせて材木を加工していく。
「さてと、車輪とか使えそうな部分はこっちのを使わせてもらうとするか」
横倒しになって壊れた馬車を木材加工の要領で剣で解体しながら、俺は必要なパーツを取り除く。
建物以外にこんな大きなものを作るのは始めてだ。
でも、あの家に比べたら作るのは遥かに楽だからな。
程なくして出来上がったものを見てククルは尻尾を左右に大きく振った。
そして声を上げる。
「ユウキお兄ちゃん凄いのです! 怖い馬車が別の馬車になったのです!」
「はは、あの黒い馬車じゃククルも怖いもんな」
レイラが呆れたようにそれを眺めながら俺に言った。
「まったく、ユウキには呆れるわ。これって荷馬車ね! それも座るところまでしっかり作ってる」
「ああ、荷馬車にもなる座席付きの馬車って感じかな」
ベースは荷物を運ぶための荷馬車のようにして、その荷台の後ろに人が座れるスペースを作った。
車輪の他に黒い馬車からは座席のクッション部分も流用したし、座るところはゆったりと座り心地がいいように作ったので快適なはずだ。
デザインはナナの意見を取り入れたこともあって、なかなかお洒落だ。
荷台に作った折り畳み式の登り階段を下ろすと俺は言った。
「とりあえず、みんな乗ってみてくれよ。レイラには必要ないかなって思ったけど、三人座れるようにしてあるからさ」
オープンカーのような感じにしてあるから外の景色も楽しめると思うし。
俺の言葉にククルだけじゃなくてナナとレイラも目を輝かせた。
「早く乗りたいです!」
「そうねククル!」
「私もいいの? ユウキ」
遠慮がちのレイラに俺は笑いながら頷く。
「ああ、もちろん!」
俺の言葉い促されるように真新しい馬車に乗り込むナナたち。
「うわぁ! いい感じじゃない」
「ほんとね! 座席も座りやすいし」
「楽しいのです!」
俺は笑いながら頷いた。
「だろ?」
座席の部分は必要なら取り外せるからな。
そうすれば、純粋な荷馬車としても使える。
布を買えば幌馬車にだって出来るだろうし。
今日だけじゃなくてこれからも使えそうだ。
「どうせもう使わない馬車なら、有効活用したほうがいいもんな」
「ふふ、そうね。でもあの悪党たちも自分の馬車がこんな風になるなんて思わなかったでしょうけど!」
レイラの言葉に俺は頷く。
「はは、そりゃそうだよな」
「でも、馬はどうするの? まさか……」
レイラが少しジト目でこちらを見る。
昨日ベッド代わりにされたことを思い出したのだろう。
「心配するなって! レイラに銀狼になっもらって引かせようなんて思ってないからさ」
本来馬を繋ぐための丈夫な金具の部分に手で握るグリップを作ってある。
俺はそれを掴んだ。
馬よりも今の俺の方が遥かに馬力があるからな。
「さて、行くぞ! みんなしっかり座ってろよ」
俺はそう掛け声をかけるとまるで人力車を引くように荷馬車をひいて走り始める。
風を感じながら快適に馬車は道を駆け抜けて行く。
ククルがはしゃいでいる声がする。
「ふぁあ! 凄いのです! 気持ちいいのです!!」
ナナもレイラも声を上げた。
「ほんとね! 凄いわ! 速い速い!」
「凄いわユウキ! でも大丈夫なの? 一人でこんな大きな荷馬車を」
俺はみんなの様子を少し振り返りながら笑った。
「はは、任せとけって。朝から美味いステーキを食べて、力が漲ってるからさ!」
職業は森や山を抜けるってことで狩人と剣士。
それでもカンストしてるだけあって力や体力は有り余ってるからな。
飛ばしすぎてククルが怖がらないように上手くスピードを調整しながら俺は森を抜けて、そのまま山道に入った。
一直線に山を登るよりは距離があるけど、これなら直ぐだな。
俺が道なりに荷馬車をひきながら山を駆け上がっていくと、昼前には山頂についた。
そこから眺める景色は最高だ。
思わず声を上げる。
「ヤッホー!」
それを聞いてククルが真似をする。
「ヤッホー! なのです!」
ナナもレイラの顔を見合わせると笑いながらその後に続く。
「ヤッホー! はぁ、気持ちいいわね」
「ほんとね! ヤッホー!!」
山頂を吹き抜ける風が本当に気持ちいい。
そこから俺たちが向かう国を一望出来た。
城から出てこちらに向かった時に立ち寄った村で、その国の名前だけは聞いてるんだよな。
山頂を越えるとその国の領土だって聞いた。
つまりここから先は新しい国だってことだ。
レイラが俺たちに言う。
「二人ともこれで国境は越えたわね。ここから先はアルフェン。私が生まれ育った国よ!」
レイラたちの国か、どんな国なんだろうな。
なんだかワクワクしてくる。
山の麓には豊かな森が広がっていて、そのさらに先には大きな街のようなものが見える。
「大きな街が見えるぞ!」
「ええ、あそこはアルフェンの都よ。目的地の冒険者ギルドもあるし、都には女王が住んでいる宮殿があるわ」
俺はレイラの説明を聞きながら声を上げた。
「へえ、女王様か!」
「ユウキってばほんとに何も知らないのね。ふふ、もし会えたらきっと驚くわよ、とっても綺麗な人だし」
「そうなんだ! アルフェンの女王様か、一度会ってみたい気がするよな」
それを聞いてナナがジト目で俺を見ている。
「ふ~ん。裕樹ったら、綺麗な女王様なんて聞いてだらしない顔しちゃって」
俺はコホンと咳払いをする。
「べ、別に綺麗だって聞いたから会いたいんじゃなくて、女王様になんて会うのが初めてだからさ」
そう言ってもまだ少しツンとしているナナ。
今のは本当なんだから心を覗いてくれたら分かるのにさ。
そにしても、レイラは女王様に会ったことがあるみたいだよな。
冒険者でもそういう機会はあるんだろうか?
それなら、もしかすると俺も会えるかもしれないよな。
そんなことを考えていると、レイラが言った。
「ねえ、ユウキ。この馬車のお蔭で思ったよりも早く国境を越えられたし、都に行く前に一つ寄りたい場所があるんだけどいいかしら? どうせジェイクたちと都で合流するのは明日の予定だもの」
「寄りたい場所? どこに寄りたいんだ、レイラ」
俺はレイラの提案に首を傾げた。
少し行ったところに黒い馬車が横倒しになっていた。
ククルが少し怯えたように俺にしがみつく。
「はうう! 悪い奴の馬車なのです」
ナナはそれを眺めながら眉をひそめた。
「これに乗せてククルを運んでたのね! 子どもをさらって誰かに売るだなんて酷いわ、許せない!!」
「ああ、ほんとにな!」
俺は怯えているククルの頭を撫でながらナナに同意した。
こんな小さな子供をさらって売り払うなんてどうかしてる。
レイラも頷きながら答えた。
「ええ、逃げようとした奴もいたけど全員捕らえられて良かったわ。でも、そのせいでククルには怖い思いをさせちゃったけどね」
そう言ってレイラはククルの鼻の頭をつつく。
逃げる悪党を全員捕らえて縛り上げている間に、ククルがこの場を離れてしまったことを言っているのだろう。
まあ、そのお蔭で俺たちはククルやレイラに会えたんだけどな。
ククルはくすぐったそうにしながら言った。
「はう、レイラお姉ちゃんに食べられちゃうかと思ったです! おっきな狼の大きなお口で悪者をガブリってしようとしてたです!」
「もう、だから食べたりなんかしないわよ。あれは少し脅してただけだわ」
俺は笑いながら言った。
「レイラは沢山食べるもんな! 俺も狼の姿のレイラが、そんなにでっかい口を開けてたらそう思うさ」
「ちょっとユウキ! それじゃあ私が人一倍大食いみたいじゃない?」
レイラのその言葉にナナが呆れたように突っ込む。
「その通りじゃない、自覚なかったの?」
それを聞いて、レイラは尻尾を左右にふると少し頬を染めて言う。
「失礼ね。少し人より沢山食べるだけよ! ユウキだって作った料理を沢山食べてくれる子が好きでしょ?」
「は、はは。そうだな」
苦笑しながら俺が頷くとレイラはギュッと腕に抱きつく。
「ほら! やっぱり」
「だから、近いって!」
親愛の情なんだろうけど、腕に当たる胸の感触と目の前にあるレイラの顔に今度はこっちが思わず顔が赤くなる。
ナナが眉を吊り上げてレイラを引き離した。
「離れなさいって言ってるでしょ? ほんと馴れ馴れしいんだから」
「いいじゃないこれぐらい! ユウキじゃなかったらこんなことしないんだから」
ツンと顔を背ける二人。
こりゃ前途多難だな、俺はため息をついた。
そして辺りを見渡しながら尋ねる。
「そう言えば、この馬車を引いてきた馬は?」
俺の問いにレイラが答えた。
「狼姿の私を見て逃げちゃったんだけど、朝ここに戻ってきてたからキースに一緒に連れて行くように頼んでおいたわ。馬車は壊れてるから使い物にならないけどね」
「そっか。キースたちが連れていったんだな」
「ええ、何か気になるのユウキ?」
レイラの言葉に俺は少し考えこむと答えた。
「いや、せっかく馬車があるんだからもし使えたらと思ってさ。ククルやナナだってその方が快適だろ?」
どうやらこの道は悪党たちが使う秘密の山道にも繋がってるようだし、馬車があれば楽だもんな。
ナナに妖精姿になってもらう手はあるけど、二人とも驚くだろうしさ。
レイラは肩をすくめる。
「それはそうだけど馬車も壊れてるもの。大丈夫よ、これだけ朝早く出発すれば、日が暮れる前には山は越えられるから」
「ああ……」
そう答えつつ俺は馬車を眺めていた。
悪党たちが山を越える為に用意した馬車だけあって、結構作りがしっかりしている。
車輪も頑丈そうだ。
「これ、使えるんじゃないか?」
思わず俺はそう呟いた。
馬車としてはもちろんだけど、もしこの先俺が色んな素材を集めたりする必要が出てきたら。
それを運べるものがあると助かる。
俺が何かを望んだからだろう、ナナも俺の考えていることを覗いたみたいで目を輝かす。
「そっか! それはいいかもね、裕樹!」
「だろ? ナナ」
そんな俺たちを見てレイラが首を傾げた。
「どうしたのよ二人とも?」
「少しいいことを思いついたんだ、レイラ。せっかくだから、この馬車が使えないかと思ってさ」
俺の言葉にレイラはもう一度首を傾げた。
「使えないかって……だからユウキ、この馬車は壊れてるじゃない?」
そう言った後、レイラは何かを思い出したように目を見開いた。
「そうか! 確かに、ユウキなら出来るかもしれないわね!」
「だろ? 結構しっかりとした作りだから、このまま置いていくのももったいないしさ」
ククルは俺を見上げる。
「はう、どうするですか?」
俺はククルの頭を撫でながら一度地面に下ろす。
そしてナナとレイラに言った。
「直ぐ終わらせるから、ククルと少し離れててくれないか?」
二人は顔を見合わせると頷く。
「分かったわ、裕樹!」
「ええ、ククルいらっしゃい」
「はうう!」
レイラに抱っこされるククル。
俺が何をするのかに興味があるのか大きな目でこちらを見つめている。
「さてと、始めるか!」
俺はそう言うと剣を構える。
そして、みんなが安全な場所まで下がったのを見て剣を振るった。
「一刀両断!!」
俺は手ごろな木を切り倒すと、職業を大工と剣士に変えてあるものの設計図をナナと一緒に描くと、それに合わせて材木を加工していく。
「さてと、車輪とか使えそうな部分はこっちのを使わせてもらうとするか」
横倒しになって壊れた馬車を木材加工の要領で剣で解体しながら、俺は必要なパーツを取り除く。
建物以外にこんな大きなものを作るのは始めてだ。
でも、あの家に比べたら作るのは遥かに楽だからな。
程なくして出来上がったものを見てククルは尻尾を左右に大きく振った。
そして声を上げる。
「ユウキお兄ちゃん凄いのです! 怖い馬車が別の馬車になったのです!」
「はは、あの黒い馬車じゃククルも怖いもんな」
レイラが呆れたようにそれを眺めながら俺に言った。
「まったく、ユウキには呆れるわ。これって荷馬車ね! それも座るところまでしっかり作ってる」
「ああ、荷馬車にもなる座席付きの馬車って感じかな」
ベースは荷物を運ぶための荷馬車のようにして、その荷台の後ろに人が座れるスペースを作った。
車輪の他に黒い馬車からは座席のクッション部分も流用したし、座るところはゆったりと座り心地がいいように作ったので快適なはずだ。
デザインはナナの意見を取り入れたこともあって、なかなかお洒落だ。
荷台に作った折り畳み式の登り階段を下ろすと俺は言った。
「とりあえず、みんな乗ってみてくれよ。レイラには必要ないかなって思ったけど、三人座れるようにしてあるからさ」
オープンカーのような感じにしてあるから外の景色も楽しめると思うし。
俺の言葉にククルだけじゃなくてナナとレイラも目を輝かせた。
「早く乗りたいです!」
「そうねククル!」
「私もいいの? ユウキ」
遠慮がちのレイラに俺は笑いながら頷く。
「ああ、もちろん!」
俺の言葉い促されるように真新しい馬車に乗り込むナナたち。
「うわぁ! いい感じじゃない」
「ほんとね! 座席も座りやすいし」
「楽しいのです!」
俺は笑いながら頷いた。
「だろ?」
座席の部分は必要なら取り外せるからな。
そうすれば、純粋な荷馬車としても使える。
布を買えば幌馬車にだって出来るだろうし。
今日だけじゃなくてこれからも使えそうだ。
「どうせもう使わない馬車なら、有効活用したほうがいいもんな」
「ふふ、そうね。でもあの悪党たちも自分の馬車がこんな風になるなんて思わなかったでしょうけど!」
レイラの言葉に俺は頷く。
「はは、そりゃそうだよな」
「でも、馬はどうするの? まさか……」
レイラが少しジト目でこちらを見る。
昨日ベッド代わりにされたことを思い出したのだろう。
「心配するなって! レイラに銀狼になっもらって引かせようなんて思ってないからさ」
本来馬を繋ぐための丈夫な金具の部分に手で握るグリップを作ってある。
俺はそれを掴んだ。
馬よりも今の俺の方が遥かに馬力があるからな。
「さて、行くぞ! みんなしっかり座ってろよ」
俺はそう掛け声をかけるとまるで人力車を引くように荷馬車をひいて走り始める。
風を感じながら快適に馬車は道を駆け抜けて行く。
ククルがはしゃいでいる声がする。
「ふぁあ! 凄いのです! 気持ちいいのです!!」
ナナもレイラも声を上げた。
「ほんとね! 凄いわ! 速い速い!」
「凄いわユウキ! でも大丈夫なの? 一人でこんな大きな荷馬車を」
俺はみんなの様子を少し振り返りながら笑った。
「はは、任せとけって。朝から美味いステーキを食べて、力が漲ってるからさ!」
職業は森や山を抜けるってことで狩人と剣士。
それでもカンストしてるだけあって力や体力は有り余ってるからな。
飛ばしすぎてククルが怖がらないように上手くスピードを調整しながら俺は森を抜けて、そのまま山道に入った。
一直線に山を登るよりは距離があるけど、これなら直ぐだな。
俺が道なりに荷馬車をひきながら山を駆け上がっていくと、昼前には山頂についた。
そこから眺める景色は最高だ。
思わず声を上げる。
「ヤッホー!」
それを聞いてククルが真似をする。
「ヤッホー! なのです!」
ナナもレイラの顔を見合わせると笑いながらその後に続く。
「ヤッホー! はぁ、気持ちいいわね」
「ほんとね! ヤッホー!!」
山頂を吹き抜ける風が本当に気持ちいい。
そこから俺たちが向かう国を一望出来た。
城から出てこちらに向かった時に立ち寄った村で、その国の名前だけは聞いてるんだよな。
山頂を越えるとその国の領土だって聞いた。
つまりここから先は新しい国だってことだ。
レイラが俺たちに言う。
「二人ともこれで国境は越えたわね。ここから先はアルフェン。私が生まれ育った国よ!」
レイラたちの国か、どんな国なんだろうな。
なんだかワクワクしてくる。
山の麓には豊かな森が広がっていて、そのさらに先には大きな街のようなものが見える。
「大きな街が見えるぞ!」
「ええ、あそこはアルフェンの都よ。目的地の冒険者ギルドもあるし、都には女王が住んでいる宮殿があるわ」
俺はレイラの説明を聞きながら声を上げた。
「へえ、女王様か!」
「ユウキってばほんとに何も知らないのね。ふふ、もし会えたらきっと驚くわよ、とっても綺麗な人だし」
「そうなんだ! アルフェンの女王様か、一度会ってみたい気がするよな」
それを聞いてナナがジト目で俺を見ている。
「ふ~ん。裕樹ったら、綺麗な女王様なんて聞いてだらしない顔しちゃって」
俺はコホンと咳払いをする。
「べ、別に綺麗だって聞いたから会いたいんじゃなくて、女王様になんて会うのが初めてだからさ」
そう言ってもまだ少しツンとしているナナ。
今のは本当なんだから心を覗いてくれたら分かるのにさ。
そにしても、レイラは女王様に会ったことがあるみたいだよな。
冒険者でもそういう機会はあるんだろうか?
それなら、もしかすると俺も会えるかもしれないよな。
そんなことを考えていると、レイラが言った。
「ねえ、ユウキ。この馬車のお蔭で思ったよりも早く国境を越えられたし、都に行く前に一つ寄りたい場所があるんだけどいいかしら? どうせジェイクたちと都で合流するのは明日の予定だもの」
「寄りたい場所? どこに寄りたいんだ、レイラ」
俺はレイラの提案に首を傾げた。
0
お気に入りに追加
3,129
あなたにおすすめの小説
外れスキル『レベル分配』が覚醒したら無限にレベルが上がるようになったんだが。〜俺を追放してからレベルが上がらなくなったって?知らん〜
純真
ファンタジー
「普通にレベル上げした方が早いじゃない。なんの意味があるのよ」
E級冒険者ヒスイのスキルは、パーティ間でレベルを移動させる『レベル分配』だ。
毎日必死に最弱モンスター【スライム】を倒し続け、自分のレベルをパーティメンバーに分け与えていた。
そんなある日、ヒスイはパーティメンバーに「役立たず」「足でまとい」と罵られ、パーティを追放されてしまう。
しかし、その晩にスキルが覚醒。新たに手に入れたそのスキルは、『元パーティメンバーのレベルが一生上がらなくなる』かわりに『ヒスイは息をするだけでレベルが上がり続ける』というものだった。
そのレベルを新しいパーティメンバーに分け与え、最強のパーティを作ることにしたヒスイ。
『剣聖』や『白夜』と呼ばれるS級冒険者と共に、ヒスイの名は世界中に轟いていく――。
「戯言を。貴様らがいくら成長したところで、私に! ましてや! 魔王様に届くはずがない! 生まれながらの劣等種! それが貴様ら人間だ!」
「――本当にそうか、確かめてやるよ。この俺出来たてホヤホヤの成長をもってな」
これは、『弱き者』が『強き者』になる――ついでに、可愛い女の子と旅をする物語。
※この作品は『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも掲載しております。
平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。
応援していただけたら執筆の励みになります。
《俺、貸します!》
これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ)
ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非!
「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」
この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。
しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。
レベル35と見せかけているが、本当は350。
水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。
あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。
それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。
リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。
その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。
あえなく、追放されてしまう。
しかし、それにより制限の消えたヨシュア。
一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。
その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。
まさに、ヨシュアにとっての天職であった。
自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。
生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。
目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。
元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。
そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。
一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。
ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。
そのときには、もう遅いのであった。
ダブル魔眼の最強術師 ~前世は散々でしたが、せっかく転生したので今度は最高の人生を目指します!~
雪華慧太
ファンタジー
理不尽なイジメが原因で引きこもっていた俺は、よりにもよって自分の誕生日にあっけなく人生を終えた。魂になった俺は、そこで助けた少女の力で不思議な瞳と前世の記憶を持って異世界に転生する。聖女で超絶美人の母親とエルフの魔法教師! アニメ顔負けの世界の中で今度こそ気楽な学園ライフを送れるかと思いきや、傲慢貴族の息子と戦うことになって……。
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜
ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。
その一員であるケイド。
スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。
戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。
それでも彼はこのパーティでやって来ていた。
彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。
ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。
途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。
だが、彼自身が気付いていない能力があった。
ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。
その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。
自分は戦闘もできる。
もう荷物持ちだけではないのだと。
見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。
むしろもう自分を卑下する必要もない。
我慢しなくていいのだ。
ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。
※小説家になろう様でも連載中
クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした
コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。
クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。
召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。
理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。
ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。
これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜
平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。
途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。
さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。
魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。
一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる