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24、新しい国へ
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「裕樹。ねえ、裕樹ってば、どうしたの?」
俺が連中のことを思い出しながら城の方を眺めていると、ナナがすぐ隣で俺を見つめている。
「ん? ああ、なんでもないさ」
何の気なしに俺のすぐそばに顔を寄せてこちらを覗き込むナナに、少しドギマギする。
爽やかな風に赤い髪が靡いていて、ジェイクたちも言ってたけどその端整な横顔はまるで森の妖精のようだ。
俺が城の方向を眺めていることに気が付いて言う。
「あいつらのことを考えてるのね。ほんと嫌な連中だったもの!」
ナナはそう言うと城の方角を見てべぇと舌を出す。
どうやらいつも俺の心が筒抜けっていうわけじゃないようだ。
ナナなりに気を使ってくれているのかな。
俺がそんなことを考えながらナナを見つめていると、彼女は首を傾げる。
「どうしたの?」
「はは、俺が考えてること全部ナナには筒抜けなのかなって思ってたからさ」
そう言うとナナは答えた。
「私だってそんなに悪趣味じゃないわ。裕樹が何かしたいって思った時は別だけど。その方が裕樹もいいでしょ? そう感じるし」
「ああ、助かるよ」
いくらナナが相手でも、俺の心の中が全部筒抜けっていうのはやっぱり少し辛いよな。
別に覗かれて困るようなことを考えてるつもりはないけどさ。
さっきだってあんなに顔を近くに寄せられてドキッとしたし、そういうことまでナナに筒抜けかもって思うと気が抜けないもんな。
そんなことを考えながら、俺はもう一度城の方向を眺めると肩をすくめた。
それにあの国王、みんなの為に魔王を倒しますっていうようないい王様には見えないんだよな。
平気で俺の事を殺そうとしたし。
何か良からぬことを企んでそうな気さえしてくる。
「まあ考えても仕方ないよな。あんな奴らと二度と関わるつもりはないし」
俺がそう言うとナナは頷く。
「ええ、あいつらのことなんて忘れましょ」
「ああ、そうだなナナ」
ナナは明るく言った。
「そうよ! 私と一緒に魔王を倒しに行くんでしょ?」
「はは、そうだったな」
二人で元の世界に戻る方法を探すって決めたんだよな。
魔王を倒せば戻れるのかは分からないけど、今はそれしか情報がない。
だから、冒険者をしながら他にも情報を探そうって。
左手でひょいとククルを抱きかかえながら右手の剣を見る。
「この剣一本でなんて無理に決まってるしさ」
武器以外は丸腰だし、ゲームで言えばまさに城を出たばかりの初期装備って感じだもんな。
選ばれた勇者って崇められてるあいつらには凄い装備とか道具が用意されそうだけど、俺にはそんなのはありはしない。
そんな俺をナナが励ますように言う。
「大丈夫よ、お金を稼いでいい装備を集めましょ。それでも駄目なら作ればいいじゃない!」
「……作るって自分で自分の装備を?」
ナナからの意外な提案に俺は思わず呟いた。
そう言えば最初に職業を確認した時に、料理人の隣に鍛冶職人っていうのがあったはずだ。
鍛冶職人に転職すれば装備も自分で作れるようになるんだろうか?
自分で剣や鎧を一から作るなんてちょっとワクワクする。
マスタースキルも気になるし。
向こうについて落ち着いたら試してみる価値はあるよな。
俺は少し興奮してナナに答えた。
「装備を作る! いいかもなそれ!!」
「でしょ!」
冒険者をやって必要なお金や素材を集める。
そして、魔王を倒すための装備を自分で作るなんて本当にゲームみたいだけど、現実でそんなこと体験するなんてあり得ないことだもんな。
装備を作るための素材か、もしかして前の世界にはなかったような変わったものもあるのかな?
滅多に手に入らないレアな素材とか武器とかさ。
そんなことを考えると何だか楽しくなってくる。
「どうせやるなら楽しくやらないとな! 頑張るぞ」
「お~! ふふ、やっぱり裕樹はそうじゃなくっちゃ!」
いつものように掛け声を上げるナナ。
ククルは俺たちが話していることがよく分からないのだろう、首を傾げながらそれでもナナの真似をして声を上げる。
「お~! なのです!」
「はは、ククルも応援してくれるか?」
「はいなのです!」
俺たちがそんな話をしていると、先に歩き始めていたレイラがこちらを振り返って声をかける。
「ユウキ、ナナ、何してるのよ? 行くわよ!」
俺は慌てて答えた。
「悪い、レイラ! 今行くよ」
「ええ!」
ナナも大きく頷く。
レイラの方へ歩きながら俺はナナに礼を言った。
「ありがとな、ナナ。ナナといると勇気が湧いてくるよ」
「な! なによ、あらたまって。当然じゃない! 私たちパートナーなんだから」
照れたのか少し頬染めてこちらを見るナナは可愛い。
俺は笑いながら言った。
「そうだな、俺たち相棒だもんな」
「そういうこと!」
ナナもそう言って笑う。
俺はもう城の方は振り返らずに歩いた。
あいつらがこれからどうするつもりかは分からないけど、俺は俺が出来ることをやるだけだ。
ナナもいるし、レイラたち新しい仲間も出来た。
それに、装備を自分で作るっていう新しい目標も出来たもんな。
「山を越えたら新しい家も作らないとな。それに鍛冶職人をするならその為の工房とかもいるだろうし」
俺の言葉にナナも頷く。
「忙しくなりそうね、裕樹! 私も手伝うわ」
「ああ、ありがとな」
国境を越えて、よさそうな場所を見つけたらまた新しい家の設計図をナナと作るとするか。
そんな話をしながらレイラのところまで行く。
レイラはククルを抱いている俺の代わりにスカーフェイスの角を片手に持ち、腰からは革で出来た水筒を提げている。
俺も同じものを腰から提げて中には綺麗な水を満たしている。
山道を行く俺たちの為にジェイクが自分たちのものを一つ貸してくれたんだ。
俺はレイラに礼を言った。
「悪いなレイラ。角を運んでもらってさ」
「ふふ、構わないわ! こんな大物の角を運べる機会なんてそうそうないもの」
そう言って、尻尾を振る。
「それにご馳走のお礼もあるし。あのステーキ本当に美味しかったわ! ねえ、また作ってくれる? いいでしょ? これからは一緒に暮らすんだし」
それを聞いて俺とナナは顔を見合わせた。
「へ?」
「え?」
最初は呆然としていたナナがレイラに食って掛かった。
「ちょ! ちょっと何勝手なこと言ってるのよ。裕樹は私と一緒に暮らすんだから! どうしてあなたまで一緒に暮らすってことになるのよ!?」
レイラはナナに言い返す。
「当たり前でしょ? 向こうに行ったらユウキと私はパートナーになるんだから。一緒に暮らした方が便利じゃない、冒険者のことだって色々教えてあげられるし!」
「駄目よ!」
「何よケチなんだから。やっぱり貴方ユウキのこと好きなんでしょ? 大体、あんなに美味しい料理を一人だけ作ってもらうなんてずるいわ」
レイラの言葉にナナは真っ赤になる。
「す、す、好きなんかじゃないって言ってるでしょ!」
「どうだか! ねえ、ユウキはどうしたいの?」
そう言って左右から俺に詰め寄るナナとレイラ。
「「私と一緒に暮らすのよね!!」」
「だから、近いって二人とも」
あの結衣だって敵わない程の美少女たちに至近距離で睨まれて俺は思わずたじろいだ。
二人ともいい奴なんだけど、ほんと気が強いもんな。
そんな中、ククルが言った。
「はわわ! 楽しそうなのです、ククルも遊びに行きたいのです!」
それを聞いて俺は笑った。
「そうだな。新しい家を作ったらククルも招待するか。また美味しいご馳走作ってやるからな!」
「はいなのです!」
ククルは嬉しそうにそう言ってはしゃいだ。
俺はそんなククルを眺めながら歩き始める。
こういう時は逃げるが勝ちだよな。
それを見て、ナナとレイラが不満そうに声を上げた。
「裕樹ったら!」
「そうよ、まだ答えを貰ってないわ!」
俺は二人を振り返ると言う。
「向こうにつくまでにゆっくり話し合ったらいいだろ? さあ、行こうぜ!」
その言葉にレイラとナナはツンと顔をそらしながらも、俺の左右に並んで歩く。
「そうね、まずはあの山を越えるのが目標だったんだから」
「分かったわよ、行きましょう! でも諦めないんだからね」
そんな二人に俺は苦笑しながら掛け声をかける。
「ああ、行こう! 新しい国へ」
俺はそう答えながら、これから始まる新しい生活への期待に胸を膨らませていた。
────────
沢山感想を下さいまして感謝です!
いつもご覧いただきましてありがとうございます!
俺が連中のことを思い出しながら城の方を眺めていると、ナナがすぐ隣で俺を見つめている。
「ん? ああ、なんでもないさ」
何の気なしに俺のすぐそばに顔を寄せてこちらを覗き込むナナに、少しドギマギする。
爽やかな風に赤い髪が靡いていて、ジェイクたちも言ってたけどその端整な横顔はまるで森の妖精のようだ。
俺が城の方向を眺めていることに気が付いて言う。
「あいつらのことを考えてるのね。ほんと嫌な連中だったもの!」
ナナはそう言うと城の方角を見てべぇと舌を出す。
どうやらいつも俺の心が筒抜けっていうわけじゃないようだ。
ナナなりに気を使ってくれているのかな。
俺がそんなことを考えながらナナを見つめていると、彼女は首を傾げる。
「どうしたの?」
「はは、俺が考えてること全部ナナには筒抜けなのかなって思ってたからさ」
そう言うとナナは答えた。
「私だってそんなに悪趣味じゃないわ。裕樹が何かしたいって思った時は別だけど。その方が裕樹もいいでしょ? そう感じるし」
「ああ、助かるよ」
いくらナナが相手でも、俺の心の中が全部筒抜けっていうのはやっぱり少し辛いよな。
別に覗かれて困るようなことを考えてるつもりはないけどさ。
さっきだってあんなに顔を近くに寄せられてドキッとしたし、そういうことまでナナに筒抜けかもって思うと気が抜けないもんな。
そんなことを考えながら、俺はもう一度城の方向を眺めると肩をすくめた。
それにあの国王、みんなの為に魔王を倒しますっていうようないい王様には見えないんだよな。
平気で俺の事を殺そうとしたし。
何か良からぬことを企んでそうな気さえしてくる。
「まあ考えても仕方ないよな。あんな奴らと二度と関わるつもりはないし」
俺がそう言うとナナは頷く。
「ええ、あいつらのことなんて忘れましょ」
「ああ、そうだなナナ」
ナナは明るく言った。
「そうよ! 私と一緒に魔王を倒しに行くんでしょ?」
「はは、そうだったな」
二人で元の世界に戻る方法を探すって決めたんだよな。
魔王を倒せば戻れるのかは分からないけど、今はそれしか情報がない。
だから、冒険者をしながら他にも情報を探そうって。
左手でひょいとククルを抱きかかえながら右手の剣を見る。
「この剣一本でなんて無理に決まってるしさ」
武器以外は丸腰だし、ゲームで言えばまさに城を出たばかりの初期装備って感じだもんな。
選ばれた勇者って崇められてるあいつらには凄い装備とか道具が用意されそうだけど、俺にはそんなのはありはしない。
そんな俺をナナが励ますように言う。
「大丈夫よ、お金を稼いでいい装備を集めましょ。それでも駄目なら作ればいいじゃない!」
「……作るって自分で自分の装備を?」
ナナからの意外な提案に俺は思わず呟いた。
そう言えば最初に職業を確認した時に、料理人の隣に鍛冶職人っていうのがあったはずだ。
鍛冶職人に転職すれば装備も自分で作れるようになるんだろうか?
自分で剣や鎧を一から作るなんてちょっとワクワクする。
マスタースキルも気になるし。
向こうについて落ち着いたら試してみる価値はあるよな。
俺は少し興奮してナナに答えた。
「装備を作る! いいかもなそれ!!」
「でしょ!」
冒険者をやって必要なお金や素材を集める。
そして、魔王を倒すための装備を自分で作るなんて本当にゲームみたいだけど、現実でそんなこと体験するなんてあり得ないことだもんな。
装備を作るための素材か、もしかして前の世界にはなかったような変わったものもあるのかな?
滅多に手に入らないレアな素材とか武器とかさ。
そんなことを考えると何だか楽しくなってくる。
「どうせやるなら楽しくやらないとな! 頑張るぞ」
「お~! ふふ、やっぱり裕樹はそうじゃなくっちゃ!」
いつものように掛け声を上げるナナ。
ククルは俺たちが話していることがよく分からないのだろう、首を傾げながらそれでもナナの真似をして声を上げる。
「お~! なのです!」
「はは、ククルも応援してくれるか?」
「はいなのです!」
俺たちがそんな話をしていると、先に歩き始めていたレイラがこちらを振り返って声をかける。
「ユウキ、ナナ、何してるのよ? 行くわよ!」
俺は慌てて答えた。
「悪い、レイラ! 今行くよ」
「ええ!」
ナナも大きく頷く。
レイラの方へ歩きながら俺はナナに礼を言った。
「ありがとな、ナナ。ナナといると勇気が湧いてくるよ」
「な! なによ、あらたまって。当然じゃない! 私たちパートナーなんだから」
照れたのか少し頬染めてこちらを見るナナは可愛い。
俺は笑いながら言った。
「そうだな、俺たち相棒だもんな」
「そういうこと!」
ナナもそう言って笑う。
俺はもう城の方は振り返らずに歩いた。
あいつらがこれからどうするつもりかは分からないけど、俺は俺が出来ることをやるだけだ。
ナナもいるし、レイラたち新しい仲間も出来た。
それに、装備を自分で作るっていう新しい目標も出来たもんな。
「山を越えたら新しい家も作らないとな。それに鍛冶職人をするならその為の工房とかもいるだろうし」
俺の言葉にナナも頷く。
「忙しくなりそうね、裕樹! 私も手伝うわ」
「ああ、ありがとな」
国境を越えて、よさそうな場所を見つけたらまた新しい家の設計図をナナと作るとするか。
そんな話をしながらレイラのところまで行く。
レイラはククルを抱いている俺の代わりにスカーフェイスの角を片手に持ち、腰からは革で出来た水筒を提げている。
俺も同じものを腰から提げて中には綺麗な水を満たしている。
山道を行く俺たちの為にジェイクが自分たちのものを一つ貸してくれたんだ。
俺はレイラに礼を言った。
「悪いなレイラ。角を運んでもらってさ」
「ふふ、構わないわ! こんな大物の角を運べる機会なんてそうそうないもの」
そう言って、尻尾を振る。
「それにご馳走のお礼もあるし。あのステーキ本当に美味しかったわ! ねえ、また作ってくれる? いいでしょ? これからは一緒に暮らすんだし」
それを聞いて俺とナナは顔を見合わせた。
「へ?」
「え?」
最初は呆然としていたナナがレイラに食って掛かった。
「ちょ! ちょっと何勝手なこと言ってるのよ。裕樹は私と一緒に暮らすんだから! どうしてあなたまで一緒に暮らすってことになるのよ!?」
レイラはナナに言い返す。
「当たり前でしょ? 向こうに行ったらユウキと私はパートナーになるんだから。一緒に暮らした方が便利じゃない、冒険者のことだって色々教えてあげられるし!」
「駄目よ!」
「何よケチなんだから。やっぱり貴方ユウキのこと好きなんでしょ? 大体、あんなに美味しい料理を一人だけ作ってもらうなんてずるいわ」
レイラの言葉にナナは真っ赤になる。
「す、す、好きなんかじゃないって言ってるでしょ!」
「どうだか! ねえ、ユウキはどうしたいの?」
そう言って左右から俺に詰め寄るナナとレイラ。
「「私と一緒に暮らすのよね!!」」
「だから、近いって二人とも」
あの結衣だって敵わない程の美少女たちに至近距離で睨まれて俺は思わずたじろいだ。
二人ともいい奴なんだけど、ほんと気が強いもんな。
そんな中、ククルが言った。
「はわわ! 楽しそうなのです、ククルも遊びに行きたいのです!」
それを聞いて俺は笑った。
「そうだな。新しい家を作ったらククルも招待するか。また美味しいご馳走作ってやるからな!」
「はいなのです!」
ククルは嬉しそうにそう言ってはしゃいだ。
俺はそんなククルを眺めながら歩き始める。
こういう時は逃げるが勝ちだよな。
それを見て、ナナとレイラが不満そうに声を上げた。
「裕樹ったら!」
「そうよ、まだ答えを貰ってないわ!」
俺は二人を振り返ると言う。
「向こうにつくまでにゆっくり話し合ったらいいだろ? さあ、行こうぜ!」
その言葉にレイラとナナはツンと顔をそらしながらも、俺の左右に並んで歩く。
「そうね、まずはあの山を越えるのが目標だったんだから」
「分かったわよ、行きましょう! でも諦めないんだからね」
そんな二人に俺は苦笑しながら掛け声をかける。
「ああ、行こう! 新しい国へ」
俺はそう答えながら、これから始まる新しい生活への期待に胸を膨らませていた。
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