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20、料理の準備

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 その後、俺たちは何度かに分けて食材を家に運んだ。
 家を見てあらめてジェイクが言う。

「それにしても、こんなところに家を建てるなんて変わってるなユウキは」

「はは、まあ色々事情があってね」

 アリシャも家を眺めると言う。

「でも、素敵なお家じゃない。ナナとユウキの家なの?」

「ん? まあね」

 二人で作ったんだもんな。
 ナナも胸を張ると言う。

「私と裕樹の初めての家よ! 一緒に色々考えて作ったんだから」

 それを聞いて、ジェイクとキースが俺と肩を組むと顔を覗き込む。

「くそぉ! 二人の家か。おいユウキ、こんな可愛い嫁さんどこで見つけたんだよ!」

「たく、うらやましいよな。明るくていい子だしさ」

 俺は慌ててそれを否定する。

「ち、違うって! ナナは俺の奥さんってわけじゃないんだ」

 ナナも真っ赤な顔で否定する。

「そ、そうよ。違うんだから! か、勘違いしないでよね!」

 二人からツンと顔をそらしてみせるナナ。
 どうやらこの世界では、俺たちぐらいの年頃でも結婚している男女はいるようだ。
 レイラが笑いながら言う。

「私も最初は恋人同士じゃないかって思ったんだけど、違うみたいよ」

 ジェイクとキースは顔を見合わせると、さっきよりも強く俺と肩を組んだ。

「はは、そうかそうだったか!」

「同士よ!」

 アリシャがそんな二人を見てため息をつく。

「何が同士よ、嬉しそうに。ユウキの心配なんてしないで、貴方たちは早く恋人でも作りなさい」

「ちぇ」

「簡単に言うなよな、アリシャ」

 それを聞いてレイラとナナが顔を見合わせて笑う。
 楽しい三人組だ。
 レイラは腰に手を当てると俺たちに言う。

「私はひとっ走り近くの村にドリルホーンの肉のことを伝えに行くわ、今なら朝市に出したい商人にまとまった量が売れると思うし。近くに知り合いがいる村があるのよ、銀狼の姿で行けばあっという間だから」

 俺はそれに頷いた。

「分かった、レイラ。食事をしたら出発だもんな、早い方がいいだろうし。戻ってくるまでに朝食の準備をしておくよ」

「ええ、期待してるわ! じゃあ行ってくるわね」

 レイラはそう言うと銀狼の姿に変わって風のように走っていく。
 ジェイクとキースがその背中に声をかけた。

「悪いなレイラ!」

「頼むぜ!」

 レイラを見送ったジェイクとキースは、近くにある石を集めてかまどを作り始める。
 手慣れたその様子を眺めながら、俺はテラスにおいてあるテーブルを眺める。
 ナナがそんな俺を見て言った。

「みんなで食事するには少し小さいわね」

「ああ、そうだなナナ。せっかくだからもう少し大きめのを作るか!」

「そうね! 裕樹。きっとその方が楽しいわ」

 確かにな。
 せっかくこれからご馳走を作るんだ。
 まだ昨日倉庫を作った時に余っている木材があるし、それに食器だって必要だろう。
 アリシャが首を傾げる。

「何を作るの?」

「ちょっとテーブルを作ろうと思ってさ」

「え?」

 俺は職業を大工と剣士に変更すると、地面にテーブルの絵を描く。
 するといつものように、それを作るのに必要な木材の大きさや形が直ぐに把握出来た。
 やっぱり大工の特殊スキルの設計図は便利だな。
 剣で木材を加工して、組み上げると程なく大きめのテーブルが出来上がる。
 これをジェイクたちが作ったかまどの傍に置けば、料理をするのにも食べるにも便利だろう。
 それほど手の込んだものじゃないので、それは直ぐに出来上がった。

「よし! 出来たぞ」

 あっと言う間に完成したそれを見て目を白黒するアリシャ。

「ちょ! ちょっと、どうなってるの!?」

 かまどを作っているジェイクたちも、完成したテーブルに気が付いて声を上げた。

「凄え、どうなってんだ?」

「これ、ユウキが作ったのか!?」

 俺は頭を掻きながら答える。

「はは、ちょっとした特技みたいなものかな。作業するにも、かまどの近くにテーブルがあった方が便利だと思うし」

 ジェイクとキースが顔を見合わせる。

「こいつは凄いな!」

「ああ、しっかりとした作りだな」

「凄い特技ね!」

 驚きながらも、そう言って手を叩くアリシャ。
 アリシャは早速料理をするための必要な道具を、ジェイクたちが持ってきたリュックから取り出しそのテーブルの上に並べていく。
 さっきも少し見えた深底のフライパン、解体にも使った食材を切る為の大きめのナイフ。
 そして、火打石と火種を作るためのほぐされた麻紐のようなものだ。

「へえ、これで火をつけるんだな」

 俺が感心しながら言うとアリシャは頷く。

「ええ、野外活動が多い冒険者なら必需品よ。それから調味料ね」

 そう言ってアリシャが取り出したのは、白い石のようなものと、小さな袋だ。

「それは?」

「岩塩と胡椒よ。せっかくのマルルナタケとドリルホーンの肉だから本当はもっと調味料が欲しいところだけど、大きな町にでも行かないと中々ね」

 アリシャは俺にそう説明してくれる。

「へえ、そうなんだな!」

 確かに、他にも色々調味料があるといいよな。
 アリシャが言う。

「ふふ、ユウキって変わってるわね。あのスカーフェイスを倒すぐらいの凄腕で、こんな凄いことも出来るのにそんなことも知らないなんて。まるでどこか遠い国からやってきたみたいね」

 俺はそれを聞いて苦笑した。
 アリシャは冗談のつもりで言ったんだろうけど、当たってる。
 遠い国じゃなくて異世界だけどさ。

「さて、ジェイクたちがかまどを作ってくれてる間に、他にも必要なものを作らないとな」

 俺は肉を切るためのまな板や、ステーキを乗せる皿、そしてフォークも木製でこしらえた。
 それを見て喜ぶナナとククル。

「木のお皿なんて素敵ね、裕樹!」

「ユウキお兄ちゃん凄いのです! 可愛いお皿なのです」

 ククル用に作った小さめの木の皿を持たせてあげると、それを空に掲げるククル。
 木製のバケツも幾つか作って、飲み水や料理に必要な水を近くの川から運んでくる。
 その頃にはかまども出来上がり、レイラも戻ってきていた。

「村の商人に知らせてきたわ。もうすぐ馬を連れて肉を買いに来ると思う。昨日、あの悪党たちを捕えた道沿いに来ると思うから分かるように目印をしておいたわ。到着したら指笛で知らせてくれるそうよ」

 流石レイラだな、こんな取引にも慣れている様子だ。
 ジェイクとキースはレイラに礼を言う。

「悪いなレイラ!」

「こっちも後は料理をするだけだ!」

 レイラは変身を解いて、その場に座り込むと言った。

「はぁ、もう本当に限界! 早く何か食べさせて!」

「ふふ、ご苦労様レイラ。分かってるわ、ちょっと待ってて火をつけるから」

 そんなレイラの姿を見てアリシャは笑いながら、火打石とほぐした麻紐のようなもので上手に火種を作ると、かまどの中にジェイクたちが用意した細い薪に火をつける。
 そして徐々に大きな薪を入れて火を大きくしていく。
 旨そうな肉の塊がまな板の上に置かれている。
 ジェイクは俺にナイフを手渡すと言った。

「さてと、こいつを仕留めたのはユウキだからな。ステーキ肉の切り分けはユウキに頼むぜ」

「俺が?」

 キースも頷く。

「ああ、こんな上物の肉は滅多にないからな。せっかくだ、切り分けるだけじゃなくて一枚焼いてくれよ」

 どうやら得物を仕留めた者の仕事らしい。
 俺は頷くと答える。

「分かった。やってみるよ」

 俺は職業を大工と剣士から、狩人と剣士に変える。
 解体の時も狩人ならスムーズに作業できたもんな。
 でも、ちょっと待てよ。

「料理をするなら、もっといい職業があるよな」

 確か家づくりをする時にナナと転職可能な職業を見たら、その中に料理人っていうのがあったはずだ。
 俺はテーブルの上に置かれた美味しそうなマルルナタケと、上質なドリルホーンの肉を眺める。
 どうせなら少しでも美味しく料理したいもんな。
 料理人のマスタースキルも気になるし。
 ナナは俺の考えていることが分かったのか、ステータスのパネルを開いてくれた。
 そしてウインクする。

「料理人になるんでしょ? もう私もお腹がぺこぺこ。美味しいステーキを食べさせて、裕樹!」

「ああ、ナナ!」

 俺はナナの言葉に頷く、そして料理人に転職することにした。
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