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16、食材の香り
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レイラは仲間たちが来たときに困らないように倉庫の壁に仲間への伝言を剣で刻んだ後、再び狼の姿に変身する。
そこには、少しだけここを離れるが直ぐに帰ると書かれていた。
ククルは何度見ても驚くのか、その姿に声を上げた。
「ふぁ! レイラお姉ちゃん、また狼になったです!」
それを聞いてレイラは笑う。
「ええ、この方が鼻が利くのよ。食材探しするなら、やっぱり鼻は大事だからね」
「へえ、確かにそんな気はするよな」
ナナは少し心配そうに言う。
「でも、せっかく食材見つけても、何だかレイラに全部食べられそうね」
「はう、レイラお姉ちゃん沢山食べそうです!」
ククルも大きく頷いた。
それを聞いてレイラが心外だって顔をした。
「ちょっと、いくら何でもこの姿のまま見つけた食材をいきなり食べたりはしないわよ」
「はは、そりゃそうだ」
何しろこのサイズだ、ナナやククルが心配したように全部食べられちまいそうだもんな。
昨日なんてククルにあの悪党たちを食べちまったと思われてたんだから。
「そうだ。手ぶらでいくのも何か見つけた時に困るよな」
俺は地面にあるものの絵をかいて眺める。
「まあ、こんな感じか」
そして、昨日倉庫を作った時に少し余った板を手に取った。
ナナが不思議そうに俺を眺める。
「何するの? 裕樹」
「ああ、見つけた食材を運ぶ入れ物を作ろうと思ってさ」
先程から俺は職業を大工と剣士に変えている、その板から木製のカバンを二つ切り出した。
本当は布で作るのがいいんだろうけど、その代用だ。
手提げバッグみたいな形で、きちんと取っ手部分も作ってカバンの本体と組み上げた。
丁寧に加工し、持ちやすいような形に工夫はしてある。
「ほら、ナナ。この木製のカバンに、見つけた食材を入れて運べば便利だろ?」
「そうね! 頭いいじゃない裕樹」
レイラに案内してもらって見つけた食材を、俺やナナが運べばいい。
まるで売り物みたいに綺麗に切り出された木製のバッグを見て、レイラが呆れ顔で言う。
「はぁ、まったくユウキってば本当に器用よね。あれだけの剣の腕を持ってる戦闘職なのに、こんなこと出来る人みたことないわ」
「はは、まあ色々事情があってさ」
本当は戦闘職だけじゃなくて生産職も使ってるんだよな。
話しても急には信じてもらえそうにないけどさ。
ナナもすっかりこの入れ物が気に入ったようだ。
「へえ、これなら取っ手もついてるし軽くて持ちやすいわ! それに木のカバンなんて可愛いし」
「だろ?」
ナナが大喜びでカバンを持ってクルリと回ると、ククルが指をくわえてナナを見つめている。
「はう……ククルも欲しいです。木のカバン可愛いのです!」
「そっか、ククルも欲しいのか。分かったククル用のを作るからな」
食材は俺とナナで運ぶつもりだったけど、ナナの姿を見てたら欲しくなったんだろうな。
俺はまだ残っている木材を手に取るともう一つカバンを作る。
取っ手をつけたそのかばんの横には、ククル専用に印をつけておいた。
「ほら、出来たぞ! ククル」
「はう! 凄いのです! ククルのお顔がついてるのです!」
カバンの横に刻まれた印はククルの顔のマークだ。
俺たちのものよりも小さく作ってククルに持ちやすくしている。
ククルは大喜びで俺のまわりを走り回る。
「可愛いのです! ククルの宝物にするのです!」
「はは、そっか」
こんなに喜んでもらえると嬉しいよな。
作った甲斐があるというものだ。
ナナは喜んでいるククルを優しく見つめながら少し頬を膨らます。
「私のは?」
「……はいはい、ちょっとそれ貸してくれよ」
俺はナナのカバンにもマークをつけてやる。
まったく子供っぽいところがあるよなナナは。
「はぁ! 可愛い」
「ククルとお揃いなのです!」
「そうね!」
目を輝かせる二人。
まあいいか、喜んでくれてるんだし。
「さあ、準備も出来たし出かけようか」
レイラも張り切っている。
「じゃあついてきて、早速朝食探しよ!」
俺たちは頷く。
「ああ」
「はいです!」
「お~!」
俺たちは早速森の中に入っていく。
銀狼姿のレイラの鼻は大したもので、すぐに一つ目の食材を見つけた。
大きなキノコだ。
「うお! でかいな」
思わず声を出してしまった。
元々落ち葉と土の中に埋もれていたんだけど、レイラの嗅覚で探り当てたそれは、なんだか松茸に似ている。
それに見事なサイズである。
松茸よりも一回りは大きい。
しかもそこに三本並んで埋もれていた。
レイラはくんくんと匂いを嗅ぎながら尻尾を振った。
「ついてるわね、いきなりこんなものが見つかるなんて。しかもこんなに大きいし! ギルドに引き取ってもらったら、結構高く売れるんだから」
一方でナナは少し疑わしそうにキノコを見つめる。
「毒キノコじゃないわよね? えっと、【マルルナタケ】……『マルルナの木の傍にしか生えない珍しいキノコ。その味と香りは最高で高級食材として珍重される。特に獣人や一部の獣はその香りをとても好む』か。大丈夫のようね。よく見ると美味しそうじゃない!」
ナナの奴、鑑定眼を使ったな。
ククルも嬉しそうにくんくんと匂いを嗅いで、キノコを一つ手に取るとバッグに入れる。
俺とナナも一つづつ取ってカバンにいれた。
「とってもいいにおいがするです! 早く食べたいのです」
「はは、確かにな。でもキノコだけじゃ少し物足りないか」
「はう!」
レイラもこのきのこの匂いが好きなんだろう、俺のカバンに入ったマルルナタケの匂いを堪能していた。
ナナは大きく背伸びをしながら言った。
「でも、意外と楽しいものね! こうして食べるものを探すのって」
「はいです!」
ククルもそう言って尻尾を立てた。
それにしても、森の中で食材探しか。
そんなこと考えもしなかったよな。
元の世界なら、スーパーやコンビニだってあるし。
山や森で食材を確保するなんて、猟師とか狩人って感じだ。
「ん? 狩人か……」
そういえば、選べる職業の中に狩人っていうのもあった気がする。
せっかくだ、試してみるか。
朝食探しに役に立つかもしれない。
「ステータスオープン!」
俺はすっかり食材探しにはまって辺りを探索しているナナやククルを尻目に、そう唱えていつものパネルを開ける。
「やっぱりあった、狩人か」
俺はそう思って、剣士をマスタージョブにしたままメインの職に狩人を選んだ。
レベルダウンするといつものように俺の体が淡く光って、それを繰り返すとカンストした。
そして狩人のステータスを確認しようとしたとき、暫く俺の傍できのこの匂いを堪能していたレイラが鋭い口調で声を上げる。
「何か来る! ナナ、ククル! 離れたら駄目よ!!」
俺も職業変更をしていて少し油断していた。
その瞬間、森の奥から凄まじい勢いで巨大な何かがこちらにやってくるのが見えた。
それは、ナナとククルの方へ一直線に向かっていく。
「ドリルホーン! ナナ、ククル、そのかばんを捨てなさい! マルルナタケの匂いを嗅ぎつけたのよ」
それは一本角を持つ巨大な猪だ。
落ち葉と土の中に埋もれていたそれを掘り出したから、その匂いにつられてやってきたのだろうか。
だとしたら凄い嗅覚だ。
それに聞いていた話よりもデカい!
狼の姿のレイラに引けを取らない大きさは、まるで山の主だ。
「大きい! こんな大物がこの森にいるなんて!!」
レイラはもう、うなり声を上げてそいつに向かって駆けだしている。
ナナとククルはあまりのことにかばんを捨てるどころか、ギュッと握りしめて立ち尽くしていた。
あんな奴に、体当たりされたら二人とも死んじまう!
ましてやあんな角で貫かれたりでもしたら。
俺は背筋が凍りついた。
「ナナ、ククル! うぉおおおおお!!」
俺は、剣を手に猛烈な勢いで駆けだしていた。
そこには、少しだけここを離れるが直ぐに帰ると書かれていた。
ククルは何度見ても驚くのか、その姿に声を上げた。
「ふぁ! レイラお姉ちゃん、また狼になったです!」
それを聞いてレイラは笑う。
「ええ、この方が鼻が利くのよ。食材探しするなら、やっぱり鼻は大事だからね」
「へえ、確かにそんな気はするよな」
ナナは少し心配そうに言う。
「でも、せっかく食材見つけても、何だかレイラに全部食べられそうね」
「はう、レイラお姉ちゃん沢山食べそうです!」
ククルも大きく頷いた。
それを聞いてレイラが心外だって顔をした。
「ちょっと、いくら何でもこの姿のまま見つけた食材をいきなり食べたりはしないわよ」
「はは、そりゃそうだ」
何しろこのサイズだ、ナナやククルが心配したように全部食べられちまいそうだもんな。
昨日なんてククルにあの悪党たちを食べちまったと思われてたんだから。
「そうだ。手ぶらでいくのも何か見つけた時に困るよな」
俺は地面にあるものの絵をかいて眺める。
「まあ、こんな感じか」
そして、昨日倉庫を作った時に少し余った板を手に取った。
ナナが不思議そうに俺を眺める。
「何するの? 裕樹」
「ああ、見つけた食材を運ぶ入れ物を作ろうと思ってさ」
先程から俺は職業を大工と剣士に変えている、その板から木製のカバンを二つ切り出した。
本当は布で作るのがいいんだろうけど、その代用だ。
手提げバッグみたいな形で、きちんと取っ手部分も作ってカバンの本体と組み上げた。
丁寧に加工し、持ちやすいような形に工夫はしてある。
「ほら、ナナ。この木製のカバンに、見つけた食材を入れて運べば便利だろ?」
「そうね! 頭いいじゃない裕樹」
レイラに案内してもらって見つけた食材を、俺やナナが運べばいい。
まるで売り物みたいに綺麗に切り出された木製のバッグを見て、レイラが呆れ顔で言う。
「はぁ、まったくユウキってば本当に器用よね。あれだけの剣の腕を持ってる戦闘職なのに、こんなこと出来る人みたことないわ」
「はは、まあ色々事情があってさ」
本当は戦闘職だけじゃなくて生産職も使ってるんだよな。
話しても急には信じてもらえそうにないけどさ。
ナナもすっかりこの入れ物が気に入ったようだ。
「へえ、これなら取っ手もついてるし軽くて持ちやすいわ! それに木のカバンなんて可愛いし」
「だろ?」
ナナが大喜びでカバンを持ってクルリと回ると、ククルが指をくわえてナナを見つめている。
「はう……ククルも欲しいです。木のカバン可愛いのです!」
「そっか、ククルも欲しいのか。分かったククル用のを作るからな」
食材は俺とナナで運ぶつもりだったけど、ナナの姿を見てたら欲しくなったんだろうな。
俺はまだ残っている木材を手に取るともう一つカバンを作る。
取っ手をつけたそのかばんの横には、ククル専用に印をつけておいた。
「ほら、出来たぞ! ククル」
「はう! 凄いのです! ククルのお顔がついてるのです!」
カバンの横に刻まれた印はククルの顔のマークだ。
俺たちのものよりも小さく作ってククルに持ちやすくしている。
ククルは大喜びで俺のまわりを走り回る。
「可愛いのです! ククルの宝物にするのです!」
「はは、そっか」
こんなに喜んでもらえると嬉しいよな。
作った甲斐があるというものだ。
ナナは喜んでいるククルを優しく見つめながら少し頬を膨らます。
「私のは?」
「……はいはい、ちょっとそれ貸してくれよ」
俺はナナのカバンにもマークをつけてやる。
まったく子供っぽいところがあるよなナナは。
「はぁ! 可愛い」
「ククルとお揃いなのです!」
「そうね!」
目を輝かせる二人。
まあいいか、喜んでくれてるんだし。
「さあ、準備も出来たし出かけようか」
レイラも張り切っている。
「じゃあついてきて、早速朝食探しよ!」
俺たちは頷く。
「ああ」
「はいです!」
「お~!」
俺たちは早速森の中に入っていく。
銀狼姿のレイラの鼻は大したもので、すぐに一つ目の食材を見つけた。
大きなキノコだ。
「うお! でかいな」
思わず声を出してしまった。
元々落ち葉と土の中に埋もれていたんだけど、レイラの嗅覚で探り当てたそれは、なんだか松茸に似ている。
それに見事なサイズである。
松茸よりも一回りは大きい。
しかもそこに三本並んで埋もれていた。
レイラはくんくんと匂いを嗅ぎながら尻尾を振った。
「ついてるわね、いきなりこんなものが見つかるなんて。しかもこんなに大きいし! ギルドに引き取ってもらったら、結構高く売れるんだから」
一方でナナは少し疑わしそうにキノコを見つめる。
「毒キノコじゃないわよね? えっと、【マルルナタケ】……『マルルナの木の傍にしか生えない珍しいキノコ。その味と香りは最高で高級食材として珍重される。特に獣人や一部の獣はその香りをとても好む』か。大丈夫のようね。よく見ると美味しそうじゃない!」
ナナの奴、鑑定眼を使ったな。
ククルも嬉しそうにくんくんと匂いを嗅いで、キノコを一つ手に取るとバッグに入れる。
俺とナナも一つづつ取ってカバンにいれた。
「とってもいいにおいがするです! 早く食べたいのです」
「はは、確かにな。でもキノコだけじゃ少し物足りないか」
「はう!」
レイラもこのきのこの匂いが好きなんだろう、俺のカバンに入ったマルルナタケの匂いを堪能していた。
ナナは大きく背伸びをしながら言った。
「でも、意外と楽しいものね! こうして食べるものを探すのって」
「はいです!」
ククルもそう言って尻尾を立てた。
それにしても、森の中で食材探しか。
そんなこと考えもしなかったよな。
元の世界なら、スーパーやコンビニだってあるし。
山や森で食材を確保するなんて、猟師とか狩人って感じだ。
「ん? 狩人か……」
そういえば、選べる職業の中に狩人っていうのもあった気がする。
せっかくだ、試してみるか。
朝食探しに役に立つかもしれない。
「ステータスオープン!」
俺はすっかり食材探しにはまって辺りを探索しているナナやククルを尻目に、そう唱えていつものパネルを開ける。
「やっぱりあった、狩人か」
俺はそう思って、剣士をマスタージョブにしたままメインの職に狩人を選んだ。
レベルダウンするといつものように俺の体が淡く光って、それを繰り返すとカンストした。
そして狩人のステータスを確認しようとしたとき、暫く俺の傍できのこの匂いを堪能していたレイラが鋭い口調で声を上げる。
「何か来る! ナナ、ククル! 離れたら駄目よ!!」
俺も職業変更をしていて少し油断していた。
その瞬間、森の奥から凄まじい勢いで巨大な何かがこちらにやってくるのが見えた。
それは、ナナとククルの方へ一直線に向かっていく。
「ドリルホーン! ナナ、ククル、そのかばんを捨てなさい! マルルナタケの匂いを嗅ぎつけたのよ」
それは一本角を持つ巨大な猪だ。
落ち葉と土の中に埋もれていたそれを掘り出したから、その匂いにつられてやってきたのだろうか。
だとしたら凄い嗅覚だ。
それに聞いていた話よりもデカい!
狼の姿のレイラに引けを取らない大きさは、まるで山の主だ。
「大きい! こんな大物がこの森にいるなんて!!」
レイラはもう、うなり声を上げてそいつに向かって駆けだしている。
ナナとククルはあまりのことにかばんを捨てるどころか、ギュッと握りしめて立ち尽くしていた。
あんな奴に、体当たりされたら二人とも死んじまう!
ましてやあんな角で貫かれたりでもしたら。
俺は背筋が凍りついた。
「ナナ、ククル! うぉおおおおお!!」
俺は、剣を手に猛烈な勢いで駆けだしていた。
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