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3、マスタースキル

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 周囲の連中はざわめいているが一番驚いているのは俺だ。
 こちらを警戒しているのか、取り囲んだ兵士も剣は構えているが、様子を伺うようにまだ斬りかかっては来ない。
 それに、さっきの二人程度の動きなら今の俺にはまるで止まって見えるぐらいだ。

 それにしても レベル9999? 何言ってるんだ。
 そんなはずないだろう。
 その時、小さな妖精のような美少女がふわりと俺の肩の上に座った。

「本当よ。貴方のレベルは9999。いわゆるカンスト、マスターレベルね」

「カンストって……いや、そもそも君は誰なんだ?」

 訳が分からずに問い返す俺に、彼女は肩をすくめる。

「どんな職業でもマスターレベルになった者には、特別な力が与えられるわ。自分のステータスを見てごらんなさいよ」

「いや、見たくてももう水晶が割れてるし」

 彼女はふぅとため息を吐くと答える。

「そんなの必要ないわよ。ステータスオープンって言ってごらんなさい」

「え?」

「いいから」

 俺は訳も分からないまま促されるままに言う。

「ステータスオープン!」

 すると、少女の体が淡く輝いて、俺の前にパネルのようなものが現れる。
 そしてそこにはこう記されていた。

 名前:佐倉木裕樹
 種族:人間
 レベル:レベル9999
 職業:なし
 力:7276
 体力:6732
 魔力:4732
 速さ:7321
 器用さ:5538
 集中力:6752
 幸運:5732

 魔法:なし
 物理スキル:なし
 特殊魔法:なし
 特殊スキル:なし
 ユニークスキル:【自分のレベルを一つ下げる(使用制限98回)】
 マスタースキル:【鑑定眼】
 称号:召喚されし勇者

「な! なんだこれ……」

 本当にレベルが9999になってる。
 相変わらず魔法とかは何も持っていないけど、ステータスの値はとんでもないことになっている。
 まさか……レベル0からさらにレベルを下げた時にこうなったのか?
 自分の目が信じられないが、そうとしか考えられない。

 これなら、さっきあの兵士たちの攻撃をかわせた理由も分かる。
 凄まじい身体能力になっていたし、相手の攻撃を見切る時、時が止まったように見えるほど研ぎ澄まされるような集中力も凄かった。
 それだけじゃない、自分のレベルを下げるユニークスキル意外に一つ変わった項目があった。

「このマスタースキル、【鑑定眼】って……」

 俺の言葉に小さな少女は頷いた。

「言ったでしょう。どんな職業でもカンストをすると一つだけ特別なスキルを身に着けることが出来る。それがマスタースキルよ。職業の選択がないとランダムに基本的なマスタースキルが選択されるんだけど【鑑定眼】はその一つ。人や物の本質を見極めて鑑定する力。私はこの【鑑定眼】に付属するナビゲーターよ」

 ということは別の職業でカンストすれば、また別のマスタースキルが手に入ると言うことだろうか。
 いや今はそれよりも。

「ナビゲーター?」

 俺の問いに彼女は頷く。

「ええ。簡単に言えばスキルの説明係ね。貴方が願えば、私がどんな相手でも物でもその力を見通してあげる」

「もしかしてこのパネルも」

「そうよ、私と【鑑定眼】の力。感謝しなさいよね」

 ツンと澄ましたその顔は美しい。
 まるで本物の妖精のようだ。

「あ、あのさ、君の名前は? 俺は裕樹っていうんだ」

「知ってるわよ。私の目に見通せないものはないもの。私の名前はナナ、よろしくね裕樹!」

 なんだか俺は嬉しかった。
 この世界に来て、孤独感しかなかったけどこうやって話が出来る相手が出来たと思うと。
 そんな中、恐れをなしたように俺に攻撃を仕掛けられないでいる衛兵たちの様子に痺れを切らしたのか、国王がもう一度叫んだ。

「ええい! 何をしておる! 早くその男を始末せよ!!」

 その声に押されたように衛兵たちは一斉に、俺に剣を振りかざすと向かってきた。

「こ、この下郎め!」

「そうだ、こんなクズに負けるわけがない」

「死ねぇええ!」

 ナナはまるで彼らのステータスを確認するかのように見渡すと、肩をすくめた。

「馬鹿な連中ね。こんなステータスで貴方と戦おうなんて」

 彼女の言葉の通り、衛兵たちの動きは今の俺には止まって見える。
 ステータスにある集中力の高さが生きているのだろう。
 そして、それを活かすための身体能力も。

「ぐは!」

「そ、そんな馬鹿な……」

 斬りかかる衛兵の群れとすれ違った一瞬で、俺は彼らの攻撃をすべてかわし、反撃のカウンターを入れていた。
 その場に倒れていく数十名の兵士たち。
 残りの衛兵は恐れをなして立ちすくんだ。

「つ、強い!」

「あり得ない、何だこの強さは!」

 それを見て、国王が玉座から立ち上がって金切り声を上げた。

「おのれぇ! 何をしておる!!」

 その時──

「役に立たねえ連中ばっかり揃えてやがるな。面倒くせえ、俺が始末してやるよ」

 そう言って俺の方に歩いてくるのは、いつもながら嫌な薄ら笑いを浮かべた男──玲児だ。
 玲児は俺の前に立つと肩をすくめていう。

「何をしたのかは知らねえが、いい気になるなよ。向こうの世界でもこちらの世界でも、お前みたいなクズが俺に勝つことなんてあり得ねえ。それを教えてやるぜ」
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