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231、戦いと休息

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 エイジたちがゲートをくぐってから2時間ほど経過した頃。
 討伐隊の任務はまだ続いていた。

「はぁあああ!!」

 気合の込められた声と共に、大きく広げられた白い翼。
 美しい女騎士が、鮮やかに宙を舞い敵を切り裂く。
 エリクはその姿を見て感心した。

(剣から迷いがなくなっている。剣士として一回り成長しましたね、オリビア)

 オリビアがパラサイトアントを切り裂き、リザードドラゴンがひるんだところを見事にシェリルが撃ち抜く。

「やったにゃ! オリビア!!」

「ええ、シェリル!」

 そして、広い通路の中を舞うように戦う影がもう一つ。
 炎を帯びた剣を右手に鮮やかにリザードドラゴンを翻弄すると、背後に回り込み寄生生物の急所を貫く。
 
「はっ!」

 気合を入れた瞬間に、その刃は真紅に輝きパラサイトアントを痙攣させる。
 宿主の尾の反撃が来る頃には、敵の背を蹴り見事に離れた場所に着地をするその姿。
 まるでくノ一のようなその戦いぶりを見せるのは、ダークエルフの舞姫、アンジェである。

「エリス! お願い」

「ええ、ファイヤーランス!」

 怯んだ敵の喉元を、エリスのファイヤーランスが貫いた。
 横倒しになったリザードドラゴンは、そのまま絶命する。
 エリクの傍に立つライアンが、呆れたようにその姿を眺めていた。

「やるねぇ、アンジェもエリスも。オリビアたちのコンビに負けちゃあいねえな、もう三体は連続して倒してるぜ」

「全くですね」

 ライアンの言葉に同意しながら、エリクは二人を眺めた。

(エイジの力でレベルが急上昇してるからでしょうが、これ程とは)

 実際に二人のレベルは格段に上がっている。
 エイジの加護と、魔物とのレベル差があったため、レベル20まではあっという間であった。
 その後も順調にレベルが上がり、今やエリスは既に中級クラスのレベル28の魔道士、アンジェは中級クラスのレベル27のシーフである。
 そろそろ並みの冒険者なら限界に達するレベルだが、二人の成長は衰えている様子はない。
 それだけ素質があるという証だ。
 定期的にホーリーブレスをかけ直しているリアナも同様である。

(まだ中級クラスの30手前。普通なら精々Cランクの高位ですが、彼女たちはもうBランク上位程度の力は持っている。アンジェに至ってはあの剣のおかげもあるでしょうが、Aランクに迫っていますね)

 そして、今度はオリビアやシェリルを眺める。

(それに刺激されたのか、うちの三人も力を上げた。三人とも完全にAランクの領域に入っている。特にオリビアは凄い、あの技の切れ、そして魔力の高まり。うかうかしていると私も抜かれますね、精神的な変化でもあったのでしょうか?)

「いや、愚問ですかね。原因はやはり彼でしょう」

 エリクはそう一人呟きながら、アンジェとオリビアの更に奥で魔物と戦う少年の姿を見つめていた。
 ひと際大きなリザードドラゴンの脇に回り込み、大剣を一振りするその姿。
 彼の気で覆われた大剣。
 その闘気の強さは、ゲートをくぐった時よりも遥かに増している。
 わき腹を深く切り裂かれた魔物が、尾を振り回す。

「はぁあああああ!!」

 少年は、その巨大な尾を袈裟斬りでいとも簡単に両断する。
 地面に転がるドラゴンの尻尾。
 寄生生物に操られて血のように染まった魔物の目。
 少年体をかみ砕こうと巨大な顎を振り下ろした。

 グォオオオオオオン!!

 その瞬間、彼の体が霞むように動く。
 鮮やかにそのアギトをかわすと、大剣を一閃した。

「おおおおおおお!!」

 ザンッ!!

 強烈な闘気が宿ったその大剣は、見事にリザードドラゴンの首を刎ねる。
 と同時に、背中に寄生していたパラサイトアントの体も上下に両断した。
 ライアンはそれを見て肩をすくめた。

「おいおい、デタラメな強さだなあいつは。朝あった時とはもう別人だぜ!」

「はは、全くです。稀に現れるSランクと呼ばれる冒険者の成長の過程も、周りから見れば桁違いだとはよく聞きますが。彼はそれ以上かもしれませんね」

(あの見事な大剣の力もあるでしょうが。常識の枠外の剣士ですね、彼は)

 アンジェがふぅと一息つきながら言う。

「周囲に敵の気配はないわ。奥に進む前に一休みしましょう」

 エリクもその言葉に同意する。

「ええ、そうですね。戦い通しでしたから」

 オリビアも頷くと奥にいるエイジに声をかける。

「エイジ、少し休みましょう」

「ああ、オリビア」

 エイジもふぅと長く息を吐くと、剣を背中の鞘にしまう。
 エリクの周りに集まる討伐隊の隊員たち。
 魔物を倒しながら階層も徐々に下まで降りてきて、今は34階層である。
 エリクは皆を眺めながら言う。

「ひとまず体を休めてください。この後は、いよいよ討伐任務の最終段階ですよ」
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