67 / 254
連載
222、アンジェの願い
しおりを挟む
「ふふ、面白いものを見せてくれるじゃないか。どうやら、こちらは決着がついたようだね」
ジーナの言葉を聞きながら、エイジは思わず息を吐いた。
鮮やかに反転したライアンの槍が届くよりも、エイジが左手で抜いた剣の方が彼の胸元に突きつけられる方が僅かに速かった。
「ちっ……あの体勢のまま、あそこから踏み込んできやがるとはな。くそっ! 俺の負けだぜ」
ライアンはそう言うと、相手に向けていた大槍を戻す。
負けはしたが不思議と苛立ちは無い、寧ろ全力で戦った清々しさがある。
(不思議な野郎だぜ、こいつは)
ライアンはそう思うと笑みを浮かべた。
エイジも左手に持った剣を戻しながら答える。
「あの距離にいたらどうせ負けてたからな。一か八かさ」
ライアンの大槍を打ち返して、振り抜かれたエイジの大剣。
エイジはその力に振り回されるのを防ぐために、咄嗟に左手で腰から提げた剣を抜いて逆方向に体を回転させることで、その勢いを殺した。
右手に握られた大剣と左手に握られた剣。
刹那の判断が生み出した、二刀という妙技。
(それにしても、さっきの力は一体何だ?)
エイジは思う。
肩防具が光を放った瞬間に得られた恐るべき力。
彼は鑑定眼で自分の肩防具を確認する。
『名匠の魂が込められた肩当:防具固有スキル【エンハンスパワー】』
(エンハンスパワー、これか!)
エイジはその力を確認した。
『防具固有スキル:エンハンスパワー 名匠と呼ばれる鍛冶職人が、魂と祈りを込めて作った肩当に秘められし力。使用者の闘気に応じて力を引き上げる。闘気の強さにより最大、通常時と比較して二倍の力で攻撃が可能』
(凄いな、闘気に応じて力が最大二倍まで上がるのか)
右手に持った大剣を振ってみる。
両手剣が、今までよりも遥かに軽く感じた。
到底二倍とまでは行かないレベルだが、確かに力は上昇している。
(今はまだ精々三割増しってところだな。それに……)
いきなり力が上昇した分、先程はバランスを崩して窮地に陥った。
使っていくことで慣れるしかないな、とエイジは思う。
(そうだ、それよりも!)
エイジは後ろを振り返った。
少し離れた場所では、アンジェとオリビアが対峙している。
ライアンは舌打ちしながら頭を掻いた。
「畜生、こりゃあ後でオリビアにこってり絞られるぜ。言っとくがエイジ、本気になったあいつは強いぜ。見てみろよ、お前の仲間のあの子にゃあ勝ち目はねえよ」
その時、エリスとリアナの叫び声が響く。
「エイジ! アンジェが!」
「きゃぁああ!!」
リアナの叫び声がこだまする。
エイジは見た。
鮮やかに踏み込み斬り合った二人。
交差する美しい人影。
そして、浅い刀傷を右腕に刻まれるアンジェの姿を。
思わず膝をつくアンジェを見おろす、聖騎士と呼ばれる女の冷たい瞳。
「言ったはずよ、身の程を知ることになると」
「くっ……うぅ」
よろめきながら、後ろに下がるアンジェ。
だが勝気な性格を物語るように、その右手にはしっかりと『紅』が握られている。
「アンジェ!」
その姿を見て、一直線にアンジェに向かって走るエイジ。
アンジェは叫んだ。
「来ないで! エイジ!!」
「アンジェ……」
真っすぐに目の前の女騎士を見据えてそう叫ぶダークエルフの少女の姿に、エイジは思わず足を止めた。
『紅』が炎を帯びているのを見たからだ。
それを握る少女の強い意志を示すかのように。
アンジェは、自らの肩当に左手を伸ばして思う。
(この女、本当に強い。でも魔闘幻舞を使えば……)
防具を取り去って全ての魔力を解放すれば、『紅』を手にした今ならAランクに迫る力を出せるかもしれない。
目の前の女は、Bランクの上位、それもトップクラスに入る程の力を持っている。
剣を合わせてみてそれがハッキリと分かった。
ダークエルフの少女の手が震える。
(駄目……今これを使ったら、エイジたちと一緒に迷宮に入れない)
アンジェは思う。
やっと出来た大切な仲間。
アンジェは肩当から左手を放した。
だけど……
少女の瞳の奥に決意の炎が灯る。
その仲間の前で、だらしない姿は見せたくない。
特にあの少年の前では。
彼はどこかラエサルに似ている。
時々見せる少しだらしない笑顔。
そして、真っすぐに前を見て剣を振るう時の見違えるような凛々しさも。
心配そうにこちらを見ている少年に、アンジェは微笑んだ。
(そんなに心配そうに見ないで。私だって、エイジの隣にいられる剣の使い手でありたい!)
ジーナは、アンジェのその表情を見て呟いた。
「若いね。昔は私もそう思ったものさ……あいつの隣にいられる女でありたいってね」
「アクセル!!」
その声と同時に、アンジェの体がブレるように動いた。
ジーナの言葉を聞きながら、エイジは思わず息を吐いた。
鮮やかに反転したライアンの槍が届くよりも、エイジが左手で抜いた剣の方が彼の胸元に突きつけられる方が僅かに速かった。
「ちっ……あの体勢のまま、あそこから踏み込んできやがるとはな。くそっ! 俺の負けだぜ」
ライアンはそう言うと、相手に向けていた大槍を戻す。
負けはしたが不思議と苛立ちは無い、寧ろ全力で戦った清々しさがある。
(不思議な野郎だぜ、こいつは)
ライアンはそう思うと笑みを浮かべた。
エイジも左手に持った剣を戻しながら答える。
「あの距離にいたらどうせ負けてたからな。一か八かさ」
ライアンの大槍を打ち返して、振り抜かれたエイジの大剣。
エイジはその力に振り回されるのを防ぐために、咄嗟に左手で腰から提げた剣を抜いて逆方向に体を回転させることで、その勢いを殺した。
右手に握られた大剣と左手に握られた剣。
刹那の判断が生み出した、二刀という妙技。
(それにしても、さっきの力は一体何だ?)
エイジは思う。
肩防具が光を放った瞬間に得られた恐るべき力。
彼は鑑定眼で自分の肩防具を確認する。
『名匠の魂が込められた肩当:防具固有スキル【エンハンスパワー】』
(エンハンスパワー、これか!)
エイジはその力を確認した。
『防具固有スキル:エンハンスパワー 名匠と呼ばれる鍛冶職人が、魂と祈りを込めて作った肩当に秘められし力。使用者の闘気に応じて力を引き上げる。闘気の強さにより最大、通常時と比較して二倍の力で攻撃が可能』
(凄いな、闘気に応じて力が最大二倍まで上がるのか)
右手に持った大剣を振ってみる。
両手剣が、今までよりも遥かに軽く感じた。
到底二倍とまでは行かないレベルだが、確かに力は上昇している。
(今はまだ精々三割増しってところだな。それに……)
いきなり力が上昇した分、先程はバランスを崩して窮地に陥った。
使っていくことで慣れるしかないな、とエイジは思う。
(そうだ、それよりも!)
エイジは後ろを振り返った。
少し離れた場所では、アンジェとオリビアが対峙している。
ライアンは舌打ちしながら頭を掻いた。
「畜生、こりゃあ後でオリビアにこってり絞られるぜ。言っとくがエイジ、本気になったあいつは強いぜ。見てみろよ、お前の仲間のあの子にゃあ勝ち目はねえよ」
その時、エリスとリアナの叫び声が響く。
「エイジ! アンジェが!」
「きゃぁああ!!」
リアナの叫び声がこだまする。
エイジは見た。
鮮やかに踏み込み斬り合った二人。
交差する美しい人影。
そして、浅い刀傷を右腕に刻まれるアンジェの姿を。
思わず膝をつくアンジェを見おろす、聖騎士と呼ばれる女の冷たい瞳。
「言ったはずよ、身の程を知ることになると」
「くっ……うぅ」
よろめきながら、後ろに下がるアンジェ。
だが勝気な性格を物語るように、その右手にはしっかりと『紅』が握られている。
「アンジェ!」
その姿を見て、一直線にアンジェに向かって走るエイジ。
アンジェは叫んだ。
「来ないで! エイジ!!」
「アンジェ……」
真っすぐに目の前の女騎士を見据えてそう叫ぶダークエルフの少女の姿に、エイジは思わず足を止めた。
『紅』が炎を帯びているのを見たからだ。
それを握る少女の強い意志を示すかのように。
アンジェは、自らの肩当に左手を伸ばして思う。
(この女、本当に強い。でも魔闘幻舞を使えば……)
防具を取り去って全ての魔力を解放すれば、『紅』を手にした今ならAランクに迫る力を出せるかもしれない。
目の前の女は、Bランクの上位、それもトップクラスに入る程の力を持っている。
剣を合わせてみてそれがハッキリと分かった。
ダークエルフの少女の手が震える。
(駄目……今これを使ったら、エイジたちと一緒に迷宮に入れない)
アンジェは思う。
やっと出来た大切な仲間。
アンジェは肩当から左手を放した。
だけど……
少女の瞳の奥に決意の炎が灯る。
その仲間の前で、だらしない姿は見せたくない。
特にあの少年の前では。
彼はどこかラエサルに似ている。
時々見せる少しだらしない笑顔。
そして、真っすぐに前を見て剣を振るう時の見違えるような凛々しさも。
心配そうにこちらを見ている少年に、アンジェは微笑んだ。
(そんなに心配そうに見ないで。私だって、エイジの隣にいられる剣の使い手でありたい!)
ジーナは、アンジェのその表情を見て呟いた。
「若いね。昔は私もそう思ったものさ……あいつの隣にいられる女でありたいってね」
「アクセル!!」
その声と同時に、アンジェの体がブレるように動いた。
0
お気に入りに追加
5,796
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。
いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成!
この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。
戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。
これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。
彼の行く先は天国か?それとも...?
誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。
小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中!
現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。
神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~
雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。