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222、アンジェの願い

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「ふふ、面白いものを見せてくれるじゃないか。どうやら、こちらは決着がついたようだね」

 ジーナの言葉を聞きながら、エイジは思わず息を吐いた。
 鮮やかに反転したライアンの槍が届くよりも、エイジが左手で抜いた剣の方が彼の胸元に突きつけられる方が僅かに速かった。
 
「ちっ……あの体勢のまま、あそこから踏み込んできやがるとはな。くそっ! 俺の負けだぜ」

 ライアンはそう言うと、相手に向けていた大槍を戻す。
 負けはしたが不思議と苛立ちは無い、寧ろ全力で戦った清々しさがある。

(不思議な野郎だぜ、こいつは)

 ライアンはそう思うと笑みを浮かべた。
 エイジも左手に持った剣を戻しながら答える。

「あの距離にいたらどうせ負けてたからな。一か八かさ」

 ライアンの大槍を打ち返して、振り抜かれたエイジの大剣。
 エイジはその力に振り回されるのを防ぐために、咄嗟に左手で腰から提げた剣を抜いて逆方向に体を回転させることで、その勢いを殺した。
 右手に握られた大剣と左手に握られた剣。
 刹那の判断が生み出した、二刀という妙技。

(それにしても、さっきの力は一体何だ?)

 エイジは思う。
 肩防具が光を放った瞬間に得られた恐るべき力。
 彼は鑑定眼で自分の肩防具を確認する。

『名匠の魂が込められた肩当:防具固有スキル【エンハンスパワー】』

(エンハンスパワー、これか!)

 エイジはその力を確認した。

『防具固有スキル:エンハンスパワー 名匠と呼ばれる鍛冶職人が、魂と祈りを込めて作った肩当に秘められし力。使用者の闘気に応じて力を引き上げる。闘気の強さにより最大、通常時と比較して二倍の力で攻撃が可能』

(凄いな、闘気に応じて力が最大二倍まで上がるのか)

 右手に持った大剣を振ってみる。
 両手剣が、今までよりも遥かに軽く感じた。
 到底二倍とまでは行かないレベルだが、確かに力は上昇している。

(今はまだ精々三割増しってところだな。それに……)

 いきなり力が上昇した分、先程はバランスを崩して窮地に陥った。
 使っていくことで慣れるしかないな、とエイジは思う。

(そうだ、それよりも!)

 エイジは後ろを振り返った。
 少し離れた場所では、アンジェとオリビアが対峙している。
 ライアンは舌打ちしながら頭を掻いた。

「畜生、こりゃあ後でオリビアにこってり絞られるぜ。言っとくがエイジ、本気になったあいつは強いぜ。見てみろよ、お前の仲間のあの子にゃあ勝ち目はねえよ」

 その時、エリスとリアナの叫び声が響く。

「エイジ! アンジェが!」

「きゃぁああ!!」

 リアナの叫び声がこだまする。
 エイジは見た。
 鮮やかに踏み込み斬り合った二人。
 交差する美しい人影。
 そして、浅い刀傷を右腕に刻まれるアンジェの姿を。
 思わず膝をつくアンジェを見おろす、聖騎士と呼ばれる女の冷たい瞳。

「言ったはずよ、身の程を知ることになると」

「くっ……うぅ」

 よろめきながら、後ろに下がるアンジェ。
 だが勝気な性格を物語るように、その右手にはしっかりと『紅』が握られている。

「アンジェ!」

 その姿を見て、一直線にアンジェに向かって走るエイジ。
 アンジェは叫んだ。

「来ないで! エイジ!!」

「アンジェ……」

 真っすぐに目の前の女騎士を見据えてそう叫ぶダークエルフの少女の姿に、エイジは思わず足を止めた。
『紅』が炎を帯びているのを見たからだ。
 それを握る少女の強い意志を示すかのように。
 アンジェは、自らの肩当に左手を伸ばして思う。

(この女、本当に強い。でも魔闘幻舞を使えば……)

 防具を取り去って全ての魔力を解放すれば、『紅』を手にした今ならAランクに迫る力を出せるかもしれない。
 目の前の女は、Bランクの上位、それもトップクラスに入る程の力を持っている。
 剣を合わせてみてそれがハッキリと分かった。
 ダークエルフの少女の手が震える。

(駄目……今これを使ったら、エイジたちと一緒に迷宮に入れない)

 アンジェは思う。
 やっと出来た大切な仲間。
 アンジェは肩当から左手を放した。
 だけど……

 少女の瞳の奥に決意の炎が灯る。
 その仲間の前で、だらしない姿は見せたくない。
 特にあの少年の前では。
 彼はどこかラエサルに似ている。
 時々見せる少しだらしない笑顔。
 そして、真っすぐに前を見て剣を振るう時の見違えるような凛々しさも。
 心配そうにこちらを見ている少年に、アンジェは微笑んだ。

(そんなに心配そうに見ないで。私だって、エイジの隣にいられる剣の使い手でありたい!)

 ジーナは、アンジェのその表情を見て呟いた。

「若いね。昔は私もそう思ったものさ……あいつの隣にいられる女でありたいってね」

「アクセル!!」

 その声と同時に、アンジェの体がブレるように動いた。
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