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211、二人の男

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 俺たちはゴンドラの外に出ると、遺跡都市に降り立った。
 乗っている皆が降りて上に向かう人々が乗り込むと、ゴンドラは上昇していく。
 エリスやリアナは口々に驚きの声を上げる。

「これが遺跡都市ルイーナ……」

「見てエリス! 私たちが乗って来たゴンドラがもう」

 ミーナは二人の傍で、モフモフの尻尾を左右に動かしている。
 楽しそうな二人を見ているのが嬉しいのだろう。

(改めて見上げると凄いな……)

 ゴンドラが昇っていく巨大な柱と、淡い光を帯びている都市の天井。
 俺たちが降り立った場所は小さな広場のようになっており、ゴンドラが来るのを待つ人々が並んでいる。
 広場の隅には花壇もあり、綺麗な花が咲いている。

「驚いたぜ、植物まで生えてるんだな」

 花壇に歩み寄ると、エリスとリアナも驚いたよう頷いた。

「へえ、本当ね」

「綺麗だわ!」

 その横で、ミーナはしゃがみこむとジッと一輪の花を見ている。
 俺は膝をつくとミーナに尋ねた。

「どうしたんだ、ミーナ。この花が気になるのか?」

「虫さんがいるです。歩いてるです」

 ふとミーナの視線の先を見ると、タンポポに似たその花の茎をテントウムシのような可愛らしい虫が歩いている。
 花の上に乗ると羽根を広げて飛び立ち、ミーナの鼻の上にとまる。

「虫さんとまったです……くすぐったいです」

 尻尾をフリフリしながら少し困った顔をしているミーナの鼻先に、俺は指を近づける。
 すると今度は俺の指にやってきて、そこから空へと飛んでいく。
 こそばゆかったのか、ミーナは右手でくしゅくしゅと鼻の頭をこすった後、クシュンとくしゃみをした。
 そして、俺に礼を言う。

「エイジお兄ちゃん、ありがとです!」

「大丈夫か? ミーナ」

 コクンと頷くミーナを見て俺は思わず笑顔になる。
 それにしても……

(遺跡都市なんて言うから、廃墟みたいな場所に人が住んでいるのかと思ったけど、全く違ったな)

 迷宮の中だというのに、地上との違いをさほど感じさせない。
 ただ、街並みは地上とは違い遺跡のような建物と、新しく作られたのが分かる建造物が混在している。
 フローラさんは、俺の隣でルイーナの街並みを眺めながら言う。

「ルイーナがこれほど発展したのは、レオンリート陛下の御代になってからなんですよ。遺跡の研究に力を入れて、ゴンドラや排水設備といった都市機能の一部を使えるようにしたのは陛下です。フェロクの水道橋から水を引く施設も作られたお蔭で、人々も集まり、迷宮の中にこんな豊かな都市が出来たんです」

 ジーナさんが、フローラさんの言葉に頷いた。

「その結果、冒険者たちもより安全に深層に潜れるようになって、そこから得られる収益でフェロルクも益々栄えたって訳さ」

「へえ、なるほど」

 確かに地下三十階層にこれだけ充実した中継地点があれば、休息や物資の補給も容易だ。
 しかもゴンドラがあるから、どうしても地上の街でないと手に入らない物も補給に戻れる。
 フローラさんはその言葉に首を縦に振ると。

「ええ。ですから、この町を中継地として利用される冒険者の方も多いんですよ。荷物を置くための部屋を借りる方もいます。そのこともあって、冒険者や遺跡見学の方々向けの仕事する人々が多く暮らしてますわ」

 フローラさんは、ミーナの頭を撫でると話を続ける。

「レオンリート陛下は、貴族以外の人々にも遺跡の研究を許したんです。だからこそ優秀な人材が集まって、魔法科学の一部が解き明かされたんですわ」
 
 ミーナも真似がしたいのだろう、尻尾を立てると俺たちに言った。

「王様は偉いです! とってもいい王様だってみんな言ってるです」

 俺はその言葉に頷く。

「はは、そうだな。ミーナ」

「あらあら、ミーナったら。でも本当ね」

 フローラさんは微笑みながら頷いた。
 エリスは、遺跡都市を見渡しながら誇らしげな顔をしている。

(やっぱり偉大な王様だよな、エリスの父さんは)

 ミーナの話に出てきた悪い王様とは大違いである。
 そんなことを話していると、広場に通じる道をこちらにやってくる一団が見えた。
 護衛の騎士らしき兵士に守られて、十名程の男たちが歩いてくる。
 その服装や雰囲気は学者のように見えた。
 先頭を歩く二人の男は、他の者達とは衣装も違う。
 広場の人たちは彼らが近づいてくるのを見て頭を下げると、頭を下げて挨拶をしている。

(誰だろう?)

 先頭に立つ男の一人は、白いひげを生やした老人で人々からの挨拶に手を振って返事をしている。
 もう一人は、いかにもエリートといった雰囲気の若い男だった。
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