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208、扉の先へ

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「エイジさん。ルイーナに行くのが初めてでしたら、ゴンドラ乗り場をご覧になられたらきっと驚かれますわ」

「へえ、楽しみだな」

 俺はフローラさんの言葉を聞いて、ワクワクしてきた。
 何しろ、これからいよいよ迷宮の奥に向かうんだ。

(遺跡都市か、どんなところだろう?)

 エリスとリアナ、そしてアンジェはミーナと話しながら隣を歩いていた。
 楽しいのだろう、ミーナのモフモフの尻尾が嬉しそうに揺れている。
 ジーナさんは、エリクさんと仕事の話をしているようだ。

 スロープを上りきり、行列の先頭であるゴンドラ乗り場がいよいよ近づいてくる。
 俺は少し意外に思って首を傾げた。
 坂を上り切った先には、大きな縦穴がポッカリと口を広げている光景を想像していたからだ。
 だが、スロープを上った先は平らになっておりその先には、ただ壁が立っているだけだった。

「フローラさん、これがゴンドラ乗り場ですか?」

 前に並んでいる冒険者たちは、その壁の前に並んでいる。
 
「ふふ、エイジさん。初めてお乗りになる方は、皆さんそうおっしゃられますわ」

 そう言って俺を乗り場に促す姿は品が良く、ガイドの仕事をしているのがさもあろうと納得が出来る。
 そこにある扉が時々開閉すると、人が出入りしているのが分かる。

(この奥にゴンドラや縦穴があるのかな?)

 ついには俺たちの順番がきて、その扉の前に立つ。
 フローラさんは、壁にはめ込まれた白い宝玉を手で触れる。
 するとそれは淡く光った。

「フローラさん、何ですか? その宝玉は」

「ええ、自分たちが次に乗るときはこれに触れるんです。暫くするとゴンドラが来ますから」

 ゴンドラが来る? どういうことだろう。
 ミーナがチョコチョコと歩いてきてフローラを見上げると、しょんぼりする。

「もう光ってるです、ミーナが押したかったです」

「あらあら、ごめんなさいねミーナ。ミーナはこれを押すのが好きだものね。中に入ったら今度はミーナが押して頂戴ね」

 それを聞いてミーナは嬉しそうに頷いた。

「はいです! ミーナが押すです」

 エリスやリアナは首を傾げた。

「今度は、って?」

「ミーナ、何を頑張るの?」

 ミーナは大きな耳をピコピコとさせて、尻尾を立てると俺たちに言う。
 
「ママがお仕事の時にそうしてるです! ミーナ、ママみたいになりたいです」

 娘のその言葉に、フローラさんは少し照れたように笑う。
 そして嬉しそうにミーナの髪を撫でている。
 その時、宝玉の淡い光が消えて目の前の白い壁の扉が静かに開いた。

(まるで音もしないなんて凄いな、どうやって開け閉めしてるんだ? この扉)

 白く美しい石で出来た扉を見て、俺がそんなことを考えていると。
 フローラさんは慣れた様子で俺たちを中へと促した。
 俺とエリスやリアナは、中に入って首を傾げた。

「ん?」

「あれ、行き止まりよ?」

「おかしいわね」

 扉の先が縦穴に通じる通路になっていると思ったからだ。
 通路だと思って入った場所は、10mも行くと行き止まりになっている。
 白い石で作られた通路の壁は淡い光を放っていた。

「皆さん。ここはもう遺跡都市ルイーナの一部なんですよ」

「ここが? どういうことです? フローラさん」

 この通路が遺跡都市の一部?
 アンジェは悪戯っぽい目でこちらを見ている。

「すぐに分かるわよ、エイジ」

 俺たちを含めて20名程が、その通路に入ったところで扉が閉まる。
 気が付くとエリスたちの手を引いてミーナが、通路の突き当りにはめ込まれた半球状の宝玉に触れていた。
 それは入り口の壁に取り付けられていたものと、よく似ている。
 エリスとリアナは。

「ミーナ、これはなあに?」

「さっきの宝玉に似ているわね」

「これに触ると動くです! お空に行くです」

 くりくりした大きな目で嬉しそうにそう言うミーナ。

「空ってミーナ。俺たちは遺跡都市に……うお!?」

 通路の白い壁の一部が、まるで窓のように透明になっていく。
 そこから見える光景。
 それを見て俺は思わず言葉を失った。

(嘘……だろ!? 何だこれ!!)
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