成長チートになったので、生産職も極めます!

雪華慧太

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205、狐耳の少女

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「ママ、いないです。どこに行ったですか?」

 狐耳の少女は、ペタンと地面に腰を下ろしたまま、潤んだ目で自分とぶつかった冒険者にそう尋ねる。
 どうしたらいいのか分からなくて、途方にくれているのだろう。
 それで、思わず男にそう尋ねたに違いない。
 だが──

「あ? 知る訳ねえだろうが。畜生、汚ねえもの付けやがって!」

 若い冒険者はそう言って、涙ぐんでいる少女を睨む。
 俺たちよりも少しだけ年上だろうか。
 自分のズボンに当たった少女のアメでついた汚れを見て、舌打ちをする。
 吐き捨てるようなその声に、少女の瞳には益々涙が溜まっていく。
 その瞳から、大粒の涙がポロリと零れた。

「ちょっと、やめなさいよ! あなた、そんな小さな子に怒鳴って恥ずかしくないの!?」

 エリスはそう叫ぶと、少女に駆け寄った。

「そうよ! 酷いわ!!」

 リアナも一緒にそいつを睨みつけている。
 エリスは、狐耳の少女を抱き起してその頭を撫でた。

「大丈夫よ。お姉ちゃんたちが、貴方のママを見つけてあげるから。ほら、もう泣かないで」

「えぐっ……ほんとですか? ミーナと一緒に探してくれるですか?」

 その言葉に少女は、涙を浮かべながらエリスにキュッと抱きつく。
 少女の名前はミーナというのだろう。
 エリスは、その頭をもう一度優しく撫でる。

「そうよ、だからもう泣かないで」

 狐耳を大きく動かして、少女はコクリと頷いた。
 少女にぶつかった冒険者は、その子を抱くエリスを見おろして言う。

「知るかよ、そのガキが悪いんだろうが。それに、お前らEランクじゃねえか。雑魚どもが生意気言ってるんじゃねえよ!」

 冒険者の証を見る限りそいつはCランクだ、職業は剣士だろう、腰から剣を提げている。
 髪はグレイで、背は俺と同じぐらいだ。

「何ですって!」
 
 エリスやリアナと睨み合うその様子を見て、俺は間に入った。

「おい、エリス。相手にするなよ」

 俺の言葉にエリスは、怒りを抑えて相手を睨みつけると。

「そうね。こんな奴、相手にする価値もないわ!」

(はは……エリスは相変わらずだな)

 王女だと名乗って少しはお淑やかになったと思ったら、やはりその気の強さは健在だ。
 だが、少女はエリスに抱かれると安心するようで、ぴったりと抱きついている。
 
「おい、ちょっと待て! 今なんて言いやがった!」

 男が怒鳴りながらエリスの肩に手を伸ばす。
 俺はその腕を掴んだ。

「……てめえ」

 男の鋭い眼光が、俺を射抜いている。
 俺はその手首を強く握りしめて言う。

「やめようぜ。こんなところで喧嘩をするつもりはないんだ」

 確かにエリスの言い方にも問題はあるが、こんなに小さな子供にあの仕打ちは酷すぎる。
 俺は男を睨みながら言った。

「これから遺跡都市に向かうんだ。その前に怪我でもしたら、お互いつまらないだろう?」

 俺の言葉に男の傍に立っている女魔道士が、俺の冒険者の証を見て笑った。
 向こうのパーティメンバーの一人だ。

「アッシュ、こいつあんたのこと心配してくれてるみたいだよ。キャハハ、あんたも舐められたもんだね」

 他の二人の仲間もゲラゲラと笑った。

「大体、お前ら何しにルイーナに行くつもりだ?」

「大方、遺跡見物にでも行くんだろ? こういう屑がいるからゴンドラが混雑しやがる。どきやがれ、俺たちはな元々傭兵をしてたんだ。この町に来て間もないが、もうCランクでもトップクラスの実力よ」

 そう言って俺たちを嘲笑う連中を背に、アッシュは刀の柄に手を伸ばす。

「この俺が怪我をするかどうか試してみるか? 俺はいずれはBランクになる予定だ。お前みたいなEランクの雑魚には、俺の太刀筋さえ見えやしねえぜ!」

 威嚇だろうか? 男は剣を抜く。
 確かにその動作は鮮やかである。
 元傭兵、と言う言葉も頷けた。
 だが……

 ギィイイイイン!!

 金属がぶつかり合う音が辺りに響く。
 朝の光の中、一本の剣がクルクルと回転して宙を舞っている。
 アンジェが、アッシュを眺めると言った。

「あんた、やめておいたほうがいいわよ。エイジが本気を出したらその程度じゃすまないもの」

 俺が抜いた大剣に弾かれたアッシュの剣にはヒビが入り、宙を舞った後、地面に突き刺さっていた。
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