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408、光の中心
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「そうだ。じゃがあれはそんな単純なものではない、直ぐにそなたらにも分かるであろう」
子爵の言葉に、ラエサルとキーラは顔を見合わせる。
(どういうことだ? 『鍵』と呼ばれる剣と『封印』呼ばれる鞘、それが一つとなって精霊の王の剣となると聞いたが。他に何か役割があるということか?)
直ぐに分かると言う老人の言葉を信じて、歩き続ける二人。
ファルトラースのスピリットエレメンタルに導かれて、次第に青の海の中央に聳え立つ光の柱にたどり着く。
それを見上げて、思わず声を失うラエサルとキーラ。
「これは……」
「嘘でしょ? もしかしてまだ生きているの?」
生きているとは一体何のことだろうか。
キーラの言葉の理由は、その柱の光の源にある。
美しい光は、円柱状の柱の表面を流れるように動いている。
その光は時に強く、時に弱くまるで鼓動を打つかのように変化を続けていた。
問題はその表面に時折浮かび上がる存在だ。
それは巨大な鷲であり、巨大な魚であり、そして逞しく巨大な馬でもある。
それだけではない。
数限りない生き物たちが、その柱の光の流れに時折顔を出しては互いに溶け合うようにして再び光に沈んでいった。
キーラはゴクリと喉を鳴らして、ファルトラースに尋ねる。
「精霊ね………女王ララリシアに力を貸したといわれている高位精霊たち」
ファルトラースは美しいハーフエルフの女の言葉に静かに頷いた。
「そうじゃ。かつて天空王を封じるために精霊呪縛術式の礎になることを決意した高位精霊たち。世界を包むほどの術式を完成させるためには、多くの高位精霊たちの力が必要だったのじゃろう」
「まだ彼らは生きているのか?」
ラエサルは、キーラが先程問うた質問を再び老人に投げかける。
ファルトラースは光の柱を見上げて答えた。
「ワシにはその答えは出せぬ。意識を持った生命体としては死んでおると言えるだろう。じゃが一つの大きな生命の流れとしては生きておる。この術式の効力を未だに地上に放つためのエネルギーとしてな」
「高位精霊たちが一つに集まって、大きな別の生命体になったということか?」
ラエサルの問いにファルトラースは頷いた。
「そういうことだ。その為に互いの自我を捨てたのじゃろう。一つとなるためには、個々の意識など邪魔にしかならぬであろうからな」
「そんな……何万年もそうやって生き続けているなんて」
「固有の意識も自我も持たぬ生命体が、我らの言う生きているという概念に当てはまるのかは分からぬがな」
ラエサルは老人に尋ねた。
「彼らを再び精霊として蘇らせることは出来ないのか? もし俺たちに力を貸してくれれば……」
「そのような方法など、ワシには到底思いつきもせぬよ。この柱が無くなった世界がどうなるのかも分からぬ。この柱が無くなり、もしも精霊呪縛術式が完全に消え去ったとしたら? ラエサル、お主にも分かるであろう。今まで抑えられていた精霊の力が人間にどのような影響を与えるか予想もつかん」
キーラは頷いた。
「確かにそうね、公爵のような人間もいる。あの男だって精霊王の血を引いているのよ、その力が目覚めでもしたら……」
「そうじゃ。かつて天空王と呼ばれた男、奴のような人間が生まれてこぬとも限らん」
そう言ってファルトラースは首を横に振った。
「いや……奴のような人間ではなく、天空王自身がこの世界を滅ぼすかもしれぬ」
その言葉を聞いて、キーラは驚いた表情で尋ねる。
「どういうこと? 天空王は何万年も前に死んだんでしょ? 女王ララリシアが倒したって聞いたわ」
「死んだ、か。確かにそうかもしれぬ。間違ってはおらぬよ、あれを死と呼べるのであればそうじゃろう」
「どういうことだファルトラース子爵?」
ラエサルの問いに子爵は何も答えずに、光の柱の表面に静かに右手を当てた。
その右手に、彼のスピリットエレメンタルである白いフクロウが舞い降りてくる。
静かに詠唱を始める老人の姿。
老人を中心に青の海の表面に巨大な魔方陣が描かれていく。
フクロウが静かに鳴き声を上げると、それは輝きを増していった。
その刹那──
ラエサルたちは気が付いた。
自分たちが立っているのが先程とは違う場所だと。
いや、正確に言えば先程見ていた巨大な光の柱の内側に、自分たちが存在することに気が付く。
それはまるで光の大樹の中に立っているような感覚。
老人は静かに二人に注意を促した。
「ここは青の海の中心に立つ柱、その中でも最も中心に近い場所じゃ。ワシの傍を離れるでないぞ、光に包まれ穏やかに見えるが時空の歪みが最も激しい場所じゃ」
キーラとラエサルには老人の声は届いていた。
それが、命に関わるような重要な警告であることも分かっている。
だが、彼らは目の前の光景に目を奪われていた。
光の柱が一つの生命体だとしたら、その光が循環し上下から中央の『それ』に流れ込んでいる。
それが、まるで一つの生命体の心臓部分であるかのように。
キーラはそれを見上げている。
「これは一体何なの……まさか」
子爵は美しいハーフエルフの顔を眺めながら頷いた。
「そうじゃキーラ。そなたが考えている通りだ」
子爵の言葉に、ラエサルとキーラは顔を見合わせる。
(どういうことだ? 『鍵』と呼ばれる剣と『封印』呼ばれる鞘、それが一つとなって精霊の王の剣となると聞いたが。他に何か役割があるということか?)
直ぐに分かると言う老人の言葉を信じて、歩き続ける二人。
ファルトラースのスピリットエレメンタルに導かれて、次第に青の海の中央に聳え立つ光の柱にたどり着く。
それを見上げて、思わず声を失うラエサルとキーラ。
「これは……」
「嘘でしょ? もしかしてまだ生きているの?」
生きているとは一体何のことだろうか。
キーラの言葉の理由は、その柱の光の源にある。
美しい光は、円柱状の柱の表面を流れるように動いている。
その光は時に強く、時に弱くまるで鼓動を打つかのように変化を続けていた。
問題はその表面に時折浮かび上がる存在だ。
それは巨大な鷲であり、巨大な魚であり、そして逞しく巨大な馬でもある。
それだけではない。
数限りない生き物たちが、その柱の光の流れに時折顔を出しては互いに溶け合うようにして再び光に沈んでいった。
キーラはゴクリと喉を鳴らして、ファルトラースに尋ねる。
「精霊ね………女王ララリシアに力を貸したといわれている高位精霊たち」
ファルトラースは美しいハーフエルフの女の言葉に静かに頷いた。
「そうじゃ。かつて天空王を封じるために精霊呪縛術式の礎になることを決意した高位精霊たち。世界を包むほどの術式を完成させるためには、多くの高位精霊たちの力が必要だったのじゃろう」
「まだ彼らは生きているのか?」
ラエサルは、キーラが先程問うた質問を再び老人に投げかける。
ファルトラースは光の柱を見上げて答えた。
「ワシにはその答えは出せぬ。意識を持った生命体としては死んでおると言えるだろう。じゃが一つの大きな生命の流れとしては生きておる。この術式の効力を未だに地上に放つためのエネルギーとしてな」
「高位精霊たちが一つに集まって、大きな別の生命体になったということか?」
ラエサルの問いにファルトラースは頷いた。
「そういうことだ。その為に互いの自我を捨てたのじゃろう。一つとなるためには、個々の意識など邪魔にしかならぬであろうからな」
「そんな……何万年もそうやって生き続けているなんて」
「固有の意識も自我も持たぬ生命体が、我らの言う生きているという概念に当てはまるのかは分からぬがな」
ラエサルは老人に尋ねた。
「彼らを再び精霊として蘇らせることは出来ないのか? もし俺たちに力を貸してくれれば……」
「そのような方法など、ワシには到底思いつきもせぬよ。この柱が無くなった世界がどうなるのかも分からぬ。この柱が無くなり、もしも精霊呪縛術式が完全に消え去ったとしたら? ラエサル、お主にも分かるであろう。今まで抑えられていた精霊の力が人間にどのような影響を与えるか予想もつかん」
キーラは頷いた。
「確かにそうね、公爵のような人間もいる。あの男だって精霊王の血を引いているのよ、その力が目覚めでもしたら……」
「そうじゃ。かつて天空王と呼ばれた男、奴のような人間が生まれてこぬとも限らん」
そう言ってファルトラースは首を横に振った。
「いや……奴のような人間ではなく、天空王自身がこの世界を滅ぼすかもしれぬ」
その言葉を聞いて、キーラは驚いた表情で尋ねる。
「どういうこと? 天空王は何万年も前に死んだんでしょ? 女王ララリシアが倒したって聞いたわ」
「死んだ、か。確かにそうかもしれぬ。間違ってはおらぬよ、あれを死と呼べるのであればそうじゃろう」
「どういうことだファルトラース子爵?」
ラエサルの問いに子爵は何も答えずに、光の柱の表面に静かに右手を当てた。
その右手に、彼のスピリットエレメンタルである白いフクロウが舞い降りてくる。
静かに詠唱を始める老人の姿。
老人を中心に青の海の表面に巨大な魔方陣が描かれていく。
フクロウが静かに鳴き声を上げると、それは輝きを増していった。
その刹那──
ラエサルたちは気が付いた。
自分たちが立っているのが先程とは違う場所だと。
いや、正確に言えば先程見ていた巨大な光の柱の内側に、自分たちが存在することに気が付く。
それはまるで光の大樹の中に立っているような感覚。
老人は静かに二人に注意を促した。
「ここは青の海の中心に立つ柱、その中でも最も中心に近い場所じゃ。ワシの傍を離れるでないぞ、光に包まれ穏やかに見えるが時空の歪みが最も激しい場所じゃ」
キーラとラエサルには老人の声は届いていた。
それが、命に関わるような重要な警告であることも分かっている。
だが、彼らは目の前の光景に目を奪われていた。
光の柱が一つの生命体だとしたら、その光が循環し上下から中央の『それ』に流れ込んでいる。
それが、まるで一つの生命体の心臓部分であるかのように。
キーラはそれを見上げている。
「これは一体何なの……まさか」
子爵は美しいハーフエルフの顔を眺めながら頷いた。
「そうじゃキーラ。そなたが考えている通りだ」
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