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379、ファルティーシアの思い

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『つまり貴方は人でありながら精霊呪縛術式、その呪縛を受けていない存在だということです。リカルドが貴方をイレギュラーと呼んだのはそれが理由でしょう』

『イレギュラー……俺が』

 思わず立ち尽くすエイジにファルティーシアは声をかけた。

『話は後ですエイジ、敵が来ますよ!』

『あ、ああ! ファルティーシアさん!』

 目の前からヒュドラが2頭現れる。
 主クラスではないものの、今までエイジがみたどの個体よりも大きくその気配も禍々しい。
 ラエサルがエイジに声をかけた。

「行くぞ! エイジ!!」

 キーラは少し下がり、疲労が見える他のメンバーとララリシアを守っている。
 妖艶な蜘蛛使いは思った。

(あの子、また強くなっている。でも、ラエサルったら私に下がるように指示するなんて、あのクラスのヒュドラを任せられる程だというの?)

 キーラを、背後からの攻撃と他のメンバーのガードに回らせたのはラエサルだ。
 ラエサルとキーラほどの仲になれば、視線だけでも相手の意思を察することが出来る。
 エイジは巨大な通路の中で、一頭のヒュドラと対峙していた。

「「「「シュウウウウウ!」」」」

 9つの巨大な鎌首が獲物を狙っている。
 その内の三つが霞むように消えた。
 いや、恐るべき速さでエイジに襲い掛かったのだ。
 目の前の獲物を一飲みにすべく開かれた巨大な顎アギト!
 そして太い首がまるで鞭のようにしなりエイジを襲う。
 エリスとリアナは思わず叫んだ。

「エイジ!!」

「危ない!!」

 だが、もうその時にはエイジはそこにはいなかった。
 右手に持った大剣、それは青く輝いている。
 リイムの力だ。
 凄まじい速さで踏み込んだエイジは、もう最初の鎌首を切り落としていた。
 その表面はリイムの力で凍り付く。

(速い……)

 キーラは思った。

「あの子、まだ本気じゃなかったの?」

 先程のエイジよりも明らかに速く鋭い一撃。
 そして同時に左手に持った赤い剣が、二本目の鎌首を切り飛ばしていた。
 ミイムの力で焦げ付くその断面。

「ギシュウウウウウウウウウ!!!」

 怒り狂う三本目の鎌首の声に呼応して、残りの6つのアギトが一斉にエイジを襲う。
 その時、キーラは見た。
 美しく輝く額の精霊銀を。
 エリスにはまるで無数の分身が現れたかのように、エイジの残像が見えた。
 そのあまりのスピードに本来のエイジの姿を追えた者は、ラエサルとキーラだけであろう。
 鮮やかに振るわれた青い剣、そして赤い剣。

 そしてその刹那──!

 7つの鎌首が全て切断され地に落ちた。
 通路に低く響く地響き。
 まさに神技だ。

(この子……)

 キーラは思った。
 目の前の少年は、確実にラエサルやキーラの領域に入り込もうとしている。
 通常のSランカーにとっても、まさに異次元ともいうべき『Sランク最強クラス』その領域に。
 既にもう一頭のヒュドラを倒していたラエサルが、エイジの傍に歩み寄る。

「エイジ、よくやったな」

「ラエサルさん!」

 ラエサルの言葉にエイジは、今までとは違う何か感じて嬉しく思った。
 守るべき相手ではなく、戦いの中で背中を任せれる相手。
 ラエサルの瞳が、そう語っているような気がしたのだ。

『ラエサル・バルーディン。流石ですね、貴方と私たちの力をしっかりと見極めている』

 ファルティーシアはエイジに言った。

『この階層に来るまでの貴方の動きを見て、貴方の魂の瞳が徐々に大きく開き始めているのを感じているのでしょう』

『ファルティーシアさんのお蔭だよ! それにリイムとミイムも力を貸してくれているからさ』

 エイジの言葉に、リイムとミイムが嬉しそうに答えた。

『ふふ、任せてよエイジ!』

『頑張るです!!』

 ファルティーシアはそれを聞きながら思う。

(これほどまでに精霊と同調できる精霊使いを私は知らない。もしも、今かつての高位精霊たちが生きていればエイジはもっと……)

 今生き残っている精霊の中では、最も力を持った存在であるファルティーシア。
 だがそれでも、エイジから聞いたいにしえの精霊たちの話を聞くと驚愕せざるを得なかった。
 伝承では聞いてはいたが、それ程の存在がかつてこの地にいたのかと。

 これから激しくなるであろう戦いを考えれば、ファルティーシアの思いも当然かもしれない。
 リカルドは精霊王の血を引いている男だ。
 もし、そんな男が精霊王の剣を手にしたら、と思うとファルティーシアでさえ身震いがする。

(一体リカルドは何者なの? 精霊王の剣、それを模したというあの男の剣)

 ファルティーシアは自分の力を吸ったあの剣を思い出す。
 あんなものを作り出せる人間が現代にいるのかと。
 その目的が、かつてのバルドデオスと同じであったとしたら?
 そして、ローゼディア王家の血を引いたバルドルース公爵とその一派。

(彼らの内の誰かが強大な力を手にしてしまったら、いにしえに起きた悲劇が繰り返されてしまうかもしれない。もし、かつての高位精霊のような力を持った存在がいてくれたら……エイジはきっと彼らと戦えるほどの素晴らしい戦士になる。私の力が及ばないのが悔しいわ)

 リカルドの力を思い出して、ファルティーシアはそう思わずにはいられなかった。
 その時──
 ラエサルが通路の側面にそっと手をあてる。

「ララリシア、お前が言っていたのはここだな?」

 その言葉にララシリアが歩み寄った。

「ええ、ここよラエサル。少し離れていて、私が扉を開けるから」
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