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364、精霊王の血を引く者

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「殺しますか、この私を。ふふ、それよりも知りたくはありませんか? あの二人の少女が何処に行ったのかを」

 リカルドのその言葉に、エイジは思わず叫んだ。

「くっ! あんたは、何か知っているのか!?」

「ええ、彼女たちが今いるのは真実の大門。ラエサル、貴方も聞いたことがあるでしょう?」

 そう言って笑みを浮かべる男にラエサルは言った。

「真実の大門だと!? 一体何処にそんなものがある?」

「見えませんか? 無理もありませんね。そもそも、王家の血をひかぬ者はあの扉をくぐることは出来ないですから」

 その言葉に、ラエサルの視線はリカルドを射抜いた。

「王家の血だと、なぜトラスフィナ王家の血が古代遺跡に関係がある? ここはかつて滅びた文明の遺跡に過ぎん!」

「ラエサル貴方は分かっていない。トラスフィナの血が問題ではないのです、必要なのはその中に眠るもう一つの王家の血なのですから」

 アンジェが叫ぶ。

「何を訳の分からないこと言ってるの! もう一つの王家の血って一体何のことよ!!」

 一歩前の踏み出そうとするアンジェを、キーラが止めた。

「やめなさい、アンジェ! 死ぬわよ」

 黄金の蜘蛛使い。
 恐るべき力を持つその女の言葉だからこそ、それは重くアンジェに響く。

(そんな……ラエサルとキーラ、それにエイジもいるのにそれでも敵わない相手だって言うの?)

 だとしたら、精霊の住処でのラエサルとエイジとの攻防。
 あれすら小手調べに過ぎなかったのだろうか。
 とアンジェは思った。
 一方でキーラも思う。

(これがリカルドだっていうの? まるで別人じゃない……)

 リカルドの変貌のことはラエサルから聞いてはいた。
 だがこれほどとは、とキーラは思う。
 右手に無造作に剣を持ち、一見隙だらけなその姿。

 学者然とし、人を食ったようなその態度は普段のリカルドと変わりがない。
 だが、そこから発せらる気が違うのだ。
 リカルドは静かに一行を眺めている。

「いいでしょう、特別に貴方たちにも見せてあげましょう」

 エイジは辺りに歌が響いていくのに気がついた。
 目の前の男が歌っているのだ。

(これは……)

 先程、エリスとララリシアが歌っていたのものと同じ歌。
 いや正確に言うと、目の前の男が歌っているのではない。
 その肉体から分離した存在が、それを歌っているのだ。
 リアナが思わず呟いた。

「あれは、アストラルトランス!」

「ああ……」

 エイジも呆然とその姿を見つめる。
 エリスと同じだ。

「どうなっているの! どうしてリカルドが、エリスと同じ技を!?」

 オリビアはそう叫んだ。
 人でありながら精霊でもあるようなその姿。
 そして、リカルドが歌うその歌は、先程の二人の歌から少しづつ変化をしていく。
 まるで目の前の男が、その術式を少しずつ書き換えているかのように。
 白い光が黄金に変化をしていく。
 エイジはリカルドの右手に、黄金の印が浮かび上がるのを見た。
 目の前が一瞬、強烈に輝く。

「これは……」

 エイジは次の瞬間、自分が巨大な門の前に立っていることに気が付いた。
 リアナとアンジェは周囲を見渡した。

「どうなってるの!?」

「ここは一体!」

 リカルドとキーラは、目の前の巨大な建造物を見上げた。

「まさか……」

「これが真実の大門!?」

 右手に黄金の印を持つ男は、キーラに答えた。

「ええ、そうです。本来ならば、精霊王の血を引いた者しかこの場所に来ることは出来ない。あのエリスという少女や、この私のようにね」
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