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連載
342、キーラの記憶
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「いい加減にしろ、アンジェ。まさかこんなに時期が早まるとは思わなかったが、キーラにはいずれお前の師匠になってもらうつもりでいたんだからな。今からこんな調子でどうする」
ラエサルの言葉にアンジェは驚いたように言う。
「この女が私の? 嫌よ! 私の師匠はラエサルだけだもの!!」
キーラが気に入らないこともあるのだろうが、アンジェにとってはラエサルが師であることが誇りなのだろう。
ラエサルはアンジェのおでこをこつんと指先で弾く。
「お前がキーラから学べることは多い、いいから黙って俺の言う通りにしろ」
「だ、だって!」
まだ不満そうなアンジェ。
キーラはキーラで、まだアンジェがラエサルの娘であることに受け入れることが出来ない様子だ。
「私だって、こんなお子様のお守りは御免だわ。それにこの子が貴方の子供だなんてやっぱり信じられない! 納得が出来る説明を聞かせて頂戴、ラエサル!!」
美女と美少女、二人のエルフに睨まれてラエサルはもう一度大きな溜め息をつく。
そして、アンジェを引き取った事情を話し始める。
「……というわけだ。お前はその頃、都のギルドの依頼で何年かフェロルクを離れていたからな。アンジェの母親とはその時に知り合った」
アンジェはギュッとラエサルの腕に抱き着いた。
「ラエサルは私のこととっても大事にしてくれたもの! 血は繋がってないけど、アンジェのお父さんなんだから……」
キーラは黙ってそれを聞いている。
何も言わないキーラの様子に、少し不安げなアンジェ。
ラエサルはアンジェを見つめながら──
「正直、俺のような男が父親の役など出来るかどうかは分からん」
そう言ってラエサルは、暫く黙って目を細めると何かを思い出したように続けた。
「でもな、昔ロイとおかみさんは俺に温もりを教えてくれた。アンジェが俺のことを父さんと呼びたいのなら、呼ばせてやりたい」
真っすぐにキーラを見つめるラエサル。
美しいハーフエルフはその目を見て答えた。
「何よ……それならそうと早く言いなさいよ。何だか私が悪者みたいじゃない」
「こいつには冒険者はさせるつもりはなかった。だから一人でやっていけるまで、そっと力を貸すだけにするつもりだったんだが……どうしても冒険者になりたいと言って聞かなくてな。それに、俺も冒険者稼業ぐらいしか教えてやれん」
キーラはラエサルを見上げるアンジェの姿を見つめた。
その瞳を。
(馬鹿ねラエサル。この子は冒険者になりたかったわけじゃない。貴方の傍にいて貴方を助けられるようになりたかっただけ)
昔、キーラがそうだったように。
そう思って、キーラは笑った。
キーラは孤児だった。
エルフからも人からも愛されないハーフエルフ。
母親に捨てられたのは、まだ幼かった頃だ。
生きていくためには何でもやった。
そして、その時にただ一人彼女を守ってくれたのがラエサルだ。
幼い頃から特別な才能を持っていた少年。
彼が迷宮に入りお金を稼いできてくれたおかげで、助かった仲間は多い。
キーラにとってはラエサルは仲間であり兄であり、そしてヒーローだったのだ。
ラエサルがレオンから武術を学び、その天性の才能を大きく飛躍させる中でキーラも冒険者になる道を選んだ。
理由は目の前にいる少女と同じだ。
(遠い昔の話、もう忘れたと思っていたのに)
その思いが、キーラの特異な才能を引き出したと言えるだろう。
エルフの血が持つ高い魔法適性と天性の身のこなしの軽さ。
確かにアンジェの師になるのに、相応しい人物と言えるだろう。
キーラはアンジェを見つめると言った。
「分かったわ。この子に私が教えられることは教えてあげる」
「わ、私は頼んでないわ!」
そう言って反発するアンジェの顔を見て、キーラは肩をすくめた。
「なら勝手にするのね。今の貴方じゃラエサルの役には立てない、それでもいいのなら好きにしなさい」
ラエサルの言葉にアンジェは驚いたように言う。
「この女が私の? 嫌よ! 私の師匠はラエサルだけだもの!!」
キーラが気に入らないこともあるのだろうが、アンジェにとってはラエサルが師であることが誇りなのだろう。
ラエサルはアンジェのおでこをこつんと指先で弾く。
「お前がキーラから学べることは多い、いいから黙って俺の言う通りにしろ」
「だ、だって!」
まだ不満そうなアンジェ。
キーラはキーラで、まだアンジェがラエサルの娘であることに受け入れることが出来ない様子だ。
「私だって、こんなお子様のお守りは御免だわ。それにこの子が貴方の子供だなんてやっぱり信じられない! 納得が出来る説明を聞かせて頂戴、ラエサル!!」
美女と美少女、二人のエルフに睨まれてラエサルはもう一度大きな溜め息をつく。
そして、アンジェを引き取った事情を話し始める。
「……というわけだ。お前はその頃、都のギルドの依頼で何年かフェロルクを離れていたからな。アンジェの母親とはその時に知り合った」
アンジェはギュッとラエサルの腕に抱き着いた。
「ラエサルは私のこととっても大事にしてくれたもの! 血は繋がってないけど、アンジェのお父さんなんだから……」
キーラは黙ってそれを聞いている。
何も言わないキーラの様子に、少し不安げなアンジェ。
ラエサルはアンジェを見つめながら──
「正直、俺のような男が父親の役など出来るかどうかは分からん」
そう言ってラエサルは、暫く黙って目を細めると何かを思い出したように続けた。
「でもな、昔ロイとおかみさんは俺に温もりを教えてくれた。アンジェが俺のことを父さんと呼びたいのなら、呼ばせてやりたい」
真っすぐにキーラを見つめるラエサル。
美しいハーフエルフはその目を見て答えた。
「何よ……それならそうと早く言いなさいよ。何だか私が悪者みたいじゃない」
「こいつには冒険者はさせるつもりはなかった。だから一人でやっていけるまで、そっと力を貸すだけにするつもりだったんだが……どうしても冒険者になりたいと言って聞かなくてな。それに、俺も冒険者稼業ぐらいしか教えてやれん」
キーラはラエサルを見上げるアンジェの姿を見つめた。
その瞳を。
(馬鹿ねラエサル。この子は冒険者になりたかったわけじゃない。貴方の傍にいて貴方を助けられるようになりたかっただけ)
昔、キーラがそうだったように。
そう思って、キーラは笑った。
キーラは孤児だった。
エルフからも人からも愛されないハーフエルフ。
母親に捨てられたのは、まだ幼かった頃だ。
生きていくためには何でもやった。
そして、その時にただ一人彼女を守ってくれたのがラエサルだ。
幼い頃から特別な才能を持っていた少年。
彼が迷宮に入りお金を稼いできてくれたおかげで、助かった仲間は多い。
キーラにとってはラエサルは仲間であり兄であり、そしてヒーローだったのだ。
ラエサルがレオンから武術を学び、その天性の才能を大きく飛躍させる中でキーラも冒険者になる道を選んだ。
理由は目の前にいる少女と同じだ。
(遠い昔の話、もう忘れたと思っていたのに)
その思いが、キーラの特異な才能を引き出したと言えるだろう。
エルフの血が持つ高い魔法適性と天性の身のこなしの軽さ。
確かにアンジェの師になるのに、相応しい人物と言えるだろう。
キーラはアンジェを見つめると言った。
「分かったわ。この子に私が教えられることは教えてあげる」
「わ、私は頼んでないわ!」
そう言って反発するアンジェの顔を見て、キーラは肩をすくめた。
「なら勝手にするのね。今の貴方じゃラエサルの役には立てない、それでもいいのなら好きにしなさい」
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