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328、死神の鎌

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『行きますわよ! エイジ』

『ええ、お母様!』

『いくです!』

 ファルティーシアの言葉に、張り切るリイムとミイム。
 同時に、広い通路の前方より魔物がやってくる。
 緑色のその体、そして素早い動き。
 特徴的なのはその前脚だ。
 獲物を捕らえ、そして切り裂く鎌になっている。

 全長4mはあるだろう。
 そして、獲物を捕らえようと身を起こすと体高は2mにはなる。
 恐ろしいその姿。
 エリスは思わず息を飲んだ。

「あ、あれは……」
 
 巨大なカマキリだ。
 ラエサルがそれを見て言った。

「キラーマンティス。群れに出くわせば、Sランクの冒険者であっても手を焼く相手だ」

 エリスとそれを聞いて、思わずラエサルを見上げる。
 そんな王女の表情を見て、Sランク最強の男はその肩に手を置いた。

「ただのSランクであれば、だがな」

 ヒュン!!

 まるで空気を切り裂くようにして、アンジェに向かって魔物の前脚が振られる。
 無機質なその目。
 だが、それは間違いなく死神の鎌である。
 まるで紙でも切り裂くように、それはアンジェの体を二つに裂いたように見えた。
 エリスは思わず叫んだ。

「アンジェ!!」

 だが、エリスはそれがアンジェの残像に過ぎないことに直ぐに気が付いた。

「はぁあああああ!!」

 アンジェは冷静に敵の動きを見定め、振り下ろされる鎌をかわしている。
 その速さは複数の残像を生みだしていた。
 まるでくノ一である。
『紅』の炎が舞い散ると、あっという間に左から来るキラーマンティス二体を仕留める。
 その時点で敵は奥に一度引いていた。
 凄まじい腕前であると言えるだろう。
 だが……。
 アンジェは思う。

(こいつらを引かせたのは私じゃない)

 恐るべき魔物を、たちどころに二体倒したアンジェ。
 その実力は凄まじいものだ。
 だが、敵の群れが恐れたのはその右横に立っている少年に、である。
 彼の姿は、もうアンジェの遥か前にあった。

 さしものアンジェも、キラーマンティス数体と戦いながらでは前衛のラインを維持するのが精一杯だった。
 だが隣の少年は、敵を斬り倒しながら平然と前に進んだのだ。

 通路にはアンジェが倒したキラーマンティスが二体。
 そしてエイジが仕留めたそれが既に五体並んでいる。
 合計で七体。

 アンジェが倒したものも含めれば、これでもう敵の三分の一近くを仕留めたことになる。
 それも一瞬にしてだ。

(何なの? エイジのあの姿……)

 魔物を退かせたエイジの姿を見つめながら、アンジェは思った。
 確かにエイジは強い。
 だが、目の前のエイジの姿は今までとは明らかに違う。
 エリスも、その姿に思わず見とれた。
 オリビアは後衛であるエリス達を守りながら呟いた。

「強い! 技の切れとスピードが上がっているわ。それに……」

 アンジェ同様、オリビアも気が付いたのだろう。
 常人なら見切ることが出来ない部分で、今までのエイジと今の彼の姿には違いがある。
 この場で誰よりもそれを細部まで見極めているであろうラエサルは、輝く精霊銀の額当てをした少年を見つめながら言った。

「エイジとアンジェは既に並みのSランクよりも強い。あの二人ならキラーマンティスの群れに対しても陣形を維持は出来ると思ったが、これほどまでとはな……あれが高位精霊の力か」
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