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323、額に浮かび上がるもの

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『いいえ、高位の精霊と人が契約を結ぶ時は少し方法が違います。エイジ、そのままジッとしていてください』

『分かりました。でも、どんな方法なんですか?』

 ファルティーシアは、真面目な顔でエイジに答える。

『しっ! 目を閉じて意識を集中して下さい、神聖な儀式ですから』

『は、はい! ファルティーシアさん』

 実体モードに入っているファルティーシア。
 綺麗なお姉さんに怒られたような気分になって、エイジは慌てて目を閉じる。

(高位精霊との契約か、ファルティーシアさんが言うように神聖なものなんだろうな)

 神々しい高位精霊の声が響く。

『エイジ。貴方はこの私、ファルティーシアを受け入れますか?』

『はい、ファルティーシアさん』

 エイジは頷きながら答えた。

『分かりました、凛々しい勇者よ。暫しの間、私もあなたと共に歩みましょう』

 勇者のくだりは、ファルティーシアの趣味で付け加えた一節じゃないか、と思いながらエイジはそれを聞いていた。
 すると、ファルティーシアが直ぐ近くに迫る気配がする。
 その髪の感触。
 そして額に柔らかい何かが触れた。

「な!?」

 エリスの声が辺りに響いた。
 そしてリアナとアンジェの声も聞こえる。

「ちょ! エイジ!!」

「な、何してるのよ!」

 オリビアも動揺したような声を上げる。

「どういう事!? え、エイジにキスするなんて!」

 その言葉に、エイジは慌てて目を開いた。
 ファルティーシアの顔が、触れるほど近くにある。

「へ? キス?」

(じゃあ、さっき額に感じた感触は……)

 ファルティーシアの唇が自分の額に触れていたのだと気が付いて、思わず動揺するエイジ。

『ふふ、これで契約は成立しました。暫くはエイジたちの仲間ですね、皆さんよろしくお願いします』

 にっこりと一行を見渡すファルティーシア。
 そして、不思議そうに首を傾げた。

『あら? どうしたんでしょう? 何だかあんまり歓迎されている様子ではありませんね』

 ファルティーシアとエイジを取り囲むように、エリスとリアナが詰め寄っている。
 アストラルトランスが完全に解けているエリスには、もう精霊の言葉は通じていない様子だ。

「ど、どいうことなのエイジ! 説明しなさいよ!!」

「そ、そうよ! エイジってほんと年上の女の人に弱いんだから!」

 そこにアンジェとオリビアも加わった。

「エイジってほんと、手あたり次第よね!」

「え? アンジェ、そうなの!?」

 エイジはため息をつくと。

「おい、手あたり次第はないだろ、アンジェ」

 アンジェは頬膨らます。

「だって、私にも綺麗って言ったし!」

 アンジェと戦った後の話のことだろう。
 ダークエルフ特有の、パープルブロンドの髪と薄紫の瞳に思わず見とれたことを思い出す。
 エイジは頭を掻きながら。

「そう思ったから言っただけだろ?」

「な! そう思ったって……な、なによ」

 真っ赤になって言葉につまるアンジェ。
 オリビアはそれを見て思った。

(エイジって天然なのかしら)

 シェリルが溜め息をついて呟いた。

「ふにゃ~、わざと言ってるんじゃないところが恐ろしいにゃ。やっぱり、剣技よりもこっちのほうが恐ろしいにゃ」

 そして、シェリルはエイジの額を見つめると言った。

「みんな落ち着くにゃ! きっと何かの儀式じゃないのかにゃ? 見てみるにゃ、エイジの額に何か浮かび上がってくるにゃ」

 獣人族の少女の言葉に、憤っていたエリスたちも我に返るとエイジの額を見つめていた。
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