上 下
165 / 254
連載

320、精霊たちの伝承

しおりを挟む
『俺、確かに見たんです。白王と呼ばれる精霊の王と二つの遺物のことを』

 エイジは、エリスとメグと一緒に見た光景を事細かく話す。
 白く巨大な竜、そして鍵と呼ばれる剣と封印と呼ばれる鞘。
 それが一つになった時に現れた大剣。

『鍵と封印が一つになった時に、凄まじい力が放たれたんだ。そして、それを手にした男はその力を白王の力だって』

 エイジの言葉に、ファルティーシアは目を見開く。

『白王……白く巨大な竜』

『ええ、何か知りませんか? ファルティーシアさん』

 ファルティーシアは暫く考え込むと、エイジに答える。

『エイジ。もしかするとその白く巨大な竜というのは、我ら精霊族の伝承にある精霊王レークスフェルトのことかもしれません』

『レークスフェルト?』

 エイジの問いにタイタンが答える。

『エイジ殿、我らの始祖よりの伝承の中にそう呼ばれる存在がいるのだ。雄々しい精霊の王、時にその姿は天翔ける竜のごとき光であったと』

 ファルティーシアは、エイジを見つめるとタイタンの言葉に続けた。

『遥か太古には、私など到底及ばない力を持つ高位精霊たちがいたと聞きます。その一人とされているのが精霊王レークスフェルト、伝承によると人間達に知識を与え、精霊たちと共に暮らす楽園の礎を築いたと言われています』

『人間達に知識を?』

 エイジの言葉にファルティーシアは頷く。

『あくまでも伝承ですが、彼はこの世界で一人の人間の女性を愛したといいます。二人の間には子が生まれたという、その血を引いた者が最初のルイーナの王となったといいいますが、それが真実なのかまでは分かりません』

『精霊王との子供、それがルイーナの王族ってことですか?』

『ええ、もしかすると白王というのは、彼ら王族が名付けたレークスフェルトへの敬称なのかもしれませんね』

 タイタンはファルティーシアの言葉に同意すると。

『そうかもしれませんな。何しろ、滅びの日よりも前の話は、今ではよく分からぬことが多すぎます故』

『滅びの日……俺、昔ルイーナに悪い王様がいたって話を聞いたことがあるんです。もしかするとあいつが』

 エイジはミーナから聞いた話を思い出す。
 ファルティーシアは首を縦に振ると──

『貴方が見た男というのは、恐らくバルドデオス。ルイーナの最後の王といわれた男です』

『バルドデオス?』

 エイジの問いに、ファルティーシアは答えた。

『ええ、傲慢で多くの民や精霊を苦しめたそうですが、それを諫めようとしたレークスフェルトを手にかけてその力を我がものにしたといいます。そして、彼の手によって世界は一度滅びかけたのだと。伝承がどこまで真実なのかは分かりませんが、貴方の話を聞く限りその男がバルドデオスと考えれば全てが納得がいきます』

(確かに、ミーナが言っていた悪い王様の話とも一致する。でも……だとしたら)

 エイジは沸き上がって来た疑問をファルティーシアにぶつけた。

『俺、悪い王様の話を聞いたことがあるんですけど、その王様は民の為に立ち上がった英雄に倒されたって。そして再び平和が訪れた、そう聞いたんですけどそれは本当なんですか?』

 もしそうなら、一体誰が、そうエイジは思った。
 ファルティーシアは首を横に振る。

『さあ、そこまでは……確かに、人間達の間にはそんな神話が残っているとは聞きましたが。何しろその惨劇で、多くの精霊たちは死に絶えましたから。生き残ったのは寧ろ、人間達との関係が浅かった者達ばかりだとききます』

 タイタンは言う。

『だが、そのような力を秘めた武器を持ち、さらには精霊王の血をも引いた男を倒したのだとしたら、それはただの人間だとは思えぬ』

(確かに……)

 エイジは思う。
 メグと見たあの映像。
 あんな力とやり合える人間とは一体どんな人物だったのだろうか、と。

『リカルドさん……いや、リカルドは封印と鍵に興味を持っていたって、メグが』

 エイジの言葉にタイタンも頷く。

『さもあろうな。自らそのレプリカと称する剣を振るって見せたのだから』

 エイジはファルティーシアやタイタンを話して分かったことを、ラエサルたちに伝える。
 皆一様に驚いた様子で──

「精霊王レークスフェルト、それが白王と呼ばれる者の正体だと言うのか」

「ええ、ラエサルさん。メグと一緒に見た映像とファルティーシアさんの話を考えると、間違いないかと」

 ライアンがすっかり目を丸くして、ファルティーシアを見つめた。

「精霊と人間の子供ってほんとかよ、エイジ。いくらなんでも、おとぎ話だぜそれは。精霊にからかわれてるんじゃねえのか?」

 ファルティーシアがムッとした顔をする。
 ライアンの思念が分かりやすいのか、どうやらその意図が伝わった様子だ。
 気が付くとエイジの首筋に白く美しい手がそっとかけられている。
 思わず振り返るエイジ。
 そこにいた人物の姿を見て、エイジは驚いた。

「……えっと? もしかしてファルティーシアさん?」

『ええ、そこの半獣人が疑うものですから』

 半分エイジに体を預けるようにそこに立っているのは、ファルティーシアだ。
 その美しさは変わらないが、精霊というよりは実体に近い。
 微かに揺れる輪郭、注意深く見なければ精霊だとは分からないだろう。
 そして、ライアンを睨むように見つめながらエイジに体を寄せる。

『力のある精霊ならば、人の姿をとるのも難しい話ではありません。その気になれば子供だってつくれますわ』

 そう言ってエイジに体を寄せると、周りの皆にも実体があることを証明して見せる。
 エイジと触れ合っているその体は女性特有の柔らかさとしなやかさ体現していた。

(はは、ファルティーシアさんて少し子供っぽいところあるよな)

 先程訪ねた時は子供のように悪戯っぽく笑っていたし、とエイジは思う。
 これがむしろ精霊らしさなのかもしれない。
 特にライアンに見せつけるように、エイジに身を寄せるファルティーシアに苦笑するエイジ。

『あ、あのファルティーシアさん。それぐらいにしてもらえますか』

 殺気すら感じさせる目で二人を見ているエリスに気が付いて、ファルティーシアは咳ばらいをするとエイジから離れた。

『何もあんな目で睨まなくても。エイジは、すっかりエリスの尻に敷かれているのですね』

『はは……』

 エリスとリアナに強く手を引かれて、ファルティーシアから引き離されるエイジ。
 誤解だと説明すると、二人はツンとして言った。

「どうだか!」

「エイジったら、まただらしない顔してたもの!」

 タイタンも大きく咳ばらいをすると、ファルティーシアに言った。

『ファルティーシア様もお戯れが過ぎますぞ。エイジ殿、我らが人と子をなすことは今では禁じられておる。深すぎる人間との関係は滅びをもたらす、太古の経験からの戒めだな』

『それはそうですけど、タイタンは頭が固いですね』

 そう言って舌を出すファルティーシアは、可愛らしい。
 エリスのお蔭ですっかり元気になったようである。
 そして、真顔に戻るとエイジに語り掛けた。

『エイジ、役に立つかは分かりませんが。貴方たちに一つ渡したいものがあります』
しおりを挟む
感想 665

あなたにおすすめの小説

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。