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318、激突する光

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「それが貴方の力の全てであれば。死ぬことになりますよ」

 そう言うと、リカルドは手にしたロングソードをゆっくりと構えた。
 剣を握る右手の印が強い光を帯びている。
 身構えるエイジとラエサル。
 
 その時──

 凄まじい魔力の胎動をその場にいる皆は感じた。
 リカルドの足元に倒れるファルティーシア、彼女とは別の高位精霊が出現したような気配。

 そこには一人の女性が立っている。
 
 光そのものといったその姿。
 なんという美しさだろうか、戦いを忘れてその場の者達は彼女を見つめた。
 祈るようにしてそこに佇む真紅の髪の少女。
 そして、その後ろに立つ光の女神のようなその姿。

 同じ少女だ。
 だが、それは別次元の存在に思える。
 リカルドはその姿を見て、笑みを浮かべる。

「これはこれは、人が肉体のくびきから解き放たれる姿は久しぶりに見ますよ。しかもこれ程までに強い力を持つ魂、聖王と呼ばれる男の血を引くだけのことはある」

「エリス……」

 思わずエイジは呟いた。
 あまりにも美しいその姿に、一瞬、彼女が遠くに行ってしまうのではないかと思えたのだ。
 肉体を捨て、人とは別の何かとなって。
 エリスの肉体、その右手に嵌められた赤い腕輪が強く輝く。
 まるで吐息を漏らすかのように、光と化した少女の唇は動いた。

「エイジを殺させなんてしないわ、絶対に……プリンセスローズ!」

 右手をリカルドに向けた光の少女。
 その手から放たれた、無数の赤い薔薇。
 リカルドは自らの前に剣をかざした。
 その右手の印が強く輝く。
 ライアンが思わず叫んだ。

「うぉ!!」

 凄まじい光が、その場に満ちていく。
 ぶつかり合う二つの光。
 それは闘気や魔力という次元の存在ではない。
 オリビアには自分の翼を切り裂いた霊力の刃、それと同質な力だと思えた。

(いいえ、さっきよりも遥かに強い力)

 二つの光はぶつかり合い、そしてそれは徐々に打ち消し合うように消えていく。
 リカルドの体は、光に包まれて次第に消滅していった。
 ただ彼の声だけがその場に響く。

「ふふ、面白い。ここで貴方たちを殺してしまうのは惜しい」

 光が消えたその場所には、もうリカルドの姿は無い。
 オリビアは、男がいた場所を睨みつけながら言った。

「……倒したの?」

 ラエサルはオリビアの言葉に首を横に振って、男がいた場所を指さした。

『また会いましょう』

 その場所には、刻印のようにそう文字が刻まれている。

(転移魔法だと? 失われた超古代魔法、もう伝承の中でしかそれは描かれてはいないはずだ)

「一体奴は何者なんだ」

 少なくとも今まで自分が知っていたリカルドという男は、仮の姿でしかないのだろう。
 本当の名ですらないのかもしれない。
 アンリーゼが殺せと命じた訳が、ラエサルにも分かった気がする。

(危険な男だ……もしかするとアンリーゼ以上に)

 ラエサルはそう思いながら、男が消え失せた場所を見つめていた。
 一方でエイジは、光と化したエリスを見つめていた。

「エリス……」

 呼びかけるエイジに対して、エリスは光と化した姿でその頬に手を伸ばす。
 そして自らの肉体と重なるようにして、エイジの体をしっかりと抱き締めた。
 エイジは、少女の体のぬくもりを感じて安心した。
 光と一つになった少女の体を抱き留めながら、エイジは尋ねる。

「エリス、今のは一体?」

「分からないの、エイジを助けたいって思ったら自然に。きっとあれが私の新しい力なんだわ」
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