上 下
147 / 254
連載

302、エリクの提案

しおりを挟む
「俺が聖堂から公爵家に連れていかれた時、あの女が一つ気になる話をしていた」

 ラエサルの言葉にエイジは尋ねる。

「気になること?」

「ああ、そうだ。あの女が俺に命じたことは三つ。一つはエイジ、お前を殺す事。そして二つ目は、王女であるエリスを公爵のもとに連れていくことだ」

 ラエサルの言葉にエイジは頷いた。
 実際、その為にラエサルはここまで来たのだろう。
 アンジェがラエサルに尋ねた。

「ラエサル、残りの一つは?」

「ああ、それが俺にも理由がよく分からないのだが……リカルドの抹殺だ」

 エイジは驚いたようにラエサルに尋ねた。

「リカルドって、あのリカルドさんのこと?」

「ああ、間違いない。詳しいことはあの女は話さなかったが、リカルドを殺すにあたってあの女は一つだけ条件をつけた。『鍵』という遺物をリカルドが起動したら直ぐに奴を殺せと。それまでは手を出すことを許さぬともな」

 オリビアが目大きく見開いた。

「鍵ですって! その女は本当にそう言ったの!?」

「そうだ、俺もその時はどういうことなのか分からなかったが……」

 アンジェがラエサルに尋ねる。

「どういうこと、じゃあ鍵っていう遺物はバルドルース公爵が持っているってことなの!?」

「そういう事になる。だが、エイジから聞いた話が真実であれば奴等が欲しがっているモノは分かる。そうだろう? エイジ」

 エイジは思わず呟いた。

「白王の力……」

「ああ、そうだ。そう考えれば全てが納得できる」

 エリスはゾッとした。
 あの時、メグやエイジと一緒に見たもの。
 まるでその再現だ。
 鍵と封印を一つにし、その大剣を手にしていた男の邪悪な顔を思い出す。
 あの力を手にしようと画策しているのが、ラフェトの父親だとしたら。

(そんなことになったら、この国は、いいえこの世界はどうなってしまうの?)

 不安に襲われて、思わずエイジの腕をしっかりと握るエリス。

「エイジ……」

「ああ、エリス。そんなこと絶対にさせちゃいけない!」

 エイジの言葉に、エリスも勇気づけられたように大きく頷いた。
 一方で、オリビアは唇を噛み締めた。

「許せない! お兄様や仲間たちを殺したのはバルドルースなのね!!」

 ラエサルは頷く。

「恐らくな。アンリーゼが何者かに命じてやらせてのだろう」

(デュランだな)

 ラエサルはそう思った。
 オリビアの兄やその仲間たちの実力を考えると、それ程の事が易々と出来る剣士はこの国にもそうはいない。
 それもアンリーゼの配下の人間だとしたら、デュラン以外にあり得ない。
 デュランと親衛隊の一部の人間が盗賊を雇い、共に騎士たちを襲った後その連中にやらせたように見せかけた。
 もちろん、最後には事実を知る者を皆殺しにして。
 怒りのあまり、ブルブルと体を震わせるオリビア。
 美しい女騎士は叫んだ。

「許さない! 絶対に許さないわ!!」

 オリビアの怒りはもっともだろう。
 公爵やアンリーゼに、兄を殺されたも同然なのだから。
 エイジはそんなオリビアを見つめながらも、ラエサルに尋ねた。

「アンリーゼは、リカルドさんが鍵を起動してからって言ったんですよね? 一体どういうことなんだろう」

「俺にも分からん。以前からおかしな奴だとは思っていたが、リカルド……あの男はいったい何者だ」

 エイジは思った。

(どうする、一度ルイーナに戻るか? でも、相手がエリスを狙っている以上、それは危険だ)

 エリクはそんなエイジの様子を見て、静かに口を開いた。

「私に考えがあります。エイジ、聞いて下さい」


 ─────

【皆様へのお礼とご報告】

 いつもお読み頂きましてありがとうございます。
 雪華慧太です。
 この度、徳間書店様から発売中の『転生チートは魔王級!!』の重版が決まりました。
 これもいつも応援して下さいます皆様のお蔭です!
 そしてアルファポリス様で掲載していた頃から応援して下さっている皆様、本当にありがとうございます。
 小説家になろう様では引き続き連載を続けていますので、今後ともエルリットたちをよろしくお願いしますね。

 また、先日ご案内させて頂きました通り6月21日には『成長チートになったので、生産職も極めます!』の第三巻が出荷日を迎えます。
 早い所では出荷日の翌日には書店に並ぶと思いますが、地域によっては数日お時間がかかることもあるそうです。
 WEB版とは大きく違う内容になっていますが、書籍版ならではのストーリーを楽しんで頂ければ幸いです。
 とても素敵な表紙イラストも描いて頂きましたので、お見かけになられましたらぜひお手に取ってご覧下さいませ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

異世界に射出された俺、『大地の力』で快適森暮らし始めます!

らもえ
ファンタジー
旧題:異世界に射出された俺、見知らぬ森の真中へ放り出される。周りには木しか生えていないけどお地蔵さんに貰ったレアスキルを使って何とか生き延びます。  俺こと杉浦耕平は、学校帰りのコンビニから家に帰る途中で自称神なるものに拉致される。いきなり攫って異世界へ行けとおっしゃる。しかも語り口が軽くどうにも怪しい。  向こうに行っても特に使命は無く、自由にしていいと言う。しかし、もらえたスキルは【異言語理解】と【簡易鑑定】のみ。いや、これだけでどうせいっちゅーに。そんな俺を見かねた地元の地蔵尊がレアスキルをくれると言うらしい。やっぱり持つべきものは地元の繋がりだよね!  それで早速異世界転移!と思いきや、異世界の高高度の上空に自称神の手違いで射出されちまう。紐なしバンジーもしくはパラシュート無しのスカイダイビングか?これ。  自称神様が何かしてくれたお陰で何とか着地に成功するも、辺りは一面木ばっかりの森のど真ん中。いやこれ遭難ですやん。  そこでお地蔵さんから貰ったスキルを思い出した。これが意外とチートスキルで何とか生活していくことに成功するのだった。

異世界でいきなり経験値2億ポイント手に入れました

雪華慧太
ファンタジー
会社が倒産し無職になった俺は再就職が決まりかけたその日、あっけなく昇天した。 女神の手違いで死亡した俺は、無理やり異世界に飛ばされる。 強引な女神の加護に包まれて凄まじい勢いで異世界に飛ばされた結果、俺はとある王国を滅ぼしかけていた凶悪な邪竜に激突しそれを倒した。 くっころ系姫騎士、少し天然な聖女、ツンデレ魔法使い! アニメ顔負けの世界の中で、無職のままカンストした俺は思わぬ最強スキルを手にすることになったのだが……。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる

けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ  俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる  だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った

田舎で師匠にボコされ続けた結果、気づいたら世界最強になっていました

七星点灯
ファンタジー
俺は屋上から飛び降りた。いつからか始まった、凄惨たるイジメの被害者だったから。 天国でゆっくり休もう。そう思って飛び降りたのだが── 俺は赤子に転生した。そしてとあるお爺さんに拾われるのだった。 ──数年後 自由に動けるようになった俺に対して、お爺さんは『指導』を行うようになる。 それは過酷で、辛くて、もしかしたらイジメられていた頃の方が楽だったかもと思ってしまうくらい。 だけど、俺は強くなりたかった。 イジメられて、それに負けて自殺した自分を変えたかった。 だから死にたくなっても踏ん張った。 俺は次第に、拾ってくれたおじいさんのことを『師匠』と呼ぶようになり、厳しい指導にも喰らいつけるようになってゆく。 ドラゴンとの戦いや、クロコダイルとの戦いは日常茶飯事だった。 ──更に数年後 師匠は死んだ。寿命だった。 結局俺は、師匠が生きているうちに、師匠に勝つことができなかった。 師匠は最後に、こんな言葉を遺した。 「──外の世界には、ワシより強い奴がうじゃうじゃいる。どれ、ワシが居なくなっても、お前はまだまだ強くなれるぞ」 俺はまだ、強くなれる! 外の世界には、師匠よりも強い人がうじゃうじゃいる! ──俺はその言葉を聞いて、外の世界へ出る決意を固めた。 だけど、この時の俺は知らなかった。 まさか師匠が、『かつて最強と呼ばれた冒険者』だったなんて。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。