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295、黒い瘴気

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「駄目だ、アンジェ!!」

 エイジは思わずそう叫んで、アンジェを追って階段を駆け上がっていた。

「ラエサル?」

 だが、次の瞬間──!
 その目には漆黒の剣を持つ男が、自分を切り裂こうと剣を振り下ろす姿が映っていた。

(どうして?)

 アンジェは、ただ呆然と立ち尽くしている。
 あまりのことに動くことすら出来ない。

 ギィイイインン!!

 気が付くと青い髪をした少年が、目の前に立ち塞がっている。
 その頼もしい背中。
 エイジだ。
 リイムの力が込められた大剣の冷気が、ラエサルが持つ漆黒の剣の表面を白く凍てつかせていく。
 Sランク最強の冒険者は笑みを浮かべる。

「ほう、少しは使えるようになったようだな」

「ラエサルさん! どうしてだ、何でこんなことをする!?」

 アンジェは自分の前で剣を交える二人の男を見て、フラフラと数歩後ろに下がった。
 ラエサルから放たれる殺気は本物だ。
 そして、先程自分に向けられた殺気も。

「……どうして?」

 手にした『紅』を床に落とす。

「冗談よね、ラエサル? どうしちゃったの、変な冗談はやめてよ!!」

 お守り代わりの短剣を抜いて、その柄を両手で握りしめるアンジェ。
 まるで祈るかのようなその姿に、ラエサルの表情が一瞬苦痛に歪んだ。

「アンジェ……」

 だがその瞬間──
 手にした漆黒の剣から黒い瘴気が溢れる。

「ぐぅうう! 逃げろ、エイジ、アンジェ!!」

「ラエサル!!」

 苦痛に満ちたその声に、アンジェは思わずラエサルに駆け寄ろうとする。
 それを後ろから抱き留めたのはエリクだ。

「いけません、アンジェ!」

 ライアンも一緒にアンジェを二人から遠ざける。
 エイジも一度距離を取り、苦しむラエサルに声をかけた。

「ラエサルさん、どうしたんだ! その剣は一体!?」

 黒い瘴気は、次第にラエサルの体の中に入っていく。
 低い笑い声が辺りに響いていく。
 笑っているのは目の前の男だ。
 先程苦しんでいた精悍な顔とは、同じようで違う。
 エイジはにはそう思えた。

『エイジ! 気を付けて、あの剣何か凄く嫌なものを感じる!!』

 エイジの中でそう警告を鳴らすリイム。
 ミイムは怯えるようにエイジの上を飛び回っていた。
 目の前に立つ男の目はエリスを眺めている。
 そして静かに口を開いた。

「まさか、お前がレオンリートの娘だとはな。エリス、俺と一緒に来てもらうぞ」

 その言葉に、エイジはラエサルを睨んだ。

「どういうことだ? どうして、ラエサルさんがそれを知ってるんだ!」

「エイジ、お前が知る必要はあるまい? どうせお前はここで死ぬのだ」
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