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連載
293、漆黒の剣を持つ男
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「いや……違う、見ろあれを!」
祭壇の中央に立つ魔物には首が九つある。
9つの首の大蛇。
上の階層で俺たちが倒してきた三つ首の大蛇とは、サイズも迫力も別物である。
エリクが呆然と呟いた。
「ヒュドラです。九つの首を持つドラゴン……エイジ、何が違うと言うのです?」
その姿はドラゴンというよりは蛇に近い。
まるでヤマタノオロチだ。
「何故こんなところに、80階層近くまで下りなければいないと言われている魔物ですよ。エイジ、いくら貴方がいるからといっても戦うには危険な相手です」
まだ距離こそあるがもしもそれがヒュドラならば、この程度の距離は無いに等しい。
80階層に巣くうような魔物はそれ程の生き物なのだ。
エリクは自分の頬に冷汗が流れ落ちていくのを感じた。
合わせて18の無機質な瞳が、一行を眺めている。
(やっぱり……)
エイジは思った。
その九つの首は静かにずれ落ちていく。
まるでヒュドラ自身が己が既に絶命をしていることを知らぬかのように、ゆっくりとその場に横倒しになっていく。
エイジはパーティのメンバーに言った。
「あいつは死んでる。恐らく俺たちがここに来た時にはもう」
(エリクさんは80階層にいるような魔物だと言った。なら誰かを追って来たのか……いや、それとも追われて逃げて来たのか!?)
その言葉にエリクは思わずつばを飲み込んだ。
「あの切り口……何という鮮やかな。ヒュドラは再生能力も持つと聞きますが、その暇さえ与えていない。こんなことが出来る冒険者を私は一人しか知りません」
「エリクさんそれは一体……」
誰だと聞こうとした時に、アンジェが嬉しそうに微笑んだ。
「どうして気が付かなかったのかしら! そうに決まってるわよ、Sランクでもこんな真似ができる人間なんて一人しかいないもの」
「アンジェ?」
「どういうこと?」
エリスとリアナが不思議そうにアンジェに尋ねる。
アンジェは腰に手を当てると祭壇に向かって叫ぶ。
「どうして隠れてるの? ラエサルなんでしょ! いつもと武器が違うから気が付かなかったけど。こんなこと出来る冒険者なんてラエサルしかいないもの!」
オリビアが驚いたように言う。
「ラエサル? もしかしてラエサル・バルーディン!? Sランクでも屈指の腕を持つと言う冒険者の」
エリクが首を横に振る。
「屈指などではありませんよ。ラエサル・バルーディンは別格です。間違いなくSランク最強の冒険者でしょう、本気になったジーナ隊長とまともにやり合える人間を、私は彼しか知らない」
エイジとエリスたちも顔見合わせる。
「ラエサルさんが、一体どうしてこんなところに!?」
「ええ、本当なの? アンジェ」
アンジェは腰の短剣を抜くと柄を握りしめる。
「これはラエサルがくれた魔具でもあるの、私がどこにいるのか分かるんですって。ふふ、きっと私が心配だったのよ。思いのほか深層に下りていくから、きっと先回りして守ってくれようとしたんだわ」
ダークエルフの少女の自信満々なその答えに、一行の緊張は少し和らいだ。
その時祭壇の上のヒュドラの死骸の陰から人影が現れる。
そこに佇む一人の男。
(凄い、まるで気配を感じなかった)
エイジは思う。
あの泉に入って鋭敏になったこの感覚でさえ、とらえることが出来ないその気配。
それは真の達人のみに成せる技だろう。
男の手には漆黒の剣が握られている。
「ラエサルさん!!」
昨日から姿を消していた男を見て、エイジは思わず叫んだ。
その声を聞いてラエサルは笑みを浮かべると答えた。
「よく来たなエイジ、待っていたぞ」
祭壇の中央に立つ魔物には首が九つある。
9つの首の大蛇。
上の階層で俺たちが倒してきた三つ首の大蛇とは、サイズも迫力も別物である。
エリクが呆然と呟いた。
「ヒュドラです。九つの首を持つドラゴン……エイジ、何が違うと言うのです?」
その姿はドラゴンというよりは蛇に近い。
まるでヤマタノオロチだ。
「何故こんなところに、80階層近くまで下りなければいないと言われている魔物ですよ。エイジ、いくら貴方がいるからといっても戦うには危険な相手です」
まだ距離こそあるがもしもそれがヒュドラならば、この程度の距離は無いに等しい。
80階層に巣くうような魔物はそれ程の生き物なのだ。
エリクは自分の頬に冷汗が流れ落ちていくのを感じた。
合わせて18の無機質な瞳が、一行を眺めている。
(やっぱり……)
エイジは思った。
その九つの首は静かにずれ落ちていく。
まるでヒュドラ自身が己が既に絶命をしていることを知らぬかのように、ゆっくりとその場に横倒しになっていく。
エイジはパーティのメンバーに言った。
「あいつは死んでる。恐らく俺たちがここに来た時にはもう」
(エリクさんは80階層にいるような魔物だと言った。なら誰かを追って来たのか……いや、それとも追われて逃げて来たのか!?)
その言葉にエリクは思わずつばを飲み込んだ。
「あの切り口……何という鮮やかな。ヒュドラは再生能力も持つと聞きますが、その暇さえ与えていない。こんなことが出来る冒険者を私は一人しか知りません」
「エリクさんそれは一体……」
誰だと聞こうとした時に、アンジェが嬉しそうに微笑んだ。
「どうして気が付かなかったのかしら! そうに決まってるわよ、Sランクでもこんな真似ができる人間なんて一人しかいないもの」
「アンジェ?」
「どういうこと?」
エリスとリアナが不思議そうにアンジェに尋ねる。
アンジェは腰に手を当てると祭壇に向かって叫ぶ。
「どうして隠れてるの? ラエサルなんでしょ! いつもと武器が違うから気が付かなかったけど。こんなこと出来る冒険者なんてラエサルしかいないもの!」
オリビアが驚いたように言う。
「ラエサル? もしかしてラエサル・バルーディン!? Sランクでも屈指の腕を持つと言う冒険者の」
エリクが首を横に振る。
「屈指などではありませんよ。ラエサル・バルーディンは別格です。間違いなくSランク最強の冒険者でしょう、本気になったジーナ隊長とまともにやり合える人間を、私は彼しか知らない」
エイジとエリスたちも顔見合わせる。
「ラエサルさんが、一体どうしてこんなところに!?」
「ええ、本当なの? アンジェ」
アンジェは腰の短剣を抜くと柄を握りしめる。
「これはラエサルがくれた魔具でもあるの、私がどこにいるのか分かるんですって。ふふ、きっと私が心配だったのよ。思いのほか深層に下りていくから、きっと先回りして守ってくれようとしたんだわ」
ダークエルフの少女の自信満々なその答えに、一行の緊張は少し和らいだ。
その時祭壇の上のヒュドラの死骸の陰から人影が現れる。
そこに佇む一人の男。
(凄い、まるで気配を感じなかった)
エイジは思う。
あの泉に入って鋭敏になったこの感覚でさえ、とらえることが出来ないその気配。
それは真の達人のみに成せる技だろう。
男の手には漆黒の剣が握られている。
「ラエサルさん!!」
昨日から姿を消していた男を見て、エイジは思わず叫んだ。
その声を聞いてラエサルは笑みを浮かべると答えた。
「よく来たなエイジ、待っていたぞ」
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