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277、人を超越する者

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「ね? エイジ、聞いたでしょ? あの男が、白い竜のことを白王って呼んだのを」

 メグのその言葉にエイジは頷いた。

「ああ、聞いた。間違いないな」

「あの男、一体何者なのかしら? ねえ、エイジもしかして……」

 エリスの言葉にエイジは、男を観察する。
 陛下と呼ばれているところ見ると、恐らくこの時代の王だろう。
 映像は先程のシーンで止まっている。
 葉に残されたデータが全て再生されたのだろう。
 思い当たることがある。
 エリスが言いたいことが、エイジにも分かった。

「もしかして、あれがミーナが言っていた悪い王様か!」

 エリスは大きく頷いた。

「ええ! 私もそう思ったの!!」

 メグが不思議そうに首を傾げる。

「悪い王様?」

 メグの問いに、エイジはミーナから聞いた話を伝えた。
 コクコクと頷きながらメグはそれを聞いている。

「その話なら私も知っているわ。魔法科学を悪用して、民を苦しめた王。そして、その王を倒した英雄の話。今のルイーナに残る遺跡の伝承ね」

「メグ、その王様については、大いなる記憶に残っているのか?」

 エイジの問いに、メグは首を横に振った。

「ううん、太古の記憶は殆ど枯れてしまっているの。特に古代文明であるローゼディアが滅んだときの国王の記憶や情報は、まるで意図的に消されたように消えてるわ。たった一つ残っていたのはこの一枚だけ。枯葉になってる沢山の葉の中に埋もれるように残ってたのを、私が見つけて修復したの」

 エリスはそれを聞いて感心した様に言った。

「メグはそんなことも出来るのね!」

「えへへ、ウォータドールフィンの長だけの力なのよ。枯れかけた葉の存在は普通は感じられないんだけど、もし見つけたら修正する。私たちはそう作られてるって、前の長老が」

(へえ、まるでデータの復旧作業だな。やっぱりここは古代文明の中核の一つだったんだな)

 巨大なデータベースとそれを管理する生き物の創造。
 恐るべき技術力だ。
 メグは続けた。

「この枝の葉が完全に消滅して、残った枯れかけた葉を見つけたのは、最近の事なの。それがあの一枚」

「それをメグが修復したって訳だな」

 メグは頷いた。

「うん、待っててエイジ。頑張ってもう少し修復してみる! そしたら、もっと何か分かるかもしれないわ。白王のことが分かれば、白王の薔薇を見つけるのに役に立つかもしれないでしょう?」

「本当か? メグ。ありがとう、頼むよ!」

「お願いメグ!」

 二人に頼まれて意気込む、メグ。
 彼女の虹色の光が強くなっていく。
 その時、静止している映像が動いた。
 だが先程の画面とは全く違う場面だ。
 再生できなかった部分は、恐らくメグの力でも修復が不可能なのだろう。

 先程映し出された場面から時間は経過しているが、場所は同じだ。
 但し、白く巨大な竜はもういない。

 先程、あの男を陛下と呼んでいた白衣の老人が、白王がいなくなった空洞の前に立っている。
 その手には剣の鞘のようなものが見える。
 そして、その傍には一本の剣を手にしたあの男がいた。

「くくく、ローセバス。これが白王の力か? 感じるぞ、人間を超える存在になりつつある自分をな」

「はっ! 陛下。ですがその剣は鍵に過ぎませぬ。封印を解くために作られたこの鞘にそれをおさめし時、真の力を発揮することとなるでしょう」

 ローセバスと呼ばれた白衣の老人は、そう語って恭しく礼をすると手にした鞘を男に手渡した。
 男はそれを受け取ると、静かに剣を鞘に治める。
 細身の長剣に見えた先程の剣は、鞘と融合して一本の大剣となっていく。
 その剣から溢れる光が、男を人ではない何かに変えていく。
 老人はそれをみて歓喜の声を上げた。

「おお! 何というすさまじい力……人を、いや精霊共さえも超越した存在」

 老人は大きく揺れる研究施設の中で、何かを測定する装置を眺めている。
 一瞬、男を包む光が凄まじい勢いで膨張したかと思った瞬間、今度は収縮して一点に集まる。
 まるで小さなビッグバンが起き、直後その力を一点に集めた特異点誕生したかのようなその様子。

 その中央には一人の男がいた。
 男の輪郭は揺れ、肉体を超越した存在へと昇華していった。
 ゆっくりと老人に歩み寄る男の口元は、邪悪な笑みが浮かんでいた。

「くくく、ふははは! 感じるぞ、これこそが究極の力……この俺こそが地上の神。全ての生きとし生ける者よ、神である我を崇めよ!!」
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