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268、泉の中へ

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 そう言って、さっそく装備品を外し始めるライアンに、シェリルが呆れたように言った。

「ライアン、お前本気でいってるのきゃ? 水に見えるけど、あれは生きてるにゃ! 襲い掛かってきたらどうするにゃ!?」

「何だよシェリル。ビビってるのかよ? 昔は人と精霊が一緒に入ったって、エイジも言ってただろ? 心配ねえよ。大体、この先に進むなら少しでも強くなった方がいいじゃねえかよ」

「ふにゃ~、ほんとにお前は能天気でいいにゃ。お魚は好きにゃけど、あれは大きすぎるにゃ!」

 シェリルお前の言ってることも大概だと思うぞ、と思いながらエイジは二人の会話を聞いていた。
 一方で、リアナは興味津々な顔をして泉を見ている。

「何だか少し怖いけど入ってみたい気もするわ! 一体どんな感じなのかしら? ね、エリス」

 リアナに問われて、エリスも泉の水面を眺める。
 そんな中、リイムとミイムが水面の上を飛んでいく。
 すると水の中から透明なイルカが顔を出した。
 ミイムが小さな手を伸ばすと。

「キュウ~」

 イルカはそう鳴き声を上げて、ミイムの手を鼻の頭でつつく。

『可愛いです! ミイムと遊ぶですか?』

 数頭のイルカが水面から顔を出して、リイムとミイムと戯れている。
 それを見て、答えを躊躇していたエリスの目が輝いた。
 リアナはもちろんミイムたちの姿を見て、夢中になっている。
 そんな二人の姿を見てエイジは笑った。

(エリスも、本当はリアナに負けないぐらい好奇心旺盛なんだよな)

 慎重に見えるエリスが本当は、そういう少女だと言うことをエイジは良く知っている。
 エリスは軽く咳払いをして。

「そ、そうね、魔力を高めてくれるんでしょう? 入ってみてもいいかもね」

 澄ました顔でそう言いながら、エリスはエイジに尋ねた。

「でも、勝手に入ったりしたらきっと怒られるわよね?」

「はは、そうだな。リイムたちに聞いてみるさ」

 エイジはそう言って、水面でイルカと戯れる二人の妖精に声をかける。

『なあ、リイム、ミイム、俺たちがこの泉に入ってもいいのかな? やっぱり、ファルティーシアさんに怒られるよな』

 ウォータードルフィンの鼻の頭に座っているミイムをおいて、リイムがエイジの元に帰ってくる。

『ふふ、大丈夫よ。お母様はエイジのことが気に入ったから、ここに導いたんだもの。ほら、あれを見て』

 リイムはそう言って泉の中央を指さした。
 泉の上空にあったクリスタルが、ゆっくりと水面の方に下がってくるのが見える。
 もう十分な量のウォータードルフィンが、吸い込んだのだろう。
 リイムがそれを見て笑う。

『クリスタルを取りに行くには、泉に入らないといけないもの。きっと、お母様は最初からエイジが泉に入ることは分かってたと思うわ』

『ファルティーシアさんが?』

 確かにリイムやミイムが仲間になっていなければ、あれを取りに行くには泉に入るしかなかっただろう。
 リイムは悪戯っぽくウインクしながら、エイジの肩の上に座る。

『これは只の依頼というよりは、お母様から迷宮の先に進むエイジたちへのプレゼントね』

 リイムの言葉に、エイジは改めて淡く光りながら泉の中央に浮遊する青いクリスタルを眺めた。
 逆に恐れてクリスタルの回収をすることが出来なければ、依頼を果たすことが出来ないわけだ。

(まったく、一番の悪戯好きはファルティーシアさんかもしれないな)

 エイジは皆にそれを話す。
 ライアンは大きく頷いた。

「確かにな。ビビってたらあれは持って帰れねえ、つまり泉に入るしかねえもんな」

「リイムやミイムが仲間になったからさ、取ってきてもらうことも出来るだろうけど。どうだろう? せっかくだから、まず俺が試しに入ってみようと思うんだ」

 そんな会話をしている最中皆がふと気が付くと、エリクはもう鎧を脱いでいた。
 シェリルがジト目でエリクを見つめる。

「エリク先輩何してるにゃ?」

「え? 何って泉に入る準備ですよ! 言ってませんでしたか? 私は大の温泉マニアなんですよ。こんな光景を目の当たりにして、入らずにはおれませんね。エイジ私も一緒に行きますよ!」

「ふにゃ~、もう好きにするにゃ!」

 迷宮の中よりもやる気になっている警備隊の先輩の姿に、シェリルは思わず天を仰ぐ。
 エリクのその言葉にライアンが、我が意を得たりと頷いた。

「せっかくだ、俺たち三人でまず試してみようぜ! エイジ」

 そう言って鎧を脱ぎ始めるライアンに、エリスとリアナは赤面する。

「ちょ! ちょっと二人ともいきなり脱ぎ始めないでよ!」

「もう! ライアンだけじゃなくてエリクさんまで!!」

 結局すったもんだがあった後、やはりまずはエイジが試しに入ることになったのである。
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