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266、青いクリスタル

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「これは……」

 泉の表面に生じた変化を眺めながらオリビアは、その場に呆然と立ち尽くしていた。
 淡く赤色の波紋が水面に生じて広がっていく。
 すると、辺りに声が響いた。

「どこから来たのかしら」

「貴方は一体……」

「馬鹿馬鹿しい、私何を考えてるのかしら」

 それを聞いて、オリビアは動揺した様に泉を見つめる。
 自分の心の中の声が、そのまま波紋のように泉に広がっていく。
 シェリルが驚いたように言った。

「オリビアの声にゃ! どうなってるにゃ!?」

 アンジェがオリビアに尋ねる。

「何したのよ? オリビア」

「知らないわ、ただ泉に手を触れただけよ」

 嘘は言っていない。
 ただ隣にいる少年への強い興味が、オリビアの心の中に生じた瞬間。
 泉に変化が起きたのを思い出す。
 まるで美しい女騎士の感情に泉が反応したかのように。

(私の感情が、泉に伝わったとでも言うの?)

 静かに広がっていく波紋は、まだ囁きを繰り返している。
 その囁きの一つが、自分の心の奥まで明かしてしまうのではと、オリビアは一瞬怯えた。
 水面の波紋が消え、囁きもおさまるのを聞きながら胸を撫でおろす。
 一方でエイジはそんなこととは知らずに、泉を覗き込んでいる。

「これがファルティーシアさんが言っていた泉か。どうやら只のお湯じゃないみたいだな」

 エイジの言葉にエリスも頷いた。

「不思議な泉ね」

「エイジ、依頼は果たさなくてもいいの?」

 泉を覗き込みながら、エイジに問いかけるリアナ。

「そうだな、リアナ」

 目の前に広がるあまりに神秘的な光景に思わず忘れていたが、元々はその為に来たのだ。
 エイジはそう思って、懐から一つの青いクリスタルを取り出す。
 依頼を受けた時にファルティーシアから預かった魔具だ。
 それを手に改めて泉を眺める。

「せっかくここまで来たんだ。まずは、ファルティーシアさんの依頼をこなさないとな」

 リイムとミイムは、エイジの肩の上で口々に言った。

『エイジ、泉の上にそれを投げて。終わったら私が取りに行ってあげるから』

『ミイムも取りにいくです!』

 早くエイジの役に立ちたいのか、ミイムは張り切っている。
 大きな瞳でエイジを見上げて、両手をグッと握りしめている様子が愛らしい。
 エイジはそんな二人を笑いながら見つめると、右手に青いクリスタルをしっかりと握る。

「それじゃあ、いくぜ!」

 他のメンバーにもそうやって声をかけると、エイジはクリスタルを泉の中央付近の上空目がけて投げる。
 青いクリスタルは見事な放物線を描いて飛んでいく。
 リイムとミイムはそれを見て手を叩いた。

『エイジ上手だわ! ナイスコントロール』

『上手くいったです!』

 その瞬間!
 泉の中から巨大な生物が現れたかのように、泉の中央が盛り上がった。
 エリスとリアナはそれを見て思わず声を上げた。

「これは……」

「凄いわ! エイジ!」
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