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253、リイムの願い

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『分かりました、それでは貴方たちをこの先に通してあげましょう。貴方の願いについては、私との約束が済み次第という言ことでいいですね?』

『ええ、分かりました。ファルティーシアさん』

 エイジがそう答えると、リイムとミイムがモジモジしながら見つめている。
 そして、思い切ったように言った。

『エイジ、リイムが手伝ってあげてもいいのよ!』

 小さな妖精のような姿になって、上目遣いにエイジを見るリイム。
 少し生意気でおませな雰囲気が可愛らしい。

『ミイムも手伝ってあげてもいいです!』

 リイムの真似をするミイム。
 それを見て、ファルティーシアはクスクスと笑うと。

『エイジを手伝いたいのではなくて、貴方たちがエイジについて行きたいのでしょう? いつも、外の世界を見て見たいと言っていましたからね。最近はここに人間がやってくると、いつも一番に飛んで行ってしまうのですから。困った子たちです』

『だ、だって、聞いたんですもの、精霊使いと契約した子たちがこの世界を見てきたのを。お城とか海とか、見たことがないようなものが沢山あるって! とっても美味しい、お菓子って言う食べ物もあるんですって!』

『一杯面白い話を聞いたです! ワクワクしたです!』

 興奮した様にエイジの肩を飛び跳ねる、ミイム。

(ワクワクする、か。まるでリアナだな)

 知らない世界を見てみたいと思うのは、人間も精霊も同じなのかもしれないな、とエイジは思った。
 ファルティーシアは二人を窘める。

『そもそもエイジは、精霊使いになることを望んでここに来たのではないのですから。本人の資質は勿論ですが、双方が望んで初めて人間と精霊の契約が成せるのは、貴方たちも知っているはずですよ』

 リイムとミイムはすっかりしょげかえった。
 普段はしっかり者のリイムが、少し涙目になっている。

『でも、でもお母様……エイジって、とても精霊の言葉が上手だし。私たちに精霊に興味を持ってるのが分かるもの』

 エイジが精霊に強く興味を惹かれるのは、異世界の人間だからということもあるだろう。
 魔法すらない世界から来たのだから。

『ミイムも分かるです。悪い人間じゃないです』

 タイタンがふんと鼻で笑う。

『分からぬぞ、精霊狩りを知っておろう。甘い言葉で精霊を騙し、特殊な魔具に封じた上で、我らと契約もせずに無理やりその力を使役する。無論そのような邪悪な輩は、このタイタンが叩きのめして逆に奴等の魂を鎧に封じてくれるがな。使役された仲間の苦しみを、味合わせてやらねばならぬ!』

 エイジはそれを聞いてあの彷徨える鎧を思い出す。

『精霊狩り? 封じるって……じゃあもしかしてあの鎧は』

『ふん! あれは邪悪な連中の魂を封じる道具よ。お陰で最近は連中もここには寄り付かん! リカルド殿には感謝せねばな、あの鎧を作り、その技を我に教えてくれたのはあの御仁だ。人間にしておくには惜しい程のお方よ』

(リカルドさんが?)

 思わず振り返るエイジ。
 エリクにそれを話すと首を横に振る。

「それは知りませんでしたね。考えてみれば、あんな鎧を作れる者など限られている」

 ファルティーシアは、鼻息を荒くするタイタンを諫めると。

『我らは人間との争いを望んではいない。ですが、こちらに危害を加える者には容赦をするつもりはありません。リカルドには感謝をしています。鍛冶職人と聞きましたが、未だ信じられぬ。あれほどの賢者はそうはいない、彼ほどの資質があればこの私と契約を交わすことさえ容易でしょう』

(リカルドさんが?)

 メルティのような神とは違うにしても、ファルティーシアは高位の霊体に近い存在に思える。
 そんな存在に賢者と呼ばれ、契約を交わすことが出来る男。

(ミーナじゃないけど本当に謎が多いな。どうして、そんな人がこの町で鍛冶職人なんてやっているんだ?)

 目的が全く不明な人物だ、とエイジは思う。
 そんな中、リイムとミイムは相変わらずタイタンと口喧嘩をしている。

『エイジはそんなことしないもん! タイタンの馬鹿!』

『そうです! しないです!』

 リイムはエイジの周りを飛び回ってその顔を覗き込む。

『ね? しないわよね、エイジ!』

『はは、しないよ。第一、俺に魔具なんて扱えないからな』

 リイムは勝ち誇ったように胸を張る。

『そうよ! エイジは、単純そうだもの!』

 そう言ってから、リイムはハッとした様にエイジを見上げる。
 そしてシュンとして言った。

『褒め言葉よ? エイジ』

『はは、分かってるさリイム』

 それを聞いてリイムは、嬉しそうにエイジの首に抱きついた。

『決めた! やっぱり私、エイジと一緒に行く! ね、いいでしょ? エイジ』
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