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235、君臨するモノ
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「さて、そろそろ行くとしましょう。皆、準備はいいですね」
エリクの言葉に皆一様に頷いた。
討伐隊の隊長であるエリクを先頭に、通路を進んでいく。
アンジェは『紅』を構えながら言った。
「やっぱり出てこないわね」
「ええ、支配領域に入っているとしたら、彼女の意思に逆らえる個体はいないですからね。完全に群れを掌握している証拠でしょう」
その言葉にアンジェは思わずごくりとつばを飲み込んだ。
彼女にとっても当然初めての経験である。
エリクは勝気な少女のそんな様子を見て言った。
「頼りにしていますよ、アンジェ。貴方の機動力はオリビアに匹敵しますから」
「当然よ、任せて!」
緊張しながらも、オリビアを一瞥して胸を張るアンジェ。
それを見てエイジは感心した。
(はは、流石だなエリクさん。もうアンジェをその気にさせる方法を心得てる、それに……)
エリクの今の言葉にオリビアもアンジェを意識したのか、チラリと彼女を見る。
凛とした横顔に一段と気合が入った様子が見て取れる。
一言で二人を同時にやる気にさせたわけだ。
(なんていうかエリクさんって、剣の腕もいいけど指揮官としても優秀だよな)
ジーナがエリクを信頼しているのが良く分かる、そうエイジは思った。
その剣技の見事さはもちろんだが、戦闘中の視野が広い。
そして、オリビアを凌ぐ程の剣の腕。
冒険者で言えば、Aランクの中位から上位に達する力はあるに違いない。
(なのに、自分一人で先行はしないんだよな)
それだけの腕を持ちながら、仲間の力量をみて仕事を任せるのが上手い。
若手のホープであろうオリビアたちを指揮しているのは、彼らの育成係も兼ねているのだろう。
(ラエサルさんとは違うタイプだけど、いい兄貴って感じだ)
そんなことを考えていると、エリクが皆に注意を促す。
通路の先が広く開けた場所に繋がっているのが分かる。
「恐らく、あの先の広間が巣になっているはずです」
「じゃあ、クイーンもあそこに?」
エリスの問いに討伐隊の隊長は頷いた。
「ええ、そうなりますね。いいですか、私が合図をするまでは例の物は使わないでください」
エイジとアンジェそしてオリビアとライアンは、それぞれ先程の小さな筒を手に取ると頷いた。
「分かりました、エリクさん」
「ええ、分かったわ」
「行きましょう、エリク先輩」
「ああ、行こうぜ!」
その言葉と共にエイジたちは、巣への入り口のくぐって中に入っていく。
中は天井も高く、100m四方ほどの広間になっている。
何らかの遺跡の後だろうか? 変わった形の像がいくつか壁際に並んでいる。
異様なほどに、静まり返った空間。
その奥には不気味に光る赤い瞳が、群れを成して並んでいる。
それを見て、思わずエリスが口を開いた。
「30、いいえ40近くはいるわ。あんな数で一斉にこちらを襲ってきたら」
そこにいるのは、パラサイトアントが寄生した40体ほどのリザードドラゴンだ。
だが、先程のように本能に任せて襲ってくる気配はない。
危険な相手だな、とエイジは思った。
単なる個の集まりと、統率された群れではその戦闘力は比較にならないだろう。
(それに……)
その奥には、一体の魔物がエイジたちを値踏みするように眺めていた。
真紅に光る二対の目。
それは互いに違う生物の物でありながら、一つの生物の物にさえ見える。
リアナが思わず両手で杖を握りしめながら呟いた。
「凄い……見て、他のリザードドラゴンよりもずっと大きいわ」
他のリザードドラゴンはモスグリーンだがその個体は赤い。
そして、尾を含めればその全長は6m以上はあるだろうか。
「ええ。ですが、問題なのはその背にいるものです」
エリクのその言葉。
シェリルとエリスの魔法、ライトーラで照らしだされる広間の奥に存在するその赤いドラゴンの背には、巨大な黒い生物が張り付いている。
漆黒のその体、長い腹部と合わせればサイズは7mは軽くあるだろう。
女王と呼ぶのに相応しいその姿。
その目は知性を帯びている。
ただし、人間とは根本的に違う感性を持つ知性を。
決して相容れない存在であることを感じ、エリスは思わず体を震わせた。
「用心して下さい。女王の特殊な分泌液で、宿主も他の個体よりも遥かに強化されていますからね」
その言葉に、討伐隊全員の緊張感が高まっていく。
同時に黒い生き物の背に、半透明の翼が広がっていく。
それはまるで巨大な羽蟻の翼だ。
床に伸びるその影。
音もなく静かに広がっていく翼は、侵入者に死を宣告しているようにさえ思えた。
「……来るぜ」
ライアンは、この領域の支配者を見つめながら大槍を構えた。
エリクの言葉に皆一様に頷いた。
討伐隊の隊長であるエリクを先頭に、通路を進んでいく。
アンジェは『紅』を構えながら言った。
「やっぱり出てこないわね」
「ええ、支配領域に入っているとしたら、彼女の意思に逆らえる個体はいないですからね。完全に群れを掌握している証拠でしょう」
その言葉にアンジェは思わずごくりとつばを飲み込んだ。
彼女にとっても当然初めての経験である。
エリクは勝気な少女のそんな様子を見て言った。
「頼りにしていますよ、アンジェ。貴方の機動力はオリビアに匹敵しますから」
「当然よ、任せて!」
緊張しながらも、オリビアを一瞥して胸を張るアンジェ。
それを見てエイジは感心した。
(はは、流石だなエリクさん。もうアンジェをその気にさせる方法を心得てる、それに……)
エリクの今の言葉にオリビアもアンジェを意識したのか、チラリと彼女を見る。
凛とした横顔に一段と気合が入った様子が見て取れる。
一言で二人を同時にやる気にさせたわけだ。
(なんていうかエリクさんって、剣の腕もいいけど指揮官としても優秀だよな)
ジーナがエリクを信頼しているのが良く分かる、そうエイジは思った。
その剣技の見事さはもちろんだが、戦闘中の視野が広い。
そして、オリビアを凌ぐ程の剣の腕。
冒険者で言えば、Aランクの中位から上位に達する力はあるに違いない。
(なのに、自分一人で先行はしないんだよな)
それだけの腕を持ちながら、仲間の力量をみて仕事を任せるのが上手い。
若手のホープであろうオリビアたちを指揮しているのは、彼らの育成係も兼ねているのだろう。
(ラエサルさんとは違うタイプだけど、いい兄貴って感じだ)
そんなことを考えていると、エリクが皆に注意を促す。
通路の先が広く開けた場所に繋がっているのが分かる。
「恐らく、あの先の広間が巣になっているはずです」
「じゃあ、クイーンもあそこに?」
エリスの問いに討伐隊の隊長は頷いた。
「ええ、そうなりますね。いいですか、私が合図をするまでは例の物は使わないでください」
エイジとアンジェそしてオリビアとライアンは、それぞれ先程の小さな筒を手に取ると頷いた。
「分かりました、エリクさん」
「ええ、分かったわ」
「行きましょう、エリク先輩」
「ああ、行こうぜ!」
その言葉と共にエイジたちは、巣への入り口のくぐって中に入っていく。
中は天井も高く、100m四方ほどの広間になっている。
何らかの遺跡の後だろうか? 変わった形の像がいくつか壁際に並んでいる。
異様なほどに、静まり返った空間。
その奥には不気味に光る赤い瞳が、群れを成して並んでいる。
それを見て、思わずエリスが口を開いた。
「30、いいえ40近くはいるわ。あんな数で一斉にこちらを襲ってきたら」
そこにいるのは、パラサイトアントが寄生した40体ほどのリザードドラゴンだ。
だが、先程のように本能に任せて襲ってくる気配はない。
危険な相手だな、とエイジは思った。
単なる個の集まりと、統率された群れではその戦闘力は比較にならないだろう。
(それに……)
その奥には、一体の魔物がエイジたちを値踏みするように眺めていた。
真紅に光る二対の目。
それは互いに違う生物の物でありながら、一つの生物の物にさえ見える。
リアナが思わず両手で杖を握りしめながら呟いた。
「凄い……見て、他のリザードドラゴンよりもずっと大きいわ」
他のリザードドラゴンはモスグリーンだがその個体は赤い。
そして、尾を含めればその全長は6m以上はあるだろうか。
「ええ。ですが、問題なのはその背にいるものです」
エリクのその言葉。
シェリルとエリスの魔法、ライトーラで照らしだされる広間の奥に存在するその赤いドラゴンの背には、巨大な黒い生物が張り付いている。
漆黒のその体、長い腹部と合わせればサイズは7mは軽くあるだろう。
女王と呼ぶのに相応しいその姿。
その目は知性を帯びている。
ただし、人間とは根本的に違う感性を持つ知性を。
決して相容れない存在であることを感じ、エリスは思わず体を震わせた。
「用心して下さい。女王の特殊な分泌液で、宿主も他の個体よりも遥かに強化されていますからね」
その言葉に、討伐隊全員の緊張感が高まっていく。
同時に黒い生き物の背に、半透明の翼が広がっていく。
それはまるで巨大な羽蟻の翼だ。
床に伸びるその影。
音もなく静かに広がっていく翼は、侵入者に死を宣告しているようにさえ思えた。
「……来るぜ」
ライアンは、この領域の支配者を見つめながら大槍を構えた。
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