魔力が無いと言われたので独学で最強無双の大賢者になりました!

雪華慧太

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浜辺にて

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「ねえ、ルオ! みんなも、早くってば!」

 そう言って砂浜を駆けていくのは、リーシャだ。
 白狼族特有の大きな狼耳が目の前に広がる美しい光景にピンと立って、白い尻尾が揺れている。
 白の姫騎士と呼ばれるだけあって、その姿は凛々しくも可憐だ。

 ルオがルディーリアで英雄帝の称号を得てから数か月後、彼らは今、とある場所を訪れていた。
 浜辺を駆けていくリーシャを見つめながら、フレアとエミリアは少し恥ずかしそうに自分たちの服装を眺める。

「ちょ……ほ、ほんとにこれって下着じゃないのよね?」

「ええ、フレア。す、少し布地が少なすぎる気がしますわ」

 フレアが身につけているのはいつものような女騎士の鎧ではない。
 赤い薔薇の飾りが胸についた、鮮やかな真紅の水着である。
 その可憐で艶やかな姿は、赤の薔薇姫の名に相応しい。

 一方で、エミリアが着ているのは、彼女の清楚な美しさを際立たせるような純白の水着だ。
 そんな二人の後ろで腰に手をあてて豪快に笑っているのは、ディアナだ。

「馬鹿だね。二人とも何恥ずかしがってるんだい? たまには剣を置いてこういう格好も気持ちいいじゃないか!」

 ディアナが着ているのは、大人っぽいデザインの黄色の水着だ。
 それは、輝くブロンドを靡かせているエルフの美女によく似合っている。
 自慢のプロポーションを日の光の下に見せつけるようにポーズをとるディアナ。
 その大きな胸をジト目で眺めながらフレアたちが言う。

「まったく、何を食べたらそんなに大きくなるんだか。このエロエルフは」

「は、破廉恥です!」

「ちょ! エミリア、破廉恥はないだろ!?」

 ルオはそんな彼女たちを眺めながらため息をつくと肩をすくめた。

「まったく、やれやれだな」

 そんなルオをフレアたちは睨む。

「やれやれじゃないでしょ? 自分だけ上着なんて着ちゃって」

 エミリアとディアナもそれを聞いて頷く。

「そうですわ!」

「全くだね。それは不公平っていうものじゃないかい?」

 ルオに詰め寄る三人。

「「「えい!!」」」

 彼の上着を掴んでそれを脱がす。

「お、おい!」

 上着を脱がされて、上半身は裸になり水着一枚になるルオ。
 自分でやっておきながらその姿を見て真っ赤になるフレアと、思わず両手で顔を隠しながらもしっかりその指の隙間からルオを見つめるエミリア。
 それを見て、ルオは咳払いをする。

「おい、勝手に上着を脱がしておいてそれはないだろう?」

 ディアナはそんな彼らを見て楽し気に笑った。

「とにかく、これでみんな平等ってわけだ! せっかく来たんだ楽しもうじゃないか」

 ここは獣人の王国ルディーリア、その都から東に行ったところにある美しいビーチである。
 広がるエメラルドグリーンの海。
 そして、そこ吹く浜風は爽やかだ。

 ルオが英雄帝の称号を得て数か月。
 ルオはもちろん、今や四女神と呼ばれるフレアやエミリア、そしてディアナやリーシャの活躍もあり、大陸の西の国々もシュトハイドから解放されその自治も順調になりつつある。

 そんな中、日々を忙しく過ごす彼らにしばしの休息をという提案があり、彼らはこの美しい浜辺にやってきていた。

「ここはルディーリアの秘宝と呼ばれるエメラルドの海、我ら獣人族の大切な聖地のひとつでもあります。一度、この美しい海にルオ様たちをお連れしたくて」

 そう言ったのはリーシャの母親で、ルディーリアの王妃であるエスメルディアだ。
 リーシャとよく似ているその美貌は獣人族用の白い水着によく映える。
 フレアはそんなエスメルディアの大きな胸を見つめている。

「……ディアナよりも上手がいたわね」

「フレア様?」

 不思議そうに問い返されてフレアは咳ばらいをした。

「こほん。べ、別になんでも! エスメルディア王妃、ご招待を感謝します」

 ジークやサラ、そしてグレイブやマリナも水着姿だ。
 そして、母親のミレーヌと一緒にやってきたエマもフリル付きでクリーム色の可愛らしい水着を着ている。
 大きな獣耳と尻尾を左右にゆらして、浜辺を歩くカニの姿に目を奪われている。

「はう~、カニさんなのです!」

 その姿を見て一同和む。
 そうこうしているうちに、リーシャが戻ってくる。
 カニを追いかけてちょこちょこ走り回るエマを見て微笑みながら、ルオたちに言う。

「ねえ、ルオ! みんな! せっかく来たんだから泳ぎましょうよ」

 ディアナはその言葉に頷いた。

「そうだね。こんなに綺麗な海を前にぼうっと見てるのもなんだ。フレア、あんただって水練ぐらい受けたことはあるんだろう?」

「まあね。エミリアはどう?」

 フレアの言葉にエミリアは少し戸惑いながらも答える。

「泳ぐのは初めてですけど、教われば多分。ルオ様と意識を繋げば分かりやすく教えて頂けると思いますし」

「確かに坊やと私たちは魂の絆で結ばれてるからね」

 ディアナのその言葉に、リーシャが訝し気な顔をした。

「ねえ、ディアナ。魂の絆って? そういえば、前も口づけがどうのって言ってたし……」

「え?」

 それを聞いて、いつも凛と澄ましたディアナの頬が赤く染まる。
 リーシャを救出するための命がけの決戦を前に、フレアやエミリアと順番にルオと踊った時のことを思い出す。
 永遠の愛を誓って口づけをした。
 その時に、ディアナたちの魂に刻まれたルオの魔法紋。

(そ、そうだよ、あれは決戦の前だったからしかたなかったのさ。この私が男の唇に口づけして愛を誓うなんて)

 そう言いながらも、あの時感じた幸せを思い出す。
 そして、ますますその美しい顔が赤くなっていくディアナ。

「ねえ、ディアナってば! みんな、私に何か隠してるでしょ?」

 ジト目でディアナたちを眺めるリーシャ。
 フレアやエミリアも思わず視線をそらす。

「べ、別に大したことじゃないわよ」

「そ、そうよ、リーシャ」

 ディアナも動揺しながらリーシャに言う。

「そ、そうさ。聞きたかったら坊やに聞きなよ……ってあの男! 逃げたね」

 四女神と呼ばれる彼女たちの視線の先には、いつの間にか海に向かって駆けだしている若き英雄帝の姿が映っている。
 エマが目を丸くして指をくわえた。

「はわ! 凄いのです。王たま、お魚みたいなのです!」

 その言葉通り、ルオは海に飛び込むとまるで魚のような速さで海の中を泳いでいく。
 ディアナたちは顔を見合わせる。
 そして一斉に叫んだ。

「「「ちょっと待ちなさいよルオ!!」」」

 ルオを追って海に向かって駆けていく三人。
 そんな彼女たちを追って、リーシャも笑いながら砂浜を駆けて行った。


 ───────

 いつもご覧頂きましてありがとうございます!
 皆様のお蔭で第二巻も先日無事、発売日を迎えることが出来ました。
 お礼を込めて、SSとして今回のお話を描かせて頂きました。
 今後とも何卒よろしくお願いします!
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感想 301

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みんなの感想(301件)

小幸ユウギリ

一気読みしました!超面白かったです!

……なんだかこうしてみると、主人公が現れるまでの国って……神にも等しいほどの魔力を持った希少な人材を、“魔力が観測できない”っていうだけで『ゴミクズ』と称して切り捨ててきたっていうことで……思いっきり損しかしてないっすね←

雪華慧太
2024.01.11 雪華慧太

小幸ユウギリさん、感想ありがとうございます!
楽しくお読み頂きまして嬉しいです!
仰るように人材を見極める力というのはとても大切ですよね。

解除
八神 風
2020.10.23 八神 風

書籍分の後に簡単なキャラ紹介でもあると
しおり🔖が挟めるのだが

雪華慧太
2020.10.25 雪華慧太

八神 風さん、感想ありがとうございます!
そうですよね!
教えて下さってありがとう。
せっかくなので先ほどSSを書いて更新しておきました。
よかったらしおりを挟むのに使ってくださいね!

解除
りる
2020.10.17 りる

新たなヒロインゲットだぜ
ここまで来るとハーレムタグが要りそうですが

雪華慧太
2020.10.23 雪華慧太

りるさん、感想ありがとうございます!
白の姫騎士リーシャ。
今回の一件でさらにルオたちと絆が深まって、新たなるヒロインになりましたね!

解除

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