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3巻
3-3
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リュオンは、その頭を軽く撫でて答えた。
「テアラ、もし勝てぬのなら死ぬだけだ。ここで死ぬようなら、この先に進む資格など最初からない。己の真の力に目覚めるならば今しかないのだ」
「ここから先? 真の力だと? あんた何を言ってるんだ!!」
俺が声を荒らげたその時、塔全体から集まった強烈な光が目の前の女から放たれた。
リューシアは白い輝きを手にしていた。それ自体に生命があるように揺らめき、やがて一振りの剣となっていく。
エルンディアスによく似た刀だった。だが、その輝きは遥かに強い。リューシアの薔薇色の唇が冷たい笑みを浮かべる。
「触れ得ざるモノ、神を断罪する刃。小僧、お前にこれを手にする資格があるか、わらわに示せ!」
瞬間的に俺の目の前に現れたかのように、リューシアが迫る。
エルンディアスとリューシアの持つ剣が激しくぶつかり合った。無数の突きが、俺に向かって放たれる。俺はかろうじてその攻撃をかわした。
しかし、完全には防ぎ切れず、全身に浅い傷口が広がる。今度は俺の血潮が鮮やかに聖堂の床に紅の模様を描いていく。
(くそが、まだ速くなるのか!?)
リューシアの目が真紅に輝き、その力が増す。手にした剣が守護者であるこの女と呼応しているかのようだ。
恐ろしいほどの速さの剣が、俺の体に新たな傷跡を作っていった。上段から縦一閃に切り伏せようとした女の剣が、紙一重で体をすり抜ける。攻撃を回避しても連撃は止まない。リューシアは、すかさず横薙ぎに剣を振るった。
エルンディアスでそれを受け止めるが、先ほどの剣とは重さも速さも段違いだ。俺は堪らず体勢を崩してたたらを踏む。
幾度も繰り出される閃光のような打ち下ろしに、ついに剣を弾かれてしまった。その好機をリューシアが逃すはずがない。
次の瞬間、鋭い突きが喉笛に迫った。
「くっ!!」
かわしきれない。自分でもはっきり分かった。俺の首はリューシアの剣で貫かれるだろう。
(駄目か!)
その時、誰かが俺に覆いかぶさるのが見えた。
俺の体を抱き締めて、苦しげに呻くルビアの美しい顔。その背中には、深々とリューシアの剣が突き刺さっている。
「くぅ! ううぁあああ!!」
美しい女の悲鳴が聖堂に響き渡った。ルビアの美貌が苦悶に歪む。
リューシアの剣はルビアの鎧を易々と切り裂いて、その柔肌をさらに貫いていく。
――まるで時が止まったかのようだった。
「いやぁあああ!!」
ミルダの口から大きな悲鳴が上がった。
アウロスも微動だに出来ず、ただ呆然と目を瞠っている。
リューシアは、ルビアの体から悠然と剣を引き抜き、冷ややかに俺達を一瞥した。
その剣先からビシャリと真紅の血が床に飛び散った。
流れ出る血が聖堂の床を染めていき、ルビアの体がビクンと不自然に痙攣する。
「ルビア!!」
「哀れな。男の為にその命まで差し出すとは。……せめてもの情けだ。別れを告げる時間だけでもくれてやろう」
俺の叫び声に、ルビアは静かに息を吐いた。
薔薇の花びらのように美しいその唇から、一筋の血が流れていく。
ルビアは苦しげに笑った。
「これでお相子だな……。お前に救われた借りを返す前に死なれては困る」
「馬鹿、どうしてこんな真似を!」
俺はルビアの体を抱き締め、慌ててミルファールに救いを求めた。
「ミルファール!!」
「ええ、分ってます。ハルヒコさん!!」
ミルファールが飛び出し、脇目も振らずにルビアの傷口に手を当てた。
淡い光がミルファールの手から放たれる。
「お母様!!」
その横にミルダがすぐさま駆け寄って、手をかざした。強い力が傷口を癒やす。
だがそれにもかかわらず、ルビアの唇はみるみる青ざめていく。
ミルダが涙を手で拭い、ルビアの手を握り締めた。
「ルビア安心して……。死なせたりしない、貴方を絶対死なせたりしない!!」
魔力の集まったミルダの手が、ブルブルと震えている。傷口は塞がっていくのに、ルビアの肉体から命の灯が消えていくのを止めることが出来ない。赤い髪のハーフエルフは、両手を血に染めて叫び声を上げた。
「どうして! どうしてよ!! 何故治せないの!!」
「ミルダ落ち着きなさい。貴方の魔力が乱れていくだけよ……!」
ミルファールは涙を流しながら娘を優しく宥めた。
リューシアが俺達を見下ろして冷酷に告げる。
「神さえ断罪するこの剣で、あれほど深く切り裂かれたのだ。もはや長くはあるまい。別れを告げねば、虚しく死ぬだけだぞ」
ミルダがルビアの手を握り締めて呻いた。
「嘘よ……。嘘よ……そんなの嘘よ!!」
ミルファールがその頬に顔を寄せて、首を横に振る。
そして静かに言った。
「もうやめなさい、ミルダ。時間がない。ハルヒコさんとのお別れをさせてあげなさい。ルビアさんは、それを望んでいるはずよ」
「そんな、だってお母様。ハルヒコ……。ルビアが」
ミルダの頬に、とめどなく涙が流れていた。
俺にはまだ、目の前の状況が信じられなかった。この世界に来て、初めて愛した女が息を引き取ろうとしている。アルドリアの薔薇にして最強の女騎士。ともすれば、生涯の伴侶となるかもしれなかった女の命が、俺の腕の中から零れ落ちていく。
俺はミルファールに叫んだ。
「どうしてだ! 傷口は塞がったんだろう!? ミルファール!」
「……ハルヒコさん。落ち着いてください! もうあまり時間がありません」
――本当に、もはや打つ手はないのか?
顔を背けるミルファールを見て、俺は怒りに任せて手にした剣を床に突き立てた。
激しい金属音が聖堂に響く。
――俺はこうしてルビアが死にゆくのを、ただ手をこまねいて見ていることしか出来ないのか?
「ハルヒコ……」
自分の情けなさに、不甲斐ない己の非力さに、怒りで全身が戦慄いていた。腹の底から湧き上がる震えを必死に抑えようと、俺は剣の柄を強く握り締める。
俺のそんな様子を察したのか、美しい女騎士は閉じていた瞼をゆっくりと開いた。
「ルビア……。お前」
白く震える指先が、俺の頬をなぞっていく。
「騒ぐな……。私はマフルージェ王女に言った。ハルヒコ、お前は変わらないと。たとえ私が死んだとしても、私が生きた証に恥じぬ男のままで私の魂と共に生きるだろう。そう信じている、と」
美しい瞳が痛みを堪えて揺れている。
俺は、震えるルビアの手をしっかりと握り締めた。
ルビアが静かに微笑む。
「お前は救ってくれた。アルドリアを、リーア様を。お前は、私にとって誰にも勝る英雄だ」
「分かった。……もう喋るな、ルビア」
ルビアは俺の胸に顔を埋めた。そしてうわ言のように囁いた。
「……私は誇りに思う。お前を愛せたこと、共に生きることが出来たことを。それが私にとっての何よりの手向けだ」
先ほどまで俺の顔を触っていたルビアの手が、だらりと力なく垂れ下がった。ルビアの体から力が失われていくのが分かる。
俺の瞳から涙が溢れ、頬を流れ落ちた。
頽れるその体を支えながら、俺は静かに聖堂の床に横たえた。煌くようなブロンドの髪が、白い石造りの床に金色の小さな野原を作る。その姿は何よりも美しく、俺の心の中に刻まれていった。
(ルビア……)
俺はその場に立ち尽くしていた。
リューシアがそれを見て笑みを浮かべる。
もうこの女以上に誰かを愛することはないだろう。体の中で爆発するように何かが目覚めていくのが分かる。
「どうした、もう戦えぬか? ならば、その女の死は無意味だ。哀れな女だ。命を賭してまで守った男が、これではな」
「黙れ……。御託はもういい、来い」
俺の言葉を合図にして、リューシアの目に強烈な殺気が宿り、剣が鋭く俺に振り下ろされた。
俺の体が、その光に両断される――。
「ハルヒコ!!」
ミルダが叫ぶ声が聞こえた。
それを見てリューシアの目は満足げに赤い光を帯びる。だが、口元に浮かぶ笑みは、すぐに凍りついた。
「馬鹿な!」
俺の右手は、触れ得ざるモノとリューシアが呼んだ剣を受け止めている。
鋼のような赤い鱗が、俺の右手を覆っていた。
リューシアが唇を噛む。
「まさか竜化か! そこまでの力を……。ならばわらわも容赦はせぬ」
自分の中で荒れ狂うこの力を、俺はようやく理解した。いや、受け入れることが出来たと言った方がいいかもしれない。
ここは竜族の遺跡だ。
この地を守る守護者リューシア・エレハリスとは、滅んだはずの竜族の一人。しかも俺と同じ赤い瞳をしている。
それに俺の親父である春宮龍音、あいつの瞳も緋色だった。
ならば俺の力の源は一つしかない。
俺には彼らと同じ血が流れている、ということは――。
(俺は、竜族だ)
信じがたい話だが、そう考えれば筋が通る。
そして俺の親父も……。
リューシアの瞳が真紅に輝くと、その右手を赤い鱗が覆った。俺の右手と同じだ。
その時、凄まじい咆哮が聖堂に響き渡った。
その雄叫びと共に、赤く巨大な獅子を思わせる生き物が現れる。
「バルダス!!」
バルダスは、その巨体からは想像できない身軽さで宙を跳躍し、リューシアへ襲いかかる。
俺に気を取られていたリューシアは一瞬の隙を突かれ、首の皮を浅く切り裂かれた。
バルダスは追い打ちをかけるように、研ぎ澄まされた獅子の牙でその喉笛に喰らいつこうと狙いを定める。
ギィイイン!!
鋭い音が高く響いた。バルダスの牙とリューシアの剣が交わったのだ。
巨大な獅子はリューシアの間合いから飛び退くと、俺の傍に静かに着地した。
その牙にリューシアの剣が刻み付けた傷跡が残っている。
俺と戦った時よりも遥かに強い。これが神狼族の使った呪印の支配を受けていない、バルダスの真の力なのか。
リューシアが竜化した右手を軽く振る。
「ほう、バルダス・デュカオーン。獣人族最強と呼ばれた男か」
「どうなっているハルヒコ! 何故リューシアが……。いや違う。別の女か? こいつは……。 それに貴様、何故、俺の名を知っている!」
それからバルダスは聖堂の床に横たわるルビアに視線を移し、低く唸り声を上げた。
「なに! そんなまさか! ……ハルヒコ」
バルダスは少しよろめいた後、俺の方を窺った。
俺はバルダスの瞳を正面から受け止めることが出来ずに視線を外す。
バルダスは状況を察してルビアに歩み寄ると、片膝を突いて頭を垂れた。戦いの中で散った、勇敢な戦士の魂を讃える獅子族の礼だ。
そして、そっとその頬に触れる。
「……誰よりも強く凛々しい乙女。アルドリアに咲く薔薇よ、お前ほどの女が……!」
「ルビア、嘘よ、こんなの。嫌……。お願い、目を開けて! リュオン先生!! ルビアを助けて!!」
ミルダはルビアの亡骸に縋りついて泣いている。
俺の中にいるミルファールは何も言わない。
リュオンは先ほどから沈黙を貫き、俺達の戦いを見つめている。
バルダスはミルダの肩を抱くと、しっかりと前を見た。
「ハルヒコ、奴を倒すぞ。アルドリアの薔薇の死を無駄にするな!」
俺はバルダスの言葉に頷いた。
一つだけ、はっきりしていることがある。
ルビアならこのような窮地に瀕しても、決して逃げたりはしないだろう。
あいつはいつだって、真っすぐに前を向いて剣を振るった。
圧倒的な戦力差により、アルドリア王国が滅亡寸前の劣勢に追い込まれた時も、決して怯まなかった。自国の兵士達の先頭に立って敵陣の真っただ中へ突撃し、戦女神のようにその華麗な剣技で迎え来る相手をねじ伏せた。
誰よりも美しく、そして気高い女騎士――。
「……ああ、バルダス。俺に力を貸してくれ!!」
アウロスもそこへ加わろうとした。だが、俺はそれを制止した。目の前の相手は尋常な強さではないからだ。アイリーネの泣き顔は見たくない。
「「行くぞ!!」」
俺とバルダスは同時に叫んでいた。
赤い色の獅子が、稲妻のような速さで俺の頭上を飛び越え、リューシアに襲い掛かる。
それと同時に、俺は正面から突っ込んだ。
リューシアの瞳から赤い光が放たれ、俺の頬を掠めて焦がしていく。強烈な闘気を凝縮したものだ。
常人なら捉えきれないほどの速度の攻撃だったが、俺の瞳には、その軌道がはっきりと映し出されていた。
「喰らえ!!」
俺の剣の突きが、守護者である女の首筋を狙う。
その瞬間、リューシアの剣がぶれるように動いた。俺のエルンディアスの一撃を、下段から上段に切り上げることで受け流し、そのままバルダスの牙をも弾き返す。
恐ろしいほどの剣の冴えだ。先ほど戦った仮面の男でさえ遠く及ばないだろう。
リューシアの頬に再び朱色の線が走った。完全にはかわしきれず、俺の突きが頬を掠めたのだ。
パックリと口を開けた傷跡から飛び散る自らの血を見て、リューシアは剣を天に向けて突き上げる。
「ほう、わらわの体に二度までも触れるとは。だが、この程度のかすり傷をわらわに負わせたところで何の意味もない」
ヴェリタスの聖殿の白い内壁から溢れる光が、リューシアの剣に集まっていく。するとそれが力を与え、女の額の紋章を輝かせた。
バルダスが低く呻いた。
「馬鹿な! 奴の傷が治っていく!!」
「ああ……」
俺がリューシアに付けた二つの傷が、シュウシュウと音を立てて塞がっていく。
そのたびに聖堂全体が鳴動し淡い光を放つ。この巨大な塔全体が、目の前の女と生命を共有しているかのようだ。
「奴が動けなくなるくらいの深手を与えるしかない。動きが止まったところで、止めを刺す」
俺の言葉にバルダスは頷き、聖堂が震えるほどの咆哮を上げる。
(これは……)
凄まじい力がバルダスの内側から湧き上がるのを俺は感じた。赤き獅子王と呼ばれた男の褐色の鬣が、闘気で黄金に変わっていく。その姿はまるで黄金の獅子だ。
「俺はドルメールを、そして帝国を滅ぼすために、七年間、獣化奥義を磨き続けた。エルフにとっての魔力に等しい闘気を身に纏い、肉体を強化する究極の獣化奥義だ。だが勇者よ、長くは持たん。一気に行くぞ!!」
唸り声を上げるバルダスの傍で俺は低く身構え、全身に力を込める。
真紅の輝きが俺の体を完全に包んでいく。
「ああ、バルダス!!」
目の前の女は正眼に剣を構えて、こちらを眺めている。
次の瞬間、バルダスの姿が消えた。
守護者の脇をえぐるように、超高速で牙を剥くのが俺の瞳にかろうじて映る。
それを避けようとするリューシアにわずかな隙が生まれた。
「貰った!」
俺は、体勢を崩したリューシアの後ろにいる。
剣先が守護者の首を刎ねる――!
そう勝利を確信したのも束の間だった。いつの間にか、視界は白く染まっていた。
(何だこれは!?)
こちらを振り返るリューシアの顔に余裕の笑みが浮かんでいる。奴の手に、さっきまで握られていた剣がなくなっていた。
そのことに気づくと同時に、女の体から放たれた強力な何かが、俺とバルダスの体に直撃する。それが強烈な雷撃だと分かった時には、俺はリューシアの体から弾き飛ばされ、地面を転がっていた。
「ぐぅううう!!」
バルダスも電撃を受けて呻いていた。
「ぐぉおお!! 馬鹿な!」
リューシアは俺達を睥睨している。
塔全体から渦を巻くように、強大な魔力がリューシアに集まっていた。
「誇りに思ってよいぞ。わらわに剣技以外の術を使わせたのだ。だがこれで終わりだ」
触れ得ざるモノと呼ばれた剣は、いつの間にか形を変えていた。守護者の意思によって、自在に形を変えられる武器なのか。
――俺達はどう戦ったらいい……。
バチバチと光を放ち、竜族の女は止めとばかりに自らの頭上に稲光を作り上げた。
先ほどの雷撃によって四肢が痺れ、動けないままもう終わりかと俺が全てを諦めかけたその時――。
リューシアの周りが、赤い炎で一気に燃え上がった。
「テアラ、もし勝てぬのなら死ぬだけだ。ここで死ぬようなら、この先に進む資格など最初からない。己の真の力に目覚めるならば今しかないのだ」
「ここから先? 真の力だと? あんた何を言ってるんだ!!」
俺が声を荒らげたその時、塔全体から集まった強烈な光が目の前の女から放たれた。
リューシアは白い輝きを手にしていた。それ自体に生命があるように揺らめき、やがて一振りの剣となっていく。
エルンディアスによく似た刀だった。だが、その輝きは遥かに強い。リューシアの薔薇色の唇が冷たい笑みを浮かべる。
「触れ得ざるモノ、神を断罪する刃。小僧、お前にこれを手にする資格があるか、わらわに示せ!」
瞬間的に俺の目の前に現れたかのように、リューシアが迫る。
エルンディアスとリューシアの持つ剣が激しくぶつかり合った。無数の突きが、俺に向かって放たれる。俺はかろうじてその攻撃をかわした。
しかし、完全には防ぎ切れず、全身に浅い傷口が広がる。今度は俺の血潮が鮮やかに聖堂の床に紅の模様を描いていく。
(くそが、まだ速くなるのか!?)
リューシアの目が真紅に輝き、その力が増す。手にした剣が守護者であるこの女と呼応しているかのようだ。
恐ろしいほどの速さの剣が、俺の体に新たな傷跡を作っていった。上段から縦一閃に切り伏せようとした女の剣が、紙一重で体をすり抜ける。攻撃を回避しても連撃は止まない。リューシアは、すかさず横薙ぎに剣を振るった。
エルンディアスでそれを受け止めるが、先ほどの剣とは重さも速さも段違いだ。俺は堪らず体勢を崩してたたらを踏む。
幾度も繰り出される閃光のような打ち下ろしに、ついに剣を弾かれてしまった。その好機をリューシアが逃すはずがない。
次の瞬間、鋭い突きが喉笛に迫った。
「くっ!!」
かわしきれない。自分でもはっきり分かった。俺の首はリューシアの剣で貫かれるだろう。
(駄目か!)
その時、誰かが俺に覆いかぶさるのが見えた。
俺の体を抱き締めて、苦しげに呻くルビアの美しい顔。その背中には、深々とリューシアの剣が突き刺さっている。
「くぅ! ううぁあああ!!」
美しい女の悲鳴が聖堂に響き渡った。ルビアの美貌が苦悶に歪む。
リューシアの剣はルビアの鎧を易々と切り裂いて、その柔肌をさらに貫いていく。
――まるで時が止まったかのようだった。
「いやぁあああ!!」
ミルダの口から大きな悲鳴が上がった。
アウロスも微動だに出来ず、ただ呆然と目を瞠っている。
リューシアは、ルビアの体から悠然と剣を引き抜き、冷ややかに俺達を一瞥した。
その剣先からビシャリと真紅の血が床に飛び散った。
流れ出る血が聖堂の床を染めていき、ルビアの体がビクンと不自然に痙攣する。
「ルビア!!」
「哀れな。男の為にその命まで差し出すとは。……せめてもの情けだ。別れを告げる時間だけでもくれてやろう」
俺の叫び声に、ルビアは静かに息を吐いた。
薔薇の花びらのように美しいその唇から、一筋の血が流れていく。
ルビアは苦しげに笑った。
「これでお相子だな……。お前に救われた借りを返す前に死なれては困る」
「馬鹿、どうしてこんな真似を!」
俺はルビアの体を抱き締め、慌ててミルファールに救いを求めた。
「ミルファール!!」
「ええ、分ってます。ハルヒコさん!!」
ミルファールが飛び出し、脇目も振らずにルビアの傷口に手を当てた。
淡い光がミルファールの手から放たれる。
「お母様!!」
その横にミルダがすぐさま駆け寄って、手をかざした。強い力が傷口を癒やす。
だがそれにもかかわらず、ルビアの唇はみるみる青ざめていく。
ミルダが涙を手で拭い、ルビアの手を握り締めた。
「ルビア安心して……。死なせたりしない、貴方を絶対死なせたりしない!!」
魔力の集まったミルダの手が、ブルブルと震えている。傷口は塞がっていくのに、ルビアの肉体から命の灯が消えていくのを止めることが出来ない。赤い髪のハーフエルフは、両手を血に染めて叫び声を上げた。
「どうして! どうしてよ!! 何故治せないの!!」
「ミルダ落ち着きなさい。貴方の魔力が乱れていくだけよ……!」
ミルファールは涙を流しながら娘を優しく宥めた。
リューシアが俺達を見下ろして冷酷に告げる。
「神さえ断罪するこの剣で、あれほど深く切り裂かれたのだ。もはや長くはあるまい。別れを告げねば、虚しく死ぬだけだぞ」
ミルダがルビアの手を握り締めて呻いた。
「嘘よ……。嘘よ……そんなの嘘よ!!」
ミルファールがその頬に顔を寄せて、首を横に振る。
そして静かに言った。
「もうやめなさい、ミルダ。時間がない。ハルヒコさんとのお別れをさせてあげなさい。ルビアさんは、それを望んでいるはずよ」
「そんな、だってお母様。ハルヒコ……。ルビアが」
ミルダの頬に、とめどなく涙が流れていた。
俺にはまだ、目の前の状況が信じられなかった。この世界に来て、初めて愛した女が息を引き取ろうとしている。アルドリアの薔薇にして最強の女騎士。ともすれば、生涯の伴侶となるかもしれなかった女の命が、俺の腕の中から零れ落ちていく。
俺はミルファールに叫んだ。
「どうしてだ! 傷口は塞がったんだろう!? ミルファール!」
「……ハルヒコさん。落ち着いてください! もうあまり時間がありません」
――本当に、もはや打つ手はないのか?
顔を背けるミルファールを見て、俺は怒りに任せて手にした剣を床に突き立てた。
激しい金属音が聖堂に響く。
――俺はこうしてルビアが死にゆくのを、ただ手をこまねいて見ていることしか出来ないのか?
「ハルヒコ……」
自分の情けなさに、不甲斐ない己の非力さに、怒りで全身が戦慄いていた。腹の底から湧き上がる震えを必死に抑えようと、俺は剣の柄を強く握り締める。
俺のそんな様子を察したのか、美しい女騎士は閉じていた瞼をゆっくりと開いた。
「ルビア……。お前」
白く震える指先が、俺の頬をなぞっていく。
「騒ぐな……。私はマフルージェ王女に言った。ハルヒコ、お前は変わらないと。たとえ私が死んだとしても、私が生きた証に恥じぬ男のままで私の魂と共に生きるだろう。そう信じている、と」
美しい瞳が痛みを堪えて揺れている。
俺は、震えるルビアの手をしっかりと握り締めた。
ルビアが静かに微笑む。
「お前は救ってくれた。アルドリアを、リーア様を。お前は、私にとって誰にも勝る英雄だ」
「分かった。……もう喋るな、ルビア」
ルビアは俺の胸に顔を埋めた。そしてうわ言のように囁いた。
「……私は誇りに思う。お前を愛せたこと、共に生きることが出来たことを。それが私にとっての何よりの手向けだ」
先ほどまで俺の顔を触っていたルビアの手が、だらりと力なく垂れ下がった。ルビアの体から力が失われていくのが分かる。
俺の瞳から涙が溢れ、頬を流れ落ちた。
頽れるその体を支えながら、俺は静かに聖堂の床に横たえた。煌くようなブロンドの髪が、白い石造りの床に金色の小さな野原を作る。その姿は何よりも美しく、俺の心の中に刻まれていった。
(ルビア……)
俺はその場に立ち尽くしていた。
リューシアがそれを見て笑みを浮かべる。
もうこの女以上に誰かを愛することはないだろう。体の中で爆発するように何かが目覚めていくのが分かる。
「どうした、もう戦えぬか? ならば、その女の死は無意味だ。哀れな女だ。命を賭してまで守った男が、これではな」
「黙れ……。御託はもういい、来い」
俺の言葉を合図にして、リューシアの目に強烈な殺気が宿り、剣が鋭く俺に振り下ろされた。
俺の体が、その光に両断される――。
「ハルヒコ!!」
ミルダが叫ぶ声が聞こえた。
それを見てリューシアの目は満足げに赤い光を帯びる。だが、口元に浮かぶ笑みは、すぐに凍りついた。
「馬鹿な!」
俺の右手は、触れ得ざるモノとリューシアが呼んだ剣を受け止めている。
鋼のような赤い鱗が、俺の右手を覆っていた。
リューシアが唇を噛む。
「まさか竜化か! そこまでの力を……。ならばわらわも容赦はせぬ」
自分の中で荒れ狂うこの力を、俺はようやく理解した。いや、受け入れることが出来たと言った方がいいかもしれない。
ここは竜族の遺跡だ。
この地を守る守護者リューシア・エレハリスとは、滅んだはずの竜族の一人。しかも俺と同じ赤い瞳をしている。
それに俺の親父である春宮龍音、あいつの瞳も緋色だった。
ならば俺の力の源は一つしかない。
俺には彼らと同じ血が流れている、ということは――。
(俺は、竜族だ)
信じがたい話だが、そう考えれば筋が通る。
そして俺の親父も……。
リューシアの瞳が真紅に輝くと、その右手を赤い鱗が覆った。俺の右手と同じだ。
その時、凄まじい咆哮が聖堂に響き渡った。
その雄叫びと共に、赤く巨大な獅子を思わせる生き物が現れる。
「バルダス!!」
バルダスは、その巨体からは想像できない身軽さで宙を跳躍し、リューシアへ襲いかかる。
俺に気を取られていたリューシアは一瞬の隙を突かれ、首の皮を浅く切り裂かれた。
バルダスは追い打ちをかけるように、研ぎ澄まされた獅子の牙でその喉笛に喰らいつこうと狙いを定める。
ギィイイン!!
鋭い音が高く響いた。バルダスの牙とリューシアの剣が交わったのだ。
巨大な獅子はリューシアの間合いから飛び退くと、俺の傍に静かに着地した。
その牙にリューシアの剣が刻み付けた傷跡が残っている。
俺と戦った時よりも遥かに強い。これが神狼族の使った呪印の支配を受けていない、バルダスの真の力なのか。
リューシアが竜化した右手を軽く振る。
「ほう、バルダス・デュカオーン。獣人族最強と呼ばれた男か」
「どうなっているハルヒコ! 何故リューシアが……。いや違う。別の女か? こいつは……。 それに貴様、何故、俺の名を知っている!」
それからバルダスは聖堂の床に横たわるルビアに視線を移し、低く唸り声を上げた。
「なに! そんなまさか! ……ハルヒコ」
バルダスは少しよろめいた後、俺の方を窺った。
俺はバルダスの瞳を正面から受け止めることが出来ずに視線を外す。
バルダスは状況を察してルビアに歩み寄ると、片膝を突いて頭を垂れた。戦いの中で散った、勇敢な戦士の魂を讃える獅子族の礼だ。
そして、そっとその頬に触れる。
「……誰よりも強く凛々しい乙女。アルドリアに咲く薔薇よ、お前ほどの女が……!」
「ルビア、嘘よ、こんなの。嫌……。お願い、目を開けて! リュオン先生!! ルビアを助けて!!」
ミルダはルビアの亡骸に縋りついて泣いている。
俺の中にいるミルファールは何も言わない。
リュオンは先ほどから沈黙を貫き、俺達の戦いを見つめている。
バルダスはミルダの肩を抱くと、しっかりと前を見た。
「ハルヒコ、奴を倒すぞ。アルドリアの薔薇の死を無駄にするな!」
俺はバルダスの言葉に頷いた。
一つだけ、はっきりしていることがある。
ルビアならこのような窮地に瀕しても、決して逃げたりはしないだろう。
あいつはいつだって、真っすぐに前を向いて剣を振るった。
圧倒的な戦力差により、アルドリア王国が滅亡寸前の劣勢に追い込まれた時も、決して怯まなかった。自国の兵士達の先頭に立って敵陣の真っただ中へ突撃し、戦女神のようにその華麗な剣技で迎え来る相手をねじ伏せた。
誰よりも美しく、そして気高い女騎士――。
「……ああ、バルダス。俺に力を貸してくれ!!」
アウロスもそこへ加わろうとした。だが、俺はそれを制止した。目の前の相手は尋常な強さではないからだ。アイリーネの泣き顔は見たくない。
「「行くぞ!!」」
俺とバルダスは同時に叫んでいた。
赤い色の獅子が、稲妻のような速さで俺の頭上を飛び越え、リューシアに襲い掛かる。
それと同時に、俺は正面から突っ込んだ。
リューシアの瞳から赤い光が放たれ、俺の頬を掠めて焦がしていく。強烈な闘気を凝縮したものだ。
常人なら捉えきれないほどの速度の攻撃だったが、俺の瞳には、その軌道がはっきりと映し出されていた。
「喰らえ!!」
俺の剣の突きが、守護者である女の首筋を狙う。
その瞬間、リューシアの剣がぶれるように動いた。俺のエルンディアスの一撃を、下段から上段に切り上げることで受け流し、そのままバルダスの牙をも弾き返す。
恐ろしいほどの剣の冴えだ。先ほど戦った仮面の男でさえ遠く及ばないだろう。
リューシアの頬に再び朱色の線が走った。完全にはかわしきれず、俺の突きが頬を掠めたのだ。
パックリと口を開けた傷跡から飛び散る自らの血を見て、リューシアは剣を天に向けて突き上げる。
「ほう、わらわの体に二度までも触れるとは。だが、この程度のかすり傷をわらわに負わせたところで何の意味もない」
ヴェリタスの聖殿の白い内壁から溢れる光が、リューシアの剣に集まっていく。するとそれが力を与え、女の額の紋章を輝かせた。
バルダスが低く呻いた。
「馬鹿な! 奴の傷が治っていく!!」
「ああ……」
俺がリューシアに付けた二つの傷が、シュウシュウと音を立てて塞がっていく。
そのたびに聖堂全体が鳴動し淡い光を放つ。この巨大な塔全体が、目の前の女と生命を共有しているかのようだ。
「奴が動けなくなるくらいの深手を与えるしかない。動きが止まったところで、止めを刺す」
俺の言葉にバルダスは頷き、聖堂が震えるほどの咆哮を上げる。
(これは……)
凄まじい力がバルダスの内側から湧き上がるのを俺は感じた。赤き獅子王と呼ばれた男の褐色の鬣が、闘気で黄金に変わっていく。その姿はまるで黄金の獅子だ。
「俺はドルメールを、そして帝国を滅ぼすために、七年間、獣化奥義を磨き続けた。エルフにとっての魔力に等しい闘気を身に纏い、肉体を強化する究極の獣化奥義だ。だが勇者よ、長くは持たん。一気に行くぞ!!」
唸り声を上げるバルダスの傍で俺は低く身構え、全身に力を込める。
真紅の輝きが俺の体を完全に包んでいく。
「ああ、バルダス!!」
目の前の女は正眼に剣を構えて、こちらを眺めている。
次の瞬間、バルダスの姿が消えた。
守護者の脇をえぐるように、超高速で牙を剥くのが俺の瞳にかろうじて映る。
それを避けようとするリューシアにわずかな隙が生まれた。
「貰った!」
俺は、体勢を崩したリューシアの後ろにいる。
剣先が守護者の首を刎ねる――!
そう勝利を確信したのも束の間だった。いつの間にか、視界は白く染まっていた。
(何だこれは!?)
こちらを振り返るリューシアの顔に余裕の笑みが浮かんでいる。奴の手に、さっきまで握られていた剣がなくなっていた。
そのことに気づくと同時に、女の体から放たれた強力な何かが、俺とバルダスの体に直撃する。それが強烈な雷撃だと分かった時には、俺はリューシアの体から弾き飛ばされ、地面を転がっていた。
「ぐぅううう!!」
バルダスも電撃を受けて呻いていた。
「ぐぉおお!! 馬鹿な!」
リューシアは俺達を睥睨している。
塔全体から渦を巻くように、強大な魔力がリューシアに集まっていた。
「誇りに思ってよいぞ。わらわに剣技以外の術を使わせたのだ。だがこれで終わりだ」
触れ得ざるモノと呼ばれた剣は、いつの間にか形を変えていた。守護者の意思によって、自在に形を変えられる武器なのか。
――俺達はどう戦ったらいい……。
バチバチと光を放ち、竜族の女は止めとばかりに自らの頭上に稲光を作り上げた。
先ほどの雷撃によって四肢が痺れ、動けないままもう終わりかと俺が全てを諦めかけたその時――。
リューシアの周りが、赤い炎で一気に燃え上がった。
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