追放王子の英雄紋! 追い出された元第六王子は、実は史上最強の英雄でした

雪華慧太

文字の大きさ
上 下
86 / 91
SS

SS、エルフの森の赤い宝石 前編

しおりを挟む
 俺がアデラとエルフの森で暮らし始めて少し経った頃、魔法が使えないことで仲間たちにいじめられていたアクアリーテに森で出会った。
 両親を亡くし森で一人で暮らしていたアクアリーテと俺たちは一緒に暮らし始めた。
 俺が十三歳、アクアリーテがまだ十一歳の頃の話だ。

「いいかい、アクアリーテ。ここの文字はこう読むんだ」

「えっと……うん! アデラ」

 俺の修行の為に使っていた森にある小屋の中で、アクアリーテは大きな目でじっとアデラが書いたエルフの魔法言語を見つめながら頷く。

「じゃあ、次は同じようにこの紙に書いてみな」

「うん!」

 そして、アデラが書いたのと同じように文字を紙に描いた。
 まだたどたどしいが、アクアリーテが頑張って書いたのが分かる。
 普段使う言葉とは違って魔法言語は難しいからな。
 それは小さな魔法陣になっていて、アクアリーテが描き切ると青い光を帯びた。

「ふわ!!」

 自分が描いた文字が青く輝くのを見て、思わず驚きの声を上げるアクアリーテ。
 彼女が描いた魔法陣の上には、いつの間に現れたのか小さなスライムのような生き物が乗っている。
 アデラはそれを見て少し驚いたようにアクアリーテを見た。

「こいつは驚いたね。確かにこれは精霊召喚の魔法陣だけど、アクアリーテの魔力に反応して勝手に精霊が出てくるなんてね」

 俺はアデラに尋ねる。

「精霊? 小さなスライムみたいだけどこいつは精霊なのか、アデラ」

「ああ、水の精霊さ。この小屋の外に小さな泉があるだろう? 多分そこに住んでる精霊だろうね。水の精霊にしては小さいが、成長したら高位精霊になるものもいるぐらいさ。舐めちゃいけないよ」

 確かに小屋の外には澄んだ水を湛えた小さな泉がある。

「水の精霊か、凄いぞアクアリーテ!」

 俺がそう言うとアクアリーテは嬉しそうに笑った。

「えへへ」

 アデラはアクアリーテの頭を撫でながら言った。

「アクアリーテ、あんたには才能がある。特に水の魔法については天賦の才があるようだ。昨日までに教えた魔法も、水魔法については教えた日に使いこなせるようになっていたからね」

「てんぷのさい?」

 そう言って首を傾げるアクアリーテの傍で、水の精霊もぷるんと揺れた。
 アデラはそれを見て笑いながら答える。

「頑張れば、凄い魔法使いになれるってことさ」

 それを聞いて、アクアリーテは目を輝かせる。

「ほんとに? でも、私、みんなに魔法が使えない役立たずだって……」

 俺がアクアリーテと出会った時、悪ガキどもがそう言って彼女をいじめていた。
 それを思い出したのだろう。
 今度はしょんぼりとうなだれて大きな瞳に涙を浮かべる。
 俺はアクアリーテに言った。

「そんなこと、あいつらが勝手に言ってたことだろう。アクアリーテには才能がある。アデラがそう言うんだから間違いないさ!」

 アクアリーテは魔法を学ぶ機会がなかっただけだ。
 あいつらが見たらきっと驚くだろう。
 俺の言葉にアクアリーテは水の精霊をギュッと胸に抱きしめて嬉しそうに笑った。

「うん! ジーク、私頑張る。アデラ、ありがとう!」

 幸せそうなアクアリーテの姿に、俺とアデラは顔を見合わせて笑顔になった。
 アクアリーテは俺たちに言う。

「アクアも頑張ってジークと一緒に倒魔人になるの!」

「はは、頼もしいねアクアリーテ。でも、それにはもっと修行を積まないとね。それから考えればいいことさ」

「うん! アデラ」

 嬉しそうなアクアリーテの周りを、彼女の腕からぷよんと床へとおりた水の精霊がぴょんぴょんと飛び跳ねている。

「さてと、ジーク。私は少し仕事で出かけてくるからね。夕方には帰れると思うけど、それまでアクアリーテを頼んだよ。それから森での修行もさぼらないようにね」

「ああ、分かってるさ。アデラ」

 そういえば、昨日、小屋に人が来てアデラと話をしていた。
 倒魔人としての仕事の依頼だろう。
 身支度をするアデラを心配そうに見つめるアクアリーテ。

「アデラ……気を付けてね」

「ああ、心配しないでジークと留守番を頼んだよ」

 そんなアデラにアクアリーテは頷く。

「アデラも早く帰ってきてね」

「分かってるさ。近くの街に行くからね。仕事を終えたら美味しいものをたっぷりと買って来るさ。夕方には帰るつもりだよ」

 アデラはそう言うと、小屋を出る。

「いってらっしゃい!」

「アデラ、気をつけてな」

「ああ!!」

 俺たちはアデラを見送りながら手を振った。

「心配するなアクアリーテ。アデラは強いからな」

「うん!」

「さてと、俺はいつも通り森に修行に行くよ。アデラからもさぼるなって言われたからな。アクアリーテも一緒に来るか?」

 俺の言葉にアクアリーテは嬉しそうに頷いた。

「一緒に行く! 待ってて、準備してくるから」

「準備?」

 アクアリーテは小屋の中に入って、小さな布袋を手に取ると外に戻ってくる。
 そして、俺に言った。

「森の宝石を採るの。この間、少し赤くなってるのを見たんだ。きっともう真っ赤になってると思うから」

「森の宝石? ああ、そうかそういえば……」

 アデラも言ってたっけ、この時期になるとエルフの森には特別美味しい食べ物が実るって。
 エルフの森の赤い宝石って呼ばれている野生の苺だ。
 俺はまだ食べたことがないけど、凄く美味しいらしい。
 アクアリーテは自分に懐いている水の精霊を大事にその袋にいれると、手にもって俺に微笑む。

「ジークに食べて欲しいの! ジークは私を助けてくれたから、そのお礼がしたくて」

 あの悪ガキたちから助けた時のことを言っているのだろう。

「そっか、楽しみだな!」

「うん!」

 俺の言葉に嬉しくなったのか、早く森に行こうと駆けだすアクアリーテを俺は追いかける。
 アクアリーテが手にしている袋から水の妖精がひょこんと頭を出しているのが見えた。
 アデラが言うようにアクアリーテには水の魔法の才能があるのだろう。
 すっかり懐いているようだ。

「ジーク! 早く早く」

「はは、分かってるって」

 俺が修行に使っているのは、エルフの森でも一番の大樹がある場所だ。
 アデラがこの森で最初に連れてきてくれたのもここだからな。
 ここで精神を統一しているとまるで森と一体になったかのように、研ぎ澄まされた感覚になるのが分かる。
 最近では周囲の生き物たちの気配さえ、はっきりと感じられるようになった。

 アクアリーテは、俺が修行している間、布袋を持って周囲の茂みの奥を眺めていた。
 そして暫くするとしょんぼりして、俺の傍へとやってくる。
 俺はがっかりした様子のアクアリーテに尋ねた。

「どうした? アクアリーテ。そんな顔して」

「うん……あのね、森の宝石が見つからないの。この間はこの辺りで見つけたのに。もう誰かが摘んでいったみたい」

 うなだれるアクアリーテを袋の中から見上げて、水の精霊もしょんぼりしたようにぺたんとなっている。
 俺はアクアリーテの頭を撫でると答えた。

「そうか、探してくれてありがとな。なあ、アクアリーテ。俺の修行が終わったら、もう少しだけ森の奥まで入って探してみよう。一緒に探せばきっと見つかるさ!」

「ほんとに!? ジーク大好き!」

 すっかりしょんぼりしていた顔が、ぱあっと明るくなってアクアリーテは俺に抱きついた。
 水の精霊もぴょこんと袋から飛び出して俺たちの周りを跳ね回る。
 一緒に探すという俺の言葉に安心したのか、それからアクアリーテは俺の傍で水の精霊と遊び始めた。
 その無邪気な様子に俺も大きく背伸びをして再び修行を開始する。

 アデラには内緒で夜は剣術の修行を続けている。
 それもあってか少し眠気が襲ってきた。
 早く倒魔人になって、父親であるレディンを見返してやりたいという気持ちがやはり俺の中にはあった。
 国を出る時に自らの剣で俺の首を刎ねようとしたあの男のことを。

 そんなことを思い出しながら大地の上に座っていると、俺はいつの間にか深い眠りに落ちていた。




 ─────


 ご覧頂きましてありがとうございます。
 SSの後編は明日掲載出来るように今準備していますのでお待ちくださいね。
しおりを挟む
感想 114

あなたにおすすめの小説

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

願いの代償

らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。 公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。 唐突に思う。 どうして頑張っているのか。 どうして生きていたいのか。 もう、いいのではないだろうか。 メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。 *ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。 ※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。