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4巻
4-2
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「おおおおおおおおお!!」
炎と雷がぶつかり合い、俺の剣がエルフィウスの体をその剣ごと弾き飛ばした。
勢い良く飛ばされたエルフィウスの体が神殿の壁にぶつかり、瓦礫が舞い上がる。
同時に神獣オベルティアスの姿も消えた。
主であるエルフィウスが力を使い果たした証だろう。
雷神と言われた男も、これで暫くは戦えないはずだ。
オベルティアスと戦っていたフレアとシルフィが、俺の傍にやってくる。
「レオン!!」
フレアが珍しく子供のように俺に抱きついた。
「馬鹿馬鹿! 無茶して! 死んじゃったかと思ったんだから!!」
涙を浮かべるフレアの髪を撫でると、シルフィも頭を俺に向かって突き出した。
「私だって心配したんだから。エルフィウスと戦うなんて考えたこともなかったもの」
頼りになる相棒たちだが、こうしていると可愛いものだ。
俺はシルフィの頭も撫でながら頷いた。
「ああ、全くだ。一体何故エルフィウスが? この神殿の奥に何があるんだ……」
思わず神殿の奥に続く扉を見ていると、今度はオリビアが勢い良く抱きついてくる。
「レオン! レオン、レオン!! 本当に生きてるのね!?」
名前を連呼されてギュッと抱きしめられた俺は苦笑した。
「ああ、オリビア。そんなに心配するな、足はついてる」
オリビアは涙に濡れた目でこちらを睨む。
「ふざけないで! 貴方が死んでしまったと思ったのよ……私がどんな気持ちだったかも知らないで」
「ああ、悪かったって」
俺が頭を掻くと、彼女は改めて俺を見つめて少し頬を染めた。
そして、慌てたように体を離す。
「本当にレオンよね? 少年姿の貴方しか知らないからまだ慣れなくて」
「ああ、姿は変わっても俺は俺だからな」
そんな俺を暫く眺めた後、オリビアは瓦礫の中で倒れているエルフィウスへと目を向けた。
「それにしても信じられないわ。まさか、シリウスが伝説の四英雄の一人だったなんて」
オリビアと一緒に俺の傍までやってきていたゼキレオスも、娘と同じ方向を見つめながら呻く。
「ワシにも信じられぬ。四英雄の一人であるエルフィウスが何故、素性を隠してアルファリシアの将軍にまでなっていたのか。それに、この扉の奥には何があるというのだ」
俺はゼキレオスの言葉に頷いた。
「エルフィウスにもう一度問いただすしかないな。この奥に一体何があるのか。俺がこの先に進むのをどうして奴が止めたのか、分からないことだらけだ」
何か理由があるはずだ。二千年前に友として共に戦ったエルフィウスが、訳もなく俺を殺そうとするはずがない。
シルフィも同意する。
「そうね。それを確かめる前にこの先に進むのは危険だわ」
俺は壁際に倒れているエルフィウスのもとに歩を進めた。
まだ警戒したように身構えながら、俺と一緒に向かう精霊たち。
オリビアとゼキレオスは少し離れながらも、その後に続いた。
俺は膝をつき、倒れているエルフィウスを抱き起こす。
暫くすると、まだぐったりとはしているが、エルフィウスが微かに目を開けた。
「流石だな、ジーク。だが、何故俺を殺さなかった。今ならば殺せたはずだ」
確かにな。俺は呪いを解いてかつての姿に戻っている。
しかし、エルフィウスはシリウスの姿のままだ。
何故この姿のまま、これほどの力を発揮出来るのかは分からないが、それでも呪いを解いた俺の方に分があった。あのまま完全に雌雄を決することも出来ただろう。
だが、俺にはエルフィウスを殺す理由がない。
奴の問いに、シルフィが憤る。
「何故殺さなかったですって!? 貴方が仲間だからじゃない! 忘れたの? 二千年前、私たちは一緒に戦った仲間だったのよ! だからレオンも……」
「甘いな。その甘さが、お前たちの命取りになる」
そう言うと、エルフィウスは俺を見つめた。
「ジーク、今ならまだ間に合う。俺を殺せ。そしてこの場から立ち去るのだ。お前は決して、あの扉の奥に行ってはならん」
「一体何故だ? あの奥には何がある」
俺の真剣な眼差しに、エルフィウスの顔に躊躇いの表情が浮かぶ。
そして意を決したかのように口を開いた。
「ジーク、この神殿には恐るべき秘密があるのだ。それを探るために俺は国王の信を得た。あの扉の奥には……ぐぅううううう!!」
何かを言いかけたエルフィウスは急に呻き声を上げると、俺の体を押しのけてよろよろと立ち上がり、叫んだ。
「俺から離れろ! 今すぐに!!」
「エルフィウス!?」
呻きながら自ら俺たちから遠ざかるエルフィウスの姿に、シルフィが声を上げた。
「レオン! 見て、エルフィウスの紋章が!!」
「ああ……」
力を使い果たして輝きを失っていたその紋章が、再び強く輝き始めている。それを見て精霊たちは身構えた。
オリビアが叫ぶ。
「レオン! 神殿の壁画の紋章が……」
オリビアの言葉通り、壁画に描かれたエルフィウスの右手の紋章が強く輝いている。
それがまるでエルフィウスに力を与えているかのように、目の前に立つ男の体から、先程よりも強大な力を感じた。
ゼキレオスが呻く。
「これは一体。まるでこの神殿自体が意志を持ち、奴に力を与えているかのようだ」
次第に壁画の紋章の輝きは弱まっていき、俺たちの前には一人の男が立っていた。
オリビアが呆然と呟く。
「シリウスじゃない……あれは一体誰なの?」
そう、そこに立っていたのは、先程までとは違う男だ。
だが、俺にとってはよく見慣れた顔でもある。シリウスよりも遥かにな。
いつ移動したのか、その男は静かに、神殿の奥へと続く扉の前に佇んでいた。凄まじいスピードだ。
シルフィが警戒心を露わにして牙を剥くと、オリビアに答える。
「雷神エルフィウス。オリビア、あれが彼の本当の姿よ」
あれは確かにかつてのエルフィウスの姿だ。
奴も呪いを解いたのか? 二千年前、俺たちにかけられた呪いを。
しかし、その紋章は以前のエルフィウスのものとは違う。
バチバチと音を立てて右手に纏わりついている雷には、黒いものが混ざっている。
次第に黄金の紋章は黒く染まっていった。
「エルフィウス、その紋章は一体……」
思わず剣を構える俺に、エルフィウスは静かに告げた。
「ジーク、お前は俺を殺す最後のチャンスを失った。二千年の時を経て、今日ここが約束の地となり、そしてお前の墓標になるだろう」
その瞳はかつての友のものであり、また違う何かのようでもあった。
身構えているフレアが叫ぶ。
「レオン、オベルティアスが!!」
「ああ……」
オベルティアスも再び俺たちの頭上に現れた。
主であるエルフィウスと同じく、力は先程よりも増し、その目はこちらを見下ろしている。
「まさか、獅子王ではなく鬼の小娘に不覚を取る日が来るとはな。その炎、余程強力な守護者がいるようだが、それがそなただけだとは思わぬことだ」
尊大ともいえるオベルティアスの視線は、フレアの後ろに立つ炎の人影を射抜くと、自らの首につけられた傷に向いた。
「神獣である我の体に傷をつけたことは、万死に値する。主よ、我に力を!」
オベルティアスの言葉に応えるように、エルフィウスはその真下へとやってきて、上に向かって剣を掲げる。同時に、オベルティアスの頭上に巨大な魔法陣が描かれた。
神獣は強い力を発しながら、大きく吠えた。
「その罪を贖うが良い。麒麟オベルティアスの名において、我の中に眠る偉大なる獣たちの封印を解く! 四神結界!!」
その瞬間──
オベルティアスの体が輝きを放つと、そこから四つの光が現れて、俺たちの四方を囲む。
一つ目は白く、二つ目は炎のように赤く、三つ目は大地を示すような黄色の輝きを、最後の光は空のように青く輝いていた。
そして、真上にいるオベルティアスと共に、美しい四角錐を作り上げた。
まるで俺たちをその中に封じ込めるかのように。
エルフィウスはこちらを眺めると剣を構え、告げた。
「ジーク、お前たちを取り囲んでいるのは、古に偉大なる神と称された神獣たち。白虎、朱雀、玄武、青龍の魂だ。オベルティアスの中に眠っていた四つの神獣の魂が作り上げた、この四神結界。もはや、お前たちがここから生きて出ることはない」
その瞬間、俺たちの体は金縛りにあったかのように動きを止めた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
レオンたちが結界の中で動きを止めたのを見て、オリビアは思わず声を上げた。
「レオン! お父様……一体どうなってしまったの?」
オベルティアスが作り出した結界の中では、レオンや精霊たちだけではなく、エルフィウスでさえ動きを止めている。そして、結界を形作るオベルティアスと四つの光も同様だ。
ゼキレオスは娘を守るようにその胸に抱きながら、結界を見つめている。
「ワシにも分からぬ。だが、あの結界の中にいるレオンたちからは強力な闘気を感じる。我らには止まって見えるが、まるで未だどこかで戦っているかのようにな」
オリビアは不安そうにレオンを眺めていた。
「戦っているって、一体どこで?」
結界の中で真っすぐに前を見つめているレオンの姿に、オリビアは両手を胸の前に当てると、祈りを捧げる。
彼が死んでしまったらと思うと胸が締め付けられた。
(もしかして、私はレオンのことを……)
父王であるゼキレオスに、レオンの妻になってはどうかとからかわれた時は、顔を真っ赤にして反論したが、今はただ彼の無事を一心に祈る。
その目には涙が滲み、美しい横顔が震えている。
「レオン、どうか無事でいて!」
そんな中、ゼキレオスは娘のもとを離れて結界に近寄ろうとするが、そこから感じられる凄まじい力に撥ね返されてしまう。
「ぐぬ……凄まじい力だ。これ以上は近づけぬ」
このことを、執務室で控えているミネルバたちに伝えるために戻ることも考えたが、聖堂の入り口に見えない壁が立ち塞がり、向かうことが出来ない。
(いや、たとえミネルバに伝えたところでどうすることも出来ぬだろう。黄金騎士団を束ねるシリウスももはや我らの敵に等しい。せめてオリビアだけでもこの神殿の外へと思ったのだが……)
ゼキレオスは眉を顰め、結界の中でエルフィウスと対峙しているレオンの姿を再び見つめた。
「レオンたちが結界を破るのを待つしかあるまい。我らでは手が出せぬ戦いだ」
伝説の四英雄同士の戦いだ。
いかに騎士王と呼ばれる男でも、その戦いの輪に加わることは出来ないだろう。
口惜しい思いで拳を握り締める。
「レオンよ。お主はここで命を落とすにはあまりにも惜しい男だ。決して死ぬでないぞ」
「ええ、お父様……」
オリビアも父王の傍でただひたすらレオンの無事を祈っていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「これは……一体どういうことだ?」
俺は周囲を見渡して思わずそう呟いた。
傍にいるフレアとシルフィも同様である。
「レオン、どうなってるの!?」
「私たちは地下神殿の聖堂の中にいたはずよ!」
精霊たちの言葉に頷きながら、俺は辺りを見渡すと剣を構えた。
「ああ、確かにな。ここは一体どこだ?」
俺たちが今立っているのは広大な大地の上だ。
自然が豊かで、遠くには美しい山々が連なっている。
とても地下神殿の中だとは思えない。
シルフィが周囲を注意深く観察しながら、低い声で言う。
「幻覚かしら? でも、貴方や高位精霊である私たちに単純な幻覚なんて通じるとは思えないけど……」
「この感覚は幻覚だとは思えない。まるで現実と変わらないわ」
そんなフレアの言葉に答えるように、空から声が響いた。
「これはただの幻覚などではない。我の中に眠っていた古の神獣が作り出した世界だ。敵の魂をこの結界の中に封じ、滅する。ここで死ぬことはただの死ではない。精霊すら逃れることの出来ない、魂の消滅だと知ることだ」
俺たちが上を見上げると、そこにオベルティアスの姿が現れる。
その背にはエルフィウスが騎乗していた。
「レオン!!」
フレアはそう叫ぶと薙刀を構え、シルフィが低く唸る。
「どうやら、あの四神結界とやらの中のようね。オベルティアスの言葉が本当なら、ここでの死は現実での死よりも重いものだわ」
「そのようだな」
恐らくは、俺たちの肉体はまだあの神殿の中にあるのだろう。しかし、精神や魂は、奴が作り出した結界によってこの世界に閉じ込められたようだ。
そして、ここでの死は魂の死を意味するということだ。
俺はもちろん、精霊であるシルフィやフレアさえも逃れられない、魂の消滅。
相手を確実に倒すのなら、確かにこれ以上の方法はないだろう。
オベルティアスは俺たちを眺めながら言った。
「この世界は大地を守護する玄武の魂が作り出したもの。そして、主や我と共にお前たちを滅するのは、他の三体の神獣となる」
その言葉通り、オベルティアスの周囲には三体の獣の姿が現れた。
一体は巨大な白い虎、そしてその隣で羽ばたくのは強烈な炎を纏った巨鳥、最後に天を揺るがすような咆哮を上げたのが、青い鱗を持つ巨龍だ。
シルフィが空を見上げながら呻いた。
「冗談じゃないわ……エルフィウスとオベルティアスだけで手一杯だというのに、あんな化け物じみた連中を三体も相手にするなんて!」
あれがエルフィウスが言っていた、白虎、朱雀、青龍に違いない。
シルフィが言うように、どの神獣たちもオベルティアスさえも凌ぐ力を放っている。
そして、残りの玄武とやらがこの世界を作り出しているのだろう。
その威圧感に、高位精霊であるシルフィでさえ怯むのも無理はない。状況は絶望的だ。
フレアは薙刀を構えて空を見上げると俺に言った。
「でもやるしかない! そうでしょう? レオン!!」
「ああ、そのようだな。ここが奴らの作り出した世界なら逃げ場はどこにもない」
シルフィも意を決したように頷く。
「分かってるわ……レオン、貴方はエルフィウスとオベルティアスを仕留めて頂戴! 他の神獣たちを相手にするよりも、術者を仕留めた方が楽だもの。そうすれば、この結界が解けるかもしれない」
俺はシルフィの言葉に頷いた。相手の数を考えれば、長引くとこちらに不利になる。
シルフィの言う通り、方法は一つだ。
「考えていても仕方ない。やるしかなさそうだな」
俺は剣を構え闘気を高める。
フレアも炎の力を高めた。強烈な神通力がその角に宿っていくのが分かる。
「レオン! 私とシルフィが援護するわ」
「ああ、分かった! 行くぞ、フレア、シルフィ!!」
「「ええ!!」」
両手に現れる英雄紋、同時に地上に強力な炎を帯びた魔法陣が広がっていく。
紅蓮纏刃で剣に炎を纏わせると、さらに闘気を高めた。
「おおおおおおおお! 獅子王の瞳、開眼!!」
俺の瞳に魔法陣が描かれていく。
こうなった以上、もう正面から激突することを避けられはしない。互いの命をもってしか決着がつかない勝負だ。俺が負ければ、シルフィやフレアも滅することになる。
この一撃で決着をつける。
そうしなければ、こちらに勝機はないだろう。
「行くぞ! 倒魔流秘奥義、獅子王瞬炎滅殺!!」
膨大な魔力と闘気が俺の足に凝縮され、それが爆発的な脚力を生む。
地を蹴った瞬間、俺はもうオベルティアスに騎乗するエルフィウスの傍に現れ、その喉元に剣を振るっていた。
目の前にいるエルフィウスの瞳がこちらを見つめている。
雷神の瞳だ。
俺が地を蹴った瞬間、エルフィウスも雷化し俺に向かって剣を振っていた。
激しくぶつかり合う剣と剣、俺は体を反転させて宙を舞う。
そしてエルフィウスたちの頭上を取った。
「もらったぞ! エルフィウス!!」
頭上の死角から俺の一撃が、エルフィウスに向かって放たれる。
だが、その瞬間──
凄まじい勢いで、青い巨龍の長い尾が、こちらに向かって振るわれた。
青龍の咆哮が天をつんざく。
「ちっ!」
俺は体をひねると尾をかわした。
そのスピードと威力は神獣の攻撃に相応しい。まるで空間がえぐり取られるような一撃だ。
そして、再びエルフィウスの方を見た。
だが、そこにはもう雷神の姿はない。
背に乗せた主が消えた、オベルティアスの姿だけだ。
頭上から寒気がするような闘気を感じる。
奴は上だ。
青龍の攻撃に一瞬気を取られた隙をついて、オベルティアスの背を蹴り、俺の頭上を取ったのだろう。
「終わりだ、ジーク!」
奴の雷化した剣が、俺の首を刎ねようと襲い掛かる。
「くっ!!」
俺は体勢を崩しながらそれを辛うじて剣で受けたが、振り切られた奴の剣が俺の剣を弾き飛ばした。
「しまった!」
ヤマトの職人が鍛えたその剣は、地上へと落ちていく。
同時に青龍の巨大な顎が咆哮を上げながら迫ってくると、俺を喰らおうと大きく開いた。
「「レオン!!」」
白虎と朱雀を足止めすべく、二体の神獣の前でその薙刀と牙を振るっていたフレアとシルフィが叫んだ。
次の瞬間、僅かな隙を見せたフレアの薙刀が、白虎の前足の爪で吹き飛ばされて、その小さな体を噛み砕こうと白虎が牙を剥くのが見えた。
シルフィが悲鳴を上げる。
「いやぁあああああ!! フレアぁああ!!」
ここでの死は魂の死だ。
背筋が凍り、まるで時が止まったかのような感覚になる。
その時、誰かが叫んだ。
「獅子王! これを使いな!!」
声がしたのと同時に、俺に向かって猛烈な勢いで何かが投げつけられる。
それは炎で出来た剣だ。
掴むと、その刀身に強烈な力を宿しているのが分かる。
俺が巨龍に一太刀入れると、俺を一呑みにしようとしていたその下顎と牙が滑らかに切り落とされた。凄まじい切れ味だ。
思わぬ反撃を受けて青龍は咆哮を上げる。
そして、俺は地上へと着地した。
「フレア!!!」
俺は白虎と戦っていたフレアの方を見た。
白虎の牙に引き裂かれているフレアの姿が脳裏に浮かび、再び背筋が凍った。
だが──
フレアの前には一人の女性が立っており、彼女の両手が、フレアに喰らいつこうとする白虎の顎を掴んでいる。
顔だけで優に人の身長ほどの大きさがある神獣相手に、途轍もない力だ。
巨大な牙が鼻先にあるにもかかわらず、臆することもなく微動だにしない。
その体には、フレアよりも遥かに強い炎が宿っている。
白虎の顎を掴みながら、女は言った。
「私の娘に手を出すんじゃないよ! この子は私の命だ。どうしてもって言うのなら、この私を倒してからにするんだね!!」
炎と雷がぶつかり合い、俺の剣がエルフィウスの体をその剣ごと弾き飛ばした。
勢い良く飛ばされたエルフィウスの体が神殿の壁にぶつかり、瓦礫が舞い上がる。
同時に神獣オベルティアスの姿も消えた。
主であるエルフィウスが力を使い果たした証だろう。
雷神と言われた男も、これで暫くは戦えないはずだ。
オベルティアスと戦っていたフレアとシルフィが、俺の傍にやってくる。
「レオン!!」
フレアが珍しく子供のように俺に抱きついた。
「馬鹿馬鹿! 無茶して! 死んじゃったかと思ったんだから!!」
涙を浮かべるフレアの髪を撫でると、シルフィも頭を俺に向かって突き出した。
「私だって心配したんだから。エルフィウスと戦うなんて考えたこともなかったもの」
頼りになる相棒たちだが、こうしていると可愛いものだ。
俺はシルフィの頭も撫でながら頷いた。
「ああ、全くだ。一体何故エルフィウスが? この神殿の奥に何があるんだ……」
思わず神殿の奥に続く扉を見ていると、今度はオリビアが勢い良く抱きついてくる。
「レオン! レオン、レオン!! 本当に生きてるのね!?」
名前を連呼されてギュッと抱きしめられた俺は苦笑した。
「ああ、オリビア。そんなに心配するな、足はついてる」
オリビアは涙に濡れた目でこちらを睨む。
「ふざけないで! 貴方が死んでしまったと思ったのよ……私がどんな気持ちだったかも知らないで」
「ああ、悪かったって」
俺が頭を掻くと、彼女は改めて俺を見つめて少し頬を染めた。
そして、慌てたように体を離す。
「本当にレオンよね? 少年姿の貴方しか知らないからまだ慣れなくて」
「ああ、姿は変わっても俺は俺だからな」
そんな俺を暫く眺めた後、オリビアは瓦礫の中で倒れているエルフィウスへと目を向けた。
「それにしても信じられないわ。まさか、シリウスが伝説の四英雄の一人だったなんて」
オリビアと一緒に俺の傍までやってきていたゼキレオスも、娘と同じ方向を見つめながら呻く。
「ワシにも信じられぬ。四英雄の一人であるエルフィウスが何故、素性を隠してアルファリシアの将軍にまでなっていたのか。それに、この扉の奥には何があるというのだ」
俺はゼキレオスの言葉に頷いた。
「エルフィウスにもう一度問いただすしかないな。この奥に一体何があるのか。俺がこの先に進むのをどうして奴が止めたのか、分からないことだらけだ」
何か理由があるはずだ。二千年前に友として共に戦ったエルフィウスが、訳もなく俺を殺そうとするはずがない。
シルフィも同意する。
「そうね。それを確かめる前にこの先に進むのは危険だわ」
俺は壁際に倒れているエルフィウスのもとに歩を進めた。
まだ警戒したように身構えながら、俺と一緒に向かう精霊たち。
オリビアとゼキレオスは少し離れながらも、その後に続いた。
俺は膝をつき、倒れているエルフィウスを抱き起こす。
暫くすると、まだぐったりとはしているが、エルフィウスが微かに目を開けた。
「流石だな、ジーク。だが、何故俺を殺さなかった。今ならば殺せたはずだ」
確かにな。俺は呪いを解いてかつての姿に戻っている。
しかし、エルフィウスはシリウスの姿のままだ。
何故この姿のまま、これほどの力を発揮出来るのかは分からないが、それでも呪いを解いた俺の方に分があった。あのまま完全に雌雄を決することも出来ただろう。
だが、俺にはエルフィウスを殺す理由がない。
奴の問いに、シルフィが憤る。
「何故殺さなかったですって!? 貴方が仲間だからじゃない! 忘れたの? 二千年前、私たちは一緒に戦った仲間だったのよ! だからレオンも……」
「甘いな。その甘さが、お前たちの命取りになる」
そう言うと、エルフィウスは俺を見つめた。
「ジーク、今ならまだ間に合う。俺を殺せ。そしてこの場から立ち去るのだ。お前は決して、あの扉の奥に行ってはならん」
「一体何故だ? あの奥には何がある」
俺の真剣な眼差しに、エルフィウスの顔に躊躇いの表情が浮かぶ。
そして意を決したかのように口を開いた。
「ジーク、この神殿には恐るべき秘密があるのだ。それを探るために俺は国王の信を得た。あの扉の奥には……ぐぅううううう!!」
何かを言いかけたエルフィウスは急に呻き声を上げると、俺の体を押しのけてよろよろと立ち上がり、叫んだ。
「俺から離れろ! 今すぐに!!」
「エルフィウス!?」
呻きながら自ら俺たちから遠ざかるエルフィウスの姿に、シルフィが声を上げた。
「レオン! 見て、エルフィウスの紋章が!!」
「ああ……」
力を使い果たして輝きを失っていたその紋章が、再び強く輝き始めている。それを見て精霊たちは身構えた。
オリビアが叫ぶ。
「レオン! 神殿の壁画の紋章が……」
オリビアの言葉通り、壁画に描かれたエルフィウスの右手の紋章が強く輝いている。
それがまるでエルフィウスに力を与えているかのように、目の前に立つ男の体から、先程よりも強大な力を感じた。
ゼキレオスが呻く。
「これは一体。まるでこの神殿自体が意志を持ち、奴に力を与えているかのようだ」
次第に壁画の紋章の輝きは弱まっていき、俺たちの前には一人の男が立っていた。
オリビアが呆然と呟く。
「シリウスじゃない……あれは一体誰なの?」
そう、そこに立っていたのは、先程までとは違う男だ。
だが、俺にとってはよく見慣れた顔でもある。シリウスよりも遥かにな。
いつ移動したのか、その男は静かに、神殿の奥へと続く扉の前に佇んでいた。凄まじいスピードだ。
シルフィが警戒心を露わにして牙を剥くと、オリビアに答える。
「雷神エルフィウス。オリビア、あれが彼の本当の姿よ」
あれは確かにかつてのエルフィウスの姿だ。
奴も呪いを解いたのか? 二千年前、俺たちにかけられた呪いを。
しかし、その紋章は以前のエルフィウスのものとは違う。
バチバチと音を立てて右手に纏わりついている雷には、黒いものが混ざっている。
次第に黄金の紋章は黒く染まっていった。
「エルフィウス、その紋章は一体……」
思わず剣を構える俺に、エルフィウスは静かに告げた。
「ジーク、お前は俺を殺す最後のチャンスを失った。二千年の時を経て、今日ここが約束の地となり、そしてお前の墓標になるだろう」
その瞳はかつての友のものであり、また違う何かのようでもあった。
身構えているフレアが叫ぶ。
「レオン、オベルティアスが!!」
「ああ……」
オベルティアスも再び俺たちの頭上に現れた。
主であるエルフィウスと同じく、力は先程よりも増し、その目はこちらを見下ろしている。
「まさか、獅子王ではなく鬼の小娘に不覚を取る日が来るとはな。その炎、余程強力な守護者がいるようだが、それがそなただけだとは思わぬことだ」
尊大ともいえるオベルティアスの視線は、フレアの後ろに立つ炎の人影を射抜くと、自らの首につけられた傷に向いた。
「神獣である我の体に傷をつけたことは、万死に値する。主よ、我に力を!」
オベルティアスの言葉に応えるように、エルフィウスはその真下へとやってきて、上に向かって剣を掲げる。同時に、オベルティアスの頭上に巨大な魔法陣が描かれた。
神獣は強い力を発しながら、大きく吠えた。
「その罪を贖うが良い。麒麟オベルティアスの名において、我の中に眠る偉大なる獣たちの封印を解く! 四神結界!!」
その瞬間──
オベルティアスの体が輝きを放つと、そこから四つの光が現れて、俺たちの四方を囲む。
一つ目は白く、二つ目は炎のように赤く、三つ目は大地を示すような黄色の輝きを、最後の光は空のように青く輝いていた。
そして、真上にいるオベルティアスと共に、美しい四角錐を作り上げた。
まるで俺たちをその中に封じ込めるかのように。
エルフィウスはこちらを眺めると剣を構え、告げた。
「ジーク、お前たちを取り囲んでいるのは、古に偉大なる神と称された神獣たち。白虎、朱雀、玄武、青龍の魂だ。オベルティアスの中に眠っていた四つの神獣の魂が作り上げた、この四神結界。もはや、お前たちがここから生きて出ることはない」
その瞬間、俺たちの体は金縛りにあったかのように動きを止めた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
レオンたちが結界の中で動きを止めたのを見て、オリビアは思わず声を上げた。
「レオン! お父様……一体どうなってしまったの?」
オベルティアスが作り出した結界の中では、レオンや精霊たちだけではなく、エルフィウスでさえ動きを止めている。そして、結界を形作るオベルティアスと四つの光も同様だ。
ゼキレオスは娘を守るようにその胸に抱きながら、結界を見つめている。
「ワシにも分からぬ。だが、あの結界の中にいるレオンたちからは強力な闘気を感じる。我らには止まって見えるが、まるで未だどこかで戦っているかのようにな」
オリビアは不安そうにレオンを眺めていた。
「戦っているって、一体どこで?」
結界の中で真っすぐに前を見つめているレオンの姿に、オリビアは両手を胸の前に当てると、祈りを捧げる。
彼が死んでしまったらと思うと胸が締め付けられた。
(もしかして、私はレオンのことを……)
父王であるゼキレオスに、レオンの妻になってはどうかとからかわれた時は、顔を真っ赤にして反論したが、今はただ彼の無事を一心に祈る。
その目には涙が滲み、美しい横顔が震えている。
「レオン、どうか無事でいて!」
そんな中、ゼキレオスは娘のもとを離れて結界に近寄ろうとするが、そこから感じられる凄まじい力に撥ね返されてしまう。
「ぐぬ……凄まじい力だ。これ以上は近づけぬ」
このことを、執務室で控えているミネルバたちに伝えるために戻ることも考えたが、聖堂の入り口に見えない壁が立ち塞がり、向かうことが出来ない。
(いや、たとえミネルバに伝えたところでどうすることも出来ぬだろう。黄金騎士団を束ねるシリウスももはや我らの敵に等しい。せめてオリビアだけでもこの神殿の外へと思ったのだが……)
ゼキレオスは眉を顰め、結界の中でエルフィウスと対峙しているレオンの姿を再び見つめた。
「レオンたちが結界を破るのを待つしかあるまい。我らでは手が出せぬ戦いだ」
伝説の四英雄同士の戦いだ。
いかに騎士王と呼ばれる男でも、その戦いの輪に加わることは出来ないだろう。
口惜しい思いで拳を握り締める。
「レオンよ。お主はここで命を落とすにはあまりにも惜しい男だ。決して死ぬでないぞ」
「ええ、お父様……」
オリビアも父王の傍でただひたすらレオンの無事を祈っていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「これは……一体どういうことだ?」
俺は周囲を見渡して思わずそう呟いた。
傍にいるフレアとシルフィも同様である。
「レオン、どうなってるの!?」
「私たちは地下神殿の聖堂の中にいたはずよ!」
精霊たちの言葉に頷きながら、俺は辺りを見渡すと剣を構えた。
「ああ、確かにな。ここは一体どこだ?」
俺たちが今立っているのは広大な大地の上だ。
自然が豊かで、遠くには美しい山々が連なっている。
とても地下神殿の中だとは思えない。
シルフィが周囲を注意深く観察しながら、低い声で言う。
「幻覚かしら? でも、貴方や高位精霊である私たちに単純な幻覚なんて通じるとは思えないけど……」
「この感覚は幻覚だとは思えない。まるで現実と変わらないわ」
そんなフレアの言葉に答えるように、空から声が響いた。
「これはただの幻覚などではない。我の中に眠っていた古の神獣が作り出した世界だ。敵の魂をこの結界の中に封じ、滅する。ここで死ぬことはただの死ではない。精霊すら逃れることの出来ない、魂の消滅だと知ることだ」
俺たちが上を見上げると、そこにオベルティアスの姿が現れる。
その背にはエルフィウスが騎乗していた。
「レオン!!」
フレアはそう叫ぶと薙刀を構え、シルフィが低く唸る。
「どうやら、あの四神結界とやらの中のようね。オベルティアスの言葉が本当なら、ここでの死は現実での死よりも重いものだわ」
「そのようだな」
恐らくは、俺たちの肉体はまだあの神殿の中にあるのだろう。しかし、精神や魂は、奴が作り出した結界によってこの世界に閉じ込められたようだ。
そして、ここでの死は魂の死を意味するということだ。
俺はもちろん、精霊であるシルフィやフレアさえも逃れられない、魂の消滅。
相手を確実に倒すのなら、確かにこれ以上の方法はないだろう。
オベルティアスは俺たちを眺めながら言った。
「この世界は大地を守護する玄武の魂が作り出したもの。そして、主や我と共にお前たちを滅するのは、他の三体の神獣となる」
その言葉通り、オベルティアスの周囲には三体の獣の姿が現れた。
一体は巨大な白い虎、そしてその隣で羽ばたくのは強烈な炎を纏った巨鳥、最後に天を揺るがすような咆哮を上げたのが、青い鱗を持つ巨龍だ。
シルフィが空を見上げながら呻いた。
「冗談じゃないわ……エルフィウスとオベルティアスだけで手一杯だというのに、あんな化け物じみた連中を三体も相手にするなんて!」
あれがエルフィウスが言っていた、白虎、朱雀、青龍に違いない。
シルフィが言うように、どの神獣たちもオベルティアスさえも凌ぐ力を放っている。
そして、残りの玄武とやらがこの世界を作り出しているのだろう。
その威圧感に、高位精霊であるシルフィでさえ怯むのも無理はない。状況は絶望的だ。
フレアは薙刀を構えて空を見上げると俺に言った。
「でもやるしかない! そうでしょう? レオン!!」
「ああ、そのようだな。ここが奴らの作り出した世界なら逃げ場はどこにもない」
シルフィも意を決したように頷く。
「分かってるわ……レオン、貴方はエルフィウスとオベルティアスを仕留めて頂戴! 他の神獣たちを相手にするよりも、術者を仕留めた方が楽だもの。そうすれば、この結界が解けるかもしれない」
俺はシルフィの言葉に頷いた。相手の数を考えれば、長引くとこちらに不利になる。
シルフィの言う通り、方法は一つだ。
「考えていても仕方ない。やるしかなさそうだな」
俺は剣を構え闘気を高める。
フレアも炎の力を高めた。強烈な神通力がその角に宿っていくのが分かる。
「レオン! 私とシルフィが援護するわ」
「ああ、分かった! 行くぞ、フレア、シルフィ!!」
「「ええ!!」」
両手に現れる英雄紋、同時に地上に強力な炎を帯びた魔法陣が広がっていく。
紅蓮纏刃で剣に炎を纏わせると、さらに闘気を高めた。
「おおおおおおおお! 獅子王の瞳、開眼!!」
俺の瞳に魔法陣が描かれていく。
こうなった以上、もう正面から激突することを避けられはしない。互いの命をもってしか決着がつかない勝負だ。俺が負ければ、シルフィやフレアも滅することになる。
この一撃で決着をつける。
そうしなければ、こちらに勝機はないだろう。
「行くぞ! 倒魔流秘奥義、獅子王瞬炎滅殺!!」
膨大な魔力と闘気が俺の足に凝縮され、それが爆発的な脚力を生む。
地を蹴った瞬間、俺はもうオベルティアスに騎乗するエルフィウスの傍に現れ、その喉元に剣を振るっていた。
目の前にいるエルフィウスの瞳がこちらを見つめている。
雷神の瞳だ。
俺が地を蹴った瞬間、エルフィウスも雷化し俺に向かって剣を振っていた。
激しくぶつかり合う剣と剣、俺は体を反転させて宙を舞う。
そしてエルフィウスたちの頭上を取った。
「もらったぞ! エルフィウス!!」
頭上の死角から俺の一撃が、エルフィウスに向かって放たれる。
だが、その瞬間──
凄まじい勢いで、青い巨龍の長い尾が、こちらに向かって振るわれた。
青龍の咆哮が天をつんざく。
「ちっ!」
俺は体をひねると尾をかわした。
そのスピードと威力は神獣の攻撃に相応しい。まるで空間がえぐり取られるような一撃だ。
そして、再びエルフィウスの方を見た。
だが、そこにはもう雷神の姿はない。
背に乗せた主が消えた、オベルティアスの姿だけだ。
頭上から寒気がするような闘気を感じる。
奴は上だ。
青龍の攻撃に一瞬気を取られた隙をついて、オベルティアスの背を蹴り、俺の頭上を取ったのだろう。
「終わりだ、ジーク!」
奴の雷化した剣が、俺の首を刎ねようと襲い掛かる。
「くっ!!」
俺は体勢を崩しながらそれを辛うじて剣で受けたが、振り切られた奴の剣が俺の剣を弾き飛ばした。
「しまった!」
ヤマトの職人が鍛えたその剣は、地上へと落ちていく。
同時に青龍の巨大な顎が咆哮を上げながら迫ってくると、俺を喰らおうと大きく開いた。
「「レオン!!」」
白虎と朱雀を足止めすべく、二体の神獣の前でその薙刀と牙を振るっていたフレアとシルフィが叫んだ。
次の瞬間、僅かな隙を見せたフレアの薙刀が、白虎の前足の爪で吹き飛ばされて、その小さな体を噛み砕こうと白虎が牙を剥くのが見えた。
シルフィが悲鳴を上げる。
「いやぁあああああ!! フレアぁああ!!」
ここでの死は魂の死だ。
背筋が凍り、まるで時が止まったかのような感覚になる。
その時、誰かが叫んだ。
「獅子王! これを使いな!!」
声がしたのと同時に、俺に向かって猛烈な勢いで何かが投げつけられる。
それは炎で出来た剣だ。
掴むと、その刀身に強烈な力を宿しているのが分かる。
俺が巨龍に一太刀入れると、俺を一呑みにしようとしていたその下顎と牙が滑らかに切り落とされた。凄まじい切れ味だ。
思わぬ反撃を受けて青龍は咆哮を上げる。
そして、俺は地上へと着地した。
「フレア!!!」
俺は白虎と戦っていたフレアの方を見た。
白虎の牙に引き裂かれているフレアの姿が脳裏に浮かび、再び背筋が凍った。
だが──
フレアの前には一人の女性が立っており、彼女の両手が、フレアに喰らいつこうとする白虎の顎を掴んでいる。
顔だけで優に人の身長ほどの大きさがある神獣相手に、途轍もない力だ。
巨大な牙が鼻先にあるにもかかわらず、臆することもなく微動だにしない。
その体には、フレアよりも遥かに強い炎が宿っている。
白虎の顎を掴みながら、女は言った。
「私の娘に手を出すんじゃないよ! この子は私の命だ。どうしてもって言うのなら、この私を倒してからにするんだね!!」
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