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SS
SS、鍛冶工房にて
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国王との謁見の前、俺たちはアスカの鍛冶工房を訪ねていた。
ジェファーレント伯爵夫人から聞いた鍛冶工房は都の東にあり、朝から活気に溢れているのが分かる。
工房の入り口で昨日の話をすると直ぐにアスカが俺たちのところにやってきた。
「フレアさん!! 来てくれたんですね」
「ええ、アスカ!」
フレアも笑顔でアスカに答える。
アスカは嬉しそうにフレアの手を握ると、俺たちに頭を下げる。
「レオンさんたちも! 大歓迎です!」
「昨日はありがとな、アスカ。東方の料理、美味かったぜ」
アスカが作ってくれたヤマトの料理は、フレアやシルフィ、そして俺にとっては本当に懐かしい味だったからな。
特にアスカの祖先の村の土地神だったフレアにとっては、あの鰻のヤマト焼きはほむらとの思い出でもあり特別な料理だ。
フレアがすっかり元気になったのはアスカのお蔭でもある。
そんな俺たちの会話を聞いて、ロザミアが満面の笑みを浮かべて翼を小さく羽ばたかせる。
「うむ! あの鰻のヤマト焼きはとっても美味しかったのだ! 鰻の身がとても柔らかくて、炭火でパリッと焼いた皮があの甘辛いたれによく合って……思い出しただけでもまた食べたくなるのだ!!」
そういってくぅとお腹を鳴らすロザミアに、シルフィが呆れたように言った。
「ちょっと、もうお腹が減ってるの? 朝、ティアナの料理をあんなに沢山食べたばかりじゃない」
「それはそれ、これはこれなのだ!」
妖精姿のシルフィは俺の肩の上で降参と言った様子で両手を上げる。
「はぁ、まったく。ロザミアには負けるわ」
「はは、確かにな」
そんなロザミアを見て思わず笑みを浮かべながら、ティアナもアスカに挨拶をする。
「アスカさん、おはようございます。昨日はありがとう。また東方の料理を教えてくださいね!」
「ええ、もちろんですティアナさん!」
料理好きの二人はすっかり気が合う様子だ。
チビ助たちもアスカに挨拶をした。
「アスカさん、おはよう!」
「昨日の料理美味かったぜ!」
「「アスカお姉ちゃん、おはようなのです!」」
そんな子供たちを見てアスカも嬉しそうに答える。
「いらっしゃい! みんな」
そんな中、鍛冶工房の奥から一人の男がこちらにやってきた。
鍛冶職人なのだろう、手には大きなハンマーを持っている。
「おう、アスカ。お前に客が来てるんだってな」
「お父さん! 昨日話したでしょう? 伯爵夫人やエレナ様のご紹介で、東方出身のお友達が出来たって」
どうやらアスカの父親らしい。
体が大きく、一見いかつい顔をしているからかリーアとミーアが思わず俺の後ろに隠れた。
それを見てアスカが溜息をつく。
「もうお父さんたら。いつもそんなムスッとした顔してるから子供に怖がられるのよ。みんな私の大事なお客さんなんだから」
「おいおいアスカ! そりゃねえだろ、これでも愛想はいい方なんだ。ほらよ」
そう言ってにかっと笑うと、人の好さそうな表情になる。
そして俺たちに挨拶をした。
「よく来たな。俺は、リョウジ、この鍛冶工房の工房長をやってる。あんたたちの話は娘から聞いてるぜ。せっかくきたんだ、ゆっくりしていってくれよ」
その言葉に俺たちは頷くと、アスカやリョウジの案内で鍛冶工房を見て回る。
そこで働く職人たちの姿を見て、ロザミアが感心したように俺に言った。
「これがヤマトの鍛冶職人か。見てくれ主殿! あの立派な剣を!!」
「ああ!」
工房の壁に飾られている剣はどれも素晴らしい出来栄えである。
伯爵夫人が言っていたように、ヤマトの鍛冶職人の腕は大したものだ。
俺たちに夫人が贈ってくれた剣も、ここで作られたのだろう。
あの人狼の女王と戦った時も刃こぼれ一つしなかったからな。
アスカの父は、ロザミアの言葉に満面の笑みで頷く。
「がはは! いいねえ! 若いのによく剣のことが分かってるじゃねえか!」
ハンマー片手に豪快に笑うその顔を見てリーアたちがまた俺の後ろに隠れた。
「おっきなお口です!」
「食べられそうなのです!」
そんな姿を見てアスカの父は頭を掻いた。
「こりゃ参ったな!」
アスカは溜め息を吐きながら苦笑した。
「もう、お父さんたら。二人とも怖くないわよ。こう見えてもすっごく優しいんだから」
「お、おいアスカ、照れるじゃねえか」
そんな二人の姿を見てリーアとミーアは顔を見合わせると、楽しそうに笑って二人の傍に行く。
フレアは、昔、彼女が土地神をしていた村の末裔たちと笑顔で話をしていた。
アスカからフレアのこと聞いていたのだろう。沢山の職人たちに囲まれている。
あれから二千年も経ってるんだ、もちろん彼らはフレアがほむらと共に彼らの村を守った土地神だとは知らないがフレアにとってはそれで十分なようだ。
リョウジや職人たちはふと不思議そうに首を傾げた。
「それにしても、今日は火の具合がいいな。いつもよりいい剣が作れそうだぜ」
「ですね、工房長! まるで火が生きてるみたいだ」
俺は嬉しそうに話をしているフレアを眺める。
きっとフレアの力だろう。
いや、きっとフレアの中にいるほむらも喜んでいるに違いない。
ひとしきり話し終えてこちらに帰ってくるフレアに俺は言った。
「よかったな、フレア」
「うん! レオン!!」
そう言って笑うフレアの顔を見ていると、ここに立ち寄ってよかったと心から思う。
謁見の前に少し寄るだけのつもりだったがすっかり長居してしまった。
太陽はすっかり真上に上がっている。
もう昼だな。
アスカは俺たちに言った。
「あの、せっかくですからお昼を一緒に食べませんか? 今日は丁度、月に一度のお餅つきの日ですから」
ティアナが首を傾げる。
「お餅つき?」
「はい! えっと、説明はしにくいんですけどやってみれば分かりますから。鰻もいいですけど美味しいんですよ、つきたてのお餅も」
アスカの話によると、この鍛冶工房ではひと月に一度餅をついて縁起を担ぐらしい。
元々は土地神であるほむらたちに供えていたものだそうだ。
フレアや、ヤマトにいたことがある俺たちには馴染みがあってもティアナたちは知らないからな。
「餅つきか! 楽しそうだな」
謁見まではまだ時間もあるし、チビ助たちも喜ぶだろう。
リョウジも大きく頷いた。
「そりゃいい! 賑やかな方が土地神様も喜ぶだろうぜ」
「じゃあ決まりね!」
その一声で餅つきの準備が始まった。
職人たちの手で大きな木製の臼と杵が用意されると、工房の奥からアスカによく似た女の人が、何人かの女性たちを連れてやって来る。
「お母さん!」
どうやら先頭にいるのはアスカの母親のようだ。
「聞きましたよ、アスカ。貴方の大切なお客様がおみえになっていると。ようこそいらしゃいました」
黒髪を品よくまとめて、俺たちに挨拶をする。
俺も頭を下げて挨拶を返した。
「お邪魔しています」
「いいえ、娘も皆様に会えてとても喜んでいますから。アスカったら、昨日の夜なんてずっと皆さんの話をしてたんですよ。娘は土地神様のお話が大好きで、フレアさんが言い伝えの中の小さな土地神様みたいだったってもう興奮しちゃって」
そう言って微笑む母親を見てアスカは真っ赤になる。
「もう! お母さん!!」
「ふふ、とにかくよくお越しくださいました。私はミハルと申します。これからも娘と仲良くしてやってくださいね」
俺たちはそれを聞いて大きく頷く。
「「「ええ、もちろん!」」」
それを聞いてアスカも嬉しそうだ。
「じゃあ、餅つきをはじめましょう!」
「そうね、アスカ」
娘の言葉に、アスカの母親が運んできた蒸し器の中に入っているもち米を臼の中に入れる。
そして、工房長であるリョウジが大きな杵を手にすると妻であるミハルと息の合った餅つきを始めた。
豪快に餅をつくその姿に目を丸くするチビ助たち。
「ふぁああ! 凄いのです!!」
「力持ちなのです!」
あんなデカいハンマーを片手に持っていただけあって、軽々と杵で餅をついている。
暫くすると、俺を眺めながらリョウジは言った。
「どうだい兄ちゃん、せっかくだあんたもやってみねえか?」
俺は頷くと答える。
「ああ、やってみるよ」
杵を受け取った俺を見て、ティアナやレナが応援してくれる。
「レオンさん、頑張って!」
「レオンだって凄く強いんだから!」
「はは、さてと」
俺は受け取った杵を手に、勢いよく餅をつき始める。
その様子を見てキールやリーアたちが目を丸くした。
「すっげえ!」
「「レオンお兄ちゃん力持ちなのです!」」
豪快に餅をつく俺の姿を見て、リョウジ達職人も目を丸くした。
「こいつは大したもんだ!」
「工房長に負けてねえな!」
「まったくだ!」
ロザミアは目を輝かせて俺に言う。
「やっぱり主殿は最高なのだ!」
……いや、ロザミア。
視線が俺じゃなくて餅の方を向いてるぞ。
まったくロザミアらしい。
その後、子供用の小さな杵も用意してくれて、キールやレナ、そしてシルフィを肩の上に乗せたフレアも楽しそうに餅をついていた。
リーアやミーアは、はしゃぎながらそれを見ている。
ティアナが嬉しそうに俺に言う。
「お餅つきって楽しいですね。レオンさん!」
「ああ、みんなでやると一段と楽しいな!」
暫くするとすっかり餅がつきあがる。
アスカの母親が綺麗なテーブルの上に粉を振って、つきたての餅をそこに載せた。
それを見てリーアとミーアが目を輝かせる。
「お餅なのです!」
「みんなで作ったのです!」
餅を見るのは初めての二人もすっかり餅つきが気に入ったようだ。
キールやレナも満足そうに笑っている。
「へへ、俺も頑張ったんだぜ!」
「私だって!」
胸を張る子供たちの前で、アスカたちがつきたての餅を上手に小さく丸めて皿の上に載せていく。
ロザミアは餅の傍に用意された器に入ったものを見てアスカに尋ねた。
「アスカ、こっちのこれは一体何なのだ?」
「はい、ロザミアさん。これはきな粉とあんこですよ。お餅にかけて食べるととっても美味しいんですから!」
「はぁああ! 早く食べてみたいのだ!!」
アスカはそんなロザミアを見て微笑みながら、きな粉とあんこがかかった餅を皿の上に載せると俺たちの前に並べる。
チビ助たちには、子供でも食べやすいように小さい餅を用意してくれた。
「どうぞ! 召し上がれ!!」
「「「いただいきま~す!!」」」
俺たちは一斉に声を上げると、きな粉やあんこがかかったつきたての餅を口にする。
そして声を上げた。
「こいつは美味いな!」
「ええ、レオンさん」
ロザミアは大きく翼を広げて幸せそうに言う。
「はぁああああ! とっても美味しいのだ!!」
キールやレナも舌鼓を打つ。
「ほんと! とっても美味しい!」
「だな!」
リーアやミーアもきな粉とあんこを少しほっぺたにつけながら嬉しそうに笑った。
「美味しいのです!」
「ミーア、お餅大好きです!」
フレアとシルフィも久しぶりの餅の味を堪能している。
「こっちも美味しいですよ! 大根をおろしたものにお醤油をかけたものです」
ロザミアが早速それを試して、幸せそうに頬を緩めた。
「はぁあああ! お餅最高なのだ!!」
「はは、確かに美味いな!」
フレアも大きく頷く。
「ほんとに美味しいわね!」
「ああ、フレア!」
アスカはそんな俺たちを眺めながら嬉しそうに言う。
「これからもいつでも遊びに来てくださいね! 歓迎しますから」
「ええ、アスカありがとう!」
アスカの心からの言葉に、とても嬉しそうに笑うフレア。
その後も、楽しい時間を鍛冶工房で過ごした俺たちはアスカたちにお礼を言うと、大満足で謁見の場に向かったのだった。
ジェファーレント伯爵夫人から聞いた鍛冶工房は都の東にあり、朝から活気に溢れているのが分かる。
工房の入り口で昨日の話をすると直ぐにアスカが俺たちのところにやってきた。
「フレアさん!! 来てくれたんですね」
「ええ、アスカ!」
フレアも笑顔でアスカに答える。
アスカは嬉しそうにフレアの手を握ると、俺たちに頭を下げる。
「レオンさんたちも! 大歓迎です!」
「昨日はありがとな、アスカ。東方の料理、美味かったぜ」
アスカが作ってくれたヤマトの料理は、フレアやシルフィ、そして俺にとっては本当に懐かしい味だったからな。
特にアスカの祖先の村の土地神だったフレアにとっては、あの鰻のヤマト焼きはほむらとの思い出でもあり特別な料理だ。
フレアがすっかり元気になったのはアスカのお蔭でもある。
そんな俺たちの会話を聞いて、ロザミアが満面の笑みを浮かべて翼を小さく羽ばたかせる。
「うむ! あの鰻のヤマト焼きはとっても美味しかったのだ! 鰻の身がとても柔らかくて、炭火でパリッと焼いた皮があの甘辛いたれによく合って……思い出しただけでもまた食べたくなるのだ!!」
そういってくぅとお腹を鳴らすロザミアに、シルフィが呆れたように言った。
「ちょっと、もうお腹が減ってるの? 朝、ティアナの料理をあんなに沢山食べたばかりじゃない」
「それはそれ、これはこれなのだ!」
妖精姿のシルフィは俺の肩の上で降参と言った様子で両手を上げる。
「はぁ、まったく。ロザミアには負けるわ」
「はは、確かにな」
そんなロザミアを見て思わず笑みを浮かべながら、ティアナもアスカに挨拶をする。
「アスカさん、おはようございます。昨日はありがとう。また東方の料理を教えてくださいね!」
「ええ、もちろんですティアナさん!」
料理好きの二人はすっかり気が合う様子だ。
チビ助たちもアスカに挨拶をした。
「アスカさん、おはよう!」
「昨日の料理美味かったぜ!」
「「アスカお姉ちゃん、おはようなのです!」」
そんな子供たちを見てアスカも嬉しそうに答える。
「いらっしゃい! みんな」
そんな中、鍛冶工房の奥から一人の男がこちらにやってきた。
鍛冶職人なのだろう、手には大きなハンマーを持っている。
「おう、アスカ。お前に客が来てるんだってな」
「お父さん! 昨日話したでしょう? 伯爵夫人やエレナ様のご紹介で、東方出身のお友達が出来たって」
どうやらアスカの父親らしい。
体が大きく、一見いかつい顔をしているからかリーアとミーアが思わず俺の後ろに隠れた。
それを見てアスカが溜息をつく。
「もうお父さんたら。いつもそんなムスッとした顔してるから子供に怖がられるのよ。みんな私の大事なお客さんなんだから」
「おいおいアスカ! そりゃねえだろ、これでも愛想はいい方なんだ。ほらよ」
そう言ってにかっと笑うと、人の好さそうな表情になる。
そして俺たちに挨拶をした。
「よく来たな。俺は、リョウジ、この鍛冶工房の工房長をやってる。あんたたちの話は娘から聞いてるぜ。せっかくきたんだ、ゆっくりしていってくれよ」
その言葉に俺たちは頷くと、アスカやリョウジの案内で鍛冶工房を見て回る。
そこで働く職人たちの姿を見て、ロザミアが感心したように俺に言った。
「これがヤマトの鍛冶職人か。見てくれ主殿! あの立派な剣を!!」
「ああ!」
工房の壁に飾られている剣はどれも素晴らしい出来栄えである。
伯爵夫人が言っていたように、ヤマトの鍛冶職人の腕は大したものだ。
俺たちに夫人が贈ってくれた剣も、ここで作られたのだろう。
あの人狼の女王と戦った時も刃こぼれ一つしなかったからな。
アスカの父は、ロザミアの言葉に満面の笑みで頷く。
「がはは! いいねえ! 若いのによく剣のことが分かってるじゃねえか!」
ハンマー片手に豪快に笑うその顔を見てリーアたちがまた俺の後ろに隠れた。
「おっきなお口です!」
「食べられそうなのです!」
そんな姿を見てアスカの父は頭を掻いた。
「こりゃ参ったな!」
アスカは溜め息を吐きながら苦笑した。
「もう、お父さんたら。二人とも怖くないわよ。こう見えてもすっごく優しいんだから」
「お、おいアスカ、照れるじゃねえか」
そんな二人の姿を見てリーアとミーアは顔を見合わせると、楽しそうに笑って二人の傍に行く。
フレアは、昔、彼女が土地神をしていた村の末裔たちと笑顔で話をしていた。
アスカからフレアのこと聞いていたのだろう。沢山の職人たちに囲まれている。
あれから二千年も経ってるんだ、もちろん彼らはフレアがほむらと共に彼らの村を守った土地神だとは知らないがフレアにとってはそれで十分なようだ。
リョウジや職人たちはふと不思議そうに首を傾げた。
「それにしても、今日は火の具合がいいな。いつもよりいい剣が作れそうだぜ」
「ですね、工房長! まるで火が生きてるみたいだ」
俺は嬉しそうに話をしているフレアを眺める。
きっとフレアの力だろう。
いや、きっとフレアの中にいるほむらも喜んでいるに違いない。
ひとしきり話し終えてこちらに帰ってくるフレアに俺は言った。
「よかったな、フレア」
「うん! レオン!!」
そう言って笑うフレアの顔を見ていると、ここに立ち寄ってよかったと心から思う。
謁見の前に少し寄るだけのつもりだったがすっかり長居してしまった。
太陽はすっかり真上に上がっている。
もう昼だな。
アスカは俺たちに言った。
「あの、せっかくですからお昼を一緒に食べませんか? 今日は丁度、月に一度のお餅つきの日ですから」
ティアナが首を傾げる。
「お餅つき?」
「はい! えっと、説明はしにくいんですけどやってみれば分かりますから。鰻もいいですけど美味しいんですよ、つきたてのお餅も」
アスカの話によると、この鍛冶工房ではひと月に一度餅をついて縁起を担ぐらしい。
元々は土地神であるほむらたちに供えていたものだそうだ。
フレアや、ヤマトにいたことがある俺たちには馴染みがあってもティアナたちは知らないからな。
「餅つきか! 楽しそうだな」
謁見まではまだ時間もあるし、チビ助たちも喜ぶだろう。
リョウジも大きく頷いた。
「そりゃいい! 賑やかな方が土地神様も喜ぶだろうぜ」
「じゃあ決まりね!」
その一声で餅つきの準備が始まった。
職人たちの手で大きな木製の臼と杵が用意されると、工房の奥からアスカによく似た女の人が、何人かの女性たちを連れてやって来る。
「お母さん!」
どうやら先頭にいるのはアスカの母親のようだ。
「聞きましたよ、アスカ。貴方の大切なお客様がおみえになっていると。ようこそいらしゃいました」
黒髪を品よくまとめて、俺たちに挨拶をする。
俺も頭を下げて挨拶を返した。
「お邪魔しています」
「いいえ、娘も皆様に会えてとても喜んでいますから。アスカったら、昨日の夜なんてずっと皆さんの話をしてたんですよ。娘は土地神様のお話が大好きで、フレアさんが言い伝えの中の小さな土地神様みたいだったってもう興奮しちゃって」
そう言って微笑む母親を見てアスカは真っ赤になる。
「もう! お母さん!!」
「ふふ、とにかくよくお越しくださいました。私はミハルと申します。これからも娘と仲良くしてやってくださいね」
俺たちはそれを聞いて大きく頷く。
「「「ええ、もちろん!」」」
それを聞いてアスカも嬉しそうだ。
「じゃあ、餅つきをはじめましょう!」
「そうね、アスカ」
娘の言葉に、アスカの母親が運んできた蒸し器の中に入っているもち米を臼の中に入れる。
そして、工房長であるリョウジが大きな杵を手にすると妻であるミハルと息の合った餅つきを始めた。
豪快に餅をつくその姿に目を丸くするチビ助たち。
「ふぁああ! 凄いのです!!」
「力持ちなのです!」
あんなデカいハンマーを片手に持っていただけあって、軽々と杵で餅をついている。
暫くすると、俺を眺めながらリョウジは言った。
「どうだい兄ちゃん、せっかくだあんたもやってみねえか?」
俺は頷くと答える。
「ああ、やってみるよ」
杵を受け取った俺を見て、ティアナやレナが応援してくれる。
「レオンさん、頑張って!」
「レオンだって凄く強いんだから!」
「はは、さてと」
俺は受け取った杵を手に、勢いよく餅をつき始める。
その様子を見てキールやリーアたちが目を丸くした。
「すっげえ!」
「「レオンお兄ちゃん力持ちなのです!」」
豪快に餅をつく俺の姿を見て、リョウジ達職人も目を丸くした。
「こいつは大したもんだ!」
「工房長に負けてねえな!」
「まったくだ!」
ロザミアは目を輝かせて俺に言う。
「やっぱり主殿は最高なのだ!」
……いや、ロザミア。
視線が俺じゃなくて餅の方を向いてるぞ。
まったくロザミアらしい。
その後、子供用の小さな杵も用意してくれて、キールやレナ、そしてシルフィを肩の上に乗せたフレアも楽しそうに餅をついていた。
リーアやミーアは、はしゃぎながらそれを見ている。
ティアナが嬉しそうに俺に言う。
「お餅つきって楽しいですね。レオンさん!」
「ああ、みんなでやると一段と楽しいな!」
暫くするとすっかり餅がつきあがる。
アスカの母親が綺麗なテーブルの上に粉を振って、つきたての餅をそこに載せた。
それを見てリーアとミーアが目を輝かせる。
「お餅なのです!」
「みんなで作ったのです!」
餅を見るのは初めての二人もすっかり餅つきが気に入ったようだ。
キールやレナも満足そうに笑っている。
「へへ、俺も頑張ったんだぜ!」
「私だって!」
胸を張る子供たちの前で、アスカたちがつきたての餅を上手に小さく丸めて皿の上に載せていく。
ロザミアは餅の傍に用意された器に入ったものを見てアスカに尋ねた。
「アスカ、こっちのこれは一体何なのだ?」
「はい、ロザミアさん。これはきな粉とあんこですよ。お餅にかけて食べるととっても美味しいんですから!」
「はぁああ! 早く食べてみたいのだ!!」
アスカはそんなロザミアを見て微笑みながら、きな粉とあんこがかかった餅を皿の上に載せると俺たちの前に並べる。
チビ助たちには、子供でも食べやすいように小さい餅を用意してくれた。
「どうぞ! 召し上がれ!!」
「「「いただいきま~す!!」」」
俺たちは一斉に声を上げると、きな粉やあんこがかかったつきたての餅を口にする。
そして声を上げた。
「こいつは美味いな!」
「ええ、レオンさん」
ロザミアは大きく翼を広げて幸せそうに言う。
「はぁああああ! とっても美味しいのだ!!」
キールやレナも舌鼓を打つ。
「ほんと! とっても美味しい!」
「だな!」
リーアやミーアもきな粉とあんこを少しほっぺたにつけながら嬉しそうに笑った。
「美味しいのです!」
「ミーア、お餅大好きです!」
フレアとシルフィも久しぶりの餅の味を堪能している。
「こっちも美味しいですよ! 大根をおろしたものにお醤油をかけたものです」
ロザミアが早速それを試して、幸せそうに頬を緩めた。
「はぁあああ! お餅最高なのだ!!」
「はは、確かに美味いな!」
フレアも大きく頷く。
「ほんとに美味しいわね!」
「ああ、フレア!」
アスカはそんな俺たちを眺めながら嬉しそうに言う。
「これからもいつでも遊びに来てくださいね! 歓迎しますから」
「ええ、アスカありがとう!」
アスカの心からの言葉に、とても嬉しそうに笑うフレア。
その後も、楽しい時間を鍛冶工房で過ごした俺たちはアスカたちにお礼を言うと、大満足で謁見の場に向かったのだった。
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