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33、新記録

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 白い閃光と呼ばれた父親のアランよろしく、俺は全身を活性化して一気に駆け抜ける。
 今は剣こそ手にしてないが、朝の修行の時に一気に間合いを詰めて岩を切り裂く時のあの要領だ。

 だてに中二病な通り名を持つ父親の真似事を、赤ん坊の時からしてきたわけではない。

 俺は、脇目もふらず50メートルほど先に立っている旗のところへと駆け抜けると剣をふる要領でその旗を手に取った。
 まあ、正直そんなことをする必要はなかったのかもしれないが、これも青春というものの熱さが成せるわざだろう。

 策士のトーマスのことだ、あれから一気に力を解放して俺たちは見事な学園ドラマを繰り広げたはずだ。
 ふふ、勝ったのは俺だけどな。

 アーシェにあんなに必死に応援されたら負けるわけにはいかない。
 俺は振り返るとすぐ後ろにいるはずのトーマスに話しかけた。

「はは、トーマス君! 勝ったのは僕だね。でも君も凄かったよ!」

 俺は爽やかな笑顔でニッコリと笑うとそう言った。
 アニメならきっとここできらりと白い歯が光っているだろう。

 勝ってなお敗者を称賛する。

 そして、ここから俺とトーマスの友情が始まるのだ。
 俺がアニメで見てきた学園モノのスポーツバトルの定番の流れである。

 前世では碌に学園生活を送れなかったが、アニメで勉強をしてきてよかった。
 やはり予習というのは大事だな。

 ん?

 俺は思わず固まった。
 どういうことだ?
 振り返ったらすぐそこにいるはずのトーマスはまだ遥か向こうに見える。
 スタートラインに立って呆然とこちらを眺めていた。

 トーマスだけではなく、一緒にスタートする他の生徒たちも同じだ。
 あれほど大歓声を上げていたトーマス信者たちも静まり返っている。
 俺は戸惑いながら皆に声をかけた。

「あ、あの……俺、もしかしてフライングしちゃいました?」

 アーシェの応援が嬉しくて、思いっきりロケットスタートしたからな。
 合図を聞いてからスタートしたつもりだったが、少しフライング気味だったのだろうか。
 マッチョ教師も固まっている。

 アーシェも目を大きく開けて、言葉を失ったようにこちらを見つめている。

 ……待てよ。
 もしかしてこれ、やり過ぎたのか?
 俺はようやく気が付いた。

 幼い頃からアランの動きを見てきたから、あれが常識になっていた。

 ママンやラフィーネも一緒に四人でパーティを組んで戦った時も、アランの動きはこれぐらいが当たり前だったからな。
 やばい人たちと一緒にいたせいで自分の感覚もおかしくなってるのか?

 アンドニウスの魔力は俺から見ても相当ヤバかったからな、10歳でもあれぐらいの奴が普通にいるものだと思っていたが違うらしい。
 その時、静寂を破るように目玉のような水晶がついた魔道具が俺の記録を発表した。

「今の記録、2秒1。新入生運動テスト史上、最高記録です」

 2秒1って……
 これが倍の100メートルだとしたら、4秒ぐらいの速さってことか。
 自分のタイムなんてはかったことがなかったが、元の世界ならぶっちぎりで金メダルが取れてさらにおつりがくるレベルだ。

 よく通るその魔道具の音声に、辺りは完全に静まり返っていた。
 そして、その後、アーシェの声が辺りに響く。

「ロイ! 凄い凄い!! 新記録だって!」

 そう言って嬉しそうにこちらに駆けてくるアーシェは、相変わらずの天使だ。
 そして、その声が呼び水になったように、辺りはいつの間にか俺の名を呼ぶ生徒たちの大歓声に包まれていった。

「うぉおおおおお!!」

「凄え! まるで稲妻みたいだ!!」

「ロイ! ロイ!! 俺たちはお前についていくぜ!!」

 おい、お前はさっきまでトーマス信者だっただろうが。
 覚えてるぞ。
 早速裏切者が出始めたようである。
 そんな中、トーマスがこちらにやってくると俺を指さして言った。

「おい! お前どんな手を使ったんだよ! あんなに早く走れる奴がいるわけねえ! なにかズルしたんだろう、卑怯な真似しやがって!!」

「は、はぁ。そう言われましても」

 ズルどころかガチでやり過ぎた結果である。
 どうやら、勝負には勝ったが友情など生まれてくる気配がない。
 アニメでの予習は現実では全く役に立たなかったようだ。

 すると、俺の背後から声がした。

「トーマスいい加減にしなさい! 久しぶりに都に帰って来たから、あんたの顔でも見ようってやってきたのに。情けないったらありゃしない」

 俺はその声に振り返った。
 そして、そこに立っている意外な人物を見て、思わず目を見開いた。
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